霽月   作:おいかぜ

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リクエスト 上原ひまり視点、氷川紗夜への感想。
なんか違う気がする。


【単発リクエスト】
上原ひまりと氷川紗夜


「企画が始まってから言うのもなんですが、私と上原さんが組むことになるとは思いませんでした」

「そうですか? 私はけっこう順当な組み合わせなのかなーって思ってましたよ」

 

 AfterglowとRoseliaの対バンライブ「RAID」公演からしばらく。目の前にいる氷川紗夜さんが属するRoseliaと同じ事務所に入ることが決まって、小さな企画がいくつか持ち上がった。担当してくれるマネージャーがRoseliaと同じく晴海さんであることも相まって、Roseliaと合同のものもある。RoseliaとAfterglowから1人ずつメンバーを呼んでSNSのライブ配信を行うという、今日の企画もそのひとつだ。

 

「上原さんがバンドリーダーでしょう? となれば、湊さんがあてられるのが道理なのでは。……まあ、美竹さんと湊さんが並ぶ画が撮りたいという意図も理解できますが」

「そういうことですよ。巴はあこちゃんとだろうし、燐子さんはつぐと一緒になるかな、と考えると、こうなるだろうなって気がしません?」

 

 オフィスカジュアルと言っても通用しそうなシックな装いをした紗夜さんが、配信中の画面に視線を向ける。

 

「そこまで来たなら楽器パートごとにすれば良いのに」

「たしかに。あっ、もしかして私とじゃ不満でした? つぐかモカか……」

「まさか。私に青葉さんの手綱は握れませんし、つぐみさんはきっと、白金さんと話が合うと思います」

 

 むしろ、紗夜さんが1番モカの手綱を握れていると思うのは私だけだろうか。この先輩にすっかり懐いてしまっている幼なじみ二人のことを思い起こしてみる。

 信頼故に暴走しかねないモカを制御する労力を鑑みれば、この組み合わせでよかったと紗夜さんが言う気持ちも理解はできる。つぐに関してはどうだろう。この場でわざわざ話さなくとも、ということなのかもしれないし、紗夜さんの言う通り、燐子さんと話が合うような気もする。

 

「……と言うわけで、いい加減真面目に進行しますか。Roselia×Afterglow対談会#3、RoseliaからはGt.氷川紗夜と」

「Afterglowからはバンドリーダー兼Ba.の上原ひまりがお送りします」

 

 画面には私たちが映っていて、その端では大量のコメントが流れていく。ポジティブなものも、多少ネガティブなものも。たとえば、Roseliaに擦り寄り過ぎ、だとか。蘭が見たら怒りそうなコメントだな、と思いつつ読み飛ばす。

 

「三回目ですし、この対談の意義については簡潔で良いでしょうか。簡単に言えば、RoseliaとAfterglowはメイン担当のマネージャーが同じなんです。新人歓迎会、みたいなものですね。バンド歴で言えばAfterglowの方が先輩なのですが、ここは社歴で偉ぶっていきましょう」

「お世話になります、先輩!」

「なんでも頼ってくださいね。……さて、最初のテーマですが、『初対面』と『互いの印象』だそうです。初対面となると毎回似たような話題になりそうですが……宇田川姉妹は産院が初対面になるんですかね」

 

 紗夜さんはまた惚けたことを言ってくすりと笑う。

 以前はよく分からない人、という印象が強かったものの、交流が増えるにつれて人となりを理解し始めたように思う。紗夜さんは確かに()()日菜先輩の双子の姉で……モカにシンパシーを抱かせる人間だった。

 知識欲旺盛で、好奇心に溢れていて、悪戯好き。真面目で大人しい雰囲気に隠されたこの人の本性は、日菜先輩によく似ている。

 

 ひとつ違うのは、この人はひどく人見知りなのだと思う。

 

 話しているうちに少しだけ分かってきた。どこまで踏み込んだら他人を傷付けるのか、逆に、相手はどこまで踏み込んで、どういう思想を持っているのか。それを把握するまで紗夜さんはあまり他人に近寄らないし、かと言って、話題を調節して早く打ち解けようともしない。だから、私は人見知りだと形容している。

 

「初対面は、あそこですよね。CiRCLEでのライブ」

「はい。紗夜さんがサインをください、なんて言ってきて。私たちまだサインなんてほとんど書いたことなかったのに」

「アルバム作ってるくらいのバンドだったのに?」

「ああいう畏まったのはなかったんです!」

 

 黒歴史を晒されているようで恥ずかしい。基本的には良い思い出のはずなのに、こうして紗夜さんにからかわれてしまうと、少し体温が上がる。

 

「私はサポートとしてあとからRoseliaに入ったので、Afterglowの皆さんとの初対面はCiRCLEというハコでのライブになります。元々羽沢つぐみさんとはしばらく前に知り合っていて、Afterglowの曲もいくつか聴いた上で気に入っていたので、物販のアルバムにサインをお願いしたんです。ええ、皆さんにマウントが取れるくらいには古参ですよ、私。最古参とは言い難いですけどね」

「……『また出た』って言われてますよ。どれだけその話してるんですか」

「私じゃなくて日菜が言いふらしてるんです。その日菜との初対面は高校なのでしょうけど」

 

 Afterglowだけの配信のリスナーとは、随分雰囲気が違う。そこからRoseliaのコミュニティでの紗夜さんの扱いが垣間見える気がして面白い。Afterglowの配信でも、Roseliaの配信でも、当然ながら友希那さんや蘭を尊敬し尊重してくれる人が多くて、ファンの人たちは私たちの落とす情報に一喜一憂してくれる。けれど紗夜さんとリスナーのやり取りは、相互通行のコミュニケーションに近い。ゲームなんかを配信している個人配信者の形態に近い、ような。

 良い意味で舐められているというか、距離が近い感じがしている。

 

「RoseliaとAfterglowの初対面は、他の回でも話していましたね。結局そちらも、バンドとしてはライブで遭遇するのが初になるんでしょうが」

「そうですね。リサさんは元から友達でしたし、友希那さんは学校の有名人枠でしたから、個人として知り合うのはもっと前になるんですけど」

 

 紗夜さんがお互いの印象、と画面に打ち込んで、話題の転換を予告した。時間が押しているわけではないけど、ぐだらずに進行するためだろう。こういう所は見習っていきたい。

 

「さて、初対面とお互いの印象、でしたよね。どっちから行きます?」

「え、じゃあ紗夜さんからで……」

「私の内容如何で軌道修正しようとしてますね?」

「えへへ」

 

 ああ、こういう所はリサさんに似てるかも。姉気質な所。姉御肌、という感じではないんだけど、やっぱり日菜さんの姉だ、と思うような仕草が紗夜さんには含まれている。

 

「私は……よくあるバンドのカタチだ、と思いました。仲良しこよしの学生バンドは、面倒見が良くて気が利く子にリーダーを押し付けがちで……けれど精神的なリーダーはボーカルやギターだったりするから、その不和がバンドに歪みを作る。誤解を恐れずに言えば、私は、Afterglowがそれほど強固に結びついているバンドだとは思いませんでした」

「それは、私がリーダーに向いていないってことですよね?」

「第一印象は、という話ですよ? いまは上原さん以外にあのバンドのリーダーは務まらない、と思います。思うに、上原さんのようなスタンスでリーダーシップを執るのは酷く難しいのではないでしょうか。美竹さんのようなカリスマを、カリスマのまま立たせておけるリーダーなんて……そうですね、底抜けの善人にしか成り立たせられないのでは?」

「い、いくらなんでも持ち上げすぎですよ!」

 

 上げて落とす、の逆。落としてから思い切り持ち上げられている。びっくりして思わず紗夜さんの手に触れてしまった。咄嗟に引っ込めたけれど……あれ、逃げられなかった。以前は他人に触られるのも嫌がっていた気がするのに。

 むず痒くなった両手をぐにぐにと捏ね回して、配信の画面を見つめた。私の顔が真っ赤になっている。

 

「知ったようなことを言いますが、絶対に壁があったはずです。例えば仲良しバンドからメジャーバンドになる瞬間であったり、あるいは進学や卒業であったり。自分の人生にバンドを乗せられるのか。同じ温度で続けられるのか。本心での話し合い、ぶつかり合いが必要だったはず。壁を乗り越えるには信頼がなければならないし、リーダーの音頭がなければならない。私が知っている内情をここで公にしたりはしませんが、あなたは間違いなく全員から信頼されていて、鎹となっている。以前、事務所に入る前に話をしたときに……は、言いませんでしたね。私は本当に、上原さんを尊敬しているんですよ」

 

 こ、これは……いや、その、恥ずかしい! 照れる! 

 自己肯定感が……! 

 

 Afterglowのみんなとなかなかこういう話をする機会はないし、バンドの進退に関するぶつかり合いだってお互い様だと思っているけれど、ある程度内情を知っている人からこうして褒めてもらえると、その……少しだけ、許された気になってしまう。

 

「私は、誰にでもできることをしているだけで……」

「私にはできませんよ。上原さんにしかできないことです」

「うぅ……」

 

 紗夜さんは満足気に笑って、コメントを読み始める。顔が熱い。手で仰いでみても熱は引きそうになかった。

 

 バンドリーダーとして正しい振る舞いができているか、なんて誰も教えてくれない。今回に限ってはリーダーらしく振る舞えているかもしれないけれど、それは独善的、もしくは自分勝手という言葉と紙一重だ。

 蘭達が認めてくれるなら他人からどう見られるかなんて気にならない、とは思っていたけれど、外部からの視点に殊の外救われている。

 

 ほんとうは、少しだけコンプレックスだったから。

 蘭がリーダーをやった方がいいんじゃないか、とか。

 友希那さんや香澄ちゃんみたいな求心力はないから、とか。

 そういうことを考える夜があって、それでも私はここにいる。

 

 つとめて感情を平静に。鎮めてしまうのは勿体ない気もするけれど、どうせあとから噛み締めるので。

 

「『ユキナが拗ねそう』。そうですか? 湊さんにはあまりそういう類のことで機嫌を損ねそうなイメージがありません」

「え?」

「え?」

 

 沈黙。紗夜さんと顔を見合わせる。

 態度に出るかは別にして、友希那さんはぜっっったいにこの配信を見ているし、紗夜さんの言葉に一喜一憂している。

 私だったらそうするし……。

 

 日菜さんに対してもそうだけれど、紗夜さんは何故だか向けられる好意に素っ気ないというか、信用していないような感じがする。

 私から見た友希那さんは紗夜さんに大きな好意を抱いていて、コミュニケーションにやきもきしているように見えるのに、紗夜さんは柳に風、といった様子。とはいえ「あんな」ラブコールを受けた紗夜さんが友希那さんの想いを承知していないとも思えないし、紗夜さんの口からも友希那さんへの信頼は溢れ出てくるものだから、これはコミュニケーションエラーなのか、紗夜さんの……照れや意地悪なのか。測りかねる。

 

 モカやつぐみにはそんなことなさそうだし……。同い歳以上にはそうなるのかもしれないし、友希那さんや日菜さんには世話焼きな面が発揮されないのかもしれない。なんだか、それが一番しっくりくる。

 

 高速で流れていくコメントを見ながら、紗夜さんは首を傾げた。

 

「湊さんのイメージも随分と変わりましたね。私が追っていた頃はもっと『孤高のカリスマ』みたいなパブリックイメージだった気がします」

 

 多少落ち着いたところで、思わず口が滑る。衝動の源をきっちりと自覚してはいなかったけれど、多分、友希那さんへの共感とか、同情からだと思う。

 

「あの、紗夜さんって、友希那さんに素っ気ないですよね」

「…………そう見えますか?」

「日菜さんに対してもたまにそんな感じがしますけど……」

 

『そーだそーだ!』ユーザーネームMiDDay-Moon。これは日菜さんだよね? 

 

「……ちょっと自己嫌悪に駆られているので待ってくださいね。というか、この話やめませんか? ああ、生配信だった……」

 

 薮蛇だった、と分かりきっていたことを反省する。右手で目元を覆ってため息を吐く紗夜さんと、流れていくコメントを交互に見比べた。

 

「別に、湊さんや日菜に対して思うところがあるわけではないんですけどね。どれだけ猛省しても、私は臆病者のままらしいです。私とは違う世界を生きる天才を羨んでいて、妬んでいて、憧れていて──彼女達の枷になりたくないと思っている。差し出された手を掴みたくないし、差し出される資格もない。同時に、一人で生きていける彼女達が、本当の意味で私を必要とすることはないのだと思っているんです。……ええ、次に何を言われるかもわかっていますよ。わかった上で、こうなんです。こればかりは、魂に染み付いている」

 

 話の意味を理解し損ねている。

 まさかこの人、自分が才能のない人間だと思ってる? 

 

「先回りしてフォローする必要もないし、フォローが要らないなら先回りのために様子をうかがう必要もない。結果として、反応が淡白に見えるのかもしれません」

「……紗夜さん、自己評価低すぎです」

「よく言われますが、直りませんね。しかし傍目に分かるほどなら、改めなければ。日菜はともかく、湊さんに対しては特に」

「その方がいいと思います。これに関しては、私も友希那さんの肩を持ちますよ」

 

 日菜さんが『あたしは!?』なんて言っている姿が目に浮かぶ。あの人のことだから上手く折り合いをつけているか、もしくはなにか企んでいそうだけれど。

 

 しかし、私が何となく抱いていた違和感の正体が、紗夜さんの自己評価の低さと才能への幻想に拠るものだとは思わなかった。

 言われてみれば納得はできるけど、なんだか私からすればよく分からないところで引っかかっているな、というのが本音。でもまあ、紗夜さんにだってこれくらいの欠点というか、難しいところがあってもいいんじゃないかと思う。じゃないと完璧超人すぎるし。

 

「思わぬ発見でした。現実を直視させられただけかもしれませんが」

「うーん、すみません……」

「いえ、ありがとうございます。こういうことはなかなか指摘して貰えませんから、助かります」

 

 ああ、変な話を振ってしまったばかりに時間が押してしまった。

 晴海さんはニコニコとしているけれど。

 

「脱線してしまいましたね。湊さんとはきちんと話し合うことにします。それで、話を戻しましょうか」

「『紗夜さんの印象』ですよね。第一印象は先入観も混じっていると思うんですけど、ちょっと怖かったです」

「……皆そう言いますよね。顔か態度が悪いんでしょうか」

「関わりのない先輩と話すのはどうしても少し緊張しますね。蘭も後輩からは怖がられてますし……友希那さんや日菜さんも最初は少し近寄りがたかったというか……あと、美人は怖いです」

「上原さんは怖がられてないじゃないですか」

「あ! それ沙綾にも言ってたの知ってるんですからね!」

「言ったかもしれませんね」

 

『あの』日菜さんの姉、というバイアスが一番大きかったことは言わない方が平和が保たれるだろう。

 言われて思い出したけれど、沙綾が以前話していた内容そのまんまだったかもしれない。ううん、ちょっと反省。

 

「そういうとこ、日菜さんそっくりです。あとは、かなり人見知りですよね?」

「日菜に似てますか? ああでも、最近はそう言われることも増えてきましたね。あとは人見知りも、仰る通りです。基本的には根暗な人間なので」

「根暗な感じはしないですけど……厭世的ですよね」

「それを根暗と言うんです。かっこよく言い換えただけで」

「自己評価!」

「ああ……」

 

 がっくり。ライブの時も思ったけど、やっぱり慣れてくると愉快な人だ。面白お姉さんを目指している、なんて冗談めかして言っているのも、こんなに綺麗で静謐な感じの印象に反して、本人の認知がそちらへ寄っているから。モカと波長が合うのも実際、最近はよく分かる。思えば、自己評価が低いところまで似ている。

 

「日に日に、周囲の人間からの私の印象が変わっているのを感じます。主に、下がる方向で」

「紗夜さん的にはちょうど良いんでしょうね」

「これ、返事したら怒られるんですか?」

 

 最初こそ怖がられるのに、この人が後輩にモテるのってこういう所だよなぁ、と思う。

 ライブの感想、と書かれたカンペを持った晴海さんを尻目に、そんなことを考えた。

 




謎の三次創作、もうあれでいいんじゃないかなと思ってます。
読んでください。
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