士道くんが淫行教師と謗られながら精霊をデレさせる話   作:kish

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高レア実装記念というわけではないですが、前半は最強の魔術師が出突っ張りです。


業務執行取締役の堕落+続・淫行教師の日常

 

 

 

 天宮市の東方には、背の高いビルが立ち並ぶ区画がある。

 所謂ビジネス街、もしくはオフィス街と呼ばれるような場所だが、その中にとある企業の施設で占められた一画がある。

 デウス・エクス・マキナ・インダストリー……各単語の頭文字を取ってDEM社、もしくは単にDEMとも。

 顕現装置という奇跡の技術で世界を席巻する、巨大企業である。

 

「アイク……これは一体どういうことですか」

 

 DEM日本支社の第一社屋、高層ビルが立ち並ぶ天宮市のオフィス街において一際背の高いそのビルの最上階には、業務執行取締役のために用意された部屋がある。

 その部屋の主――アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットは、一人の少女から詰問を受けて肩を竦めた。

 アッシュブロンドの髪に切れ長の双眸が特徴的な、漆黒のスーツを身に纏う男性である。

 見た目の程は三〇代といったところだが、彼の纏う老練な雰囲気はそれにそぐわないものだ。

 そしてDEMの事実上のトップであるウェストコットに非難がましい視線を向けるのは、エレン・ミラ・メイザース。

 立場としては同企業の第二執行部の部長……ノルディックブロンドの髪に白い肌、はっきりとした目鼻立ちの少女である。

 その肩書きか秘書然とした格好のせいか、はたまた別の理由によるものか、ウェストコット同様にこちらも見た目の年齢にそぐわない雰囲気を発している。

 格好だけでなく、実際にウェストコットの秘書として同行することの多い彼女だが、その本質的な役割はもっと別の部分にある。

 その役割を遂行中に、緊急の招集を受けてエレンはここまでやって来たのだが、部屋に入るなり眉を吊り上げてウェストコットに詰め寄ったという次第だ。

 

「〈ホワイト・リコリス〉の件かな? アレを死蔵させておくのは少しもったいないと思ってね」

「あの欠陥機を、魔力処理なしに動かせた者がいたという事実には驚きを覚えますが、違います」

「では〈イフリート〉の反転を見物しに行ったことかな? まさかあのタイミングでマナが退職願を叩きつけてくるとは……結局反転もしなかったようだし、実に残念だったよ」

「危険な場所に赴く際にアデプタス3を同行させたのなら、その件に関して特に追及することはありません。イレギュラーに対応できなかったのはベイリーの落ち度ですが、第三席が第二席に敵わないのは道理でしょう」

「それならば、君への相談もなしに〈デイドリーム〉……いや〈クイーン〉と協力関係を築いたことかな? あれはあくまでお互いの利害の一致の結果だ。多少の紆余曲折が加わっただけで我らの悲願に変わりはない……私はエリオットやカレンのようにいなくなったりはしないさ」

「その件については物申したいことがありますが、それも違います。…………あと、その二人の名前は口にしないでください」

「おっと、これは失言だった」

 

 エレンの髪が逆立つように揺れ動く。

 空調によって揺らされることはあるかもしれないが、この動きは明らかに空気の流れを無視している。

 その様に、ウェストコットは少々からかいが過ぎたと苦笑した。

 現代における魔術師は、顕現装置というデバイスから魔力と呼ばれるエネルギーを生成し、それを基に自分の意のままになる空間を展開し操る。

 そのカテゴリーで言うのなら、エレンは間違いなく最高峰に位置する。

 魔力の生成量と随意領域の制御……この二つはシンプルに魔術師としての力量を示す項目だが、彼女の場合は万人に一人の才能と言われる魔術師の中でも突き抜けて非凡だ。

 そして今、怒りの感情で制御から解放された魔力が、周囲に影響を及ぼしているのだ。

 現在この部屋は、余すことなく彼女の手中にあると言ってもいい。

 それは生殺与奪の権利を握られたに等しいが、ウェストコットの表情には恐れや怯えの色は一切なく、むしろ穏やかですらあった。

 彼にとってこれは単なる癇癪に過ぎず、未だにそんな子供っぽさを見せるエレンの事を可愛らしいとすら思っているのだ。

 このまま懐かしさに浸るのも悪くはないが、苛立ちで室内を無茶苦茶にされては敵わない。

 早々に両手を上げて、降参の意を示す。

 しかし、ウェストコットの手の中にあるものに、エレンの目は更に険しくなるのだった。

 

「もう一度訊ねます……アイク、これは一体どういうことですか?」

「ふむ……これは、とは?」

「とぼけるのもいい加減にしてください。だから、この部屋の惨状は一体どういうことかと訊いているのです!」

 

 業務執行取締役のために用意された部屋は、一人で使用するには些か広すぎる印象を与えるものだが、現在はどうにも雑然とした雰囲気が漂っていた。

 その原因はそこらに堆積した書物だ。

 所構わず積まれているものだから、エレンは入り口からデスクに辿り着くまで非常に遠回りをしなければならなかった。

 というかこうしてデスク越しに向かい合っている今でも、その上に積まれたもののおかげでウェストコットの顔が半分ほど隠れてしまっている。

 普段の整然とした空間は一体どこへ行ってしまったのか。

 研究に明け暮れていた頃はこんな光景も珍しくはなかったのだが、そこらに積まれているのはどう見ても研究資料の類ではない。

 何らかのキャラクターが前面に押し出された表紙と、題名に漢字が使われているのを見るに、恐らくは日本のコミックだろう。

 そんなものが何故、DEMの事実上のトップであるアイザック・レイ・ペラム・ウェストコットの部屋に所狭しと積まれているのか。

 そして何故、この部屋の主はそのコミックを手に優雅にページを捲っているのか。

 理解に苦しむ状況にエレンが額に手を当てていると、ウェストコットはやれやれと首を振った。

 

「どうもこうも、見ての通りだよ」

「見て分からないからこうして訊ねているのですが!? ああもうっ、こんなに散らかして!」

「ああ、エレン。あまり不用意に動かすと――――」

「え……きゃーーーーー!」

 

 崩れてきたコミックに呑み込まれて、エレンの姿は見えなくなってしまった。

 現代の魔術師は超人と称される存在だが、弱点がないわけではない。

 今の彼女の様にパニックを起こしていれば、その力を十全に発揮できないのだ。

 無論、悠久のメイザースと呼ばれる彼女が戦場の中でこのような姿を見せることはないが、日常においてはまた別である。

 そんな所もウェストコットがエレンを指して可愛らしいと評するポイントなのだが、彼女自身が隠したがっているため、見て見ぬふりをしているというのが実情である。

 しかしいつまでも眺めているわけにはいかない。

 彼女が抱く『最強』という自負は、自分をこんな目にあわせた本の山を許しはしないだろう。

 このままでは、せっかく買い集めたものが文字通り消し飛ばされかねないのだ。

 中にはまだ読んでいない作品もあるので、それはなるべく避けたいところだ。

 読みかけの単行本をデスクに置くと、ウェストコットはエレンを本の山から救出……ではなく、エレンから本の山を守るべく立ち上がった。

 

 

 

 

 

「…………それで、これらについて納得のいく説明をしてもらえるのでしょうか」

 

 やや憮然とした態度で腕を組むエレンは、部屋の隅に固められた漫画本の山を指して言った。

 あの量を手も触れずに手早く淀みなく移動させた手際は、流石という他ない。

 凡百どもは魔術師の力をそんな事に使うのかと非難してきそうなものだが、ウェストコットの考えは違う。

 使える手段があるのなら、それは使われて然るべきなのだ。

 戦略的に勿体付けるのが有効なケースも認めるが、こんな他に誰もいない場所でそれを気にしても仕方がない。

 それはそれとして、何やらムキになっているようにも見えたが、指摘はしないでおいた。

 また不機嫌になられては、それこそせっかく買い集めた漫画を処分するなどと言いかねない。

 しかしながら、読むのに集中して片付けが疎かになっていたのは事実。

 ここは早急に収納するための本棚を用意するべきだろう。

 綺麗に整頓しておけば、完璧主義者の彼女の目に入れてもそう咎められることもあるまい。

 

「――アイク、聞いているのですか?」

「ああ、勿論だよ。これらについてだが、正直私もこうなるとは全く予想していなかった。この国の言葉で言うのなら、青天の霹靂というやつさ」

「……っ、一体、何があったというのですか」

 

 ウェストコットは何かを噛みしめるように、目を伏せてゆっくりと頭を振る。

 彼がこんなにも日本のコミックを掻き集めたのにも、何か重大な理由があるに違いない。

 エレンは極めて深刻な心持ちで固唾を飲んだ。

 

「正直に言おう。これは私の完全敗北と言ってもいい」

「アイク、それは――――」

「まさか、日本の漫画とやらにこうも入れ込んでしまうとは……!」

「…………は?」

 

 ウェストコットの敗北宣言に、エレンは目を点にした。

 余程予想外だったのだろう、口をポカンと開ける様には、CR-ユニットを纏う姿とギャップを感じさせる愛嬌があった。

 しかしそれは嵐の前の静けさのようなものだ。

 やがて理解が追い付けば、怒涛の追及がウェストコットを襲うのは想像に難くない。

 それならば、ある程度事前に詳らかにしておけば、少しは追及の波も穏やかになるだろう。

 

「いやなに、最初は実に軽い好奇心のつもりでこの街のショッピングモールに繰り出したのだが、そこで彼と、ホンジョウソウジの『SILVER BULLET』に出会ってしまったのがいけなかった――――」

 

 滔々と、ウェストコットは自分と日本の漫画との出会いについて語る。

 それを聞いているエレンは頭の中に宇宙を広げていたが、それに気づく様子もない。

 彼女の追及を緩和するための説明のつもりが、当人の語り口には明らかに熱が乗っかっていた。

 そしていつの間にやらどこからかホワイトボードまで持ち出して、図説を駆使する始末。

 さながら講義の様相を呈する語りに、聴講生が次第に無表情になっていくことにも気づかない。

 

「――――というわけなのだが、理解してもらえたかな?」

「……ええ、よくわかりました」

 

 少しばかり息を切らしながら語り終えたウェストコットに向けるエレンの表情は実に澄んだもので、あたかも悟りを開いたかのようにも見えた。

 理解してもらえたと確信して深々と座り込むと、ネクタイを緩める。

 満足気に息を吐くウェストコットに対して、エレンは極めて率直に提案した。

 

「――では、即刻あれらを焼却処分しましょう」

「エレン」

「心配には及びません。私ならば煤も発生させず、灰すら残さず燃やし尽くしてみせましょう」

「エレン、どうか落ち着いてくれ、エレン」

 

 部屋が汚れることに配慮してくれるのは大変ありがたいのだが、ウェストコットの心配はそこではない。

 読み終わっていないものまで燃やされては堪らないので、宥めにかかる。

 するとわかってもらえたのか、エレンは再び澄んだ面持ちで頷いた。

 

「――ではせめて、あなたを堕落させたこのマンガという存在をこの世から抹消しましょう」

「エレン」

「心配には及びません。このDEM社の力を以てすれば実に容易い事です。コミック業界に徹底的に圧力をかけて根絶やしにして見せましょう」

「エレン、どうか落ち着いてくれ、エレン」

 

 何やら、規模がさらにとんでもないことになっていた。

 彼女は「せめて」という日本語の意味を、間違って覚えてしまったのだろうか。

 日本がここまで押し上げた漫画という文化は、今や世界に広く根を張るものである。

 それを根絶しようものならば、下手をしたら戦争が起きかねない。

 実際に戦争が起こったとして、それはウェストコットにとってはさほどの問題ではないが、全ての漫画が焚書されるのは大問題である。

 語り口や表情は一見すると冷静だが、今のエレンは明らかに冷静ではない。

 望む通りにさせてやってもいいのだが、せっかく得た数少ない娯楽を失うのは避けたい。

 

「では私にどうしろと言うのですかっ!」

「私はどうしろとも言っていないよ、エレン。いや、本当にね」

「しかし!」

「実際業務に支障は出ていないし、私たちのすべきことにも変わりはない。そうだろう?」

「それは、そうですが……」

 

 エレンは特定の人物の前では感情的になるものの、基本的には合理性を優先する。

 なのでやるべきことをきちんとやっていると示しておけば、こうして言葉の歯切れも悪くなるというものだ。

 しかし眉根を寄せているのは、まだ完全に納得しきれていない証拠だろう。

 全く可愛らしい、とウェストコットは苦笑して、自身のデスクの上に残った単行本を手に取ってエレンに差し出した。

 

「……アイク、これは?」

「せっかくだ、君も読んでみると良い。私はまだこのジャンルのものには手を付けていないが、こちらは君の方が向いていそうだ」

「その必要性があるとは思えませんが」

「昔からの友人の勧め、というだけでは不足かな? それならば、本当に根絶やしに値する物かどうかを判断する試金石にするといい。きちんと読んだ上で君がそう言うのなら、私もその意見を尊重しよう」

「私が食わず嫌いでそう言っていると?」

「まぁ、そう肩肘張らずに楽しむといい。それだけだよ」

「……一度だけです。あなたの勧めに応じるだけで、それ以上はありません」

 

 渋々といった様子で受け取ると、エレンは口をへの字に曲げながら単行本を開いた。

 不満だという態度を隠せていないのがまた可愛らしいが、数分経つとその表情に変化が訪れる。

 

「なっ、これは…………まさか、こんなことが許されて…………な、なんと破廉恥な……!」

 

 目を見開いたかと思えば眉を顰め、あわあわと口元を揺らしたかと思えば頬を紅潮させる。

 実に見ていて飽きない百面相に、したりとウェストコットは頷いた。

 それからたっぷりと数十分かけて読み終えると、エレンは襟を正してコホンと咳払いをした。

 そして単行本を丁重にデスクの上に戻すと、毅然とした表情を向けてくる。

 しかし取り繕えているのは表情だけで、どこかそわそわとした様子なのは一目瞭然だ。

 

「どうだい? これは君のお眼鏡にかなうものだっただろうか」

「…………これだけの量に対してサンプルが一つだけでは、偏りがあると言わざるを得ません」

「それで?」

「……つ、続きを貸していただいても、よろしいでしょうか?」

「――いいとも!」

 

 ウェストコットは快諾すると、部屋の隅の本の山から続巻を取り出してエレンに手渡した。

 その作品のジャンルは、主に若い女性層をターゲットにした、所謂少女漫画である。

 最強の称号をほしいままにする悠久のメイザースは、これから度々パトロールと称して書店に入り浸るようになるのだが、彼女の名誉のために真相は伏せておこう。

 

「ふむ……そういえばだが、エレンを呼び出した理由を伝えるのをすっかり忘れていた」

 

 反転した〈ハーミット〉の攻略から、わざわざ最強の魔術師を呼び戻したのには勿論理由があるのだが、今の彼女は漫画の虫である。

 先日は浮足立って緊急の招集をかけたものの、もう既に粗方の段取りは済ませているため、伝えるのはもう少し後でも構わないだろう。

 渡した単行本をかぶりつくように読みふける幼馴染を横目に、ウェストコットも読みかけの単行本を開くのだった。

 

 

 

 

 

「むぅ……まさかシュガークリョコーとやらがお菓子ではなかったとは」

「それって修学旅行よね? あの班行動とか言って、いつの間にか単独行動になってるやつ。それでやっと合流できたと思ったら、思いっきり微妙な顔されて…………うぐぐぐぐ」

 

 夕食後の五河家のリビングのソファに、二人の少女が座っている。

 その内の一人、夜刀神十香は気難しげに唸っていた。

 夜色の髪に紫水晶の瞳、そして暴力的なまでの美貌の持ち主である。

 ここまで整った容姿だと周囲に近寄りがたい印象を与えかねないが、頭の中で何かを思い浮かべているのか、口元をもごもごと動かしながらおにぎりを握るかのように両手を動かしている様子は、それを見事に緩和していた。

 コーナーソファの端っこに申し訳なさそうに腰を掛けているのは七罪……くせっ毛を緩く二つに纏め、エメラルドの双眸を不機嫌そうに曇らせた幼い少女である。

 修学旅行という単語で嫌な想像を掻き立てられたのか、何やら頭を抱えて煩悶していた。

 この二人はともに精霊と呼ばれる、天災の如き力を誇る存在だ。

 本来ならば各国から危険視されて攻撃を受ける立場だが、現在はその力を封印されて平和に暮らしている。

 どちらも住居は違う場所にあるのだが、五河家で夕食をご馳走になってからこうして寛ぐのが半ば日課となっていた。

 もっとも、七罪は自主的に来たというよりは十香に引きずられて来たという印象が強いが、夕食を美味しそうに食べていたので問題ないだろう。

 

「相変わらず、負の方向に想像力を働かせてるわねぇ」

 

 少し離れたダイニングのテーブルで頬杖を突いているのは五河琴里……黒いリボンで髪を二つに括った少女である。

 食後だというのに最早チュッパチャプスを咥えて、自分の叔父から「どんぐりの様にくりくりっとして可愛らしい」と声を大にして評される目を、呆れ気味に細めていた。

 彼女は人間として生まれた少女ではあるが、過去に〈ファントム〉と呼ばれる謎の存在から精霊の力の源である霊結晶(セフィラ)を与えられ、十香や七罪と同様に精霊の力を宿している。

 その力が暴走して大きな騒動を引き起こしてから一か月余り。

 霊力の再封印を施された現在は、すっかり元の調子を取り戻していた。

 その呆れの視線を受けてか、煩悶から復帰した七罪は小さくため息を吐く。

 

「はぁ……修学旅行はともかく、そのシュガークリョコー? 名前だけならちょっと美味しそう」

「うむ。てっきりこう、チョコに包まれた栗に砂糖がまぶされたものかと思っていたのだが」

「なるほど、シュガー、栗、チョコね。確かに似たようなお菓子はあるけれど……」

 

 何かをチョコでコーティングするようなお菓子の製法は、まあそう珍しいものではないだろう。

 琴里がパッと思い浮かべただけでもいくつか出てきたが、中身が栗となると実在するかどうかは自信がない。

 もしあったとしたら、秋の味覚だというのは確かなのだが。

 

「おーい、出来たぞー」

 

 キッチンから出てきた男性の声に、三人は一斉に反応を示した。

 程度の差はあれど、どこか嬉しそうな様子は共通している。

 中でも十香は顕著なもので、先程までの気難しげな表情はどこへやら、ソファの背もたれから身を乗り出して喜色を隠そうともしない。

 その様子に男性――穂村士道は苦笑した。

 都立来禅高校に勤める教師である彼は、仕事で不在の姉夫婦から、この家の管理と姪っ子である琴里の保護者を任されている。

 その事情だけでは十香や七罪との繋がりが見えてこないが、そこには裏の事情が関係している。

 高校教師とは世に忍ぶ仮の姿……というわけではないのだが、士道は秘密組織のエージェントという、言葉にしたら何とも胡乱な肩書きを背負っているのだ。

 そしてその任務内容は精霊との交渉――即ち、デートしてデレさせた上でキスをする事である。

 こちらも言葉にしたら気が抜けることこの上ないが、そうすることによって士道は精霊の力を封印する事ができる。

 出処の知れない特殊能力ではあるが、それを見込まれてエージェントをやっているのだ。

 それともう一つ、非常に悲しく重い十字架を背負っているのだが、ここでは割愛しておこう。

 

「おお、デザァトだな! シドー、何を作ったのだ?」

「ふふふ、それはだな――――なんと、今話題のシュガークリョコーだ!」

 

 少々演技がかった動きで、士道は手に持った皿を掲げた。

 その上に乗っているのは、十数個の月見団子大の丸っこいチョコレートである。

 しかし完全な球状というわけではなく、どれも栗のように一部分だけ微妙に尖っている。

 そしてその栗を思わせるフォルムに白い粉砂糖を纏う様は、十香が思い浮かべていたシュガークリョコーそのものだった。

 自分の想像が現実になったのかと、十香は驚愕を露わにして戦慄いた。

 

「しゅ、シュガークリョコーだと!? まさか実在していたというのか……!」

「いや、どんだけ驚いてるのよ……」

 

 十香の動揺っぷりに、七罪は半眼でツッコんだ。

 一ヶ月ほど前はもう少しよそよそしかったのだが、今では十香に引っ張りまわされていることでそれなりに慣れてきたことがうかがえる。

 その様子に、琴里は後方保護者面で静かに頷くのだった。

 ここまで周囲に慣れてくれたのなら、パニックを起こして引っかかれることもないだろう。

 傷痕がすっかり消えた頬をさすると、腕を組んで士道へ声をかける。

 

「十香の想像を叶えてあげるだなんて、士道にしては気が利くじゃない」

「つってもただの思い付きだけどな。今は旬じゃないから栗も調理済みのやつしか手に入らなかったし、秋になったらもっと大きな栗で作ってみようかな?」

 

 琴里の態度は叔父に対するものとしては少々横柄だが、士道にそれを気にした様子はない。

 今の姪っ子は反抗期というわけではなく、司令官モード……髪を括っている黒いリボンがその目印となる。

 そのリボンを身につけている時、琴里は秘密組織の司令官としての辣腕を発揮するのだ。

 そしてその秘密組織とは士道が所属するものと同じであり、司令官と平のエージェントでは当然前者の方が立場が上となる。

 世間の常識に則って言うなら、女子中学生がそのような立場にいることは当然ながら問題だが、秘密組織に世間の常識が通じると思ってはいけない。

 ともかく慣れてしまったということもあり、士道にとって琴里の言動は最早日常である。

 しかし全く気にしてないわけではなく、たまに鬱陶しがられたりすると、目に見えて落ち込んでしまうこともあるのだ。

 そんな叔父の態度に対する琴里の感情はまた複雑なものだが、それもここでは割愛しておこう。

 

「思いつきでそんなの作っちゃうんだから、士道も大概よね。化粧もそうだけど、ちょっと女子力高すぎない?」

「うっ……」

 

 七罪の指摘に、士道は何やら言葉を詰まらせた。

 お菓子作りはともかくとして、化粧にはあまり振り返りたくない思い出があるのだ。

 ちなみにその事になるといつも言葉を濁らせるため、七罪の中で士道は「美容系の職業を目指していたが挫折して現在は教職に就いている元魔術師」という経歴を背負っていることになっていた。

 

「そんな大げさなものじゃないって。七罪も練習したら、すぐできるようになるんじゃないか?」

「あ、あんた正気? 私が作ったものなんてゴキブリにだって見向きされないし、下手しなくてもバイオハザードものなんだからっ」

「それはそれですごいわね……」

 

 お菓子作りで細菌兵器相当のものが生み出せるのなら、それは最早ある種の才能とさえ言える。

 ネガティブを通り越し気味な七罪の発言に、琴里は頬に汗を一筋伝わせた。

 流石に言った通りになるとは思わないが、七罪の能力を考えれば決してありえないとも言い切れない。

 霊力を封印されていてはその能力も行使できないのだが、精神が不安定になればその限りではない。

 七罪は性格の問題もあって霊力が逆流しやすいので、度々大人姿に変身していたりするのだ。

 勿論、自分からそんなことをするとも思わないが、誰しもパニック状態では自分の行動をコントロールするのが難しくなる。

 その能力の特性も相まって、七罪の場合は「何が起こるのかわからないびっくり箱」という表現がピッタリだろう。

 そんな姪っ子の危惧を他所に、士道は苦笑して七罪の頭に手を置いた。

 

「ならなおのこと練習しなきゃな。よし、今度一緒に材料買いに行こうか」

「あ、うぇ…………し、士道がいいなら、別に構わないけど」

 

 何かを言いたげに口をもごもごとさせていた七罪だが、最終的には頬を薄く染めながら頷いた。

 その様子を見て、琴里は流石と小さく嘆息した。

 こうも自然にデートの約束を取り付けるのは、日々の過酷な訓練の賜物もあるだろうが、何より素の態度によるものが大きいだろう。

 そもそもが世話焼きなのは勿論、士道は子供に対する面倒見がとてもいいのだ。

 それが自分と過ごす中で培われてきたものだというのは重々承知しているが、精霊とはいえ他の女子に対して発揮されるのは正直なんというか、モヤモヤするものがある。

 しかしそれをおいそれと顔に出しては司令官は務まらない。

 ガリッとチュッパチャプスを嚙み砕くのに留めた琴里は、懐から新しいのを取り出してまた咥えるのだった。

 

「ぬ、もしやデェトか……いつ出発する? 私も一緒に行くぞ」

「今日はもう暗くなってきたから、また今度だな。せっかく用意したし、デザート食べようぜ」

「おお、そうだったな」

 

 十香もついていくなら、最早デートというよりもお出かけだろう。

 割って入るのはいかがなものかと諫めようとした琴里だが、士道の提案に出かかった言葉を引っ込めた。

 それが一体どういうものなのかというと……

 

「そうだ。今度みんなで出かけるなら、琴里もどうだ?」

 

 随分と気楽に言ってくれる、と琴里は目を細めた。

 四六時中モニターしているわけではないが、そういった外出の際にはまだまだ十香と七罪の二人から目を離すことは出来ない。

 つまりは〈ラタトスク〉としての作戦行動になるため、琴里も司令官として指揮を執らなければならないのだ。

 だがしかし、状況によりフレキシブルに対応するためならば、現地に赴くという選択肢もありえるのではないだろうか。

 そういえば最近、お互いの忙しさもあってか士道と一緒に出掛ける機会も減っている。

 あれこれと考えた末に、琴里は髪を括るリボンを黒から白に付け替えた。

 

「さんせーい! 私も行くー!」

 

 そして大好きなしーくんの胸に飛び込むのだった。

 

「うわ、キャラ変わりすぎ……怖っ」

 

 その豹変っぷりに七罪がやや引いていたが、演技派という意味で姿形ですら変えてしまう彼女の右に出る者はいない。

 実際に大人姿に変身した時は人が変わったかのような大胆さを見せるので、まさにおまいう案件である。

 しかしその事に対するツッコミはない。

 第一にツッコミを入れてきそうな琴里は、士道にたかいたかいをされて歓声を上げている。

 その様に呆れを主成分に、ほんのちょっとだけ羨望が入り混じったため息を吐くと、七罪は隣で舌鼓を打っている十香にならって、食後のデザートに手を付けるのだった。

 

「あ、美味しい」

「うむ、そうだろうそうだろう。何といってもシュガークリョコーだからな」

「いや、何で十香が得意気なのよ……命名者特権?」

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 みんなで出かける約束をした士道は、仕事を早めに切り上げて十香と共に学校を出て天宮駅前へと向かった。

 そこで琴里や七罪と合流する予定なのだ。

 放課後の街は、同じく仕事や学業から解放された人たちで賑わっている。

 空間震の頻発地域だというのにこうも活気があるのは、それだけ天宮市がその対策に力を入れているからだろう。

 そこに〈ラタトスク〉が一枚噛んでいるのは想像に難くない。

 以前に十香とデートした際に、街を『変形』させるという荒業を行使した点から、そのことが窺い知れる。

 とまぁ、そんな秘密組織の事はさておき、集合場所についてである。

 駅前というのは何をするにも利便性が高いため、待ち合わせ場所としては定番だ。

 お菓子作りという元々の目的を考えると近所のスーパーでも事足りるのだが、四人でお出かけとなるとそれだけでは少々味気ない。

 集合場所は琴里の提案なので、何か考えがあるのだろう。

 それが何なのかはともかく、時間が時間なので今日の夕飯は外食で済ませるべきか。

 いつも家で料理を振舞っているため、中々に珍しい。

 士道一人ならば外で適当に済ませることもあるのだが、この春からはあまりその機会がなかったのだ。

 面子が面子だけに新鮮でもある。

 琴里のリクエストはある程度予想できるが、七罪は何を食べたがるだろうか。

 遠慮して正直に言わない可能性もあるため、そこは上手く聞き出してやる必要があるだろう。

 しかし、と隣で鼻歌を歌う十香に目を向ける。

 外食をする上で一番懸念するべきなのは、やはり彼女だ。

 以前のようにファミレスに入れば財布に大打撃を喰らいかねないし、バイキングやビュッフェに臨めば店の在庫に致命傷を与えかねない。

 十香は控えめに言って、非常に健啖家なのだ。

 最近は多少の我慢は覚えてきたようだが、せっかくのお出かけなのであまり我慢をさせたくはない。

 ここは素直に秘密組織のサポートに頼るべきか、と唸っていると、袖をクイクイと引かれる。

 そちらに意識を向けると、十香が心配そうな顔で覗き込んでくる。

 ここで士道は、これまでの過酷な訓練の中で叩き込まれた大鉄則を思い出した。

 それは、相手を不安にさせてはならないというものである。

 勿論、攻略の際は駆け引きとしてそのように振舞うこともあるが、今はその必要もない。

 そもそもとして、楽しいお出かけに水を差すのはいかがなものかという話だ。

 何でもないと首を振ると、十香の手を握る。

 学校からはそれなりに離れたので、これぐらいは構わないだろう。

 すると十香は嬉しそうに顔を輝かせて、ギュッと腕にしがみついてくるのだった。

 手を繋ぐどころではない接触面積の大きさに、士道は心臓を跳ねさせる。

 都合の悪いことに今はクールビズや制服の夏服が推奨される時期なので、互いに服の布地が薄めなのだ。

 なので柔らかい感触がよりダイレクトに伝わることになり、暑さとは別の理由でじんわりと汗が滲み始める。

 

「と、十香……その、暑かったりしないか?」

「うむ、シドーの体温は何というか、こう……心地よくてとても安心できるな。椎崎や箕輪の言った通りだ」

「またあの二人の入れ知恵か……」

 

 どうやらこの唐突な行動には〈フラクシナス〉の女性クルーが関与しているらしい。

 椎崎と箕輪といえば、艦橋に詰めている他に十香や七罪の面倒を見てくれている関係で、それなりに話す機会が多い二人だ。

 琴里を支えてくれていることもあり、士道も信頼を置いているのだが、どうにも恋愛関連になると怪しいところがあるのだ。

 呪術やら盗聴やら不穏なワードが浮かんできたので、それ以上は考えないようにしておく。

 そこらへんはともかくとして、面倒を見るついでに少々過激なアドバイスを送るのは勘弁してもらいたいところだ。

 七罪は妙に人間社会に精通しているため真に受けることはないのだが、十香は素直な性格もあってか簡単に信じてしまうのだ。

 二人が面白がって嘘を吹き込んでいるわけではないとは思うのだが、それを十香が実行することで士道の忍耐ゲージに多大な負荷がかかる。

 それで何かあったら、士道は名実ともに淫行教師となってしまう。

 何かを起こすつもりはさらさらないのだが、可能性の上では何が起こってもおかしくはない。

 士道は教師だが同時に男でもあり、十香は生徒だが女性として非常に魅力的なのだ。

 先月の一件で緊急事態とはいえ、同意も取らずに無理矢理事に及んでしまったこともまだまだ記憶に新しい。

 あの時の蕩けた顔を思い出し、自然と視線が唇へと向かう。

 それでこちらに対する態度が大きく変わることはなかったが、十香自身がどう思っているのかはまだ不透明な部分がある。

 何ともバツが悪くなって自由な左手で頭を掻く。

 今までその態度に甘えて、正式な謝罪をしていなかったことに思い至ったのだ。

 

「あー、十香? その……この前は悪かったな。余裕がなかったとはいえ無理矢理しちまったし」

「ぬ……? ――――っ!?」

 

 最初は首を傾げていたものの、すぐに何のことか理解したようで、十香は目に見えて落ち着かない様子を見せた。

 顔を伏せてしまったため表情は確認できないが、少なくとも耳は真っ赤に染まっている。

 腕を掴む力がキュッと強くなる。

 この反応から、少なくとも拒絶されているわけではないことは窺えるが、より強く押し付けられた柔らかい感触に士道は気が気でない。

 ともかく十香がこの状態では、人前で話を続けるのは得策ではない。

 どうにか人目につかない場所まで移動すると、十香の肩をタップして注意を促す。

 

「ほ、本当に悪かったよ。やっぱり気にしてたんだな……もうあんなことはしないからさ――――いだだだっ!!」

 

 腕を掴む力がさらにギュッと、押し潰さんとばかりに強くなる。

 こうまで締め上げられてしまえば、最早感触がどうのこうのと言っている場合ではなくなる。

 霊力を封印された精霊の身体能力は人間と大きく変わらないが、それも機嫌次第なのだ。

 このままだと本当に腕が潰されかねないので、宥めるように再び十香の肩をタップする。

 

「とと、十香っ? 少ーしだけ力を緩めてくれると…………いだだだっ」

「――――いや、だったのか?」

 

 ポツリと、か細く言葉を漏らして、十香が顔を上げる。

 紫水晶の瞳には今にも溢れそうなほどの涙を湛えており、士道はその様子に息を詰まらせた。

 今頃〈フラクシナス〉ではアラームが鳴り響いているだろうか。

 まさかの涙に頭が真っ白になった士道は、ほぼほぼ無意識で十香を抱き寄せてその顔を己の胸元に埋めさせた。

 これは、中々泣き止まない姪っ子への対応が染み付いた結果だ。

 温かくも湿った感触が胸元に広がる。

 抱き寄せた体から伝わる震えに、士道は己の失言をこれでもかというぐらい理解させられた。

 

「本当にごめんな、十香。俺が嫌とか、全然そういうことではなくてさ、むしろ十香が嫌だったんじゃないかって気にしてたんだ」

「……ならば、いやではないのか? 本当の本当にそうなのか?」

「ああ、本当の本当の本当にだ」

「――――そうか!」

 

 声に張りが戻ったかと思うと、十香は士道から離れて目元をゴシゴシこすってから再びその顔を輝かせた。

 そして腕を組んで、今度は不機嫌そうに顔を背ける。

 女心と秋の空、とは女性の感情がころころと変わりやすいことを指す言葉だが、その機嫌の乱高下に士道は戸惑うしかない。

 

「まったく本当にしょうがないな、シドーは。あのようにいきなりでは驚いてしまうではないか」

「うっ……それについては本当に悪かった。言い訳はしないよ」

「だから、その……次からは心の準備が出来ている時にしてくれ」

「わかった、気をつける――――って、は?」

「が、学校ではダメだぞ? あのキスは何だか頭がボーッとして、体の奥がキュンとなるからな。なるべくなら家に帰った後で……そう、すぐに横になれるようにベッドの上が望ましいな」

「あ、あの、それはちょっとマズいというか……」

 

 十香がそれを意図して言っているわけではないとわかってはいるが、ベッドの上でその行為に及ぶとなると、必然的にその先へと考えが行ってしまう。

 それをどうにか首を振って頭の中から締め出す。

 常識的に考えると、恋人同士でもないのにあんなキスはするべきではないのだが、そこに言及するとそもそもキスという行為自体にも是非が問われる。

 霊力の封印のために唇を重ねるのは必須なので、そこらの判定が難しいのだ。

 それもただキスをすると言うだけなら人工呼吸的な扱いにできなくはないが、そこに至るまでにデートをしてデレさせているので、割り切るのもまた難しい。

 加えて士道は自分からではないとはいえ、また別の生徒とも同じ行為をしているため、さらにややこしいことになる。

 相手が相手だけに口が裂けても伝えるわけにはいかない。

 目を泳がせる士道に、十香は「む?」と訝るように眉根を寄せた。

 

「今、何だかものすごく不快な気配がしたぞ。そう、まるでシドーがあの鳶一折紙のことを考えているかのような――――」

「き、気のせい気のせい! なんたって今は十香のことで頭が一杯だからな!」

「ぬ、そうか。私もシドーのことで頭が一杯だぞ。お揃いだな!」

 

 士道の誤魔化しに気分を良くした十香が、今度は真正面から抱きついてくる。

 これが琴里や七罪だったら、こうもすんなり誤魔化されてはくれないだろう。

 十香の勘はとんでもなく鋭いが、素直な性格なのが幸いした。

 内心で胸を撫で下ろす士道だが、実の所余裕はあまりない。

 この真正面からのハグは、十香の体の柔らかさを伝えるのに十分すぎるのだ。

 勿論それを意識してしまえば、伝わってくる体温や匂いが余計に理性を削りにかかる。

 暑さも相まって判断能力が鈍りそうなものだが、淫行教師と謗られようと士道は教師である。

 そこは頬肉を思いっきり噛むことで耐え抜いた。

 しかしそんな内情が伝わるかどうかは別問題である。

 成人男性と制服姿の少女が抱き合っている姿を、第三者が見たらどう思うだろうか。

 見た目が似通っていれば兄妹と勘違いしてくれることもあるかもしれないが、残念ながら士道と十香はその主張が通るほど似ていない。

 少し年の離れた恋人同士と見てくれたらまだいいが、下手をしたらいかがわしい関係だと思われかねない。

 人目につかない場所を選んだつもりだが、封鎖されているわけではないので誰かが来る可能性は十分にある。

 果たして背後の地面を踏む音に、士道はぎこちなく振り返るのだった。

 

「まったく、パターン青が出たから何をやっているかと思えば……」

 

 そこにいたのは二人の少女、待ち合わせ相手の琴里と七罪である。

 琴里は中学校の帰りだから当然制服姿で、いつも通りチュッパチャプスを咥えている。

 七罪はほんのりとしたメイクに、夏らしい半袖のパーカーワンピースを纏っていた。

 恐らくは〈フラクシナス〉の女性陣が世話を焼いたのだろう、いつも部屋で見るものと違ってまた新鮮な服装だ

 揃って半眼で視線が冷たいように感じるが、それは気のせいだと思いたい、

 二人は身内なので、大体の事情は察してくれるはずなのだ。

 いや、そうであって欲しいと士道は冷や汗を伝わせた。

 

「……この淫行教師」

「――――ごふっ」

 

 そして七罪の心無いコメントに、その場に崩れ落ちるのだった。

 

 

 




というわけで終了。

次回あたりで修学旅行に出発すると思われます。
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