ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
アンノウン戦役から二ヶ月後。
世界には変化が見られた。
まず、人類結束連盟は全世界に二つのことを発表した。
一つは《ラウンズ》のこと。
無論、アンノウン戦役のことは混乱を避けるべく秘匿。あくまでも近年設立された世界の秩序を守る軍隊、これからの平和を保つ組織としての役割を与えられ、晴れて明るみに出た。
これでもう偽名は必要ないし、セーフティハウスも惜しみなく使うことができる。極秘組織という肩書きから外れるのが、隊員からすれば何よりもありがたかった。
二つは《レギオニス》と《アルカナ》のこと。
これは少々波紋を呼んだ。
仮にも《レギオニス》は地球外生命体、人々にとっては脅威と認識されてもおかしくはない存在だ。受け入れることは難儀であろう。
しかし、共存していかねばならない。その橋渡し的な役割を担うのが《アルカナ》だ。《ラウンズ》が認知していないだけ、兵士としての才覚がないだけで、世界には未だ彼らと心を通わせる才能を持つ者がいるはずなのだ。《ラウンズ》が目指すべきは、より多くの《アルカナ》の協力を得ることだった。
ウィザードは、新たな《ラウンズ》の制服に慣れずのまま、あちこちを行き来していた。
パシフィック連邦領内の首都圏。高層ビル立ち並ぶ区画は人と、空を漂うレギオニスで溢れていた。それを知覚する人間は少ない。おそらくは、彼らの存在を捉えているのはウィザードだけである。
レギオニスとの共存は、気持ちの問題だけではない。肉眼では捉えられないのが主であるゆえに、彼らを認知する手段は人同士のコミュニケーションの間に入り込むレギオニスを認知する力——すなわち《アルカナ》の第六感に近い能力が不可欠となる。
とはいえ、いきなりそれを身につけるのは不可能だろう。《ラウンズ》はどうにか模索している。そのためには、多くの《アルカナ》の協力が必要だ。
高層ビルに紛れる庭園。そこに築かれた物静かな屋敷の扉を、ウィザードはノックする。
「はいはい——あぁ、そういえば今日だったか」
出てきたのは、赤いシャツに赤いジーンズ……赤尽くしのミラだった。この女は正体を隠す気があるのだろうか。《ラウンズ》が明るみになった今でも、彼女は「ミハイル・バジーナ」として生きていくつもりのようだ。それを止める権利はないが。
彼女は軍から速攻で抜けた。驚くべきスピード、誰よりも早かった。通常の三倍である。
そうして彼女が選んだのは、レギオニスに関する研究だ。まだまだ彼らのことを知らねばならない。認知する人が限られているのだから、彼女がその道につくのは適任だろう。
亡き父親の跡継ぎのようで、ウィザードは若干歯痒い気持ちになるが、彼女なら大丈夫だと確信していた。
「あー! 仮面の人!」
「仮面の人!」
「仮面仮面!」
家の奥から掃除や食器運びに勤しむアルバ・クローン達の姿が垣間見えた。
アレックス・ノーベル亡き後鹵獲された《プライムテラーズ》の戦艦に取り残されていたクローンは、彼女がすべて引き取った。ずっとこんな生活を夢見ていたに違いない。
「何か進展は?」
「ないな。この街にも彼らがいる、としか」
「わかりきってることを……」
リビングに招かれたウィザードは淹れられたコーヒーを飲んで喉を鳴らす。
「うむ、実に奥深い味だ。ゲーテ——」
「その名で呼ぶなッ!!」
エプロン姿のファウストが怒鳴り声を上げる。
「どうした、家政婦はそのようにカリカリしていてはならんぞ。私を見習うといい」
「どこも習うことなど無い、俗物めが」
《ラウンズ》は彼を即刻処刑対象として処理を進めていたが、ミハイルがなんやかんやでもみ消した。そのなんやかんやの部分をウィザードは知らない。だが理屈はわかる。彼一人の責任ではない。それを彼の死で丸く収めようというのは何とも無粋で汚らしい。
それでも何かしら贖罪はさせねば、とミハイルが選んだのは自分の家政婦(?)ということだった。
「赤道連合で一人、《アルカナ》らしき人物を確認したとの報告は受けたが。まだ確証はない」
「何人いたところでね。どうなることやら想像はつかないけれど」
ミラは背もたれに見を預けながら、その体躯を惜しみなく晒した。
コーヒーカップの縁から、ウィザードはファウストの視線がそこに向けられているのを逃さなかった。
「どうしたファウスト・シューベル。欲求不満か」
「なっ、は、は、は、破廉恥な! 俺はもうそういうことは!」
※元はといえばこの仮面のせいである。
「三大欲求の解放を惜しむでない! さぁさらけ出せ、ん~セクシーボーイ! 見せて、██████、██████」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
◇
「リアム、紅茶と珈琲、どっちがいい?」
さざなみの音に紛れて、彼女の穏やかな問いかけが聞こえてくる。
ログハウスのベランダで、リアムはベンチに腰を掛けながら読書に勤しんでいた。もうこの穏やかな日々に慣れてしまった。
「紅茶で。ミルクもほしいな」
「珍しい。いつもは珈琲なのに」
リアムは微笑みをこぼしながら告げる。
「だって今日は、ヨハンさんが来る日でしょ」
「あぁ……それでね。リアムは優しいわね」
「アルバもおいで。あんまり二人の邪魔をしたら悪いから」
リアムは自身の隣を、掌でぽんぽんと示した。
そんな彼に対して、アルバはつい吹き出してしまう。
「私といっしょがいいなら、素直にそう言ってよね」
紅茶を取りに引っ込んだアルバ。リアムは顔を赤くして唇を尖らせてしまった。
しばらくして、二人分の紅茶を持ち込み、彼女もまた隣に座る。
「静かだね」
「……そうだね」
海の音しか聞こえない、喧騒とは程遠いこの地が二人は好きだった。また戦争で疲弊してしまった心と体を癒やすには十分な安らぎを得られる。
「ウィザードさんに協力しなくて、良かったの?」
「僕だって申し出たけど、あの人から断ったんだ。『君たちはもう退くべきだ』って」
「おじいちゃん扱いね」
「アルバもだからね」
《アルカナ》はこれからの世界で、人々を導く存在になってゆく。レギオニスと人との共存を実現するには、《アルカナ》の力なしでは到底不可能である。それなのに、《アルカナ》としての才覚を持つ二人が先導を切って活動してはいない。
「……もう任せていいのかもしれない。二ヶ月前、僕は自分にできることを探して宇宙に行って、また戦争をした。僕には結局、戦争しかできないのかもしれない。世界が求めている《アルカナ》はそういうのではない」
《アルカナ》はこれまで、不幸なことに戦場でしかその真価を発揮してこなかった。戦場以外ではその才覚は煌めくことはなかったのだ。
ゆえに、新時代の《アルカナ》はそれまでとは打って変わって、全く反する才覚が求められてくる。リアムにはおそらくそれはない。否、あったとしても、もっと適している者が必ず現れてくれる。
アルバはリアムの肩に頭を預ける。
「じゃあ、ずっと二人でこうしていましょう。もう傷つく必要なんてない。こんな穏やかで、何気ない日々を送ろう」
「……うん」
「アルバお嬢様……ご立派な淑女ではないか」
「あぁ。本当に素敵な女性になられた。あのような男の人と結ばれたの。末永く幸せになってもらいたい」
庭園の手入れを任されていたリックとディアスは、そんな二人の様子を涙ぐみながら眺めていた。
本来なら軍に残るつもりだった二人だが、仕えていたミハイルが退くというのだから、なし崩し的に軍を辞め、なぜかアルバの方についてきた。
「ミラお嬢様もアルバお嬢様も、もう解放されるべきなんだ。過去の負の遺産から」
「どちらも強い女性だ。きっと大丈夫さ」
手入れの手が止まる二人を叱責する声が一つ。
「こらー! 手を止めちゃだめでしょ!」
「げ」
同じく庭園の手入れ係を任されていた《スピーラー》の生き残り——マーチが声を上げた。
「お前にはわからんだろうな。俺達はアルバ様がおむつをされている頃から共に居るんだ」
「仕事サボる理由になってなーい! まだ雑草残ってるんだよ!」
「よく吠える子犬だな」
「はぁ〜っ!?」
アーク連邦のしがらみは、おそらく永遠に残り続ける。だが何人たりともそれに縛られる理由は、もはやどこにもなくなりつつある。
「お前も軍を辞めるんだって?」
「あぁ。今日はそれを伝えに来た」
「手紙でもメールでも何でも寄越せばよかったのに」
湯気が立ち昇るログハウスの中、二人はテーブルを挟んで向き合っていた。何年ぶりかの団欒だった。
「……レイ。俺はどうするのが正解だった。お前がいなくなったあとも、軍に残って戦うのが正解だったのか。それとも、俺もお前のように一緒に静かに暮らすのが正解だったのか」
紅茶を一口啜り、すぐさま砂糖を入れた。
「さぁな。まぁ、終わりよければ全てよしじゃねぇか。こうしてまた二人で会えたんだ。あいつらも、自分たちの二の舞いにならずに済んで、安心してるさ」
「……あいつらの墓はどこにある」
「あ……しばらく行ってないな。今日一緒に行くか」
「……あぁ、頼む」
ヨハンはまた紅茶に砂糖を入れ、満足そうに飲み干した。
◇
アスカはもう使うことは無いと願われている、ゲイズチェイサのドッグ内で、修理された"アストラル"を見上げていた。
もしも、これに乗り込んでいなかったら。
もしも、あそこであの人が死んでいなかったら。
もしも、あの仮面をつけた人がいなかったら。
きっと違った結末になっていたのかもしれない。
そう考えるのは勝手だが、ひどく恐ろしくなる。
どうして自分はまだ軍に残っているのか。
今や、軍隊の意味が変わろうとしている。人の命を奪うのではない、本当の意味で平和を実現するための組織になろうになろうとしてるのだ。
「何をしている」
ドッグに入ってきたアズチが、怪訝そうな顔で彼女を見つめる。
「なるべくここには立ち入るな。武装を完全に解除されたからといって、誰かに持ち出されでもしたら大事だ」
「心配症だなぁ」
「可能性はゼロではないから言っているんだ」
アズチは相変わらずだ。職業軍人。多分一生このままだろうと、アスカは踏んでいた。
それでもいい。もう彼も彼女も、人の命を奪って生き残る必要はない。かつてまでの軍人である必要はないのだから。
《プライムテラーズ》崩壊後、ノーベル・ダイナミクスも徐々にその勢力を失っていった。やはり、あの巨大企業そのものがグルであったのだ。結束連盟と表面では良好な関係を築きながら、支配体制をひっくり返すスキをずっと狙っていたということになる。
戦争産業が衰退すれば、もうゲイズチェイサは兵器ではなくなる。
災害支援用の作業機、大型建造物の工業機——そして、新たな住民、レギオニスたちとのコミュニケーションを取るためのカギとなっていく。
"アストラル"にもきっとそうなってほしいと、アスカは強く願っていた。
「ヨハン艦長も、ミハイル大尉も軍から退いた。忙しくなるんだぞ」
「次はボクたちが、この時代を切り開いていくんですね」
「子供じみたことを言っている場合ではない。《アルカナ》捜索は急務だぞ。レギオニスを受け入れても、多くの人がそれを認知できなければ——」
「その意気だ、少年!! いや——もはや青年というべきだな」
ドッグ内に木霊する爆音に、アズチは思わず耳を塞ぐ。
「ウィザード大尉!」
「もう階級制は廃止されたぞ、アスカ」
「はい! ウィザードさん!」
ぎこちない呼び名で、ドッグに入ってきたウィザードを出迎える。
「いまから赤道連合へゆく! ついてこられるな、青年諸君!」
「赤道連合……? 待て、そこの《アルカナ》候補はまだ確定したわけでは——」
「はい!! すぐに用意を整えます!!」
アズチの声を遮るように、アスカの元気はつらつな声が響きわたった。
もうここは、彼の知る《反逆機兵レギオン》の世界ではない。シナリオは大きく歪み、その歪みを孕んだまま今もなお動いている。
これからきっと、その歪みにより生じた修正作用——つまりは、本来起きうる困難が、彼女らを襲うだろう。
だが、それは何らおかしいことではない。
世界はいくら平和になろうと残酷である。ときに、容赦なく牙を向いてくる。
当たり前のことなのだ。悲惨な運命、残酷な結末。それをどう乗り越えるかは当事者たち次第なのだ。
ウィザードは気付かされた。もうこの世界は、彼女らは自分の手など借りなくとも良いと。
だが、彼もまた一人の人間。彼女らとともに困難を乗り越えて見たいとも思うのだ。
圧倒的矛盾。それでも、強くそう思わずにはいられない。
さぁ、この気持ちを何と示そうか。
「この気持ち、まさしく愛だ!!」
長きに渡るご応援、ありがとうございました。
深夜テンションで投稿した作品が、ここまでの反響を得られるとは正直思っておらず、インターネットの世界は面白いと痛感させられました。
名前は出しませんが、好きなものに一途で真っ直ぐなあの男が、私はこれかりもずっとずっと大好きです。