国試もおわり、今年から社会人になれたので更新頻度は上がる予定です
もう勉強しなくていいとか最高……!
「俺、伏黒と高専行くって約束したし……」
「何言ってるんだい君は」
「いーじゃん、青春だね」
虎杖悠仁の今後について本人そっちのけで激論を交わしていた大人どもが「現状維持」に落ち着こうとしていたところで挟まれた本人の希望。さっきまで『三年くらい監禁する』などと物騒極まりないことを言っていた夏油が虎杖の肩を揺さぶり「考え直せ」と言って俺を睨み、『宿儺の指と一緒に宇宙に捨てる』などと極論を唱えていた五条さんが「若いっていいね〜!」と楽しげに笑う。
「なんでダメなん? まだ高専にコトリバコのことバレてないんでしょ? ならいけるって!」
「君の経歴を考えなさい。小学校からずっと盤星教の私立学校を通っておいて『夏油一派に与していません』は通らないよ」
「詐称すれば?」
「黙ってろ悟。どこから情報が漏れるかわからない。殺されるかもしれないのに敵地に送り出す
「親って歳か?」
「悟、本当に黙れ。悠仁、考え直すんだ。そこの……伏黒くんと同じ学校に通いたいなら彼をこっちに転校させればいいだろう」
「そんな顔で恵見てるようじゃ無理だろ」
五条さんのツッコミに内心頷く。親でも殺されたのかと思うほど壮絶な表情の夏油に「転校は遠慮しときます」と茶を啜りながら答える。
「ものは試しってことで。1ヶ月様子見て、ヤバそうだったら仙台戻せばいいだろ」
「盤星教と繋がっていると上層部にたたかれるよ」
「もー手遅れだって」
「私は、倭助さんに悠仁を頼まれているんだ」
片手で眉間を揉む夏油。浮き上がったこめかみの血管に言及した五条をアイアンクローでしばきながら「心配なんだよ」と虎杖の情に訴える。とんだ三文芝居だ、眠気がする。
「一年、一年でいい。
「その間に伏黒、死ぬかもしんねーじゃん」
虎杖の言葉に閉じてた瞼を押し上げて薄目を開く。脈絡もない「俺の死」にどう言う事だと視線で問う。が、虎杖はこちらに目線一つよこさないで夏油との対峙を継続する。
「夏油さん、俺今まで目を背けてた。俺のせいで人が死ぬ、俺が関わると碌な事がないってさ。殻に籠る俺を夏油さんは肯定してくれたけど、伏黒は違った。
俺に生きる理由じゃなくて死ぬ理由をくれた。ちゃんと生きろじゃなくて、ちゃんと死ねって言ったんだ」
手のひらを見つめて、徐に拳を握る。ぐ、と力を込めてやや肘を後ろに引く。その動きだけで、虎杖の覚悟が見える。流石に茶々を入れる気にならないのか、静かな五条が少し不気味だ。
「生きる理由を見つける。伏黒といれば、できる気がする」
「だから、高専にいくと?」
「うん」
じっと虎杖の目を睨むように見つめ、一拍。夏油の真っ黒な瞳孔の先が虎杖から俺へと移る。睨まれているように感じて思わず睨み返す。1、2、3……夏油の喉が絞まる。そして。大きなため息が沈黙を破った。
「決意は変わらない、か」
条件を呑めるならいいよ、と。薄い唇が音を紡ぐ。パッと華やぐ
「縛りを結ぼう、悠仁。なに、願掛けのようなものさ。
なんてこともないように、手のひらを虎杖に差し出す夏油。その重さをわかっていないのか、それともわかった上でのことなのか。合意は成った。縛りが成されるまで、虎杖が死ぬことはない。約束しておいて無責任だが、ホッとした。
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「紅一点よ、敬いなさい」
あれだけ議論した虎杖の編入は思いの外あっけなく済んだ。盤星教のお膝元で鍛錬を積んだ術師、というパッケージは上層部の気を引くものがなかったらしい。あくまで夏油傑だけ危険視しているのだろう。もしくは、虎杖が術式なしという名目で入学してきたからか。
緊張で体を硬くしていた虎杖も今は談話室で居眠りをするレベルで気を抜いている。今は、遅れて入学する三人目のことで騒がしい。あと、渋谷。
初めて経験する都心の人口密度に田舎者丸出しではしゃぐ虎杖から少し距離を空けて歩きつつ、集合場所に指定されたハチ公前に立つ俺たち。と、その前に現れた変な女。やけに偉そうで態度のでかい女に「鼻くそ食ってそう」とクソ失礼な扱いされた虎杖が「いやしてねーって」と抗議の声をあげてだる絡みしている。地方出身同士のシナジーか、それとも虎杖がコミュ強すぎるが故か、打ち解けた雰囲気の二人が任務先である六本木の廃ビルを前に絶叫する。
「どこが観光だコラ!!」
「地方民弄びやがって!」
「入学試験みたいなものさ、観光はその後。サクッと祓えばその分観光時間も伸びる。六本木でも新宿でも好きなところに連れていくよ」
なるほど、任務と聞かされていなかったクチか。人の多い場所とそこから外れた裏路地の閑散のギャップにやや衝撃をうけている
「ほんっとムカつくわね! いいわ、秒で終わらせてやるから。
さっさと行くぞ虎杖ぃ!
「おう! 素手でやるから大丈夫だぜ、釘崎も気をつけろよな!」
二人がビルに足を踏み入れる。甲高い金槌の音と解体工事さながらの破壊音が数秒響き、脇に子どもを抱えた虎杖と金槌を持ったまま肩を回す釘崎が出てくる。時間にして5分少々。いや、早すぎだろ。
「早かったね、もっと時間かかると思ってたよ」
「ふん、三級程度地元で嫌ってぐらい祓ってるわよ、都会の呪霊も大したことないわね」
「俺も! 伏黒と初めて会った時も一級の祓除したんだぜ」
「はあ? アンタそれで四級って上層部に嫌われてんの?」
「そんなとこ? 訳アリなんだよな俺」
「私の昇級に影響しないでしょうね」
釘崎の鋭い舌打ちに虎杖が「大丈夫っしょ!」と能天気な笑みを浮かべる。相性は悪くなさそうだと、声に出さず安堵する。
釘崎は本当に性格が悪い。気に入らない奴をとことん虐めぬいて追い出すいじめっ子集団を逆にいじめ倒して全員不登校にさせるタイプの性格の悪さだ。そんな
「おーい、伏黒! 五条センセーがお昼に寿司奢ってくれるって!」
一点の曇りもない晴れやかな笑顔。虎杖の性格の良さが釘崎の隣に立つとより顕著だ。
事前情報を得ていたわけでもない。会話もさほど交わしてない。なのにただ、知っている。薄気味悪い。
いや、釘崎だけではない。虎杖との初対面でも似たようなことを思った。déjà vu というのだろうか、この強烈な既視感の正体は。幼い頃からぼんやりと感じていた「なんか知ってる」が、頻度と濃度を増して一ヶ月に押し込められている。
だから、迷う。時折感じる「これは違う」はなんなのか。
「(いや、考えすぎだろ)」
そうだ、考えすぎだ。未来がどうなるかなんて誰もわかるわけないのだから。
【2018年7月】
西東京市英集少年院にて両面宿儺が顕現。伏黒恵(二級術師)が対応に当たった。
本案件は受肉体(虎杖悠仁)の自殺により終了。死者1名。
肩に呪霊の踵がめり込み、えぐれる。貫通しなかったことで砕けた骨が肉の中に残り激痛が走る。崩れそうな膝に力を込め、無理やり立つ。そんな俺を嘲るように、血と肉に混ざって散乱したドス黒い血液を両手で掬ってぶちまける。ケタケタ笑いが耳障りだ、フクロウのように180度回転した顔が不気味だ、あえて目を逸らさずに睨み返すと手を打ち鳴らして喜んだ。拍手と共に飛び散る血が頬を汚す。
「ちくしょう……っ!」
手を伸ばした先にいた青年の死体はもはや人の形をしていない。内部から爆発したようなありさまだ。なぜこんなところにサラダボウルに乗せられた白子があるのだと思考が止まり、「ああ、頭蓋骨と脳だ」と遅れて理解する。
生前の名残で微かに揺れる指先。見ていられなかった。こんなにもあっさり、人は惨殺されるのかと。もはや慣れてしまった無力感。自嘲と悔恨。どうして、俺はいつもこうなんだ。誰かを助けたいと思うのに、思うだけで誰一人として助けられていない。助けるどころか傷つけて。いつもそうだ。俺は、助けたいと思った人を取りこぼす。「(せめて伏黒がいてくれれば)」などと一瞬でも考えた自分を恥じる。
伏黒は以上を察して応援を呼びに行ってくれた。危ないと分かっていたのに少年院から離れず突っ立っていたから領域に取り込まれた。釘崎に梅雨祓いを押し付けた。雑魚呪霊を片っ端から祓って呪力を消耗したから、準一級相当の呪霊が出現した際に不意をつかれ重傷を追わせてしまった。俺はあの時、呪霊が現れることに気がついていた。なのに防げなかった。全部、俺のせい。それなのに他責に流れるなんて、俺は恥知らずだ。
「ごめんなさい」と口の中でつぶやいた。視線の先には鼻から下だけが残った骸。あなたの尊厳を守れなかった。ならば、せめて……
「仇は、取るから」
ぐ、と。指先を呪霊にむける。
「(なら、
視界の端にぐったりと横たわる釘崎が映る。だめだ、今の俺じゃ無差別に
拳を握り直し、爪先に力を入れる。呪霊は両手を広げてケタケタ笑う。慢心して隙だらけの懐に飛び込み殴りつける。打撃との誤差0.001秒。____黒い火花は舞わない。
「ぐっ!」
拳が貫通したまま、胴体が急速に回復する。ギチギチと締め付けられ、腕の血流が止まる。あえて、二の腕まで腕を押し込み、無理やり隙間を開けて腕を引き抜く。距離を取らねば。逃げることばかり意識した結果、視野狭窄に陥るのは自分がまだ未熟だからだろうか、ぶちまけた肉片と血飛沫に足を取られて体勢を崩す。その隙を見逃すほど、目前の呪霊は甘くない。
「っ!!」
首が締まる。つま先が空をきる。今にもぶっ飛びそうな意識を頬肉を噛みちぎることで保ち、腕をもちあげる。だけど、これはこれでラッキーか。人差し指を呪霊の眉間に押し当てる。
「つか、まえた」
呪力補足。対象指定。
「臍の緒、指先、臓腑の血潮。巡る因果は箱の底。
……術式反転・
呪霊の悲鳴が領域に響く。骨が折れ、肉がちぎれ、血が噴き出す。異音と悲鳴が混ざって耳が痛い。この時ばかりは、呪霊が相手とわかっていてもフードプロセッサーでミンチにされるハムスターを眺める気持ちになる。最後に残されたのは手のひらサイズに圧縮された肉塊。
口に唾液を溜めて、一口で飲み込む。儀式が終わる。
「まっず!」
血で汚れた手の腹をスラックスで拭ってから釘崎を抱き抱えた。不完全な生得領域が崩れていく。
急ごう、外で伏黒が待ってる。
【2018年7月某日】
西東京市英集少年院運動場上空にて呪胎が出現。呪術高専東京校一年が対応にあたる。呪胎は虎杖悠仁により祓除済。
「おめでとう悠仁、心から君を
「これで良かったのだろうか」
墓の前に立ち立ちすくむ坊主をカラスが見下ろす。もう、だいぶ日が伸びた。すでに七時を回っているのに、冬場の五時よりずっと明るい。オレンジ色の空を背景にした墓石はまだ新しい。萎びた菊の花を花瓶に生けなおし、ワンカップの焼酎を備える。
ここは数年前から盤星教が管理している共同墓地。虎杖倭助が眠る墓だ。「俺に余計な金を使うな」という本人の希望と、「じいちゃん以外と寂しがりだから」と言う孫息子の意見でこうなった。
「倭助さん、悠仁が高専に行きました。生きる理由を探すそうです」
その点で見れば、いい傾向なのだろう。悠仁の死に急ぎ癖が改善されるかもしれない。心のどこかで常に死場所を探している子が、私に「生きる理由を見つけたい」と言った。喜ばしいではないか。
「だが、私にはこれが罠に思えて仕方がない」
なぜ、よりによって今なのか。古戸行李の悪逆を宣告された年、人類が滅亡するかもしれない年。
そも、初めからおかしな話なのだ。経営不振で盤星教に買収された旧杉並第一高校の百葉箱に両面宿儺の指が安置されていた。そんな偶然がありえるだろうか?
ありえたとして、なぜ私は気づかなかったのか。指探しには力を入れていた。孔と共に過去の記録から指のありかを探り、指を取り込んだと思われる呪霊の目撃情報があればすぐに飛んでいった。だが、私は見つけられなかった。10年間で一本も。
なぜ、伏黒恵にコトリバコの捜索任務が命じられたのか。それもわざわざ、仙台に。コトリバコを探すなら仙台より先に島根だろう。
なんだ、この気持ち悪さは。ぼんやりとした、しかし確かな悪意の輪郭。
「古戸行李……」
奴ではないか? 全ての裏にいるのは。加虐趣味を拗らせた嫌悪すべき悪は。こんなことを虎杖倭助に言えば、彼は「なぜ、そんなにも
だって、夏油は呪霊の味を知っている。舌の上に乗せるだけで絶望を感じるあの酷い味を。窒息しそうになりながら飲み下す苦痛も、ずっと食道に残っているような異物感も。全部全部知っている。
夏油は知っている。トイレで嘔吐く虎杖悠仁の背中も、憔悴の末に栄養失調になり入院した虎杖悠仁の寝顔もーーー虐待を疑われた虎杖倭助の苦悶の顔も。
ゆえに、夏油は結論づけた。古戸行李は害悪だ。虎杖家の平和を壊す癌みたいなヤツだ。生前、ほんの数年早く出会っただけなのに夏油よりもずっと彼らの懐に入り込んでいて、腑に寄生してる。どんなに夏油が虎杖家を案じて言葉を紡いでも「生きてる頃の行李を知らないお前に口出しされる謂れはない」と心の扉を閉めてしまう。古戸行李に関わる話以外ならば聞き入れてくれるというのに。
否、わかっている。自分が古戸行李を憎みすぎているから言葉が響かないのだと。それでも許せない、許せないのだ。
夏油が非術師を皆殺しにしなければ抜け出せないのでは、と思うほど追い詰められたマラソンレース。それ以上の苦痛と地獄を「性欲」という悍ましい理由で幼子に押し付けるクソ野郎を、どうしたら憎まずにいられるのか。
呪具の機能など、とってつけた後付けの理由。どうせ、「ただ、苦痛に歪んだ悠仁の顔が見たいから」とか、残虐な愉悦心で虎杖悠仁を嬲り、虐め、地獄に落として楽しんでいる悪魔のような男。
「俺、もう人間じゃねえんだって」と、絶望に揺れる悠仁を視姦していたのだろう? 「俺がコーリくん殺しちゃった」と空の墓前で泣き崩れる姿で絶頂していたのだろう?
「ふざけるなよ」
腹の奥で興奮してるヤツの姿など簡単に想像できる。この世の汚いモノをドブ水で煮込んで煮崩れたような呪詛師。おそらく、虎杖悠仁の出生には秘密について何も知らないことが救いか。
「倭助さん、あなたの意思は私がーーーー」
「夏油さん!」
………。
……………………。
………………………………?
「(なんだ、今のは)」
ぶわりと、全身から汗が吹き出す。冷たい緊張が背筋を走る。
聞いてはならない___否、絶対に聞
「夏油さん、聞こえてませんか、夏油さん。
やだなあ、幽霊でも見たような顔して。もしかして僕のこと忘れちゃいました?」
Tシャツにハーフパンツ、短ラン姿を見慣れていたが、彼の私服はこんなだった。やや俯いているせいか、それとも夕日を背負っているからか。顔にかかる影が濃くて表情がわかりずらい。
うっすらと見える口元が笑っている。穏やかに微笑んで手を振っている。距離にして約五メートル。短いが、語り合うにはやや遠い距離。そこに、彼は立っている。
「灰原……なのか?」
「よかった、覚えてくれてたんですね。忘れられてたらどうしようかと!」
五歩も歩けば届く距離。空白を埋めるように、灰原は歩いてくる、近づいてくる。私は、無意識に後退る。
「実はですね___」
ふ、と。夕日に目が眩んで視線を外した。目の前に、黒が弾けた。頬を撫でる強風に思わず身構え……
「思ったよりうまく事が進まなくて。なので、直接あなたの体を奪いにきました」
どこかで弾けた水風船が、子供のいない墓地に響く。やけに音が近い。いや、聴覚が鋭敏になっているのか。理解した途端、耳の中で心臓が派手な音を立てて弾む。全身の血液が逆向きに流れているような錯覚。滞留、鬱血、破裂。喉を通る鉄の味。
「がッ」
口から飛び出した大量の血液。膝が崩れたが私は地面に這っていない。内臓に感じる硬い感触。血管損傷による平滑筋収縮。遅れて脳に伝わる電気刺激が、私の腹に刺さる「腕」の存在をはっきり知覚している。
___腹を、抉られた。
脇腹から背中に貫通し、腹から生えてるように見える腕。気づかなかった。呪力を纏ったシンプルだが強力な一手。胃は確実に持っていかれた。肝臓もダメだろう。腕に堰き止められた血の鬱滞を感じる。込み上げる嘔吐感。
脂汗がこめかみに浮き上がる。中は燃え盛るほど熱いのに冷や汗が止まらない。何らかの術式が呪具か、それとも技術か。呪力が練れず猿同然になった我が身。ああ、クソ、油断した。思考が
「本当、身バレにつながるからあまり表に出たくないんですよ」
風に煽られて前髪が揺れる。顕になった額を一周する傷跡。正体を確信した瞬間、脳みそが沸騰する。憤死とはこのことだろうか。
なぜ、姿が違う。その姿はなんだ。この一連の悪意の正体は貴様か。悠仁をどうするつもりだ。まさか、倭助さんの死にもお前が関わっているのかーーーー
「虎杖香織ぃ!!」
「ふふ。今は灰原雄で、今後は夏油傑だよ」
そして、【縛り】は歪んで成就する。
悠仁は呪霊の腹を抉って羂索は夏油の腹を抉る。これってとっても親子じゃない?ってテンションで書いたのですが描写が分かりづらかったようなので自分から発信していきます