元ゲヘナ風紀委員、オーネスト・ブルートゥ 作:悲しいなぁ@silvie
辺境惑星、ルビコン3…その荒廃した地表には
かつての開拓惑星の名残り…しかし、今やグリッドは武器商人やならず者達『ドーザー』の根城であった。
このグリッドもまた同じく、ドーザー達の根城の一つ。
強いて他と違う点を挙げるとすれば…けたたましく鳴る警報と口々にあがる人々の悲鳴だろうか。
「へへへ!惑星封鎖機構だかなんだか知らねぇが…此処が誰のシマか教えてやるよ!!」
ずんぐりとしたフォルムの黄色い機体、愛機マッドスタンプを駆りラミーが腕部のチェーンソーを起動させる。
対するは、マッドスタンプよりも…全長10メートルを超える
「ボス、見ててくださいよぉ…!
この『無敵』のラミーがデカいだけの鉄くずをスクラップにしてやりますんで!!」
『………コード23現着』
その声が、無骨な兵器から聞こえたと誰が信じるだろう。
舌足らずで幼さが残る声…感情も抑揚も感じられない声。
「大層なモン乗っといて、中身はガキかぁ!?
テメェなんかが俺とマッドスタンプに勝てるもんかよ!!」
機体越しに聞こえる声に、笑いながらラミーはチェーンソーを振り上げる。
他の仲間達が瞬く間に始末されたのが見えなかったのか?
それとも防衛設備がその機影を捉えられぬ程の超遠距離から正確に対空砲を撃ち抜いた事すらも知らないのか?
否、ラミーは全てを見て聞いて知っている…ただ、それでも自身の敗北をちらとでも考えない。
なぜなら彼こそが、このグリッド086に根を下ろすドーザー集団『RaD』の門番──
………まぁ、負ける気がない事と負けない事は同義ではなく。
ランカー最下位である彼がこの後どうなるかは…それこそ『火』を見るよりも明らかなのだが。
ラミーと正体不明機体との戦闘…と言って良いのかすら怪しい一方的な蹂躙劇を観ながら、長い赤毛を一纏めにした長身の女は豪快に笑う。
「ハッ!なんだいありゃあ…LC機体じゃなさそうだが、まさか惑星封鎖機構の新型か?
だとしたら光栄だね…私なんかの相手に本気も本気って訳だ」
長身の女…RaDの頭目、シンダー・カーラはラミーを一蹴し一直線に自分のもとへ突撃するその機体に彼女流の『歓迎』を叩き込むべく準備を始めるのだった。
『コード44、排除対象と思わしき機体を発見…情報との照会を要請します』
ラミーを鎧袖一触、蹴散らしたその数分後ようやく目当ての機体を発見しシステムへ上申する。
マッドスタンプよりも更に重厚で見るからに鈍重な機体、シンダー・カーラの愛機『フルコース』だ。
その肩部には夥しい量のミサイルが積まれ、ご丁寧に腕部にもハンドミサイルが搭載されている…如何にドーザーと言えどここまで振り切った
システムからの回答は、即刻排除せよ…予想に違わぬ指示に操縦桿を握り込む。
『おっと!ちょいと待ちなよビジター…実は映像越しにあんたの戦いぶりを観させてもらってね
あんたの実力は十分分かったつもりさ…降参するよこれ以上は割に合わないからね』
そう言って肩部と腕部の武器をパージする…声は確かに資料で確認したシンダー・カーラのもので間違いない。
だが、その性格は相手が格上だからとすぐに諦めるようなものでは無かった筈だ。
苛烈にして大胆、僅か半年でドーザー集団RaDのトップへ登りつめた女傑が果たして降参などするだろうか?
そう思い、手が止まる。
『なんだ…疑ってんのかい?
勘弁してくれよ、あんたと私の実力差が下手な小細工じゃ埋まらないことぐらい流石にわかるよ
だから…私の首一つで手を打ってくれって頼んでるのさ
あんた一人止められないようなグズ揃いだが…それでも一緒に居りゃあ愛着ぐらい湧くもんさ…
この『灰かぶり』のカーラの首で、他の奴らは見逃しちゃくれないかい?』
武器を全て捨て、その上で更にハッチを開けACから出てきたカーラは頭を下げてそう言ってきた。
『………元より標的は貴方一人、向こうからこない限り私から攻撃する事はありません』
『そりゃ良かった、ビジター…あんたが話のわかる奴で助かったよ』
そう言いながらカーラは懐から小さなケースを取り出す。
『ついでに、最期の一服もさせてくれるかい?』
ライターに煙草…
『まぁいいでしょう…誰であろうと、死者には敬意を払うべきです』
少女はモニター越しに煙草に火を点けるカーラを見る。
ACから降り、完全に無防備…そもAC自体も武装解除済みなのだから警戒には値しない。
一応、重厚な見た目そのままにかなりの質量を誇る以上単なる体当たりや四肢による殴打が考えられはするが…そんなものを脅威と見なす程に彼女は弱くない。
『ビジター、あんたえらく正直者じゃないか…
人生の先輩として、一つ教えといてやるよ』
煙草の煙を
『正直者は何時だって…馬鹿を見るのさ』
直後、背後からの凄まじい衝撃に少女の駆る機体がアラートを鳴らす。
機体が受ける弾丸や爆発を微細な角度調整により最小限の損傷に抑える、最新鋭の防御機構…
少女が混乱しながらも背後へ振り向くと、そこには大量のミサイルとガトリングを備えた奇妙な機体がずらりと並んでいた。
『トイボックス…!』
少女は一目でそれがRaDの無人MTであると気付けたのは、ひとえにその兵器の危険性にあった。
たかが無人MTと侮るなかれ、ころころとダンゴムシのように転がって接近し一度展開されればACもかくやと言わんばかりの高火力を瞬間的に発揮する。
まさに弾丸火薬のおもちゃ箱だ。
『へぇ?うちの製品を知ってるとはお目が高いね…惑星封鎖機構なんかに置いとくには惜しいぐらいだよ』
ACから降りた生身の彼女ならば、惑星封鎖機構が誇る最新機…この
『これは、ホログラム……っ!?』
『ビジター、そう言えば歓迎の
HC機体の腕が幽鬼のようにカーラを通り抜け、背後のACを叩く。
背後からのトイボックスの奇襲も、彼女を一切傷付けない確信があったからこそ行われたのだと少女は遅まきながらに理解した。
ACSによる姿勢制御ができない今、彼女には頭上から迫りくる巨大な爆弾を回避する術は無かった。
『上手いもんだろ?RaDの頭目の大細工はさ』
火のついた煙草を咥えながら、カーラは爆弾により吹き飛んだ区画を見ていた。
重要なものこそ置いてはいなかったが、区画丸々一つに加え自身のACも一緒に吹き飛ばした事を考えれば頭を抱えたくなる程のマイナスだ。
「さて…どうしてやろうかね」
カーラの視線の先には、ロープで縛られた金髪の少女が横たえられていた。
細い…というよりは欠食なのだろう、
身長がある分余計に、針金細工のようだなと思った程だ。
「へっ!あの爆発に巻き込まれて無事たぁ…運のいいヤツだぜ!!」
カーラの横ではラミーが悪い笑みを浮かべながらそう喚く。
「………」
ACの脱出機能すら間に合わない程に瞬殺されておきながら、機体の爆発の際に運良くコックピットブロックが無傷で落下した男に運が良かったと言われては世話もない…カーラはそう心の中で言いながら、しかしラミーの見立てが間違いであると考えていた。
「いくら惑星封鎖機構の新型だって言っても、あれだけの爆発に耐えきれる訳ないさ…咄嗟にシールドを構えてたみたいだね」
つい、と視線を横に向ければ少女が乗っていた機体が置かれている…やけに損傷具合にばらつきのある機体が。
………というか、普通に一目でわかる事実だろうに目の前の運のいいヤツにはわからなかったようだ。
「それで…このガキをどうするつもりですか?ボス」
カーラのジトッとした視線に耐えきれなくなったのか、ラミーは早口に尋ねてくる。
「ハッ!決まってるじゃないか───」
カーラは心底楽しそうに笑うと、いまだ目覚ぬ少女の髪を撫でる。
「RaDは来るもの拒まずさ!」
その日、一人の少女の運命は間違いなく変容した。
だが、それが果たして好転したのか…それとも悪化したのかまでは誰にもわからない。
ただ、一つだけ言えるとすれば───少女は確かに、
これからの物語を語る上で、虚飾も辞さないと言うのならば…これはきっと『愛』の物語。
何も知らない少女が、正直者になる為に…愛を知る物語だ。
「………説明を要求します」
少女は何度目かになる質問をカーラに投げかける。
「なんだい?あんたのその
カーラはくつくつと笑いながら目の前の少女…ひらひらの赤いドレスにご丁寧に真っ白のヘッドドレスまで着けた少女に向き直る。
「なぜ私を殺さないのです…シンダー・カーラ!」
侵入者用の迎撃システムに、お飾りとはいえ
…………格好的にも笑えるというのは言わぬが花である。
「くだらないねぇ…殺すだのなんだのと軽々しく言っちまってさ
そんなんじゃ、ちっとも笑えないよ」
ふるふると屈辱に震える少女にも、カーラはどこ吹く風と頬杖までついて答える。
「笑えるだの笑えないだのと…!!
私は封鎖機構の執行上尉です!封鎖による平穏を護る義務と誇りがある…貴方達コーラル狂いの
少女はそう言うと首元に小振りなナイフを突き立て──
「ったく、朝メシ用のナイフでオイタしようなんて…元気なお嬢さんじゃないか」
刃先がその柔肌に触れる寸前、カーラが刃を握りしめ強引に止める。
少女が暴れる度に手のひらが切り裂かれ、じわりじわりと血がにじむも構わずにカーラは笑う。
「さて…そんな誇り高きお嬢さんに私から提案がある
今うちはどこかの誰かさんが派手に暴れてくれたお陰で火の車でね、タダ飯喰らいを置いとく余裕は無いのさ
働かざる者食うべからず…ってね」
ナイフを奪い盗ると、後ろに放り投げてカーラは少女の頬を掴み自分の方へ無理矢理に顔を向けさせる。
「あんたにはうちの防衛と…私の話し相手でもしてもらおうか
封鎖機構のお偉さんともなれば、多少の知識もあるんだろ?」
カーラの不敵な笑みに、少女は不快感を隠しもせずに顔を歪める。
「この私に、貴方達の味方になれ…と?」
「おや?気位の高いお嬢さんでもわかるように言ったつもりだったんだけど…伝わらなかったんなら言い直そうか
──負け犬は黙って言う事聞いてな」
刺すように鋭いその言葉に、少女は思わず言葉に詰まる。
自身よりも小柄で、自身よりも弱い筈のカーラに気圧される。
「ま、これからよろしく頼むよ…えーと………そう言えば、まだ名前も聞いてなかったか」
カーラはしまったと頭を掻き、少女に尋ねる。
「おいとかこらで呼ぶ訳にもいかないしね…あんた、名前は?」
「………強化人間C‐3 126です」
不服そうにそう告げる少女に、カーラははぁ…と大きくため息をつく。
「おいおい、私は名前を聞いたんだ…そりゃあんたの識別コードだろ?」
「…………?何が違うのです…私の識別コードは強化人間C‐3 126、それ以外にはありません」
少女は怪訝な顔をしながらも嘘などないと胸を張って答える。
その姿に、カーラは更に大きくため息をつくのだった。
「あのね、名前ってのを馬鹿にしちゃいけないよ
昔から『名は体を表す』って言ったもんさ…名前ってのにはそいつの成りたい願いを込める、なんてロマンチスト過ぎるか」
カーラは再びくつくつと笑いながら少女の頬を両手でぐにぐにと弄り回す。
「ラミーの奴は
だから、あんたもいつか自分で名付けな…あんたの成りたい名前をね
それまでは───あんたは、ただのブルートゥさ」
ぎゅっと顔を押し潰されながらも、少女はなんとか声を上げる。
唇を尖らせながら…眉をひそめて非難の声を挙げる。
「だ、誰が
訂正を求めます、シンダー・カーラ!ちょっと、聞いてるんですか!?」
手元でそう騒ぐ少女に、カーラは笑みを深める。
「くっくっ、こりゃ…面白くなりそうだね」
これは、カーラがRaDの頭目となったすぐ後の話。
とある『猟犬』と出会う3年程前の話だ。