そこに解は埋まっている
有沢竜貴は、目の前の光景が信じ難かった。隣にいる本匠千鶴も同様に。
広範囲に渡ってアスファルトで舗装された道路が抉り取られ、コンクリートブロック塀がひび割れ、或いは壊れている。その向こう側で、霊骸の日番谷冬獅郎と松本乱菊が、疲弊しながらも辛うじて立っていた。その周辺に氷の破片が転がっているのを見るに、分厚い氷の壁を建てて、在らん限りの霊圧を防御に回したと思われる。それだけの威力を誇る、
竜貴は信じられなかった。この光景を作り出したのが、可憐な少女であるはずの親友だという事を。
「……なんだ、しぶといなあ」
不完全に形成された仮面を撫で、"織姫"———否、
「……力を持つ人間に寄生し、躯を乗っ取ったか。これだから
斬魄刀を振り上げる。その軌道が凍りつき、巨大な刃となって影に向かって飛んだ。
影は癪に触ったように瞼を半分下ろす。三天結盾を張り、氷の刃を防いだ。止められた氷の刃は自身の運動エネルギーの反動で砕け散る。
「害悪……ねえ。一体どうして、死神は何処から目線で、誰の許しを得て
影が右手を上げた。周囲を舞う盾舜六花の一つが———椿鬼がクン、と霊骸の冬獅郎へ首を向け、ターゲットする。
「"人を喰らい、人を脅かす
「言いたいことはわかるんだけど、その例えはちょっと遠回りじゃない!?」
竜貴の理性がブレーキをかける間も無く飛び出たツッコミと同時に、椿鬼が鋭い霊子の翅を広げて霊骸の冬獅郎に向かって飛んだ。
「孤天斬盾」
結合を拒絶する斬撃が、霊骸の冬獅郎を両断せんとする。霊骸の乱菊が灰猫の灰を椿鬼の飛行ルートを遮る様に滞留させ、霊骸の冬獅郎は群鳥氷柱を放ち、椿鬼を破壊しようとした。
盾舜六花の弱点が、本体の耐久力の低さであると、霊骸の冬獅郎は知っている。だからこそ、椿鬼自身を狙い破壊してしまえば、井上織姫は本来の能力に備わった攻撃能力を失う。尤も———今の彼女は何処からか寄生した
「浅はか」
影がニヤリと笑う。群鳥氷柱が椿鬼に直撃すると思われた、その十数センチ手前で。
氷柱が弾け散った。
「「……は?」」
霊骸の冬獅郎と乱菊の声が重なる。何が起きた。何をした、奴は。
その疑問は、口にするよりも先に答えが示された。
「何驚いた顔してるわけ?身体以外の場所から
「……ッ、嘘だろ!?」
霊骸の冬獅郎は刮目する。盾舜六花が
曲線を描いて飛翔する椿鬼の突撃を、霊骸の乱菊は左右に跳躍して回避する。そこに、ウルキオラが飛び込んで斬りかかった。
霊骸の乱菊は灰猫の灰を集め、ウルキオラの剣を防ぐ。飛び散った灰がウルキオラの頬を掠め、薄く裂いた。ウルキオラは左手の人差し指を向け、
「クソ……壁抜き直撃は流石に難しいか!」
「そう簡単に当たってなるもんですかっての!」
灰猫の灰がウルキオラを横から突き飛ばす。それを横目で見つけた
「く……すまない、井上織姫の中の
「別に。貸し一つね」
「……お前と井上織姫とで、百貨店のシュークリーム三つずつ」
「よし来た」
「こ……んの……!」
霊骸の冬獅郎の剣を受け止めたウルキオラは、歯を食い縛りつつも
「叩き落としてくれる!!」
斬魄刀の刀身に
霊骸の冬獅郎は反転する。氷を纏った剣で受け止め、冷気の伝播でウルキオラの剣を
「しまっ……!」
「終わりだぜ」
霊骸の冬獅郎の口角が上がる。ウルキオラは距離を取るため後ろに跳ぼうとしたが、ぐん、と前に引っ張られる様な感覚と共に体幹のバランスを崩した。何だ、と足元を見ると、大紅蓮氷輪丸の尾を形作る氷が延びて、ウルキオラの足首を拘束している。
そして、霊骸の冬獅郎の一閃がウルキオラの胸を斜めに斬り裂いた。
「ウルキオラ!!!」
地上から、望実が悲鳴の様な声でウルキオラの名を叫ぶ。コンが飛び出して、落下するウルキオラを受け止めに駆けた。
「うおぉおおおおお!!唸れ俺の両脚!!」
アスファルトで皮膚と服が削れる恐れを投げ捨てて、コンは落下店目掛けてヘッドスライディングする。間に合いはしたものの、勢い余って飛び出すぎたのか、落ちて来たウルキオラは伸ばした両腕には収まらず、背中に激突した。
「ぐおぉ……腹の中身出るかと……って、んなこたぁどうでもいい!ウルキオラ!しっかりしろ!!」
コンは肩から上を捻って、背中の上で倒れているウルキオラを振り返る。苦しそうな声で呻くウルキオラは、斬り裂かれた胸の傷を左手で押さえて脂汗を流していた。
(チッ……消耗しすぎたか。治りが遅い)
じわじわと傷口は縮小しつつあるものの、超速再生と呼べる程の勢いが無い。それを上から盗み見た
「双天帰盾」
赤とオレンジの斑模様の膜がウルキオラを覆った。時間を巻き戻す様な形で、裂けた胸の傷が閉じていく。
それを許すまいとする者が当然いた。霊骸の冬獅郎だ。
「させるかよ!!」
氷の波が
「あら、よそ見なんて酷いじゃない」
血が舞った。痛みよりも先んじて、熱が視床でニューロンを乗り継いで、大脳皮質に飛び込む。影の目が横を向くと、右肩から先に灰がまとわりつき、骨が見えるまで深く斬り刻んでいた。どころか、肘の関節の軟骨まで破れているのが僅かに見えて影は不愉快に顔を顰める。
「織姫!!」
竜貴が叫ぶ。千鶴は悲鳴を上げ、顔を真っ青にして竜貴にしがみついた。
大きな舌打ちが
霊骸の乱菊は瞬歩で
氷柱が
「!?」
「こっち」
霊骸の冬獅郎の背後に現れた影が、手刀を構える。霊骸の冬獅郎は半身で振り返り、剣を振り上げた。
ガキンッ、と影の手刀と霊骸の冬獅郎の剣が激突する。それに、霊骸の冬獅郎の方が目を見開いた。
(何だ!?いくら
霊骸の冬獅郎は、霊骸の乱菊が裂いた右腕に目を向ける。傷口から覗く骨の先、破れた関節の軟骨の周り。
霊骸の冬獅郎はゾッとした。あれは、器子ではない。
織姫は、"人間"だ。
人間は器子で出来た肉体に魂魄を収めた生き物である。
織姫は今、"
虚は肉体も含めた存在の全てが霊子で出来た生き物だ。
霊骸の冬獅郎は考察する。肉体そのものは器子のままだとして、ならばあの不完全で歪な仮面は何で出来ている。当然、霊子だ。井上織姫の身体は今、
手刀が斬魄刀と打ち合っても無事なのは、
「……人に寄生するバケモノが……!」
霊骸の冬獅郎が吐き捨てる。繰り返さないでよ、と
「だーかーらー、
ウルキオラの治療を終えた二人が戻ってくる。六人が揃った盾舜六花は、霊骸の冬獅郎と乱菊をそれぞれ囲み、
霊骸の冬獅郎と乱菊は飛び交う
「「!?」」
霊骸の冬獅郎も乱菊も、二度目となれども目を疑った。その隙に、姿を消した
(やっぱり、そうだ!コイツ、今のもさっきのも、移動の瞬間霊圧感知から消えてやがる!どうなってんだ!?)
氷の壁が割れる。霊骸の冬獅郎は大股で一歩後ろに下がり、霊骸の乱菊が
「待たせたな」
「てめえ……!」
「何故動ける、といった顔だな。お前にとっては残念ながら、井上織姫のお陰で早々に戦線復帰出来た」
「この……死に損ないが!!」
霊骸の冬獅郎が、斬魄刀を鶴瓶が落ちる様な勢いで振り下ろす。ウルキオラは斬魄刀を横にしてそれを受け止めた。霊骸の乱菊が加勢しようとするが、
「一息に終わらせてやる!!」
霊骸の冬獅郎が斬魄刀を天に掲げる。それに呼応する様に、雲が空に集まってきた。
天相従臨か、とウルキオラは推察する。護廷十三隊の戦闘能力については、生き残っている範囲での十刃の同胞達から伺っていた。
日番谷冬獅郎の斬魄刀、氷輪丸の基本能力にして最も強大な能力、天相従臨。それが齎すのは、氷の華で対象を凍り付かせ、死に至らしめる雪を指定の範囲に降り注がせる。
「氷天百華葬!!!」
雪が、雲から滝の様に落ちてきた。部下ごと凍死させる気か、とウルキオラは霊骸の冬獅郎のなりふり構わなさを胸の内で詰る。
「んの……
「孤天斬盾」
ウルキオラが
「な……ッ」
「三天結盾。あたしは拒絶する」
「隊長!!」
「行かせるか」
霊骸の冬獅郎を助けに行こうとする霊骸の乱菊に、ウルキオラが撃ち損ねた
ウルキオラが呻く。霊骸の乱菊は追撃もせず、真っ直ぐに霊骸の冬獅郎の元へ駆けた。盾舜六花達の
「やれ」
「しまっ……!」
「な……松本!?」
バランスを崩し、霊骸の冬獅郎は剣を握ったままの左手を霊骸の乱菊に伸ばす。霊骸の乱菊はそれに手を伸ばし返すこともせず、安堵した様な笑みを浮かべた。
次の瞬間、孤天斬盾が霊骸の乱菊の胸から上を真っ二つに切断した。
目が乾くほどに、霊骸の冬獅郎は刮目する。
「て……めえぇええええええ!!!」
怒りの咆哮を上げ、霊骸の冬獅郎は限界まで凝縮した冷気を刀身に纏い、
「!!」
「……?何だ……?」
踏み止まった、というよりも踏み止まらされた霊骸の冬獅郎は、卍解を解くと乱暴な手つきで斬魄刀を鞘に収め、羽織の中に左手を突っ込む。出てきたのは伝令神機で、さっきの電子音は通話の着信を伝えるものだった。
「おい誰だ!こんな時に……邪魔すんじゃねえ!!」
『緊急だ、撤退しろ』
「はあ!?」
『山本元柳斎が瀞霊廷に戻ってくると情報が入った。また、断界からまたしても原種の死神が脱走した。すぐに対策を立てる必要がある。故に、有無を言わずに帰還しろ。
「……チッ」
霊骸の冬獅郎は舌打ちして、伝令神機の通話を切る。断面を凍らせた右腕を掴み、ウルキオラと影を睨んで、穿界門を開いた。
「……っ、待て!」
百歩欄干を全て抜いたウルキオラが待ったをかける。まだ決着はついていない。斬りかかろうと脚に力を込めた時、霊骸の冬獅郎はウルキオラと
「覚えておけ。てめえらは必ず俺が斬る」
霊骸の冬獅郎の虹彩が、電光の様に強く光る。
「次に相見える時が、てめえらの最期だ。それまで、精々首を洗って待ってろ……!!」
霊骸の冬獅郎は、扉を開けた穿界門へ飛び込んだ。待てって言ってるだろ、と追いかけたウルキオラをせせら笑う様に、穿界門はウルキオラの目の前で無情にも閉ざされ、姿を消す。
「クソ……ッ」
空振りした斬魄刀を納刀し、ウルキオラは霊子の足場を踏みつけた。
「……一応確認するけれど、あたしが必要な怪我とかはない?」
少し息を乱した
「よかった。そろそろあたしもこうやって、表に出ているのも流石に辛いもの。マイロードの腕だけ治して、さっさと引っ込ませて貰うね」
「えっ、あっ、おい!」
ふう、と影が息を吐くと、不完全に形成され左目を覆っていた仮面が、水に落ちた角砂糖の様に解けて崩れた。途端、
「う、うわぁあああああ!!!」
ウルキオラはただでさえ病的に白い顔を真っ青にして、大急ぎで落下していく織姫を追いかける。住宅の屋根の高さまで落ちたところで、どうにか織姫の腹回りに腕を回り込ませて、肩に担ぐ様な形で抱き留めた。
「せ……せ……セーーーッフ!!危ねえ!!」
「言葉使い乱れてんぞウルキオラ」
ゼーゼーと肩で息をするウルキオラは、ゆっくりと地上へ降りる。コンはそれを見届けて、やれやれを肩を竦めた。
「ふ……二人とも、大丈夫なの……?」
恐る恐る、といった様子で千鶴がウルキオラに訊ねる。ウルキオラは頷いて、竜貴に織姫を預けようとした。
「負傷は概ね、井上織姫の能力で治してる。消耗こそしているが、俺は帰れない程じゃないし、井上織姫は気を失っているだけだ」
「そっか……大事無いならいいんだけどさ」
ウルキオラから織姫を預けられた竜貴は、千鶴に手を貸して貰いながら織姫をおんぶする。ウルキオラは少し考えて、竜貴に呼びかけた。
「重ね重ね、散々な事に巻き込んだのは申し訳が無い。後日こちらから謝礼をさせて貰うが、その前に一つ頼まれて欲しい事がある」
「何?」
「井上織姫が目を覚ましてからでいい。明日の放課後、浦原商店に来てくれと伝えてくれ。浦原喜助を交えて、今回起きた
「ああ、そういうことね。わかった。伝えとくよ」
竜貴は眉を下げてぎこちなく笑う。ウルキオラは少し目線を下げ、罪悪感を顔に滲ませると、コンに千鶴を家まで送り届けるように依頼した。
「ウルキオラはどうすんだよ」
「俺は望実と一緒に、有沢竜貴と井上織姫を家まで送ってから帰る」
「えっ。いいよそんな、そこまでしなくても。別に望実を狙ってる、死神の人達の偽物は今追い返したんだしさ。あたしらだけでも帰れ———」
竜貴が遠慮して断ろうとした時だった。
ケダモノの様な荒々しい、ザラつく霊圧がウルキオラ達にのしかかったのは。
「———!!」
千鶴と望実が小さな悲鳴を上げる。何、と竜貴は周囲を忙しなく見渡した。コンは崩れ落ちかけた膝をどうにか支えて、青ざめた顔でウルキオラの腕を掴む。そしてウルキオラは。
「…………この、霊圧は……ッ」
孔の内側をヤスリで撫でた様な痛みと共に、光を失った友の死に顔が脳裏に過っていた。
ハリベル夢なのにハリベル全然出てこない章書いてたらアニメでバチイケバリタチ過ぎるハリベルが出てイマジナリーアメミトが「抱いて……」と撃沈するなどした。お前タチ諦めろ