まあ紆余曲折あったものの、私たちは依頼を完遂した。それも一切の被害なく、完璧な形でだ。塔も天井以外は完全な形で残っているし、古い時代の禁術調査も進むだろうって師匠が言ってた。それに"名"についてもこれからどんどん広まっていくだろう。
もう夜遅くでもあるわけで、宿は私たちのために良いところを用意してもらえていて、なんと個室である。踏むたびにきしむ床板などあり得ないしっかりとした作りだ。いいよね、良い宿って。
「では、明日一日は完全休日とする。全員しっかりと体を休ませること。いいね? じゃ、お休み!」
「先輩、明日お昼過ぎくらいから街に繰り出しましょう! 私まだ全然街歩きできてないので!!」
「まあ昼からなら良いわよ? 私も連れがいる方が余計なのに絡まれなくて済むしね」
先輩は同性の私から見ても抜群の人だから、王都の人も放っておかないんだろうな。だから私がいる方が断りやすいし都合が良いんだろう。虫除けという言葉が頭をよぎるが、まあ良いとする。なにせ冒険中以外の先輩は優しいからだっ!
ちらりと師匠を見ると、手を振られる。さすがに師匠は明日はゆっくりする模様。前衛に肩を並べられる体力自慢だけど、だからこそ疲労をしっかりとりたいんだろうな。
ふんふんと鼻歌を歌いながら部屋の扉に手をかけて、稲妻のように忘れていたことを思い出した!
「師匠ッ!! ちょっと待った!!」
「・・・・・・なんだ」
「名! 名があるんですよね、普通は! 塔がなければ!」
「まああるだろうな。まさかあれか、名が欲しいのか」
私の大声に、というか内容が気になったのかみんなも部屋に入る足を止めて考えている。
「名、名ねぇ・・・・・・。今まで困ってなかった訳だし、必要ある・・・・・・?」
「ありますとも! ただ一つ、特別な自分だけの言葉になるんですよ?! 先輩のことを、特別に呼べるんです! 呼びたい!!」
「特別か・・・・・・。確かに、私自身を唯一として表せる言葉と考えるなら、是が非でも欲しくなるね・・・・・・」
「ほら! リーダーもこう言ってます! 旦那も欲しいですよね?」
「ま、まあ、あって困るもんじゃないだろうが・・・・・・、そんなに急に決める必要もないだろう?」
「あります! 鉄は熱いうちに、思いつきは勢いで、名も覚えているうちに! そういうことです!」
「何を訳分からんことを言ってるんだ、全く。だが、魔術師としては重要だ。名こそが魔術に欠けていたものなのだから。よし、良いぞ。名を付けることを許す」
なぜか許可制だったらしいが、許可は下りたので問題なし! じゃなくて!
いや、これを言うのはちょっと恥ずかしいな? わ、わ、わともじもじしてしまう。くねくねする私を師匠がうろんな目で見つめてくる。そして冗談めかして言う。
「なんだ、思いつかないなら俺が付けてやろうか?」
「それでお願いします!!」
やや喰い気味にお願いする。面食らった顔の師匠だが、もう遅い。言質はとったし、みんなが証人だ。
「私の名は師匠につけてもらうことに決まりましたので!」
うむうむとリーダーが頷く。あんたねー、と先輩が呆れる。旦那はうははと笑う。師匠はと言えば、とても微妙な顔! 多分名付けと言うものの重要さに今更気付いたんだな! でも撤回はさせないぜ! 私はせっかくだから師匠に名をもらいたいんだから!
「・・・・・・分かった。でも、代わりに俺の名はお前が決めろ。いいな?」
・・・・・・え。嘘でしょう?! なんでそんな、カブトムシに命を預けるような真似をするんです?? そんな重大なことを任されると、眠れなくなっちゃうだろ!! なんとかお断りを入れたい! だが私の舌では力不足もいいところ。即論破される! ならばと味方を探す。リーダーは既に自分の名を何にするか空想を飛ばしている。あれは駄目だ。先輩は・・・・・・眠そうだ。既にまともな会話が成立する範囲にない。旦那! 意外と常識人の旦那なら! 目がパチリと合う。これは期待ができるか・・・・・・?
「俺は自分で決めるわ。お前さんらは師弟だし、その決め方も悪くないと思うぞ」
なんてことだ! 味方はいない。というか先輩は気付けば姿を消しているし、旦那もリーダーも話は終わったとばかりに部屋に入っていく。残っているのは私と師匠だけだ。
「わ、私に決めさせて、後悔なんてしても知りませんからね!」
「構わんぞ」
構えよっ!
私の千々に乱れる内心をよそに、師匠が部屋の戸を閉めていく。はぁとため息をつく私だが、閉じたはずの戸が少しだけ開いた。何か忘れ物かな? 見れば師匠が私を見ている。そして一言。
「じゃよく休めよ、"────”」
思わず固まった私を見て師匠は軽く笑い。そして扉を閉めた。ええっ、それって・・・・・・、それってもしかして私の名なんですか!?
終わり
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これにて2章完結となります。
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