花畑を出す魔法。これほどくだらない魔法はない。

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花畑を出す魔法使い

「一度だけチャンスをやる。好きな魔法を言ってみろ」

 

 

大陸魔法協会一級魔法使い最終試験。

その試験で合否を決める大陸魔法協会創始者ゼーリエとの面談。

 

そこでゼーリエは一度フリーレンに不合格を告げ、それを挽回するチャンスとして問いかけた。

 

それに対し、フリーレンは逡巡すらせずに答えた。

 

“花畑を出す魔法”と。

 

ゼーリエはフリーレンが使える“花畑を出す魔法”を知っていた。

 

故にくだらない魔法と断じた。

 

ゼーリエもまた、そのくだらない“花畑を出す魔法”しか使えないゆえに。

 

 

 

 

 

試験が終わった夜、ゼーリエは花畑を一人寂しく見つめていた。

 

 

「フランメは本当に私を超える魔法使いになるはずだったんだ。あいつは、私と違って本当の“花畑を出す魔法”を使えたのだから」

 

 

永く生きたが、あんなおぞましい魔法を使える精神が未だに理解できない。

理解できないから表層的な再現しかできない。

魔法はイメージ。想像できない魔法は使うことができないのだから。

 

 

月明かりに照らされたゼーリエに、ふと影が落ちる。

遠い過去に嗅いだ懐かしい甘い花の匂いを感じ、ゼーリエはすぐさま全身に魔力を漲らせて上空を見上げた。

 

 

「よもや、よもやだ。まさか貴様が会いに来るとはな。一体どういう気まぐれだ」

 

 

上空には空に浮かぶ花弁の上に立つ可憐な少女がいた。

全体的に幼く可愛らしい顔立ちと華奢な体躯。

虫も殺さぬような穏やかな笑みを浮かべ、色とりどりの花とフリルに彩られた少女趣味なドレスに身を包んだ少女。

一見人畜無害に見えるその少女に対し、ゼーリエは全身が恐怖に震えるのを必死に抑えていた。

 

 

「あらあら、千年ぶりの再会だっていうのに酷い言い草ね、ゼーリエちゃん」

 

 

ゼーリエとは対照的に可愛らしく笑いながら親しげに話しかける少女。

 

 

「貴様っ! 貴様が私にしたことを忘れたとは言わせないぞ」

 

「あらあら、たった100年ぐらい肥料代わりに土に埋めただけじゃない。そんなに怒ることではないと思うわよ」

 

 

困ったわ、と、笑いながら話す少女に、ゼーリエの額に浮かんだ血管が怒りで切れそうになる。

 

 

「くそっ…それで一体なんの用だ。世界を見てくると言って大陸から飛び出して行ったきり千年も音沙汰が無かったくせに」

 

「ええ、やっとこの太陽系の星は全部回れたから区切りとして戻ってきたの。たまには娘の顔を見ようかなって」

 

 

その言葉を聞いたゼーリエは吐き捨てるように「とっくに死んだ」と告げた。

 

 

「死んだ?」

 

 

少女はおかしなことを聞いたと不思議そうな顔をする。

 

 

「千年前。お前が飛び出していってから100年も経たずに寿命で死んださ」

 

「それはおかしいわ。あの子にはちゃんと教えて使えるようにしたわよ」

 

 

“花畑を出す魔法”を―――

 

 

「そう…あいつは使えたんだ。本当に本物の“花畑を出す魔法”を」

 

 

ゼーリエは唇を噛み締め、手を握りしめた。

 

 

「それでもあいつは…フランメは、人間として生きて、人間として死ぬことを選んだよ。お前と違ってな。花の魔女、フローラ!」

 

 

その瞬間、ゼーリエは無数の花々に体を拘束された。

 

 

「以前言ったわよね。私を魔女と呼ぶなって」

 

 

少女は、フローラは、笑顔のまま、冷たく告げた。

 

可憐な笑顔。虫も殺さぬような。否。殺すことをなんとも感じていないような。

 

 

「人間のくせに、魔族より魔族らしいな。フローラ。私のことを、いや、他の生物すべてをただの肥料としか思っていない狂人が」

 

「あら、ただの肥料だなんて。あなた達、魔法使いや魔族はとっても大事に思ってるわ。だって他の生き物よりもずっと栄養豊富なんだから」

 

 

ゼーリエはありとあらゆる防御魔法と、更にあらゆる植物を枯らす魔法などを駆使するが、その尽くを貫通されて花畑に埋もれていく。

 

 

「はぁ…しょうがないじゃない。だってあなた逹が弱すぎるのだから。私と違っていろんな魔法を使えるくせに」

 

 

私は“花畑を出す魔法”しか使えないのに。

 

 

フローラはそう嘆息する。

 

 

「そもそも今回も解除できてないじゃない。私の魔法」

 

「くっそ…どんな魔法も全部喰い散らかされていく…本当に何なんだよこの花は!」

 

「虚仮の一念岩をも通す。一応ありとあらゆる花を見て回ってるしね。世界は広いわよ。魔族を食料にしている植物なんて幾つもあるわ。寿命がなく永遠に魔力を吐き出す魔族なんて、エネルギー面から考えればすごくお得だしね。永久機関みたいなものよ。かつて人が星々の大海をわたっていた頃にあったという核エネルギーとか言うものと同様ね。別大陸の伝承ではそれが魔力、魔族の原点とかって説もあるわ。それにあとは―――」

 

 

フローラは長々と高説を述べているうちに、ゼーリエは完全に花に埋まってしまう。

 

花畑からかろうじて飛び出している片足がビクンビクンと痙攣しているのに漸く気づいたフローラは、指を鳴らし、ゼーリエの顔部分だけ花畑を解除した。

 

 

「きさっ貴様! 本当に死ぬところだったぞ! 呼吸の魔法まで解除されたぞ! 絶対以前より凶悪化してるだろうこの魔法!」

 

「品種改良は欠かしてないわ。人間は日々努力するのよ。自分の好きなことに関してだけは」

 

「そんな努力を他の魔法に向ければいいだけだろう!」

 

「“苦手なものを克服するほど人間の寿命は長くない”、かつて星々の舟を率いて戦った英雄の言葉らしいわ」

 

「私の100倍以上生きてる化け物が! どの面下げて寿命とか言いやがる!」

 

「………今度は千年ぐらい埋まってみる?」

 

「年齢のことはもう二度と言わん。だからそれだけはやめてくれ」

 

 

フローラはため息をついて、潮時ね、とゼーリエを拘束していた魔法を解除する。

 

 

「“花畑を出す魔法”。結局私とあの子以外は使えないみたいね」

 

 

ゼーリエの作った花壇を見て、フローラは悲しそうに言った。

 

 

「お前のその魔法は異質すぎる。その気になればこの星すべてを一瞬で花畑で覆い尽くせるのだろう」

 

「可能よ。ありとあらゆるエネルギーをすべて花に還元できる。私にとってこの世全ては私を生かすための肥料なのだから」

 

 

だけど、そんなの寂しいだけよ。

 

 

「花は愛でる人がいてこそ輝くの。見る人がいなくなった花畑なんて寂しいだけじゃない」

 

「フローラ…」

 

 

もう行くわ。

 

 

そう言ってフローラは足元に作り出した花に包まれて、宙へと浮かぶ。

 

 

「あの子に会えなかったのは残念だけど、最後にあなたに会えて良かったわ」

 

「この星を出ていくのか」

 

「ええ、やっと両親が生まれた星が見つかったの。この星の人類の起源。30光年ぐらい離れているから、行って戻るだけでも数万年ぐらいかかるはずよ。流石にエルフの貴方でも今度こそ今生の別れってやつね」

 

 

でも、それでも、また会えると嬉しいわ。

 

 

そう言って、フローラは宇宙へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人残されたゼーリエは、月明かりに照らされた花畑を見ていた。

 

 

「本当に…くだらない魔法だな…」

 

 

そう呟いたゼーリエは花畑に背を向けて去っていく。

 

 

「いつか、本当の“花畑を出す魔法”をフリーレンに見せてやるさ」

 

 

そしてフローラ。お前にもな。

 

 


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