俺の青春が田舎へ流された。   作:龍造寺

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つかの間の日常編2話です。


つかの間の日常編ー50ー2話ー中間テストへ。

修正版ー2年生ー俺の青春は田舎に流された。⑪

 

 

2011・05・06・☁・07:30・稲羽市・八十神アパート・2ー1・静江の部屋・リビング。

 

ゴールデンウィークが終わり、次に来るのは中間テストだな。まあ、普段から勉強はそこそこやってるし、中間テスト前に制理と二人で勉強するのも悪くない。出勤前の叔母さんが、コーヒーを飲みながら言った。

 

「昨日は本当に付き合ってくれてありがとうね」

 

「いい気分転換になったよ」

 

「そう? それは良かったわ。浜名湖は私も好きな観光スポットの一つだから」

 

「次の祝日は海の日か……」

 

「海の日って……気が早いわよ」

 

そんな他愛もない会話をしながら、俺は学校の準備を、叔母さんは出勤の準備を進めた。

 

 

2011・05・06・☁・15:30・稲羽市・八十神高校・2ー2組。

 

やっと放課後だ……。ゴールデンウィーク明けの授業は一段と長く感じるな。向こうにいた頃から同じ気持ちだったけど、中間テストが近づいていると思うと余計に憂鬱になる。花村と鳴上が何か話していて、制理、里中、天城も一緒に盛り上がっている。

 

「なんで連休ってすぐ終わるんだろうな……」

 

「でも平和で良かったじゃん。ジュネスでバイトしてるとおばちゃんたちの噂話が聞こえるけど、失踪とかそういう話は全然出てこないよ」

 

「そうだな。叔母さんからも聞いたけど、新聞社にも新しい情報は入ってきてないみたいだ」

 

「もしかして、天城の事件で終わり……とか?」

 

「花村、それはまだわからない。犯人が捕まったわけじゃないんだから」

 

「うーん……」

 

「鳴上の言う通りだろ。犯人が捕まっていない以上、楽観的には考えられない」

 

「八幡、そうだね……生徒会や職員会議でも、引き続き警戒を続けるみたいだし」

 

「雨が降ったら、また誰かがマヨナカテレビに映るのかな……」

 

「だな……犯人像とか、少しでも手がかりがあればいいんだけど」

 

俺たちは、雨が降ってマヨナカテレビに誰かが映らないと動けないという枷を抱えている。何か犯人に繋がる確実な手がかりがあればいいのだが、今のところはほとんどない。里中がジタバタしても仕方ないと言ったが、その通りだ。

 

「天気、そろそろ崩れるらしいけど……来週いっぱい持ってくれないかな」

 

「中間テスト中にマヨナカテレビが映ったら最悪だよね……」

 

「あー、言っちゃった……考えたくねえ……」

 

花村が顔をしかめる。考えないようにしても、テストは確実にやってくるからな。逃げられない。まあ、俺は普段からそこそこやってるから慌てる必要はないが、花村や里中はそうでもないらしい。

 

「はぁ……私も雪子や制理みたいに、天から二分与えられたいよ……」

 

「私と雪子は普段からコツコツ積み重ねてるだけよ……」

 

「ねえ花村、雪子に色々教えてもらったら?」

 

「ん? あー、そういや天城、学年トップクラスだもんな。個人レッスン、頼んじゃおうかな」

 

花村、お前のその言い方は完全にセクハラ案件だぞ。案の定、天城から平手打ちが飛んだ。天城んちが旅館やってることを少しは考えろよ。変な客も来るだろうし、そういうことには敏感になるはずだ。

 

「ギャグだと思ったなら、なおさら流せよ!」

 

「ごめん、手が勝手に……」

 

「今のは花村が悪いでしょう……雪子は何も悪くないわよ」

 

「吹寄……俺が悪いってこと!? 八幡、鳴上は違うよな?」

 

「個人レッスンとか言ったお前が悪い」

 

「俺も比企谷と同じ意見だな」

 

「薄情者っ! ってか、これ里中が勉強教えてもらえとか余計なこと振ったからじゃね?」

 

「な、なんであたしのせいになるのよ!? あんたが『個人レッスン』とか微妙な言い方するからでしょ!」

 

「なっ、十割俺かよ!?」

 

花村と里中がいつものように喧嘩を始めた。天城はため息をついて、俺たちに言った。

 

「あ、制理、比企谷君、鳴上君。私、そろそろ帰るね」

 

天城が先に帰っていくと、鳴上が俺たちを見て言った。

 

「放っておいていいのか?」

 

「うん、しばらく続くだろ。帰ろうぜ」

 

「そうだな。鳴上も気にすんな、いつものことだ」

 

「ああ、わかった」

 

俺たちは喧嘩を続ける二人を置いて、教室を後にした。

 

 

2011・05・06・☁・15:45・稲羽市・八十神高校・図書室。

 

俺と制理は中間テストの勉強をするために図書室に来ていた。鳴上も誘ったが、『二人の邪魔をしちゃ悪い』と空気を読んで先に帰ってしまった。

 

少し気を使わせてしまったなと思いながら、俺たちは教科書とノートを出して復習を始めた。事件がまだ解決していない今、遅くまで学校に残るのは危険だ。普段ならほとんど人がいない時間帯だが、中間テストが近いせいか、意外と多くの生徒が勉強している。

 

「いつもは少ないのに、テストが絡むと一気に増えるもんだな」

 

「まあね。1人でやるより図書室の方が集中できるし」

 

「1人だと、余計な誘惑が多いからな」

 

総武高校にいた頃は、1人で勉強して誘惑に負けて一夜漬けすらままならなかった。でも今は、恋人の制理と一緒に勉強できる。それだけでも以前とは全然違う。わからないところは制理に聞けるし、教えてもらえる。

 

「花村と千枝、あの慌てようからして全然勉強してないわね……」

 

「毎日コツコツやってれば、あんな風にならないだろうな」

 

「そうね。テストっていうのは、普段の積み重ねの集大成みたいなものだし」

 

「集大成か……」

 

制理の言うことはよくわかる。授業をしっかり聞いていれば、そこからテストは出る。花村みたいに授業中に寝ていたら、当然わからない。周りでみんながテスト勉強をしている中でも、今回の連続殺人事件の影は確かに残っている。不安が集中力を削ぐ可能性もある。俺たちは中間テストをしっかり乗り越えるために、今は勉強に集中することにした。

 

 

静江Side

 

2011・05・06・☁・16:00・稲羽市・稲羽商店街。

 

私は稲羽商店街の角にある『総菜大学』という惣菜屋の、店先の小さな手作りテーブルに座っていた。膝の上に小型のノートパソコンを広げ、キーボードを静かに叩いている。

 

タイトルは『春の訪れ』。

 

本来なら、もっと早くに載せるはずの記事だった。でも、山野真由美さんの事件が起きて、小西早紀さんがその遺体を第一発見者として殺され……さらに天城雪子さんの失踪と未遂事件が重なって、すっかり世間の空気が暗くなってしまった。

 

春の訪れなど、のんびりした話題を載せる雰囲気ではなくなったのだ。それでも、私はこの記事をお蔵入りするつもりはなかった。並行して取材を続け、こつこつと原稿をまとめていた。稲羽の春の訪れは、稲羽山から吹きつける冷たい風で知らされる。冬の間、稲羽は確かに寒い。雪も積もる。でも、あの独特の『冷たい風』が吹き始めるまでは、まだ本当の冬の延長線上にある。

 

その風が、頰を刺すように吹き始めたとき——それが、稲羽にとっての春の合図なのだ。

 

入学式、入社式、新しい出会い。桜の下での花見。少しだけ羽目を外したアルコール。淡いピンクの花びらが舞う中、人々が少しずつ笑顔を取り戻していく……。

 

私はそんな情景を、できるだけ温かく、優しい言葉で綴ろうとしていた。事件の影が濃い今だからこそ、こういう記事が必要だと思うから。キーボードを打つ指を少し休め、ため息をついた。

 

(本当に……いつになったら、この町は平穏を取り戻せるのかしら)

 

事件からまだ一ヶ月も経っていない。稲羽署の堂島刑事からも『まだ油断はできない』と釘を刺されている。

 

新聞社内でも、夜間の取材は極力控えるよう通達が出ていた。そんなことを考えながら原稿を進めていると、ふと視線を感じた。

 

「え……?」

 

惣菜屋の店先で、買い物袋を持った少年がこちらを見ていた。銀色の髪に、落ち着いた目。見覚えがある。あ……八幡が言っていた子だ。向こうも私に気づいたようで、少し驚いた顔をした後、丁寧に頭を下げてきた。

 

「すみません……あの、比企谷の叔母さんですよね?」

 

「ええ、そうよ。あなたは……堂島さんの甥っ子、鳴上君よね?」

 

「はい、鳴上悠です。よろしくお願いします」

 

彼は礼儀正しく挨拶をしてくれた。八幡から聞いていた通り、落ち着いていて大人びた印象の子だ。私はノートパソコンを少し閉じて、微笑んだ。

 

「ちょうど良かったわ。少し座らない? お茶でもどう?」

 

「あ、いいんですか?」

 

「ええ、ちょうど一息つきたかったところなの」

 

鳴上君は少し迷った後、向かいの椅子に腰を下ろした。私は店の人にお茶を2杯頼んで、軽く世間話を始めた。

 

「稲羽にはもう慣れた?」

 

「はい、だいぶ……最初は田舎のペースに戸惑いましたけど、今は落ち着きました」

 

「そう。八幡も、あなたや里中さんたちと仲良くしているみたいで安心しているわ。あの子、千葉にいた頃は本当に……あまり人と関わろうとしなかったから」

 

鳴上君は穏やかに微笑んだ。

 

「比企谷は、最初はちょっと尖ってましたけど、今は普通に話せます。頼りになるやつですよ」

 

「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

そこから、話は自然と稲羽のことに移った。私は事件のことを少しだけ触れた。

 

「山野さん、小西さんの事件……本当にショックだったわ。天城さんも、無事で良かった。本当に良かった……」

 

鳴上君の表情がわずかに引き締まった。

 

「はい……まだ犯人が捕まっていないので、油断はできないと思っています」

 

「そうね……新聞社にも、警察からも『まだ気を緩めないで』と言われているわ。町全体に暗い影が落ちている感じがする。商店街の人たちも、夜は早く店じまいするようになったみたい」

 

暗い話題が続くと息が詰まるので、私は無理に明るい声を出した。

 

「でも、こういう時こそ、春の訪れみたいな明るい話題も大事よね。桜ももう少しで満開になるし、入学式や新しい出会いもたくさんあるはずよ」

 

鳴上君は素直に頷いてくれた。

 

「そうですね。菜々子も、春の風が気持ちいいって言ってました」

 

「菜々子ちゃん? ああ、堂島さんの娘さんね。元気?」

 

「はい、元気です。ジュネスが大好きで、よく話していますしCMの歌を歌ってますね」

 

「ふふ、良いわね。子供の笑顔が一番の癒しだもの」

 

私はお茶を一口飲んで、話題をさらに軽いものへシフトさせた。

 

「そういえば、最近稲羽山や高台の桜やが綺麗だって評判よ。あなたも行ってみた?」

 

「まだなんですけど、いずれは行ってみたいと思います」

 

「それはいいわね。八幡も連れてってあげて。普段あんな口を利いてるけど、花見くらいは素直に楽しむと思うわよ」

 

鳴上君は少し笑った。

 

「比企谷、花見でどんな顔するんでしょうね」

 

「来た頃なら『リア充爆発しろ』とか言って隅っこでぼーっとしてたんでしょうけどね。でも今は素直に花見も褒めるんじゃないかしら」

 

 

2人で小さく笑い合った。

 

その後も、私は事件の話は最小限に抑え、稲羽の季節の話、食べ物の話、最近のニュースなど、差し支えのない話題を中心に話した。

 

鳴上君も、こちらのペースに合わせて自然に応じてくれる。聡明で、聞き上手な子だと思った。

 

(八幡の言う通り……この子は本当に特別ね)

 

一通り話した後、私はノートパソコンを閉じた。

 

「そろそろ仕事に戻らないと。今日はありがとう、鳴上君。またどこかで会ったら気軽に声かけてね」

 

「はい、こちらこそありがとうございました。叔母さんも、お体に気をつけてください」

 

「ええ、ありがとう」

 

鳴上君は丁寧に頭を下げて、買い物袋を持って去っていった。私はその後ろ姿を見送りながら、再びノートパソコンを開いた。

 

春の訪れ——。

 

事件の影が濃い今だからこそ、私はこの記事に力を込めようと思った。少しでも、町の人たちの心に温かさを届けられたらいい。キーボードを叩く音が、商店街の賑わいの中に静かに溶けていった。

 




今回は昼投稿です。

もう一度、アンケートを取ります。鳴上悠のヒロインは誰がよろしいですか?

  • 1ー里中千枝
  • 2ー天城雪子
  • 3ー久慈川りせ
  • 4ー白鐘直斗
  • 5ー小沢結実
  • 6ー松永綾音
  • 7ー海老原あい
  • 8ー雪柳綾奈
  • 9ー麦野静江
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