ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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お前ら全員あの世行き

 放たれた、空間すら歪んで見えるほどの呪詛は、展開されていた【接続(コネクト)】へ接触。

 押しとどめようと集まる【接続(コネクト)】は焼き切られるように貫かれた。

 

「もっと頑張れよぉ! 【次元断層(ワールド・ディスロケーション)】!!!」

 

 選択したのはほぼ全ての攻撃を無効化できるワールドチャンピオンスキル、特異開眼による遠距離無効化では統べる者を守り切れない。

 斜めに展開した次元の断層は直線上にいる私たちの頭上へと攻撃を逸らす。

 

 背後にある建物、その上部が一瞬にして消失するが感知スキルで人が居た場所ではない。

 ただ闇雲に撃てば確実に人を巻き込むようなスキルを発動しつつも誰一人巻き込まない技量。

 ワールドチャンピオン職の魔法職が命を狙ったのはプレイヤーだけという証拠だ。

 

 大災厄を凌ぎ終え、視界が開ける。

 見渡せば駆けつけていた人間もNPCも、全員足を止めていた。

 

(マジでいきなり使い始めないでくれよ! 

 スキル使わされたし完全に不意打ち刺さっちゃったよ! 

 統べる者も一応守ったけど……あれ居なくね)

 

 脳裏に灯っていた赤点は既に消えている。

 〈大災厄(グランドカタストロフ)〉の攻撃範囲外へ転移して逃れ、ワールドチャンピオン複数相手は分が悪いとそのまま離脱したのか。

 

(【次元断層】無駄遣いになっちゃった……

 攻撃してきたのはフィールド効果消えたからっぽいな。

 ってことは狙いは私だけだと思うんだが、何でいきなり殺しに来たんだ? 

 まぁ心当たりしかないけどね!!)

 

 〈転移門(ゲート)〉から突き出していた腕を下ろしながら堂々と出てきたのはクーベラ、その後ろからブルースが武器も構えず現れる。

 二人の体に纏われるのは【次元断切(ワールド・ブレイク)】に似たエフェクト。

 私の疑問は、まるで役者のように仰々しく武器を構えたブルースの言葉により氷解した。

 

「我々はプレイヤーです、下がってください! 

 そこに居る存在は危険なアンデッド、人に擬態する怪物! 

 我々が討伐するまで近付かないでください!」

 

 あまりに白々しい宣言は要するに。

 

「私をダシに取り入ろうってか?」

 

 戦闘が長引いたことで味方になるには共通の敵が必要だとでも判断したのか。

 素早い切り捨てはやはり大企業の坊ちゃんらしい。

 

 しかし真実など周囲の人々は知るよしもない。

 元は統べる者を守ろうと集まっていた事からか、戸惑うように揺れながらも私を囲んでいた敵対反応は消えていく。

 横目で見れば転移門が開閉を繰り返しながら人を輸送していた。

 タイミングからして逃げてすぐに統べる者は転移門を発動していたと見て良さそうだ。

 

(撤退早すぎじゃない⋯? 

 向かって来た連中も感知範囲内に残ってないし⋯いや余計なこと考えてる暇はないな)

 

 だがそれ以上に、私は危機感知へ集中していた。

 

(裏切られたのは確定、出てきたのは二人だけ。

 エフェクトから見て【次元断行(ワールド・エグゼキューション)】使ってるし本気で殺しに来てるな。

 残りメンバーはゲートが開いたままって事は待機か? 

 いやそれ以上に長文ネキだ、説得されて裏切ったなら……)

 

「部下とか言っておきながら速攻裏切るじゃん、他の連中は納得したの?」

 

「流石は擬態型の異形種、仲間割れを誘おうとペラペラ話してくれますね」

 

「お前の味方なんて誰も居ねぇよwww」

 

 ブルースは無表情に、クーベラはあざ笑うように言葉を返す。

 此方のことなど歯牙にもかけず、目的のためなら他者をいくらでもすり潰し良心の呵責もないその様子に思い出す。

 私をバラして、実験動物(モルモット)として見ていた企業の男。

 

「あっそ」

 

 音も立てずに私は抜刀。

 無言で【真髄:一刀遼断】を放つが素早く散開した二人にギリギリ届かず避けられる。

 最上位種族のレベルが擬態屍體によって差し引かれ、95レベル相当に低下したステータスでは100レベルかつワールドチャンピオンバフもかけた二人に届いていなかった。

 

 だが狙いだった転移門を断ち、再度開かれる様子もない。

 

 何より妨害がなかったことで私は確信する。

 

(長文ネキは考慮しなくて良さそう。

 こんな見え見えの攻撃で、ゲート狙いだとわかってたら先手譲るほど甘くないし。

 私がスキル発動しそうになった瞬間にスキル使って妨害するだろ。

 それすらブラフの可能性もあるけど警戒してたら目の前の二人を相手に選択肢削られてお陀仏だ。

 再度ゲートを開かれる様子もないし、残りのワールドチャンピオンで長文ネキを襲ってるのか? 

 まぁ襲われても長文ネキのことだし逃げ切れるでしょ。

 ……とりあえず)

 

 手にするのは冥界の子鍵(キー・オブ・ザ・ヘル)。

 同時に全てのパッシブスキルを起動、高揚感が高まると共に私の体が薄らぐ。

 それを目にしたブルースがスキルを発動させたのか、双剣が複製されるように浮かび上がり、迫る。

 

「もう良いよねぇ! もう、全部! 関係ないんだからさぁ! 

 ヒヒ、地位も立場も何もかも! 根切りにすれば全部一緒なんだわ!」

 

 私は笑った。

 全てのしがらみを解き放てることに喜悦を隠しきれず。

 

 既に限界だった、斬殺欲求を抑え殺さないよう統べる者と戦ったことだけではない。

 もっと前から、言うなれば転移してすぐの時からだ。

 

 たどり着いた異世界でいきなり知識にない竜との戦闘に、そこから続いた疑似同盟。

 前の世界の立場を笠に着て好き勝手に命令されても、長文ネキが居たこともあって協力した。

 それでも、異世界でようやく万全な身体と環境を手に入れて人生を謳歌できると思ったのに、追加でお預けされてイライラしないほど私は行儀がよくはない。

 

 イライラといえば癇癪のように聞こえるが、私はこの世界に来るために十年以上を積み重ねた。

 信じていたから真っ白で何もないVR空間でも生き続けた。

 数多の不安を押しつぶして。

 全てはこの世界で生きる(遊ぶ)ために。

 

「そんなに遊びたいならなぁ、思う存分遊んでやるよ!! 

 私は私が好きなように!! 我慢せず生きるために!!! 

 お前ら全員あの世行きや!! ハハッ!!!」

 

 

 私はもう、1日だって待ちたくなかった。

 もう誰かの言いなりになんてなりたくなかった。

 

 

 迫り来るブルースが刃を私に届かせるよりも早く念じれば、美術に詳しいものが見れば、オーギュスト・ロダンの地獄の門を縮小したものだと言うだろう造形の扉が開き、40レベル前半の中位悪魔が4体現れる。

 

「【陰惨】【溢血】【秘技:一瀉千刃】【稀術:影遁隠匿】!!!」

 

 口に出し終える前に、既にスキル発動は終わっていた。

 

 黒いエフェクトを纏った刀が現れた悪魔を何の行動も許さずに一瞬で切り捨て【真髄:禍福倚伏】により隠密レベルが最大化される。

 対して枝分かれのように拡散する紅い斬撃にブルースは周囲の浮かべた剣で身を固め、その直後、クーベラと共に視界から消えた。

 放たれた斬撃は道中の建物も巻き込み城壁まで到達、通過した一切が倒壊するも統べる者が退避させたのか死者はいない。

 

 僅かな安堵と同時、脳裏の赤点が二つ背後に灯った。

 

 〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉で跳んできた二人、特にブルースから感じるのは、【大災厄(グランドカタストロフ)】以上の悪寒。

 隠密状態で移動される面倒臭さは長文ネキで知っているはず、この位置からなら攻撃は届かせずに殺せると考えたのだろう。

 事実、私はまだ移動していないし、ユグドラシルでは魔法職や特定の異形種でもなければ背後の攻撃に対処できる札が少ない。

 強力なバフ効果を持つ【次元断行(ワールド・エグゼキューション)】を使った二人に背後へ対応可能な【稀術:絶刀乱麻】では不安が残り、数少ない私の防御スキル【次元断層(ワールド・ディスロケーション)】は【大災厄(グランドカタストロフ)】で使わされている。

 

 背後に敵対反応を感知した時点で納刀せず、柄を逆手に持ち替えていた刃の切っ先を自身へ向けた。

 既に私は、統べる者との戦闘でユグドラシルとは変化した仕様の活用を見ていた。

 

 転移した一瞬。

 死体酷使により土埃の一つに至るまでスローから静止へ変化していく中、それでも背後に感じる気配はまるで、零れるギリギリを表面張力にて堪えている水滴の如く。

 回避は読まれているだろう、クーベラがいる。

 動けなくなるのは死体酷使を使った時点でほぼ確定事項。

 特殊持久力が静止する世界に反比例するかの如く高速で消費されていく。

 

 私は自身に向けた刃を特殊持久力の消費も考えず、ただ早く、速く突き立てる。

 刃が肋を通り抵抗もなく服すら貫いて、冷たい刃の感触を臓腑で感じながら更に私は押し込んだ。

 

 刃が私の体を貫き、その先にいるブルースへ届かせるように更に深く。

 

「「【次元断切(ワールド・ブレイク)】」」

 

 ブルースと言葉が重なる。

 

 次元が裂け、私の体が分かれていく。

 同時に私の刃は背後のブルースを切り裂き、ブルースの次元断切も私に届いた。

 

 ユグドラシル時代では自傷不可のため自身に向けた攻撃は貫通するタイプでも無い限り届かない。

 だがスキルによる攻撃手段を背骨に至るまで身に纏わせていた統べる者という一例から、自傷行為によって攻撃を届かせることは可能と読んだが、一発で巧く行くかは賭けだった。

 

 ズッと鈍い音がして胸から下が泣き別れるが、擬態屍體の解除とワールド・サバイバーの蘇生効果向上により崩れ落ちる前に繋がる体。

 蘇生により死体酷使が発動を止めたことで、スタミナは回復しないが自動消費による行動不能は避けられる。

 走る動作すら億劫で、飛び上がり回転する視界に入るのは頭部に深い裂傷を負ったブルースの姿。

 頭蓋すら穿つその傷はしかし、一つの指輪が砕け散ると共に全快する。

 だが、ズルリと滑り落ちるが如く、ブルースが持つ片方の剣と指輪の一つが抜け落ちた。

 至刀:陰惨による装備ドロップは此方の世界でも有効。

 加えてPK時に発動するタイプのスキルが使用可能になる手応えもある。

 課金アイテムの自動蘇生か、そう判断しながら納刀。

 

(レベルダウン対策はしてたっぽいな。

 装備は落とせたし、拾われる前に追撃するか。

 このままやると街に被害でそうだけど……ま! 関係ないよねぇ!!)

 

 私の戦闘思考が解放された斬殺欲求で研ぎ澄まされているのだろうか、動きの仔細が手に取るように理解できる。

 擬態屍體の解除と同時に私の肌が青白く変色し、ブルースを切り裂いたことで痺れるような快感が脳髄を焼いた。

 それはフレーバーだけではない、私の今までの人生における鬱憤を目の前にいる企業の上層部にぶつけられる事への快感も含まれる。

 私は意外と企業自体も嫌いだったらしい。

 

「ヒヒヒ! おかわりじゃボケぇ【溢血】! 【稀術:絶刀乱麻】! ヒヒッハハハハハハハ!!!!!」

 

ああ、楽しい、愉しい! なんて爽快なんだろう! やはり我慢は体に毒だ! 

 

 意識は切り裂いた快感に塗りつぶされ、高まった気分のまま蘇生と武器を落としたことによる混乱か動きが鈍いブルースへ【稀術:絶刀乱麻】を発動。

 更に無言で【至刀:独閃】に【溢血】を続ける。

 

 快感に焼かれる思考によって欲望に飲まれるかと思ったのだが、読まれやすく止められやすい攻撃手段しか考えられないという事態を意外にも回避できている。

 それどころか高ぶる思考と、相手の行動を冷静に読む思考が奇妙に共存していた。

 加えて、異形種になった事による影響だろうか。

 無意識下でセーブしていた市街地への影響が大きいスキルの使用も二人相手ならば必要だと躊躇いなく取れていた。

 

 目にもとまらぬ二度の抜刀、絶刀乱麻の全方向へ拡散する紅い斬撃を目隠しとして放つ独閃がブルースの首を狙い迫った。

 

「ッ!!!」

 

 だがワールドチャンピオンはもう一人いる。

 一瞬で私の独閃を読み割り込んだ紅いオーラを纏うクーベラも伊達に大会優勝者ではない。

 私の稀術:絶刀乱麻をブラフと見抜き、独閃を放つ直前に発動したのだろう時間内の斬撃ダメージ減少と一回限りの斬撃無効化効果を持つ魔法〈|光輝赤の体《ボディ・オブ・インファルジェントヘリオドール》〉。

 無詠唱化され魔法名までは読み取れないが紅いオーラでこのタイミングなら間違いは無い。

 クーベラの視線がブルースに向き、ブルースにも紅いオーラが纏わり付く。

 

 独閃はユグドラシルでも有数の発動速度を持っていた。

【魔法無詠唱化(サイレントマジック)】による無詠唱化で防いだとしても、先読みしていないと不可能な魔法発動に抱いたのは疑問。

 ワールドディザスターの傭兵ギルド襲撃時に私と戦闘経験を得ていたことで開眼:抜刀術特異点の耐性減少スキル:一歩先行は完全無効化の魔法が効くことを知っていたのだろう。

 

 だが、私が今手に持っているワールドアイテム、吸血残滴のメイン効果は状態異常貫通効果だ。

 

 ワールドチャンピオンともあろうプレイヤーがワールドアイテム効果を忘れ、第十位階魔法を連続発動する? 

 〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉ほどの消費量ではないとしても、魔法剣士の魔力量では底をつくような使い方。

 目立つ【溢血】ばかり使っていたから忘れてしまったのだろうかと疑問を馳せるまでもなく、私の斬撃がクーベラへ到達する。

 

 ゾッと紅いオーラへ切り込まれた斬撃は、しかしその身を分かつことはなく紅いオーラに止められた。

 

「はぁ!?」

 

 驚愕しつつもワールドアイテムの無効化、それが示すところは一つだけ。

 

 独閃から僅かに遅れてクーベラとブルースを紅い斬撃が切り刻むも、ワールドチャンピオンバフを使用し且つ〈|光輝赤の体《ボディ・オブ・インファルジェントヘリオドール》〉の斬撃ダメージ減少で殺害までには至らない。

 

 連続して攻撃が当たるため無効化自体はほぼ意味がないものの、ダメージ減少は継続される。

 だが、ブルースのダメージはクーベラと比べて大きい。

 

 耐えたことで再度ブルースの体に紅いオーラを纏わせながら、刀を止められた私の隙を逃がさないように動くクーベラ、絶刀乱麻が肉を裂いたが動きを止めることはできていない。

 ダメージの減少とクリティカル無効化、別種のバフの同時掛け。

 近づき終えたクーベラが私の心臓へ刃を突き立てんと更に迫る。

 無言発動、エフェクトの少ないものはほぼ目視による判断は不可能、危機感知に反応はないが隠蔽の可能性もある。

 

 ならばと納刀、無手の左腕を剣の軌道へ差し込み、刃を骨に沿わせるように滑らせ、位置を外す。

 ズバッと綺麗にスライスされた腕を見ながら私は至刀:独閃を放った。

 この距離ならばクーベラは防御も魔法も間に合わない。

 

(取ったぁ! 

 てかもうアンデッドだし心臓から避ける必要は無かったわ!)

 

 セオリー通りの狙いを外し、腹を狙った刃、薄皮一枚断ったところで、肉を裂きながらも割り込んだのは、浮かび上がらせた刃を追従させる直剣。

 立ち上るオーラから見てスキルを使って割り込んできたのか。

 目隠し代わりの絶刀乱麻も、斬撃ダメージ減少でほぼ無傷だ。

 だがブルースが装備の回収を捨てて庇った、ならばほぼ確定だろう。

 パキッと鳴るのはブルースの左手。

 そこで折られたのは木の板、装備が一瞬で切り替わり、一新される。

 

(割り込んだ? 対人セオリーから外した場所を? 抜刀してからの対処は読んでないと無理だろ。

 スキルも使ってるなら読みが当たると確信してなきゃ尚更つかえるわけがない。

 何でだ……? 思考盗聴されてる……!? あり得るの最悪すぎない!? 

 クーベラにも読まれたし、この感覚は……似てるな、たっちに抜刀術を勧められたあの時と……)

 

「ヒヒッ」

 

「気持ち悪い声で笑わないでください」

 

 窮地に追い込まれてなお、感じているのは切り裂く愉しさと快感。

 こぼした笑いに不快そうなブルースと視(・)線(・)が(・)合(・)う(・)。

 クーベラの隙をカバーされ、このままではダメージは見込めず、ブルースの手札も回復した。

 即座に納刀、予想通りブルースの左手の剣が振るわれ、斬撃が伸びる。

 

(視線が合うって初めてだわ、フルダイブ型VRといっても表情変えたりは無理だったしな……

 ……これか? 読まれた理由)

 

 私は刀を抜ききらずに防御、100レベルのステータスに扱われた武器が激突する。

 ガキンッ! という甲高い音と共に火花が散るのもそのままに、私は納刀と同時、頭を下げて笠を深く傾け、二人の顔から下だけ見える形に。

 

 そして治りかけていた左腕を翳した。

 

【極致:怪出死没】を発動。

 ブルースの背後へ転移し刀を振り下ろす。

 

 背後に回ったことで見えたのは、魔道書を持っていた右手、後ろ手に回され何時の間にか握りしめられていたのは水(・)色(・)に(・)光(・)る(・)液(・)体(・)が(・)閉(・)じ(・)込(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)宝(・)玉(・)、外付けMPタンクのワールドアイテム。

 

 外付けMPタンクというあまりにも高い有用性から、掲示板に情報が出回り奪われてしまったワールドアイテム、しかし必要だったのは外付けMPではない、ワールドアイテム効果を相殺できる世界の守りだ。

 

「ヒハッ、隠し持ってんのお前もじゃん!」

 

 背後に転移し独閃を放つ。

 狙いはワールドアイテムを持つ腕。

 

 背後への転移、ブルースも間に合わない。

 そしてクーベラの持つ直剣が防御を取った場所は致命傷になり得る正中線。

 

(視線で攻撃箇所を先読みしてたっぽいな)

 

 納得と共にワールドアイテムを奪わんと発動した独閃が腕を切り飛ばす。

 

 先ほどより軽い手応えに違和感を覚えれば、既にその手はワールドアイテムではなく通常の装備品を持っていた。

 

(課金アイテムの大盤振る舞いじゃん! 

 金持ちがよぉ!)

 

 先と同じ装備入替の木板を使ってアイテムの奪取を回避したクーベラ。

 

 だが魔法の触媒として作用する魔道書、それを維持する腕は切り落とせた。

 加えて吸血残滴の回復阻害も存在する。

 ワールドアイテム装備で消えるとは言え、メイン武器を装備する片腕を奪えたなら十分。

 

「アハッ次は首ぃ!!」

 

 追撃を仕掛けようとするがブルースもただ黙っているわけがない。

 ヒュッと加速した二つの剣が顔に迫る。

 

 刃が描いた軌跡を追従する複製された剣、確か効果は場所の入れ替え。

 一撃を防いでも二撃目で、防がなければ二つとも当ててくる面倒なスキル。

 連撃に繋げられればDPS最高峰に名を連ねるブルースに私の紙装甲が耐えられない。

 対して発動するのは【至刀:独閃】、その刃は寸分違わずブルースの腕へ振り抜かれ、肩口を越えて胸元までを切り裂いた。

 人間種なら致命傷な一撃、腕を止めれば御の字と考えていたが絶刀乱麻の時と同じくダメージが大きい。

 

 先のクーベラと感触もまるで違う。

 

(こっちはワールドアイテム持ってないと考えてよさそうやな。

 斬りやすいしこっち殺すか!)

 

 だが血が噴き出す前に骨は繋がり、血管が伸びた。

 傷の大部分を一瞬で治すも、吸血残滴の付近は直っていない。

 装備入れ替えで自己蘇生の指輪を再度装備し、蘇生したのだろう。

 

 蘇生しても回復阻害の武器が突き立てられれば一部のみ回復しないのか。

 

(考察どころじゃねぇ! 

 ガチすぎる!)

 

 思考を広げる暇も惜しんで引き抜こうとするも、再生と同時にブルースがその刀身を掴んでいた。

 同時に背後のクーベラから三重化、最強化もされたのだろう3本の〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉、目の前のブルースが直剣に赤紫の禍々しいオーラを纏わせ放つ。

 

 ボッという破裂音と共に、挽きつぶされた半身。

 

 隙間へねじ込むように体を動かしたが、耐え切れたのは現断のみ、魔道書を失ったことでダメージが伸びていなかったのだろうが肉は削げ骨が見えている。

 しかしブルースの直剣が腕に掠った、ただそれだけで、肩口から半身が消し飛んだ。

 

 思い出す、いや最初から知っていたことがより現実味を持っただけだ。

 ブルースのスタイルは連撃による高火力、そして七大罪の嫉妬と傲慢を独占していたブルースのギルド。

 そのギルドマスターであるブルースは、七大罪のワールドエネミー討伐を前提としたクラスによる、嫉妬のHP回復完全無効化と傲慢のダメージ上昇スキルを持っていたはず。

 

(前ぶっ殺した後スレで又聞きしただけなんですけどね! 

 回復阻害は死ねば解除されるんだっけ、てか糞痛いんだが!?!? アンデッド特性で頭は回せるが……ワールドサバイバーの反転も効いてねえ臭いし……! 

 クーベラもすでに大災厄を使ってるのに、魔力の使い方が短期決戦過ぎるだろと思ったけど! 

 外付けMPあるなら使い放題だわな!!! 

 ウザすぎ!!!!)

 

 踏ん張る足も現断により刻まれ、刃を抜き出すことはできない。

 

 背後でクーベラが切り落とされた腕を伸ばす、その切断面に集まるのは空間を歪ませるほどの呪詛。

 

【大災厄(グランドカタストロフ)】の最大コストは最(・)大(・)M(・)P(・)の(・)6(・)0(・)%(・)。

 だが、クーベラは魔法戦士として基礎的な魔力限界量が少なく、加えて所持するワールドアイテムの効果はMP回復が可能なもの。

 一戦闘中の複数回使用も容易だろう。

 

 そのままブルースごと断ち切るか? 

 無理だ、スキルを使っていない攻撃で押し切れる訳がない。

 一度殺したことで転移はできる、逃げるか。

 既に一度死んでいる今、ここで引いてもアイテムを回収されジリ貧、加えて距離も長くはない。

 追撃されるのは容易に想像が付く。

 魔法職がいるというのも手札を狭められる。

 回復されれば更に面倒なことになるのは明白。

 

 だがそんな状況にもかかわらず、私の脳には高揚感。

 戦闘が楽しくて仕方が無い。

 

「フヒッ」

 

 刻まれた痛みを感じるが無視し、振り抜いたのは左足。

 

 100レベル戦闘職の身体機能は地面ごと、指輪と直剣を弾き飛ばした。

 

 蹴り飛ばした先にいるのはクーベラ、蹴り飛ばされた武器を一瞬にして、直剣で逸らす。

 抉れ揺れた地面に立つブルースの追撃が一拍ずれる。

 

「その一瞬が欲しかった」

 

 溢血、ワールドアイテム自体に備わっているギミックは、私のスキルと違い納刀状態が使用条件ではない。

 

 血の勢いでブルースの腕を切り裂き、クーベラの【大災厄】も【特異開眼】で反らせる位置へ刃を滑らせる。

 

(ギッリギリだが私の死は回避できる!)

 

 なんて気を抜いたからだろうか。

 ブルースごとクーベラの姿が消えた。

 

(……逃走か、違う! 後ろ!)

 

「【大災厄(グランドカタストロフ)】」

 

 背後に現れた敵対反応、そして放たれた大災厄を危機感知が脳内で喧しく知らせてくる。

 先の次元断切と同じように体ごと貫いても点に近い切っ先では完全に逸らすことはできない。

 

(だからって身体ごと切り裂けば蘇生スキルを使用する羽目となり本末転倒。

 体を避けて背後の【大災厄(グランドカタストロフ)】を切り刻むには腕の可動域が足りない!!)

 

 死体酷使は特殊持久の回復を無視し、蘇生によって行動不能のみを強制解除したため未だ僅か。

 

(魔道書落とさせたし威力減ってたりしない? 

 しないわ感覚的には若干弱いけどほぼ即死コースだコレ!!!!! 

 つーか二人相手の時点で無理ゲーだろ!! 

 考えを広げろ! 

 何か無いかこの状況を打開できる何か……!)

 

 焦りの中で、ふと目についたのは、今の私の状態。

 半身を失っても生き続けている、アンデッドらしいボロボロの体。

 

(……アンデッド、ゾンビ……さっき私が考えたこと……)

 

 そして、人(・)体(・)の(・)可(・)動(・)域(・)を(・)無(・)視(・)し(・)た(・)動(・)き(・)の(・)ア(・)ン(・)デ(・)ッ(・)ド(・)種(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)。

 

「よく考えれば、私人間じゃなかったわ」

 

 溢血による刀の加速に引き摺られ、ボギャッと肉は千切れ、骨が外れる。

 

 だが人間離れしたアンデッドの筋肉は狙い通り人体の限界を超え、放たれた怨嗟と呪いを切り裂いた。

 

「ヒヒ、ヒヒヒヒッアハハハハハハ!!!! 

 残念でしたああああああ!!!!!」

 

 生存欲求からか、危機を脱した事による高揚感は最高潮。

 

 後ろに向き直れば、自傷だからか回復阻害の効果を受けずに歪んだ腕は元に戻った。

 

「【次元断行(ワールド・エグゼキューション)】」

 

 ワールドチャンピオンの特大バフで体がダブるようなエフェクトが張り付く。

 私は大災厄を割る吸血残滴から手を離し、ヤクザキックで押し出す。

 

 そうして僅かな距離を稼げば、敵対反応を示す二人へ十分に近づいた。

 

 周囲を真っ赤に染める危機感知に終わりが見えたと同時、大災厄へ私は突っ込むが、次元断行のバフのおかげか、数秒ならば耐えられる。

 

 体が焼け、残った腕にずしりと吸血残滴とは違った感触を覚えながら、私は【大災厄】を突き抜けそのまま抜刀。

 一刀で届く距離に赤いオーラを纏って見えるクーベラの顔は笠で見えない。

 

「【稀術:絶刀乱麻】【至刀:独閃】」

 

 スッと抵抗も感じず。

 先程とは逆、絶刀乱麻の連撃の直後に放たれた抜刀術は、クーベラの首を容易く落とし、ブルースの胸を斜めに開いた。

 

 




いつも感想評価誤字報告ありがとうございます。

また遅れてしまい申し訳ないです⋯

MPタンクがいつ奪われたのか分かりにくいため追記しました。
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