僕のタツベイは世界一。それが証明されるだけの短い物語。※昔に投稿したやつを少し直して再投稿

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世界一のタツベイ

 とっくんとっくん!

 はしってとっくん!

 きょうもあしたもはしるおれは、せかいいちのタツベイだ!

 

「はぁ…はぁ…待ってよタツベーイ!」

 

 うしろからはしってくるこいつはおれのでしのにんげんだ!

 まったく、これだけでつかれるなんてなんじゃくなおとこだ!

 

「はぁ…速いよタツベイ……あ、ちょっとまってそっちは…」

 

 うるさい!

 きょうはこのかわべではしるんだ!

 おれのとっくんのじゃまをするな! …うわぁぁぁぁ!

 

 ジャポーン…

 

「そこ…少し川が広くなってるよ」

 

 そういうことははやくいえ!

 

「ほらタツベイ、引き上げるからつかまって」

 

 ぐぬぬ

 しかたないからたすけられてやる

 

「じゃあ引っ張るよ。せーの…うーーんっ!」

 

 …………うごかない

 

「はぁ…はぁ…もういっかい…」

 

 …………………やはりうごかない

 

「ぜぇ…ぜぇ…むりだ。タツベイ、助けて」

 

 なんじゃくなおとこだ!!!!!

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

「ミオ、おかえりなさい。もうごはんにするけど…まずはお風呂あるから入ってきなさい」

 

「はーい!」

 

 僕はタツベイとの散歩を終えて家に帰ってきた。

 ミオは僕の名前だ。

 いつも通り泥や土、果てはところどころ濡れている僕たちにお母さんは苦笑いしながら風呂場を指し示す。

 

「あ、その前にお薬飲んでね。そこに用意してあるから」

 

「うっ…はあい」

 

 言われた通りに机の上に置いてある薬を水を使って飲み干す。

 その間に足を吹き終えたタツベイがペタペタと風呂場に歩いていった。

 

「体調は? 苦しかったらすぐに言ってね」

 

「わかってるよ」

 

 もともと僕は身体が弱い。生まれた時からずっとずっと身体が小さくて、今も身長は同じ年齢の子と比べると小さいままだ。

 

 今年でちょうど10歳になる。もともと僕は、12歳くらいまでには歩くことも出来ないかもしれないと言われていたらしい。

 今はぜんぜん元気なのが不思議だとお医者さんも言っていた。

 

 2年前、側溝のすき間にハマっていたタツベイを拾って、毎日一緒に外を散歩している。たぶんそれのおかげだろう。

 

 

「ほらタツベイ。泡流すから暴れないの」

 

 目の前で泡まみれになっているタツベイにシャワーの水を浴びせてやると、気持ちよさそうに目を細める。

 僕からすればやんちゃな弟が出来た気分だ。毎日この無邪気さに当てられたから元気になっていったのだと思う。

 

「はい、流し終えたよ。……タツベイ?」

 

 ……zzzzZZZZZZZ

 

「寝てる…」

 

 手のかかる弟だ。

 

 

 

 

 ハグハグハグハグッ!

 

 とっくんとっくん!

 たべるのだってとっくんとっくん!

 

 ハグハグハグッ!

 

「あぁタツベイ。口がべっちょりだ。ほら拭いてあげる」

 

 むぐぐぐぐ

 …もういいか?

 

「はい、いいよ」

 

 ハグハグハグッ!

 

「今日もタツベイは元気ねー」

 

「いいことじゃないか? ミオだって元気になったんだ」

 

「えへへ。弟ができたみたいだよ」

 

 なにを!

 でしふぜいがなまいきな!

 

「あぁほらタツベイ興奮しないで。鼻息もだけど食べかすが散らかってる」

 

 まったく、しっけいなことだ!

 

「ほら、僕のハンバーグ半分あげるから」

 

 いいのか!!!!?????

 

「…簡単に釣られたな」

 

「まあいつものことね」

 

 ハグハグハグハグッ

 ハグハグ……ウグッ!

 し、しぬ!!

 しんでしまう!

 

「ああほら喉に詰まっちゃった。そんなに急いで食べるから…ほらお水飲んで」

 

 ごくごくごくっ!

 はぁ!

 し、しぬかとおもった!

 

「ま、こういうところがタツベイだよね」

 

 なんかしつれいなことをいってるきがするぞ!!!

 

「はい、アイスもあげるよ」

 

 アイスッッ!!!!

 

 

 

 

 

「うわあ速いなあタツベイ」

 

 ドドドと音が鳴りそうな勢いでタツベイが駆け抜ける。

 今日は川沿いの少し広い道を散歩に来た。

 学校が休みの日だからか、僕たち以外にも色んな人と色んなポケモンがいる。

 

「…ん?」

 

 タツベイが走っていった先からドドドと音が聞こえそうな勢いでタツベイがこちらに戻ってきた。

 

「どうしたの?」

 

 ズボンのすそを引っ張りながらこっちだこっちだと先導するタツベイについていく。

 すると、16歳くらいの男の子とポケモンが待っているのが見えた。

 

「お、君がこのタツベイのトレーナーかい?」

 

「うん。僕のタツベイだよ」

 

 そう言うと、目の前の青年は満足そうにうなずく。そして、そばにいるポケモンが一歩前に出てきた。

 

「じゃあさ、せっかくトレーナーとポケモンがいるんだし…」

 

「…ポケモン勝負?」

 

「そう! 話が早いね」

 

 笑顔を見せてうなずく青年。その隣にいるポケモンは確か…

 

「マッスグマ…だよね?」

 

 この辺だと特に珍しくないポケモン、ジグザグマの進化系。野生で見かけることは少ないけど、ジグザグマはたくさんいるため進化したのだろう。

 

 相手は進化系、タツベイは一回も進化をしていない。それでも…

 

「うん、いいよ。頑張ろうかタツベイ」

 

 フンスッ!と勢いよく鼻息を鳴らすタツベイ。気合は十分みたいだ。

 

「よし、マッスグマ! たいあたり!」

 

「がんばれータツベイ」

 

 勢いよく突進してくるマッスグマを正面から受け止めるタツベイ。そのまま腕をマッスグマにたたきつける。

 

 あれは、ひっかくかな?

 ︎︎タツベイは特に指示を出さなくとも勝手に戦い始めるため、僕は応援しかすることが無い。

 

「マッスグマ!今後はかみつくだ!」

 

 至近距離から大きく口を開け、かみつこうとするマッスグマに、タツベイは口から薄紫色のエネルギーを吐き出す。

 

 あれはりゅうのいかり。タツベイが時々技を出しているところを見たことがある。

 

「なっ!」

 

 かみつこうとした口にダイレクトに技を叩き込まれたマッスグマは大きくひるんだ。

 そこにタツベイはもう一度ひっかくを頭にぶつけると、マッスグマはすぐに目を回し、戦闘不能になった。

 

「あぁ…マッスグマ…」

 

「おつかれさまータツベイ」

 

 ペタペタとタツベイが何か物欲しそうな顔で歩いてくる。あぁこれはあれだな。

 

「はい、おやつ」

 

 市販の手軽なおやつをタツベイに渡すと、嬉しそうにかじりついた。

 

「と、いうか!!!」

 

「ん? マッスグマもおやついる?」

 

「あぁ、ありがとう…じゃなくて!」

 

 意外とすなおに受け取ってくれた。

 

「君! タツベイにいま何も指示していなかったじゃないか! そんなのありかよ!」

 

 納得がいかない…というよりも理解できないものを見るような目で叫ぶ少年。

 

 うーん…

 

「そんなこと言われても、ずっとこんな感じだったし」

 

「えぇ…」

 

 今までポケモン勝負をしてこなかったわけじゃない。そしてそのたびにタツベイは自分で隙を見つけ、自分で技を選んで、自分で戦ってきた。

 

「まあ、僕のタツベイだしね」

 

「いや、何も理由になってないと思うけど」

 

 そう?

 理由なんてとっても単純。

 

「うんん。だって僕のタツベイは」

 

 腰に手を当て胸を張る。

 隣でタツベイも同じポーズをしているのが分かった。

 

「世界一の、タツベイだからね」

 

 フンスッ! と、隣で大きな鼻息が聞こえてきた。

 

 

 

 

 きょうはすごくきぶんがいい!

 あいつもおれのことをせかいいちといった!

 わかるでしをもっておれはしあわせだ!

 

「はい、タツベイ。軽く手当は終わったよ」

 

 よし!

 これでまたとっくんだ!

 

「あぁストップタツベイ」

 

 なんだ!

 

「今日はたくさん戦ったし、少し休もうよ」

 

 うむむ…

 たしかに、あのほそながいやつのあとにもたくさんしたな

 でっかいむし

 くろいいぬ

 あたまにはっぱをのせたやつ

 

 だけどまだまだおれはげんきだ!

 

「ほら、風がきもちいいよ。少し寝ころぼうか」

 

 うむむむむ

 …

 ……

 

 ゴロン

 

「あはは、ありがとう。うーんいい天気。それにしても、やっぱりタツベイは強いね」

 

 あたりまえだ!

 なんたっておれはせかいいちのタツベイだ!

 

「タツベイが進化したら、空が飛べるんだっけ?」

 

 あたりまえだ!

 おれはとっくんしてつよくなって

 

 いつかそらをとぶんだ!!

 

「ねえねえ、空を飛ぶってどのくらいまで行くのかなあ」

 

 ずっとずっとずっとたかいところまでとんでいくぞ!!!

 

「僕の家より高く飛ぶのかな?」

 

 あたりまえだ!

 

「うーん…あのビルより高く飛べるのかな?」

 

 うぐ…

 あ、あたりまえだ!

 

「ちょっと怖くなった?」

 

 なってない!

 にやにやするな!

 

「ここらへんだと一番高いもんね。ほら、あの鉄塔よりも高いんだもん」

 

 ふん!

 おれはきっときっと、あんなのよりもたかくとぶさ!

 ︎︎くものうえまで!

 ︎︎せかいいちたかいところまでとんでいくさ!

 

「楽しみだなあ。その時は背中に乗って一緒に飛ぼうね」

 

 しかたないな!

 でしのめんどうをみるのもししょうのやくめだ!

 

「あ、でもタツベイだとうっかり落ちそうかな」

 

 おい!

 しつれいなやつだな!!!!!

 

 

 

 

 

 半年ほどがたち、今日も僕は散歩に出ている。

 いつもと同じ川辺を歩いているが、最近変わったことがあった。

 それは…

 

「おー君のポケモン、珍しいね。少し見せてもらってもいいかな?」

 

「え? うーん。ねえねえ、君のこと見たいって、大丈夫だよね?」

 

 フンスッ!

 鼻息が返ってきた。

 

「うん、いいみたい」

 

「えぇ…まあ、じゃあ遠慮なく。…………おぉーこんなにエネルギッシュなコモルーは初めて見たよ。普通は全く行動的にならないはずなんだけどね」

 

「あはは! 確かにそうだよね。でもうちのコモルーはこうだから」

 

 タツベイが進化したことだ。

 別に僕が特別なことをしたわけじゃないが、彼が自分で戦って自分で進化した。

 そして、普通ならコモルーになると次の進化のためにエネルギーを体内で使うためじっとしていることが多い。

 

 でも、このコモルーは違う。

 今でも毎日散歩に行くし目の付くポケモンに勝負をしかける。

 今もずっと特訓の日々だ。

 それが気になるのだろうか、目の前の白衣を着た男性はずっとぶつぶつと考察をつぶやいている。

 

 そして、変わったことはもう一つある。

 

「んんっ…ゴホッゴホッ」

 

「普通よりもずっと強大なエネルギーを有している…? ………おっと、大丈夫かい? 体調が悪いのか?」

 

「あはは…いつものことなので大丈夫です」

 

 僕はあれから、体調が優れない日々が多くなった。

 一度だけ血を吐いてしまいすぐに父親に病院に連れていかれたこともあった。

 

 コモルーは特訓を繰り返し強くなったけど、僕はずっと弱いままだ

 なんなら昔よりも弱くなった。

 走っていくコモルーを追いかけていけなくなったから、あとから歩いて追いつくことばかり。

 

「ん?」

 

 ふと、コモルーが心配そうに見上げていることに気が付いた。

 

「僕を心配しているの? ふふっコモルーありがとう」

 

 そう言うとツンと顔をそらしてしまった。

 まったく。

 意地っ張りめ。

 

 

 

 

 

「コモルー、散歩行こうよ」

 

 …………

 

「ねえコモルー、行こうってば」

 

 …………行かない

 

「ほらそんなこと言ってないで」

 

 行かない!

 

「あぁもう、暴れないでよ」

 

 お前はもう、俺についてこれないだろ!

 

「大丈夫だって。最近、操作にも慣れたんだよ? コモルーが走っても追いつくさ」

 

 そんなわけない!

 

「ダメだミオ。質がいいものを選んだつもりだが…お前はいま、()()()なんだぞ」

 

「…はーい」

 

 あたりまえだ!

 

「じゃあ、テレビでも見てようか。今日は…そうだ! ポケモンリーグがやってたよね」

 

 ピッ

 

 

『さあ今日は1年に1度のポケモンバトルの頂点を決める大会! 今日の王者が正真正銘!!! 世界一となるのだ!!!!!』

 

ワアアァァァァァァァ…

 

「あ、ちょうどやってるやってる。ほらおいで。一緒に見よう」

 

 しかたないな!

 

 

 

 

『りゅうせいぐんが襲い掛かるゥ!!!』

 

「どうなるの…!?」

 

『ここで決着が着いたァ!!』

 

ワアアアァァァァァァァァァ…

 

『赤コーナー、残り1体まで追い詰められましたが、辛くも逃げ切りましたぁ!!』

 

「すごかったね! コモルー!」

 

 あれが世界一のポケモンバトル…!!

 

 一緒に決勝戦を見届けたコモルーに話しかける。

 いつもならきっと、答えてくれる。

 きっと、顔を見合わせて特訓だ! とでも言いたげな顔で外を指し示すはずだ。

 

 でも今日は

 ひたすら食い入るように、羨望や情景に焦がれたように魅入るコモルーの横顔だけが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンタイプ専門の施設?」

 

 ある日、いつしかに偶然会った白衣の男性とスーツを着た妙齢の男性が訪ねてきた。

 

「えぇ。我々はドラゴンタイプに焦点を絞り、研究、育成を専門として行い、また保護活動も並行して進めており、私はそちらの館長を務めております」

 

「そんなところが、うちに何の用ですか?」

 

 父親はそう口では言うものの、視線はすでに僕の横にいるコモルーに向いている。

 

「おたくのコモルーについてです。おそらくですが、非常に高い能力を有しているはずです。我々の施設の中には、バトルを専門としているチームもあり、1年に一度のポケモンリーグでも毎年高い記録を残しております」

 

 ……

 

「おたくのコモルーについてですが、よろしければぜひ、我々とともに最高のポケモンにさせていただければなと思い、訪問した次第です」

 

 ︎︎しばらく考え込んだ父親がこちらに向き直る。

 

「…ミオ」

 

「ん?」

 

「俺は判断が出来ん。コモルーが最も信頼していて、理解しているのはミオだ」

 

「うん。そうだね」

 

 もちろん当たり前だ。

 

「だから、俺じゃなくミオが決めてくれ。その言葉を、今は尊重したい」

 

 ………

 

「わかった」

 

 …………本音を言えば、いやだった。

 僕にとって、一番楽しかったのは、ただただ散歩していた日々だったから。

 

 でも、コモルーの顔を見たんだ。

 

 不安そうな顔と、もう一つ。

 あの日、一緒にポケモンリーグを見た時の顔をしていた。

 

 コモルーは、タツベイの時からずっとずっと、強さを求めていた。

 空を飛ぶのも夢見ていた。

 そしていつも言っていた。

 

 おれは、世界一のタツベイだ! って。

 

「館長さん、きっとコモルーは、世界一になります」

 

「あぁ…私もそう思っている」

 

「…一回、見せてもらってもいいですか?」

 

「む?」

 

 行かせてやるのが僕の役目。

 僕はいま、自分で歩くことも出来ない。きっとコモルーの足を引っ張るだけ。

 

 自分だけで戦える才能も、それだけで進化までしちゃう才能も、それを持つコモルー自身の願いも。

 全部叶うのがきっと、送り出すことだろう。

 

「一回、コモルーと一緒に見に行ってもいいですか?」

 

「あぁ! 構わないさ!」

 

 それでも、もう少し一緒にいたいかな。

 ね? コモルー。

 

 

 

 

 

 

 ズズゥゥゥン…

 

「オ、オノノクス………せ、戦闘不能」

 

「ま、うちのコモルーだし当然だよね」

 

 フンスッ!

 ︎︎当然だ!

 

「そんなわけあるか!!!! ︎︎コモルーは通常の中間進化形態の中でも、特に戦闘能力が優れているわけではない! ︎︎それなのに君のコモルーは、うちの施設でまだ調整中とは言えオノノクスを下したんだぞ!!!」

 

「それでも、当然ですよ」

 

「…はあ?」

 

 そいつの言う通りだ!

 なんたって俺は!

 

「それでもうちのコモルーは」

 

 

 世界一のコモルーだ!

「世界一のコモルーですからね」

 

 

「…は、はははっ。まったく、君たちの絆には敵わないな。それで、肝心の答えだがどうするんだい? 今日はこの施設を見学して周り、最後に軽くバトルをしてみたが」

 

「うーん…コモルー、おいで」

 

 生意気にも指図をするな。

 まあお前は動けないから俺が歩いてやる。 ︎︎トコトコ…

 

「……ねえ、館長さん。コモルーは本来なら蓄えたエネルギーですぐに進化しちゃうはずなのに、僕のコモルーがまだ進化していないのって、なんでだと思います?」

 

「…それは、私も不思議に思っていたところだ」

 

「あはは! そうですよね」

 

 ………

 

「でも僕は、なんとなくわかっているんですよね」

 

「なに?」

 

 ………

 

「ねえ、コモルー」

 

 ………なんだ?

 

「見てよ。この草原、すっごく広いよね」

 

 ︎︎大げさなほどに両手を広げてこいつが言う

 

 ………そうだな

 

「この岩山もさ、すっごく高いよね」

 

 ………あぁ

 

「…僕らがいたところは、色んな家があった。ビルや鉄塔もあった。…君が大空を飛ぶには、余計なものが多すぎたんだ」

 

 ………

 

「何よりも、僕がもう歩ける体じゃなかったよね」

 

 それは関係ないだろ!

 

「ううん。すっごくあるよ。ねえ、想像してみてよ」

 

 ………

 

「この草原、向こうの端から端まで飛べたら、どれだけ気持ちいいだろうね」

 

 ………

 

「この岩山より高く飛べたら、どんな風が吹いているかなあ」

 

 ………

 

「ここにはさ、もう…君を邪魔するものはない! ……ほら、飛ぼう!! きっときっと、気持ちいいよ!!!」

 

「ボーマンダ!!!!」

 

 

 

 そうお前が言った時。

 

 俺には、翼が生えていた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあね、ボーマンダ。大丈夫だって、お手紙もたくさん書くし、ポケモンリーグも半年後! その前にもう一回会いに来るよ」

 

 

 ミオが意識を失い倒れたと連絡が来たのは、そう言い別れた2週間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…うん? あれ、お母さん」

 

 病院のカーテンから漏れる光で目を覚ます。

 

「おはよう。どうしたの?」

 

「今日って、何日だっけ」

 

「……」

 

「…お母さん。今日って、本当ならボーマンダのところに行く日だったっけ」

 

「えぇ…そうよ」

 

 あはは、怒られるかな。

 

「ボーマンダ、怒ってるかなあ」

 

「きっと、許してくれるわ」

 

 だといいなあ。 

 ボーマンダと別れた2週間後に、倒れてしまった僕は急遽入院となった。

 直後に館長さんから見舞いの品とボーマンダの様子も聞かされた。

 ボーマンダには手紙も送ったけど、結局会いに行けていない。

 

 そして入院してから何ヶ月かすぎ、本当なら今日ボーマンダに一度会いに行く予定だった。

 ただ、また倒れてしまった。

 前に書いた手紙に、今日行くと書いてしまった。

 

 ボーマンダも待っていたかもしれない。

 たぶん、態度には出さないけど。

 

「ねえ、ポケモンリーグまであとどのくらいかな」

 

「…2か月、くらいかしらね」

 

 そうかあ。

 

「間に合うかなあ」

 

「ッ…」

 

 なんとなく、わかる。

 ポケモンリーグの日まで、生きていられるかわからない。

 ︎︎いや、むしろ間に合わない可能性の方が高いだろう。

 

「きっと、大丈夫だからね!」

 

「うん、ありがとう」

 

 気休めだ。

 今日、僕は随分と長く寝ていたと思う。多分、僕が眠っている間にお医者さんからその辺の話も聞いているだろう。

 

 惜しいな。

 ボーマンダならきっと、大活躍をしてくれるに違いない。

 見たかったのにな。

 

 いや、それよりも…

 

「………会いたいなぁ」

 

 

 

 

 おい!

 あいつはいつ来るんだ!

 

「どうどう、楽しみなのはわかりますが、ミオ君ならおそらく午後くらいに来るはずですよ」

 

 いや別に楽しみってわけじゃないけどよ!!!!

 来るならあいつだって寂しがってるから出迎えてやらねえとな!!!

 

「はいはい。……ん? お母さんから電話ですね。すこし失礼します」

 

 早くな!!!!

 

「はい…はい…えぇ………本当ですか…?」

 

 どうした!!!!

 

「ミオくんが、余命宣告…あと1か月…ですか?」

 

 !!!!!!!!

 

「あぁ待ってください!!! すみません!! ボーマンダがいま!」

 

 

 

「飛んでいきました!!」

 

 

 

 

 ガタッ

 ガタガタガタッ!!

 

「うん…? 風が吹いているのかな…?」

 

 窓が激しく音を立てる。

 間が悪いことにお母さんが近くにいない。

 

 幸いなことにカーテンは手の届く範囲だったため、出来る範囲で少しだけカーテンをめくる。

 そこには

 

「…ボーマンダ!!!」

 

 身体が動かなかったことがまるで嘘のよう。

 飛び起きて窓を開ける。

 

「うわッ! …そうか、空を飛んでるんだね」

 

 窓を開けた瞬間にカーテンが暴れるほどの風が吹き始める。

 ︎︎だけど不思議と、僕にはこの吹きすさぶ暴風が心地よかった。

 

「どうしたの…? ボーマンダ」

 

 ボーマンダは黙って背中を向けると、首だけこちらに振り向く。

 

「あ」

 

 とっくんだ

 

 そう聞こえた気がした。

 

「あはは。ねえ、僕が病人ってわかってる?」

 

 そんなことはどうでもいい

 いいから行くぞ

 

「…まったく、しょうがないな」

 

「はぁ…はぁ…待て! ミオくん!」

 

 後ろから慌てた先生がやってくる。さらにお父さんとお母さんもやってくるところが見えた。

 きっと止めるつもりだろうし、たぶん僕でも止める。

 

 でも

 

「先生! ごめん! お父さん、お母さん! ちょっと行ってくるね!」

 

「待て! どこに行く気だ!」

 

 先生の叫びが聞こえてくる。

 

 そりゃあもちろん

 

「ボーマンダと散歩!!! 行ってきます!!」

 

 そういって僕は、

 驚くほど軽い体で、ボーマンダの背中に飛び乗った。

 

 

 

 

「うわあー川がきれいだね」

 

 凄いだろ!

 

「なんで君がそこで威張ってるの?」

 

 フンスッ!

 

「あはは! ごめんって」

「ほら見て! 僕らがよく歩いてた川辺だよ!」

 

 俺はとっくに見えていた!

 

「懐かしいねえ…ゴホッゴホッ」

 

 !!!

 おい!!

 

「あはは…大丈夫大丈夫。ほら見て、近くの花畑。ここから見るとずいぶん小さいね」

 

 …

 ああ!

 俺たちは空を飛んでいるんだからな!

 

 おい見ろ!

 俺たちの家よりずっと高いんだぞ!

 

「わあ本当だ。僕たちの家があんなに下だ」

 

 ふふん!!!

 もうあの塔よりも高いところだ!!!

 

「……うん…本当だね。すっごく高いや」

 

 見ろ!

 もうすぐあのビルを超えるぞ!

 

「あはは……すごいすごい。ビルが近いよボーマンダ」

 

 超えた!!

 おい見ろ!!!

 俺たちはあのビルよりも上を飛んでいる!!!

 

「うん……すごいよ、ボーマンダ。……ねえ、もっと高くまで行けるかなあ?」

 

 ……あぁ!!!

 どこまでだって行けるさ!

 

「あはは、頼もしいな。じゃあさ、雲より高くいこうよ」

 

 簡単だ!

 ほら、もう雲が近いぞ!!!

 

「………うん」

 

 雲に入るぞ!!!

 

「………うん、ちゃんとつかまってるよ」

 

 雲を超えたぞ!

 ここが一番高いんだ!!!!

 

「わあぁ…すっごい奇麗だね」

 

 ああ!!

 凄いだろう!

 

「………」

 

 ………

 …おい!

 どうした!

 

「ねえ、ボーマンダ」

 

 ……なんだ?

 

「ポケモンリーグはさ、世界一のポケモンと、世界一のトレーナーを決める大会」

 

 ……そうだな

 

「勝ってね。ちゃんと、見てるから」

 

 当たり前だ!!!

 何をいまさら言っているんだ!!!

 

「あはは、そんな怒らないでよ」

 

 馬鹿なことを言うな!!!

 お前はいつもいつも言っていただろう!!!

 

「そうだね、君はいつもいつも言っていたよね」

 

 

 俺は!!

 君は

 

 世界一のボーマンダだ!!!!

 世界一のタツベイだってね

 

 

 

 

『渾身のドラゴンダイブが直撃ィ!!! ウィンディ! 果たして立っているのだろうか!!!』

 

 ガ…ガァ…

 ズズゥゥゥン………

 

『倒れました! ウィンディ戦闘不能!!! よってここに!!! 世界一となるポケモントレーナーとそして!!!!』

 

『世界一となるポケモン!!! ボーマンダが決まったァァァァ!!!!』

 ウオオオオオォォォォォォォ…!!

 

『それでは、優勝者インタビューと行きましょうか…あっと、ボーマンダ!!?? 急に天高く飛んでいきました!! ︎︎どこへ行くんだ!?』

 

 飛ぶ

 飛ぶ

 飛ぶ

 

 ずっとずっと高くまで

 

「あぁ、大丈夫です。少ししたら、帰ってきます」

『え!? まあそういうことでしたら…それでは、優勝の決め手をお聞きしたいのですが…』

「まあやはり、ボーマンダですね。ガブリアスやオノノクスも頑張ってくれましたが、やはりボーマンダが最も活躍しました」

『なるほどぉ…ところで、育成の秘訣やトレーナーとして意識したことはありますか?』

「いやあそれが、彼に関しては少々特殊でしてね」

『特殊…ですか』

 

 一心不乱に飛び続ける。

 気が付けば、雲より高い場所まで来た。

 

 ここが世界一高い場所。

 ︎︎ここが世界一近い場所。

 

 息を思い切り吸い込み、雄たけびをあげる。 

 

 

ウオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

 

『わぁ!! ボーマンダの咆哮ですね。もう姿は見えないのに、コロシアムが震えましたよ』

「まあ、彼ならそうなるでしょうね」

『絶大な信頼関係ですね。ところで、特殊…とはどういったことですか?』

「あぁ、あのボーマンダは正確に言えば私の手持ちではないですし、最終調整はこちらで行いましたが基本的には最初から完成されていました」

『なるほどお。手持ちではない、とはどういうことですか?』

「簡単に言えば、彼の主人は別にいます」

『ほお! その本当の主人とは、いったい誰なんですか!?』

「あぁ、彼はもうこの世にはいないんですよね」

『それはまた…ご冥福をお祈りいたします』

 

 草木が震える。

 世界で一番高いところからどこまでも届かせるために、叫び続ける。

 

 海の向こうで、鳥たちが一斉に羽ばたいた。

 街のすみっこで、猫たちが逃げ出した。

 土の下で、獣が目を覚ました。

 ︎︎地上では勇姿に目を輝かす子供に、空の果てにいる強大な力を持つ者も静かに警戒し始める。

 

 そんなものは些細なことだ。

 気に留めることもない。

 

 ただ一心不乱に届かせるためだけに叫び続ける。

 

 世界一高い、雲の上の上まで

 もっともっと高い場所まで。

 

 たった一つの事実を、届かせるために。

 

 おい

 見てるか?

 ︎︎勝手に逝った軟弱者め

 

 なったぞ

 俺は

 

「彼がいたからこそ、あのボーマンダはああなったのでしょうね」

『それはまた、その方にとっても誇らしいことでしょう』

「えぇ。彼はいつもこう言っていました」

『へえ、それはなんと?』

「そうですね。…君は」

 

 ________世界一のボーマンダだ。


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読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

禪院家の虎の子(作者:マコったな)(原作:呪術廻戦)

禪院家が求めてやまない術式、十種影法術。▼それを持つ者が現れず幾星霜。▼五条家は待望の寵児が現れ、調子づいている。▼このままではと思った矢先、かの式神と同性能の術式を持った虎の子が禪院家に爆誕する。▼やったね、これで御三家の面汚しは加茂家だけになったよ。


総合評価:493/評価:9/連載:1話/更新日時:2026年03月01日(日) 21:43 小説情報

カリスマチート転生者先輩 in 北宇治(作者:山田太郎)(原作:響け!ユーフォニアム)

カリスマチート転生者先輩を小笠原世代に生やして、早いうちに吹奏楽部を改革します。▼ガールズラブタグは超保険です。必須タグなので入れましたが、殆ど0です。そこを期待している方はすみません。▼テンポ優先のため、アニメで描かれた部分は必要な部分だけ書きます。未視聴の方はアニメを観ましょう。▼原作2年目で完結しました。3年目はあまり書けるパートがなさそうなので、思い…


総合評価:1404/評価:8.47/完結:8話/更新日時:2026年02月20日(金) 20:00 小説情報

雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~(作者:メンチカツ)(原作:呪術廻戦)

『呪術廻戦』を愛読していた男は、なせか『呪術廻戦』の世界に転生してしまった。しかも転生先は原作には存在しない家系───"雷神"鹿紫雲一を始祖に戴く呪術師の名門だった。▼五条悟に勝るとも劣らない才能を持つ主人公だが、待っていたのは名門特有の権力闘争と、原作の悲劇。▼「鹿紫雲の術式」と「原作知識」を武器に男は決意する。推しの死も、羂索の策謀も…


総合評価:1236/評価:7.89/連載:4話/更新日時:2026年03月08日(日) 19:00 小説情報

術式「百鬼夜行」(作者:Virus Miss)(原作:呪術廻戦)

「百鬼夜行」を術式にしたらこうなるかもと考えてそれをオリ主にぶち込みました。


総合評価:1107/評価:7.12/連載:27話/更新日時:2026年03月30日(月) 00:00 小説情報

ガラル地方のむしジムリーダーなんだけど余命一年でわろえない(作者:一般むしポケ好き)(原作:ポケットモンスター)

私はガラル地方のジムリーダー(マイナー)のモナル!▼幼馴染で相棒のフォレトスと田舎町の森を散策して居たら、黒ずくめのポケモンたちを目撃してしまう。▼戦いを止めるのに夢中になっていた私は背後から来ていたデスウィングに気が付かなかった…▼私は倒れ伏し目が覚めたら───▼寿命が縮んでいた!▼……いや、どーしようかね。これ


総合評価:1480/評価:8.72/連載:10話/更新日時:2026年03月29日(日) 20:00 小説情報


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