第三次忍界大戦が終結して約1年。
戦争により入学年齢が引き下げられたアカデミーに入学し、それぞれが自己紹介する中 初めて出会ったその日の事は、彼の瞳と記憶に強烈な記憶として焼き付いていた。
戦争の影響がまだ残っていたのか、誰も彼もが固い雰囲気のまま自己紹介を終える中ただ一人、彼だけが異端と呼ぶ他なかった。
「え、なにこの空気面白くな。あー、メンドクセェけど奈良シカイだ。よろしく」
空気を読まないどころではない。
その空気をぶち壊す発言。
だというのに本人は悪気もなければやる気もなく、端的に名前だけ言うとそそくさと席に着いた。
奈良シカイ――その名をイタチは父であるフガクから入学直前に聞かされていた。
曰く、つい先日突如として新たな忍術に目覚めた奈良家の異端児。
曰く、その術は即座に開示された上で三代目火影直々に
曰く、彼は奈良家相伝忍法“影縛りの術”を
忍の一族の一部に伝わる相伝忍法。
うちはで言えばそれは血継限界とも呼ばれる“写輪眼”であり、また代々受け継いできた誇りでもある。
しかし彼はそれを使うことが出来ない。
すでに落ちこぼれであると奈良家の一部からは声が上がっているらしい。
相伝忍法を捨て、禁術を開発した鬼子との声も上がっているらしい。
フガクから噂の域を出ない……だが話しぶりと父の表情から察するに、それらが全て真実なのだろうと察したイタチは入学前からこの奈良家の異端児に興味にも似た何かを抱いていた。
――どんな子供なのだろう?
――誇りを失うとはどのような気持ちなのだろう?
――何故父さんはその奈良家の子供をこれほど警戒しているのだろう?
そんな戦場を体験しながらも幼さ故の興味に惹かれ、偶々同じクラスになった彼を見たイタチが感じたのは不思議なものだった。
父に、一族に恥じぬ子であろうとする自分とはまるで真逆。
彼は一切人の評価を気にしていない。
泰然自若とでも言えば良いのだろうか?
大人びていると一族の大人からそのように言われたことがあるイタチだが、それとは若干違いながらも似たような何かを彼はシカイから感じていた。
話してみたい、彼と。
しかしうちは一族は木の葉の里ではエリートに分類され、滅多にうちは一族の集落から出てこないが故に、周囲の同級生は我先にとイタチに群がり様々な質問を繰り広げ、奇しくもイタチは机を枕に寝始めたシカイに近づくことも話しかけることも出来ずにいた。
――まぁこれから先、いつでも話しかける機会など幾らでもあるだろう。
この時イタチはそのように思っていた。
が、その機会は入学から一週間経過してようやく訪れることとなる。
その理由として一番に挙げられるのは、やはりイタチがうちは一族だからだろう。
入学前から一族の当主の長男として厳しく躾、教育を施されていたイタチにとってアカデミーの勉強は出来て当たり前だった。
更にうちは一族は美男美女が多く、イタチもまた幼いながらも例外ではない。
短い間でイタチはクラスの人気者となり、周囲には常に誰かいる状況となっていた。
対してシカイはどうか?
まずシカイは最初の自己紹介でやらかした。
空気を読まない、挙句の果てに周りに馴染もうともせずしょっちゅう居眠りしては教師に叱られ、勉強にも一切やる気を見せなかった。
今日から開始した手裏剣の実習もそうだ。
カカカンッ!!
『おおー!』と全ての的を射たイタチの見事な手裏剣術に生徒や担任のみならずサポートに来ていた教師陣からも歓声が上がる。
「流石はうちは一族だ、これほどとは!では次だ!奈良シカイ!」
名前を呼ばれたことで「うーす」とやる気のない声でシカイが前に出る。
「では初め!」と担任の教師が声をかけるもシカイは前に出たまま動こうとしない。それどころかポッケから手を出そうともしない。
その様子に徐々に担任が苛立ちを見せ始めた。
「…何をしているシカイ、早くしろ」
「いやぁ、すんません先生ェ。俺苦手なんスよね、手裏剣投げるの」
相変わらずポッケから手を出さないまま肩を竦めるその様は明らかにやる気が微塵も見られない。
これでは空気が読めないどころではない。
次第にヒソヒソと、しかし確実にシカイに聴こえる声量で陰口が囁かれ始めた。
「シカイ、ふざけるのもいい加減にしろ!」
「ふざけてるつもりないんスけどねぇ…まぁ今回は俺が悪いんで飛ばしてください」
「じゃ」と手をヒラヒラと振り生徒の後方に下がろうとした。
その瞬間。
「ッ!?」
「…今、
確信を持った声を発したのは投げた姿のままシカイを見つめるイタチだった。
「…なに?お前」
「
これまで一度も見せたことのない明らかに不機嫌なシカイだが、イタチは気にも止めず淡々と自分が見たものを口に発した。
「俺が投げよう」
「はぁ?」
「投げるのは苦手なのだろう?だがどうやら蹴るのは得意なようだ」
「どうだ?」と提案した瞬間にはイタチは手元から3つ手裏剣を同時に投げていた。
周りはあまりに突然の出来事に反応出来ていない。
ただ一人を除いて――。
タンっとその場でシカイは軽く跳躍。
飛んで来た手裏剣を僅かな速度の違いを一瞬で見抜き、履いたサンダルから出た足の親指と人差し指に手裏剣を右足に一つ、左足に二つ掴み宙で身体を捻るように三つともイタチへと蹴り返す。
だがイタチはまるで避ける素振りも見せず棒立ち。
手裏剣はそのまま素通り、それぞれの的の中心へと突き刺さった。
両者が見せたあまりの技の押収に子供のみならず大人たちでさえ空いた口が塞がらない。
イタチはまだ理解出来る、何故なら彼は普段から優秀で特別だと見られていたのだから。
対してシカイは明らかにその体術は子供離れし過ぎている……イタチにもそう見えた。
“――最初で反応出来ると分かっていたが流石にこれは……”
「……天才というやつか」
「お前が言うなようちはイタチ、凡人の極みだよ俺は。メンドクセェことしやがって」
独り言のつもりだったがどうやら聴こえていたらしい。
考察のため口元に手を当て目線を下げていたイタチが見た時には、すでにシカイは彼に背中を向けて来た時と同じようにポッケに手を突っ込んで教室に戻ろうとしていた。
◇
メンドクセェ…んだアイツ?
後ろから「戻れ!」とかウルセー教師の声を無視して教室…は、後がメンドクサそうだな。屋上でフケるか。
「…流石に早まったかなぁ……この“縛り”」
あの夢の中で見たものを再現する為に、俺はまず『十種影法術』に因み“十の縛り”を設けた。
1, 奈良シカイは『影縛りの術』を生涯でただ一度使用する代わりに『呪術廻戦』の“縛り”を己に課すことが出来る。
2, 奈良シカイは未来永劫に『影縛りの術』を含む全ての忍法を放棄する代わりに『十種影法の術』を覚えることが出来る。
3, 『十種影法の術』とは十の式神を手影絵、己の影を媒介に呼び出し使役する術である。
4, 十の式神は『呪術廻戦』で伏黒恵が使用したものと同様のものとする。
5, 式神を使役するにはまず調伏の儀というものを行う必要があり、儀式は一人で行わなければならず、調伏の失敗とは即ち術者が命を落とすことに繋がる。
6, 儀式に他者が介入した際には例え調伏に成功しても失敗と扱われ、使役することは出来ない。
7, 戦闘で式神を破壊された場合、その式神は二度と使用することが出来ない。
8, 式神を一度に使用出来る最大数は二体までとする。
9, この忍法は奈良シカイの認識、解釈により拡張の余地を持つ。
10、奈良シカイは木の葉の里に敵対することが出来ない。
とまぁこんな感じだ。
自分で言うのも何だがとんでもなくメンドクセェ内容である。
そもそもの話、まずこの忍法はこの忍界には存在しない“縛り”という概念ありきでようやく発動できるものとなっている。
つまり本来この“縛り”事体俺自身に結ぶことが不可能となっているのだ。
だがそこを何とか出来たのは“1”の縛りにある「生涯一度だけ『影縛りの術』を使用することが出来る」という文言だ。
そもそもの話をする為には、まず俺が産まれた奈良家相伝忍法『影縛りの術』の概要を説明する必要がある。
『影縛りの術』はその名の通り、術者の影を相手につなげることにより、相手を術者と同じ行動しか出来ないようにするというものだ。
影が本体と違う動きをすることは出来ないという不可逆的な自然の摂理との呼べる法則を相手に押し付ける忍法なのだが、実はこの時点でこの忍法は
元々前から気になってはいたんだ、何故この矛盾が矛盾となっていないのか…そもそも『影縛りの術』とは何だという当たり前のことから調べ、考えることにした。
幸い『影縛りの術』は奈良家相伝、更に我が家は鹿の角を用いた薬師としての側面もあり思考や理論の追求、研究を怠らない気質を持った者が多かったのかこの忍法一つにしてもかなりの論文が我が家には残されていた。
結果分かった事は『影縛りの術』は所謂『陰遁』に属する忍法だということ。
『陰遁』とは所謂五大性質…火遁や水遁など五大国の礎とはまた違う性質を持った忍法の事。
『陰遁』には対となる『陽遁』が存在し、それぞれの特徴としてまず『陽遁』は生命を司り、身体エネルギーから出来ている。例として分かりやすいのは俺たち奈良家と木の葉創設以前から盟約を交わす秋道一族相伝の『倍化の術』だろう。その名の通り身体やその一部を巨大化させる忍法で身体エネルギーに由来するから身体を大きくすると考えれば分かりやすい。
そして『陰遁』は創造を司り、精神エネルギーに由来する。これを例として分かりやすくするには…まぁ我が家の『影縛りの術』が分かりやすいだろう(本当は山中家の『心転身の術』でもいいのだが)
影には本来決まった形がない。影は本体があって初めて影として発生する。本体以外の形に影が姿を取るなど、本来はあり得ない。
だが『陰遁』に由来する『影縛りの術』は創造の特色によって影を全く違う形に、または物理的な法則を持たせることが出来る。
つまり本来『影縛りの術』はその術の特性以上に
「力」を持たない『陰遁』
「自由」が利きにくい『陽遁』
それぞれの弱点をカバーしあう為、奈良家と秋道家は手を組んだ。
そこに細かな調整が利く山中家が加わることで、三家は当時戦国の世真っただ中でも滅びることなく今日まで生き延びることが出来た。
騙し騙され騙し返すことが当たり前の忍の世界で俺たちの関係はかなり特殊だと言っても良い。
ちなみにだが、俺の世代では父ちゃんたちの代では存在した三家のよるフォーメーション“猪鹿蝶”が結成されることはない。
奈良家の他の二つの家で、同世代の子供が産まれなかったのだ。
一応少し年上なら分家にそれぞれいるのだが…二人共忍の世界にあまり興味がないらしく、その気がないのに無理強いさせても奈良家本家の長男…つまり俺の邪魔になると両家は考えたようだ。
ただし弟のシカマルの世代では三家共に本家に子供が生まれたので10年もすれば“猪鹿蝶トリオ”を見ることが出来るだろう。今から楽しみだ。
…話が逸れた、戻すことにしよう。
『隠遁』は精神に由来する。
限度はあるが、
人は地上を自由に歩ける代わりに空を飛ぶことが出来ない。
鳥は大空を自由に飛べる代わりに地上を駆け回ることが出来ない。
この世は何かを得る代わりに何かを犠牲にしている。
それは夢の中で見た『呪術廻戦』も同様だった。
だからこその“縛り”だ。
だから犠牲にした。
一族が代々受け継いできた“影縛りの術”を。
“影縛りの術”を「相手を自分と同じ行動に縛る」のではなく「自身を制限で縛り対価を得る」という解釈にした。
『呪術廻戦』における“縛り”とは簡単に言うと「支払った代償に対しリターンが与えられる」というもの。
ここでようやく俺が自身に課した“十の縛り”その“1”が発現する。
1,奈良シカイは『影縛りの術』を生涯でただ一度使用する代わりに『呪術廻戦』の“縛り”を己に課すことが出来る。
本来奈良家の本家に生まれチャクラを持つ俺は生涯で何度でも『影縛りの術』を使用することが出来たはずだ。
だがそれを
そこから更に“十種影法術”を忍法として落とし込むため、
2, 奈良シカイは未来永劫に『影縛りの術』を含む全ての忍法を放棄する代わりに『十種影法の術』を覚えることが出来る。
忍者が忍法を全て捨てるのだ。
これもかなり重たい“縛り”と言える。
この時大切なのは
『影縛りの術』を使えなくなるのでは“縛り”事体消失してしまう。が、“縛り”があるからこそ『影縛りの術』が使えなくなるのだ。つまり矛盾が起こる。この矛盾が“縛り”にどう作用するのか…まるで読めない。だからこその
後は『呪術廻戦』における『十種影法術』の“縛り”に習うだけ。
ついでに“10”は…まぁ後々メンドクセェことになるだろうからと一応組み込んでおいた。
結果は俺が無事アカデミーに平然と通えている時点で察せるだろ?
それと効果があるか定かではないが、
『
『影
『
このように名前に意味を持たせてもみた。
他にも武器を持てない、防具を装着出来ない代わりに身体能力が向上する縛りなども別に結んである。これ以外にも色々だ。
その結果は……まぁ見ての通りだ。
手裏剣術の授業から二日が経ち、今日はクラスの全員が待ちわびた「生徒同士の模擬戦」の日。
メンドクセェ…どうしてこうなったのか。
「どうした?来ないのなら此方から行くぞ」
少し離れた位置からこのように挑発を入れて来るのは木の葉のエリート一族であるうちはイタチ君同年代。
他の適当なやつ誘えば好いのに……なぁんで俺みたいなやる気のないヤツを誘うかね?
メンドクセェ…メンドクセェけど……まぁ良いか。
いずれはあの
俺自身、まだまだ強くなりたい。
今の俺がどれほどのものなのか……試してみたい。
だから…悪いな。
「あー、確かお前イタチだっけ?」
「……そうだ」
「なら先に謝っとく、スマン」
「……?」
「今からちょっとボッコボコにするわ、お前」
そう言いながら両手を前に持ってくる。
と、同時に此方に駆け出したイタチ君同い年。
手裏剣術の時から思ってたけどコイツ、やはり忍として優秀だ。
でも今は……。
「俺の方が強い。来い、玉犬!」
手影絵で犬の頭を作りそう叫べば、俺の影がゾプッと波打ちそこから勢いよく二つの影が飛び出してくる。
「“影縛りの術”……っではない!?」
普段のクールさはどこへ行ったのやら。
驚愕を滲ませ何とか足を止めようとするイタチに対し、俺は無慈悲な宣告を下す。
即ち。
「食ってよし!」
『影縛りの術』を作り変えるには“縛り”が必要で、“縛り”を課すには『影縛りの術』が必要で……ぶっちゃけ何となくの理屈ですのであまり深く考えないでください。
~適当なキャラ紹介~
奈良シカイ
オリキャラ
シカマルのお兄ちゃん(現時点で5歳)
ちなみに『影縛りの術』の概要を調査したのは父親が戦時中、家におらず暇で「そういや俺んちの相伝忍法どんなだっけ?」と気になり調べたのが始まり。
夢の中で『呪術廻戦』を見てシカマルが泣き出す頃にはすでに“十の縛り”を構築し終えていた(やはりこいつも奈良家か……)
他にも縛りのメリットデメリットを踏まえた上で「武器を持てない、防具を装着出来ない」“縛り”を別に結んでいる。
“縛り”は続けば間違いなく増えます。
同級生に天才という名の
うちはイタチ
言わずと知れたNARUTO界きっての苦労人。
ナルトやサスケは6歳からアカデミーに入学したが、戦後であることと少しでもオリキャラに絡ませたかったんで5歳から入学。
すでに天才の片鱗を存分に発揮している(やはり天才か)
同級生に自称凡人という名の
好物はオレオではなくおにぎりとキャベツ。