仮暮らしの成田さん   作:ぽぽんぽん

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野良クラフターの一人言

「あーっ、くそ、完璧にシーリングしてある!」

 

 5000Dの大枚はたいて購入した杖を手に、僕はごろんと床に転がった。そんな気はしていたが、一縷の望みを持ってもいたのでやはり悔しい。

 

 異様に高い青杖。これは絶対に買いだと思って、購入してみた。だって軽減杖だもん。

 勘は正しかった。

 しかし向こうが上手だった。

 

 杖作りにはいくつかの手順がある。

 まず握りのいい木の棒や枝を用意すること。出来るだけ凹凸はなく、まっすぐな方が望ましい。

 次に、性質紋様を刻み込むこと。杖のすべてはこの紋様で決まるといっても過言ではない。杖職人はみな紋様を知りたがるし、紋様の知識は財産だ。

 次に、魔力塗料を塗ること。青がいちばんオーソドックスで、次が赤。黄色と紫は高いのでまだ試したことがない。たぶん強いか、希少な魔物の素材なんだろう。

 そして最後に、ワックスで封をすること。

 

 最後の手順は、実はやらなくても構わない。大半の青杖職人はやってない。なぜなら、そこがいちばん金のかかる素材で、手間のかかる作業だからだ。

 しかしこの作業には大きな意味がある。行うと、紋様が読み取れなくなるのだ。これをシーリングという。

 

 よって、しっかりワックスでシーリングされていたこの5000Dの青杖は、せっかく軽減杖だというのに、紋様がまったく読み取れなかったのである。

 悔しいーー!!

 

 どこか綻びがないかとくまなく探すが、全然ない。

 あーあ。

 

 クラフターの僕は、魔法は使えない。杖なんて紋様が読み取れなければ役に立たない。

 さっさと売り払って、5000Dを取り戻さないと。

 きっとこの価格で置いておけば、僕のように騙されたクラフターが購入するだろう。頼むぞ、戻ってきてくれ僕の財産。

 

 それにしてもこの杖。

 なんだかとってもイビツだ。

 表面はうねっているし、まっすぐじゃない。まるで拾ってきた枝をそのまま杖にしたような適当さ。

 それなのに、やたらと青色が深い。使う青色ゼリーの量が多いのだろうか?

 あれこれ試した末に、杖1本に付き2個が最適解とわかったが、それより多い量を使っているのかもしれない。……なんのために?

 

 塗料作りには魔力が必要だ。魔力値のない人間には塗料は作れない。その点、僕は恵まれていたと思う。

 塗料作りはとにかくじっくりかき混ぜながら煮る。煮続けることによって、僕から魔力――MPが素材へ移る、らしい。

 そうして時間をかけて煮ることによって、青色ゼリーから青色塗料が出来上がる。

 最近はMPを移すコツをつかんできて、かなり時短出来てきた。これが出来るかどうかが、クラフターになれるかどうかの分かれ道なんだろう。

 

 クラフターには魔力が必要だ。

 そしてMPがなければ、ダンジョンの認めるアイテムは作れない。何を作っても効果のない物品になってしまう。

 

 僕もクラフターとして結構出来てきたつもりだったんだけど、こういう杖を見つけると落ち込んでしまう。

 

 この塗料はどういう時間配分で作ったんだろう? 混ぜ方は? 温度は? いったい何個の青色ゼリーを溶かしたんだ。それだけのゼリーを形に出来る魔力があるのだろう。

 ――うらやましい。

 

 本当なら僕は、魔法使いになりたかった。

 たとえ1とはいえ、せっかく恵まれた魔力。他の値はあまりよくなかったけれど、魔力はあった。冒険者が出来る! 僕は喜んだ。

 

 ダンジョンの贈り物をもらって、いったん家に帰って、しっかり情報収集した僕を待ち受けていたのは無情な現実だった。

 

 筋力が8以下の武器スキル、精神が6以下の魔法スキルはゴミにしかならない。

 ともに当てはまった僕は、冒険者としてダンジョンへ潜ることについて、深く考えねばならなくなった。

 

 何のスキルを取るか。つまりは、僕は何がしたいのか。

 そうしていろいろ考えに考えて、僕は安全を取った。

 危険を冒して死ぬよりは、ダンジョンに関わりながら平凡に生き、夢を見る道を選んだのだ。

 

 考えにかんがえて取った初めてのスキルは「調合」だった。そして鍋とヘラ、ナイフを買って、使える日はすべて西坂ダンジョンへ通った。ツアー客に紛れて5層まで行き、薬草を採取。

 ダンジョン併設のビジネスホテルを借りて、手に入れた薬草を調合して、ポーションを作成。出来上がったポーションは劣化ポーションだけど、自分の保険になる。

 ポーションを作ったら、今度は解毒ポーション。レシピは共に情報サイトに公開されていたものを使用した。今なら結構ブラフがあったとわかるけど、あの頃は親切な情報サイトがあってよかったってすごく感謝してた。

 いや、今でも道を示してくれたことには感謝してるけどさ。

 

 解毒ポーション(劣化)が出来たら、次は毒草摘みだ。毒草から毒薬(劣化)を作る。たくさん作る。

 そうして、ようやくゴブリンに挑む。毒を投げつけて弱ったところを倒すのだ。

 ゴブリンの魔石を売ることが出来たときには、とても感動した。

 

 スキルをラーニングする方法があると知れば、参加するために旅行したりもした。「収納上限拡張」「投擲」「採取」。有料の講習を受けて「短剣術」とかね。

 平和な日常で得た賃金をダンジョンに溶かすことには少し罪悪感があったけど、ときめきの方が大きかった。

 

 簡易クラフトキットを買ってクラフトするとスキルがラーニング出来るらしい、という噂を聞いたが、5000Dは僕には大金過ぎた。円で買えたらやってたかもしれない。

 クラフトは道具にも材料にもとにかく金がかかる。市場枠は限られているし、余所でラーニングしてスキルポイントを稼いで、欲しいスキルを得た方がまだ楽だ。

 時は金なり。木工、鑑定はスキルポイントで取った。

 

 今となってはほとんどダンジョンには出掛けず、杖やポーション、鞄などを作って暮らしている。

 

 ときどき、まだちょっと夢を見る。次に50ポイントたまったら、今度こそ魔法スキルを取ってみたい。

 自分の杖を使って、魔法を使ってみたい……。

 

 まあ、今となってはもうめぼしいスキルはラーニングしてしまって、スキルポイントが貯まる予定なんてないんだけどね。

 ああ、この軽減杖が売れて5000Dが戻ってきたら、簡易キットによるラーニングの噂も試してみようかな。

 でもたかが噂にかけるには、ちょっと高すぎるよね。




ごく普通の器用魔力型の冒険者(クラフター)。
成田も10フィート棒を買ってなければこのルートだったかもしれない。

今度こそ完結です。
ありがとうございました!
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