PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

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このあたりから独自設定が増えてきます。
あとトリニティソウルのネタバレ要素がもりもり出てくるので、原作アニメを視聴する予定がある方はご注意ください。


沈む夢 想起する喪失の記憶

 それは衝撃の事実というにはあまりに実感が湧かなく、荒唐無稽に思えてしまうほどだった。

 

「それは……我ら道教徒の教義とは異なるものよな?」

 

「道教では人の魂は三つから成ると考えられている……へぇ、そうなんですね。知らなかったです」

 

「うぉっ!? よ、読みおったな!」

 

「そういった宗教的なことを言ってるんじゃありません。事実として──」

 

「本来ひとつしかない魂を、カンザトの身体は三つ持っているということ?」

 

 さとりの声を遮り、こころが尋ねた。

 

「……そう。当然ですが、一人が魂を複数持つなどありえない。端的に言って異常事態です」

 

「いや当然と言われてもな……感覚としては分かるのだが」

 

 そも非物質的な概念である『魂』についての知識が無いため、何がどうおかしいのか理解できない。

 

「貴方は何故そんなことが分かったの?」

 

「むしろ目に見えるのか?」

 

 こころと布都が続けざまに質問する。

 

「いえ、魂の形が見えているわけではないんですが」

 

 さとりが険しい目つきを向けてくる。

 

「貴方と話していると……時たま、別の“声”が聴こえるんですよ。雑音が混じるみたいに」

 

「雑音……」

 

 カンザトは幻想郷に来たばかりの頃の、神子との会話を思い出した。

 

「神子さんにも同じこと言われました」

 

 横の椅子に座る布都が「えっ」と驚いた。

 

「太子様はなんと?」

 

「たしか……記憶を辿ろうとしたら雑音が混じって上手くいかないって」

 

「その方も私と同じ力を?」

 

「……いや、太子様のお耳は『欲』を聴き、過去現在未来を見通す。その雑音とやらが魂の声だと言うのであれば……太子様はこやつではない何者かの魂が発する欲を聴きとったのやもしれぬ」

 

「カンザトの欲を上手く聴き取れなかっただけじゃなくて?」

 

「何を言うか! 太子様は十人もの信徒の言葉を同時に聞き分けるのだぞ! それがこやつひとりを相手にして上手くいかなかったというのは……なにか……そう、サトリの言うとおり異常事態だ!」

 

 布都は早口でまくし立てる。その焦りようが、現状がただ事ではないと物語っていた。

 

「私の読み取った雑音がその方と同じかは分かりませんが……間違いなく、カンザトさん以外の声が聴こえたんです」

 

「待って。声が聴こえるだけなんだよね? 霊が憑いてるんじゃなくて?」

 

「そ、そうだ。霊でなくとも、こやつはそれに近いモノを持っておる! 彼の者どもの声を聴いたのではないか?」

 

 二人は、憑依した霊やペルソナが思念を発しているのではないかと疑問をぶつける。

 

「見えないのに、魂の声だと断定したのはなぜ? 私はカンザトの心の働きがなんとなく分かるけど、声なんて聴いたことない」

 

 こころの声音は平坦でいつもと変わらぬ調子だったが、発言からはわずかな不安が滲んでいた。

 

「昔、似た声を聴いたことがあるんです」

 

 三人は小さく驚きの声をこぼした。

 

「俺と同じような人がいたんですか?」

 

 さとりは神妙な面持ちで頷いた。

 

「初めて貴方の思考を読んだ時から、以前も似たような感覚を経験した気がしていて……あれこれ調べているうちに思い出したんです。自身にとある術を施していた者のことを」

 

「術?」

 

「……死者の魂を、別の肉体に移し替える術」

 

「なっ……!」

 

 布都が椅子から勢いよく立ち上がった。

 三人とも一様に動揺したが、ひときわ衝撃を受けたのは布都だった。

 

「その男は、亡き妻と子の魂を自らの身に宿していた。そのような手段に至った経緯は察せられませんが……少なくとも、まともな精神状態ではなかった」

 

「そのあと、男はどうなった……?」

 

 布都がこわごわと尋ねる。

 

「…………気が狂い、自ら命を絶ったようです」

 

 ──空気が一変した。

 誰かが言葉にならない声を漏らした。

 

「先ほども言いましたが、魂というのは一人ひとつが原則なんですよ。一人の肉体に別の魂なんて詰め込もうなら……」

 

 正気を保てるはずがない。精神の主体が定まらず、ほどなく崩壊を招く。

 

「とはいえカンザトさんは正気に見える。同じとは決めつけられません」

 

「カンザトがその術を使ったかもしれないと言ってるの?」

 

「断言はできません。でも……心の声を聴いた時の感覚が酷似している」

 

「ま、待て。それはつまり……」

 

 ガタ、と重い音が鳴った。

 布都が椅子にぶつかった音だろう──が、今のカンザトにそれを確かめる余裕はなかった。

 

「っ……」

 

 心臓の鼓動が煩い。息苦しい。血の気が引き身体が冷えてきたかと思えば、気持ちの悪い汗が滲み広がる。腹の底からざわざわと焦燥感がせり上がってくるような……紅魔館の大図書館でも味わった不穏な感覚だった。

 

「カンザトさんの身体には──」

 

 言うな。言わないでくれ。

 聞くな。聞きたくない。

 逃げるな。向き合え。進み続けろ。

 

 まとまりのない感情が錯綜し、脳内を駆け巡る。

 やがてさとりの言う、残酷であり受け止めねばならない事実が告げられる。

 

「誰か二人分の、亡くなった人の魂が宿っている」

 

 さとりの声は微かに震えていた。

 自身に暗い影を落としていた疑念が確信に変わり、絶望の種が芽生えた瞬間だった。

 

 誰もが驚愕と動揺に口を閉ざす。複数人がいるはずの室内は、無人と見紛うほどの静寂に沈んでいた。

 

「……死んでいるとは限らんのではないか」

 

 沈黙の中、口を開いたのは布都だった。

 視線が彼女へ集中する。

 

「その術は、生者の魂にも働くのではないか」

 

「分かりません。術の仔細までは」

 

「む……」

 

「ただ、魂の抜けた器は朽ちゆくのみ」

 

「器……肉体のことか」

 

「魂だけになってカンザトの身体に入ってるってことは、その魂の元の肉体はすでに生命活動を停止している……ということ?」

 

 重くのしかかる現実に耐えかねるように、さとりは深く頷く。

 誰もが非情な現実に押しつぶされそうだった。意外にも、空気を変えようと動いたのは布都だった。

 

「い、いや……まだそうとは決まっておらぬ! 肝心のこやつがよく分かっとらんのだ! 確証はどこにもあるまい!」

 

「うん、まだ分からない」

 

 こころも賛同するが、さとりの暗い面持ちは変わらない。

 

「まだ何かあるのか……?」

 

「私も最初は疑わしく思う程度だった。でも……貴方と話して、アヤネの言葉を聞いて確信に変わった。変わってしまった」

 

 こちらを向くさとりの表情は、どことなく申し訳なさそうに見えた。

 

「アヤネ? 誰だ?」

 

 さとりは先ほどの会話をかいつまんで説明した。

 

「こいしの心を変える受け継いだ力と、異なる二つの力。それをカンザトさんの中にいる誰かの魂がもたらしたと考えると……辻褄が合ってしまう」

 

「さような与太話を真に受けておるのか! 一体どこに確証がある!」

 

「私も信じ難いですよ。でも、誰も知らない情報を持っていることと、何より記憶を失う前のカンザトさんを知っていることから信じざるをえない……いや、否定しきれない」

 

 布都は二の句を継げず、悔しげに唸った。

 現状、否定しきれないことが最大の証拠になってしまっているのだ。

 

「カンザトさん。貴方はこれを聞いてなお、失くした負の記憶(トラウマ)を蘇らせたいですか」

 

「……!」

 

 さとりが問う核心はここにあった。

 未だ疑惑の域にあるが、否定するにはあまりに色濃くなった恐るべき蓋然性。それを聞いたうえで、トラウマを掘り起こす覚悟があるか。

 

「俺は……」

 

 大図書館でよぎった最悪のケースが、より現実味を帯びてくる。ここに来て、積み上げていた覚悟が揺らぎ、足を止めそうになる。

 しかし、カンザトはこうも思った。

 ここで逃げたとて何になる。問題を先延ばしにしているだけではないか。それはきっと、向き合わなければならないことだ。

 

「カンザト……」

 

 こころの心配そうな声が聞こえる。

 

「一旦落ち着いて考えてからの方が──」

 

「いや」

 

 カンザトは彼女の気遣いが嬉しかったが、今だけはその優しさに甘えてはならない気がした。

 

「大丈夫……」

 

 震える息を吐き出し、己に言い聞かせる。

 負の感情は枷となり、簡単に拭えない。それでも──

 

「止まりたくないんだ」

 

 気が急いていることは疑いようもない。それでも足を止めた途端に折れてしまう気がして、断るという選択は浮かばなかった。

 顔をあげると、三人それぞれに異なる不安の色が浮かんでいた。

 

「……大丈夫」

 

 不器用に口角を持ち上げて笑顔を作る。彼女たちがまるで自分事のように案じ、向き合ってくれるのが嬉しかった。

 

「本当にいいんですか」

 

 さとりは一際不安を募らせていた。能力を施す側なのだから当然だろう。

 

「私は正直、迷っている。貴方の身に何が起こるか分からないから」

 

「さとりさん……」

 

 カンザトは申し訳なく思った。自分に何かあった時、彼女が責任を感じてしまうかもしれないからだ。

 

「もし何かあっても、さとりさんのせいじゃないですから」

 

 そう言うと、さとりは少し困ったような顔をした。

 

「……あ」

 

 しまった。これではプレッシャーをかけているようなものだ。

 ところが予想に反し、さとりは切なげに笑った。

 

「……こういう時は、自分の心配だけしてください」

 

 そう言って、さとりは深く息を吐いた。

 

「やりましょう」

 

 サトリの瞳には、試練に臨む覚悟の光が燈っていた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「心を落ち着かせて……瞳をよく見てください」

 

 指示に従い、サードアイをジッと見つめる。

 初めてサードアイを見た時は手のひら大の目玉が浮遊する様に驚いたものだが、何度も顔を合わせているおかげか、しっかりと目を合わせても案外居心地は悪くなかった。

 

「目を逸らさずに……真っ直ぐ見つめて……」

 

 過去の自分が体験したトラウマとは、一体どんな出来事なのだろう。先に判明した『死者の魂が二つ宿っている』という衝撃的事実を思うと、不吉な想像ができてしまい気が重かった。

 

「しかし緊張はせずに……リラックスして……」

 

 これではいけないと、一度思考を中断し身体から力を抜くよう努める。

 

「貴方の意識は深く深く沈んでいく……」

 

 ただひたすら、ただ一心に、余計なことは考えずサードアイの赤い瞳を見つめていると、次第に己が深淵へ潜っていくイメージが湧いた。

 

「ゆっくりと……深呼吸……」

 

 線の細い声が頭の中で反響する。

 言われるがまま、深く深く呼吸をした。

 

「そのまま…………」

 

 さとりがそっと唇を結ぶと、しばらく音の無い時が流れた。

 無音が室内を支配し、呼吸音すら聞こえない。自身が極度の集中状態にあるのか、あるいは催眠をかけられているのかも判然としない。そもそも、そのような思考は頭に浮かびもしなかった。

 

 それから、どれだけそうしていただろう。

 

「もし」

 

 衣擦れのような囁きが空気を伝った。しかし、その音はカンザトの耳に届いていない。

 彼の無反応から意識の沈潜を悟ったさとりは、ついに力を行使する。

 

 ──さあ、これからが本番だ。

 

 さとりが瞼を開く時、サトリの心眼が負の記憶を呼び覚ます。

 

 

 想起『テリブルスーヴニール』

 

 

 サードアイから放たれる光の筋が四方へと解け、壁、机、ソファ、本棚、窓……と、部屋中を赤紫に染める。

 力のあるサトリの能力は、思考を読み取るだけに留まらない。強烈な光を対象の瞳に浴びせることで、心の奥底に眠る潜在意識へ目覚めの刺激を与え、トラウマを鮮明にフラッシュバックさせる。そして、本来なら力の及ばない無意識の記憶を、自身の読み取れる領域にまで釣り上げるのだ。

 ゆえに、さとり妖怪と対峙した際は三つ目の瞳へ視線を送ってはならない。

 ──が、半催眠状態に陥り無防備なカンザトに、そのセオリーを守る術は無い。

 

「──ッ」

 

 無意識との境界線にまで迫っていたカンザトの意識は、突如視界が紫煙に覆われる幻覚を見た。

 

 魂が……あの日の夢へ沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 解けかけの雪が残る道を、浜辺を目指して駆けていた。

 肌寒い季節で、鼻から息を吸えば潮の香りを乗せた寒風が鼻腔を突き抜けた。頭には、あの人のどこか切なげな表情が残っている。

 

 ■■姉ちゃんは兄ちゃんがいないと寂しがるから、僕が兄ちゃんを連れてってあげるんだ。

 

 あの人が兄を好きなことは子供ながらに薄々勘づいていた。少し複雑だったけれど、京都へ引っ越してしまう兄を寂しそうに見つめるあの人を想うと、自分もいっそう切なくなり、今はもっと二人を一緒にいさせてあげよう、という気持ちになった。

 姉ちゃん喜ぶかな、笑ってくれるかな──なんて、子供らしい単純なことを考えながら一心不乱に足を動かしていると、兄が両親と話している場所へ着いた。

 走っている時は気にならなかったが、遊園地から兄のいる浜辺は思っていたよりも遠く、到着した頃にはすっかり息があがっていた。

 

 ──ぎゃあぎゃあと、海鳥の鳴き声がやけにうるさい。

 

「にいちゃ──ぁ」

 

 ざくざくと砂を蹴る音が消えた。

 いつの間にか、歩みを止めていた。

 

「ぇ」

 

 生気を奪われるかのように、火照る心身から血の気が引いていく。

 目の前で、“何か”が起きていた。

 眼前の光景を理解するのを、脳が拒んだ。

 

 そこには、黒衣を纏ったおぞましい姿の怪物と──

 

 蠢く太い触手に絡め取られて、宙吊りの状態でじたばたともがく両親がいた。

 

「やめろ……」

 

 兄はよろよろと助けを乞うように、両親へ手を伸ばしている。

 

「……やめろッ!」

 

 兄の叫びも虚しく、両親は苦痛に歪む顔で最後の言葉を絞り出した。

 

「■■……あの子たちを……」

 

 ぐしゃり

 

 二人の肌が赤黒く染まる。鈍い音と共に、全身から血が噴き出た。

 自分はただ、呆然とその光景を見つめることしかできない。

 

「■■……兄ちゃん……?」

 

 こちらに気づいた兄が叫ぶ。

 視線の先の両親は、呻きながら血反吐を吐いた。その声は喉の奥で潰れたようにくぐもっていて、とても人のものとは思えなかった。

 

「おとうさん……?」

 

 赤黒い液体が滴り落ち、砂浜に痕を残す。

 

 あれは本当に、転んだ自分を優しく背負ってくれた父なのか。

 あれは本当に、微笑みながら抱きしめてくれた母なのか。

 

 僕の大好きなお父さんとお母さんは……

 

「見るなッ!」

 

 悲鳴に似た声を発して、兄が惨状を見せまいと視界を遮るように抱きしめてくる。

 

 

 イヤだ

 

 イヤだ

 

 何でだよ

 

 

 心にべっとりとした何かが流れ込んできてシミを作る。美しい記憶を描いたキャンバスが、黒い絵の具で塗りつぶされるかのように……

 

「っ……おかぁさあぁぁん!!!」

 

 ソレはもはや人ではない。肉が裏返り、人の形をした肉塊と成り果てた父と母は、どれだけ必死に呼びかけても返事をすることはなかった。

 

 ──海鳥の嗤い声は、いつの間にか消えていた。

 

 

 

 ……

 

 

 

 大きな写真が三つある。

 写っているのは、父と母と■■だ。

 横には暗い顔の兄と、俯いて泣く■■がいる。

 兄に三人はどこに行ったのか訊くと、長い沈黙のあと、「もう会えない」と言われた。

 その時の兄の表情が本当に辛そうで、そこでやっと、ぽっかりと穴が空いていた心が悲しい現実を理解し始めた。

 

 僕はなんでここにいるんだろう。

 

 ぼたぼたと涙が溢れて、声をあげて泣いた。

 ■■ももっと泣き出して、兄は俺と■■を強く抱き寄せた。その時の兄の顔は見えなかったけれど、うわ言のように何度も俺と■■の名前を呟いていたことと、大きな体が震えていたのは憶えている。

 

 

 

 ……

 

 

 

 打ちつける吹雪の中、雪原を走っていた。

 遠くにはずっと会いたかったあの人がいて、自分は息を荒くしながら必死に追いかけている。

 

「■■姉ちゃ……っ!」

 

 しかし、背後から首を絞められて足が止まった。

 彼女はこちらに気づくことなく、誰かの名を叫びながら、なだらかな斜面を登っていく。

 

『罪に抗う運命』

 

 獣の如き咆哮が迸り、不気味に響き渡る。

 

『選ぶこと』

 

「────は」

 

 ぽーん……と、彼女の体が空中へ投げ出された。それも水平に飛んだのではない。真上に、高く高く飛ばされた。

 彼女のすぐそばには、薄ぼんやりと巨影が浮かんでいる。

 

 影は、右手に長身の銃を携えた青い騎士だった。

 

 騎士然とした姿の影は空中であの人の頭を鷲掴みにしたかと思うと、勢いよく真下へ投げつけた。

 

 ぐしゃ

 

 糸の切れた人形のようにピクリとも動かなくなった彼女を、騎士はもう一度掴んで激しく地面へ叩きつけた。

 

『捨てること』

 

 雪が舞い上がり、遠くの景色を白く染める。

 起きて立ち上がる影は無く、鈍色の空と無機質な地面が、命の終わりをありありと告げていた。

 

 

 ────────────ッッッ!!!! 

 

 

 喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 

 なんであの人が死ななきゃいけなかった。

 なんで俺たちが罪を背負わなきゃならない。

 なんで、なんで……

 

 色を取り戻したキャンバスが、再び塗りつぶされていく。胸中には、どす黒い絶望と後悔が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 こころと布都は水を打ったように静かな空間の中、眩い光から目を守りながら施術を見守っていた。

 

「……終わったのか?」

 

 正確な時間経過は不明だが、一分もなかったと思う。光が徐々に弱まり、やがて室内は施術前の様相を取り戻した。

 

「のう、さとり妖怪よ──」

 

 言い終わる前に、布都は異常に気がついた。

 

「ぁ……っ」

 

 さとりの様子がおかしい。両目を見開き、半開きの口からは呻きが漏れている。

 

「お、おい?」

 

 おかしいのはカンザトもだ。一言も声を発さず、生気の抜けた顔で俯いている。

 

「カンザト……?」

 

 こころも異常を悟ったのか、おそるおそる声をかける。

 

「ぅ……ぅぁ……」

 

 やっと聞こえたのは、さとりと同じような呻き声だった。

 

「おいカンザト、何か見えたか?」

 

 布都が問うも、カンザトは次の瞬間──

 

 

「ああああああああああっっ!!!!」

 

 

 耳を塞ぎたくなるほどの大絶叫をあげた。

 

「あぁっ……! うぅ……」

 

 次第に、両手で頭を押さえてガタガタと震え始めた。

 

「カンザト! カンザトッ!」

 

 こころが必死に呼びかけるも、カンザトは苦しげに呻くばかり。

 布都は言葉を失った。これまで一度も見たことのない彼の狼狽ぶりに、思わず怯んでしまった。

 

「っ……お、落ち着いて……カンザトさん」

 

 叫び声で我に返ったのか、さとりはようやくまともな言葉を口にした。

 だが、震える声と眉間の皺から、未だ気が動転していることが見て取れた。

 

「うぅ……く……」

 

「大丈夫、大丈夫……落ち着いて」

 

 こころはカンザトの手を握り、どうにか落ち着かせようとする。

 

「いったい、何を見た?」

 

 気を持ち直した布都は、悲しげな表情のさとりに問う。

 

「彼の……大切な人たちが……」

 

 言いかけて、さとりは唇を引き結んだ。

 

「……彼が落ち着いてから話します」

 

「そう……だな。それがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

「おや、これはこれは」

 

 青い小部屋の老人は、ある変化を感じ取った。

 

「目的のため、少々手荒な手段を取られたようですな」

 

 ……。

 

「どうやら精神が憔悴しきっているご様子。無理もない……」

 

 ……。

 

「しかし艱難(かんなん)を経て、貴方は真実へと大いに近づいた。その覚悟は、決して無駄では無かったと言えましょう」

 

 ……。

 

「そして……精神の変容に共鳴するように、貴方の力にも変化があった」

 

 不定形の青い小部屋が、次第に輪郭を帯びていく。

 

「これより、貴方の選択ひとつがご自身の運命を──そして仲間の運命をも左右する。今後は、彼らとより深く関わられるとよいでしょう」

 

 老人は客人を見つめ、怪しく笑った。

 

「目覚める、解放の剣のために」

 





想起させる前のやり取りはさとりが本でかじった程度の知識から繰り出されたガバガバ催眠(リラクゼーション)術…というどうでもいい裏設定。

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

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