双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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魔法少女リリカルなのはならフェイトちゃんが好き。
当時は若くあの手のキャラへの耐性が皆無だったので初投稿です。




86駅目 夢と魔法と

 

8月3日(水)

 

 

 今日も双葉の部屋は出入り禁止。

 その代わりか、声をかけるとすぐに顔を出すので、いつもよりやり取りはスムーズと言えた。朝食も佐倉さんのいる時間に出てきて食べたし。

 世話がなくていいはいいのだけど、変な感じだ。いつも通り部屋に入り浸れない。

 

 ただ自室にいるのもなんだか落ち着かない。扉を2枚隔てたら、音はほとんど聞こえてこないし、まるきり一人みたいじゃないか。

 何となくスマホに手を伸ばして、通知が光っているのに気づいた。

 

“明日、楽しみですね”

 

 芳澤さんからだ。

 そういえば、ディスティニーランドに行く約束をしていた。

 そう言えばなんて思うくらいには意識の優先順位の下の方に追いやっていた。約束をした頃は、まだ先の話だと思っていたのもある。楽しみだね、と返事を返すとすぐに既読がついた。

 

“気になっているショーや乗りたいアトラクションはありますか?”

 

 特別何かを見たいとか乗りたいとか、そういう拘りはない。というか、想像できない。行ったことないし。

 とはいえ、希望なしと伝えるのは楽しみにしている感がなさすぎるので、調べてみることにした。

 

 ディスティニーランドは夢の国。

 この国で一番のテーマパークと言って差し支えない。富士山が日本一の山だから行ってみる人がいるのと同様、一番のテーマパークには人が集まるものだ。要は、そこらの遊園地と同列に考えていい場所ではない。

 

 ネットには、いわゆる攻略サイトのようなものが転がっている。個人ブログの延長に見えるけれど、これがなかなか侮れない。

 季節キャンペーンやアトラクションの実際の混み具合、さけるべき行動までしっかりまとまっていて、プロディスティニーランド民の情報収集能力に感服する。

 多分、近所に住んでいて年パスで通っているんだと思う。そうでなきゃ富豪か、信者か。何にせよ、事前情報があるとないとでは大違いだ。ありがたい。

 

 どうも調べた感じ、夏は海の側の第二パークが人気のようで今回行く方はそちらほど厳しい争奪戦ではないらしい。

 そういうことなら、季節限定のショーを観てみたいと言ってもいいはずだ。

 

“いいですね! それ、私もまだ観たことがなくて、気になっていたんです”

 

 よし、正解を引いた。

 

“抽選なので当たるか分かりませんけど、申し込んでみますね”

 

 それから、集合場所や時間を決めて、やり取りを終えた。

 もう一つ二つ、攻略ガイドを見ておこうか。それに、服とか荷物とかも用意しておくべきだ。早めに集まる約束になったから、朝起きてすぐに出られるようにしておかないと。

 

 

 

 

8月4日(木)

 

 

「あっ、こっちです!」

 

 開園一時間前だというのに長蛇の列ができている。列の半ば、芳澤さんが大きく手を振った。

 一つまとめにされた赤髪が元気よく左右に揺れている。半袖のキャラクターもののTシャツにショートパンツ、動きやすそうな格好をしていた。

 

「ごめん、待たせた」

「いえ、私が来たのが早すぎました。

 楽しみでしたし、楽しませたいなんて思っていたら、2本も早い電車に乗ってしまって。あはは」

 

 相当楽しみにしていたらしい。昨日のメッセージの時点で、ワクワク感が伝わってきていた。

 

「こうして一葉くんと顔を合わせるのは、久しぶりな気がします」

「夏休み入ってから会ってなかったね」

「はい。なので、会えて嬉しいです」

 

 恥ずかしがる様子もなく、直球でそういうことを言えるのは流石だと思う。素直に自分も嬉しいと返すのが正解だろうけど、格好悪いことに気恥ずかしさが勝った。

 

「すごい人だね」

「そうですね。でも、今日は比較的空いている気がします」

 

 基準が分からない。空いているのか、これで。

 ゲート前は、見渡す限り人でごった返している。双葉を放り込んだらその後3日は溶けてそうな人の多さだ。ゲート前にいるしかないから混んでいるように見えるだけで、園内に散ったら違うのだろうか。

 

「なら、アトラクションも混まないかな?」

「だといいですね。

 あっ、アトラクションといえば、一つだけどうしても乗りたいなぁと思っているのがあって…」

 

 それを最優先で行動したほうがいいだろう。人気のアトラクションは待ち時間が2時間超えなんてことも珍しくないというし。

 

「確か、先にファストパスとか取るんだよね」

「はい。入ったら発券場所まで一直線でもいいですか? 早く着きましたし、今日の混み具合ならいけると思います」

「もちろん」

 

 逆にいけない日とかあるんだ。

 少し遅れて入園したらもうダメなのかもしれない。別世界だ。別世界に行くような体験を謳っているわけだけど。

 

 荷物検査を済ませて園内に入ると、すでに決定済みの目的地まで一気に歩いた。建物や庭は後からでも見られるし、そこまで興味があったわけでもないのでぐんぐん進んで、無事ファストパスを手に入れた。

 それでも早い時間は埋まっていたようで、恐ろしい争奪戦の片鱗を味わった気がする。

 

「もう結構人がいるんだね」

「併設のホテルに泊まっている人かもしれませんね」

 

 どの世界にもガチ勢はいるものだ。ついていけそうにない。

 

 

 

 耳の付いたカチューシャをつけている人をよく見かける。猫耳カチューシャなんて、秋葉原以外で目にすることがあるんだ。

 

「最近流行りみたいですね、耳付きカチューシャ」

「すごいバリエーションあるんだね」

 

 小さい頃にTVで見ていたテーマパークはこうじゃなかった気がする。芳澤さんの言うとおり、ここ最近の話なのだろう。

 

 テーマパークで可愛い格好をして自撮りをして遊ぶことを目的としている人たちには飛ぶように売れている。園内の各所にカチューシャ屋があるくらいだ。

 それに、あれをつけているとキャストさんが「可愛いですね」とか「〇〇好きなんですか」と声をかけてくれるようで、お高めの値段設定にはサービス代金も含まれているらしい。それを見て欲しがるお客さんもいるようだ。何というか…陽キャ専用アイテム感がすごい。

 

「欲しい?」

「気になりはしますけど、少し勿体ない気もします。私は家族へのお土産代に回そうと思います」

 

 なんとなくそう言うだろうなと思っていた。園内でしか付けられないし、そう頻繁に来るところでもない。

 買っているのは流行に乗るのが大好きな女子高生グループが中心だ。あと、家族連れ。もう少し大人数で来ていたらノリとテンションで買っていたかも。それか、一過性の流行じゃなくなって、テーマパークに来たら誰もが平然とつけるようになったら買うかも。

 

 

 

 テーマパーク内は歩くだけでも楽しい。

 ディスティニーランドのキャラクターについて詳しいわけじゃないけれど、そのキャラクターが住んでいる世界をそのまま再現したみたいな場所は、現実味がない景色のくせにどこか生活感のようなものがあって、見ていて飽きない。

 そこまで分からない側の人間でも楽しいと感じるくらいなのだから、好きな人にとっては正に夢の国に違いない。

 

 パーク内では時折、着ぐるみが登場するらしい。

 道に人集りができているなぁと思ってよく見ると、中心で着ぐるみがぴょこぴょこ跳ねているなんてこともよくある。

 

「向こうで記念撮影やってるみたい」

「撮りましょう! この子たち、最近仲間に加わったばかりなんですよ。もう会えるなんて」

 

 いつもよりテンションが高いように感じる。好きなキャラクターだったのだろうか。

 お馴染みのキャラクターの形に刈り込まれた植木の前で、2匹の着ぐるみが来園者たちとポーズを決めている。片方はリボンをつけているから、ガールフレンドか何かなのだろう。

 

「そうなんだ。あんまり見たことないわけだ」

「はい。こっちの子が…」

 

 キャラクターたちの背景を教えてもらっている間に待ち列が進んで、記念撮影をしてもらった。

 着ぐるみは、ややオーバーな動きだけで可愛らしさを表現している。脳内の仮想飯塚さんが何やら早口で褒めたたえているイメージが浮かんでしまって、思わず笑ってしまったので写真写りはとても良かった。何か悔しい。

 

 

 

 通行人たちが揃って上を見上げている。

 何だろうと視線の先を追うと、乗り物が乗客の叫び声を乗せたままレールを滑り降りていた。ちょうどよく見える場所のようで、家族か友人らしき人がスマホのカメラを構えていた。

 

「楽しそうですね。ああいうの、乗りたいですか?」

 

 芳澤さんは乗りたい派の様だ。目を輝かせている。

 改めて乗り物をみる。乗客たちは、いまだ悲鳴を上げ続けているし、けっこうなスピードに見える。

 

「楽しいのが一番ですから、苦手ならやめておきましょう」

「なんかごめん」

「いいんです」

 

 乗りたいと即答できなかった時点で、色々とお察しだった。

 

「私は高いところもジェットコースターも平気なんですけど、それは小さい頃からの慣れだと思います。

 それに、慣れていても本当は怖かったんだって気付いてしまうパターンもありますから」

「途中で乗れなくなるってこと?」

 

 あまり想像がつかない。直感的には、一度乗れたらずっと乗れる気がするけれど。

 

「はい。小さい頃って怖いものなしなところがあるでしょう?

 平均台の上で演技をするのが怖くなって辞めちゃう人っているんです。それまで上手に演技していても、ある日、魔法が解けたみたいに。友達がそうでした」

 

 芳澤さんは、まだ魔法にかけられたままということか。

 夢の国のお城がそびえる景色の中でなら、魔法なんて表現もしっくりくる。

 

「怖いもの見たさで乗ってみたい。乗ってみたら楽しいかもだし」

 

 こんな発言が出たのは、多分夢の国の空気にあてられて半分くらい魔法にかかっているからだ。

 はじめの一回は怖いけれど、ジェットコースターは大概そういうものだと知っている。よくよく見れば、落差はさほどなくてスピード感と遠心力で楽しませるタイプの乗り物の様だ。

 

「待ち時間は…3桁ですね。人気のアトラクションですから、今からだと時間がかかってしまいます」

「閉園間際に乗れたら乗ろう」

「はい。そうしましょう」

 

 

 まだ可愛げのある待ち時間のアトラクションに乗った後、芳澤さんがこちらの肩をつついた。

 

「そういえば、ショーの抽選に当たりましたよ。2回目の回なので、そろそろ移動しましょう」

「おお〜!」

 

 ここでは常にどこかしらでパレードやショーをやっている。

 イベントスケジュールが都心の時刻表みたいになっていて驚いた。のんびり撮影に応じているように見えた着ぐるみも、実はとんでもないスケジュールを熟しているのかもしれない。

 

 ショーは屋内でやるらしく、外の暑さから解放されて助かった。

 外でもアイスや冷やしパインの販売があったけれど、その程度では涼しいのは精々10分といったところだろう。

 

「生き返る…」

「ですね…」

 

 流石の芳澤さんでも、この暑さはこたえたらしい。体力があるのと暑さに強いのとはまた別の話だ。

 

 

 ショーは南国の島でお宝探しといった題材で面白かった。

 話自体は子ども向けに作ったのだろうけど、王道の展開はやっぱり安心する。演者も演出も気合が入っていて迫力があった。

 

「良かったですね。夏らしくて」

「衣装も夏仕様だったね。浮き輪つけてたし」

「はい。とても可愛いですよね」

 

 一緒に写真を撮ったキャラクターも登場して、動きづらそうな着ぐるみなのに、華麗なダンスを披露していた。芳澤さんのお気に入りなのかもしれない。

 冷房から一歩出るとギラギラの日差しに焼かれそうになる。ここから夕方までこの暑さの中で動き回るのは厳しい。

 

「この後は涼めるところ中心で回りましょうか」

「賛成。あと、お昼早めに行く?」

 

 気づいたらいい時間になっている。

 ネットでの前評判からして、お昼時のレストランは無謀な気がするから、早めを狙うなら今がチャンスだ。

 

「それなら、一緒に行きたいところがあるんです。この時間ならまだ空きがあるかもしれません」

「行ってみよう」

 

 

 芳澤さんの案内についていくと、テーマパークらしいレストランに辿り着いた。

 RPGに出てきそうな酒場みたいな感じだ。店内には川が流れていて、海賊船のような装飾が施されたボートに沢山の人が乗っている。

 

「あれって、アトラクション?」

「はい。席から見える造りになっています。ただレストランに入るよりも特別な感じがして好きなんです」

 

 よくできている。

 天地がひっくり返っても来ないだろうけど、たぶん双葉もこういう作り込みは好きだろうなと思って写真をいくつか撮った。

 

「あとで船にも乗りましょう。ほとんど待たなくて乗れますから」

「いいね。反対側からも見てみたいって思ってた」

 

 正直、これが一番ワクワクする施設かもしれない。…人気がないみたいだけど。

 いや、待ち時間がほとんどないのは一度に多くの人が乗れるからだと思う。こんなに面白そうなのだから、そうに違いない。あまり人の乗っていない海賊船は見なかったことにした。

 

 

 食事の後は船に乗るとばかり思っていたけれど、ファストパスの時間が迫ってきていたので、慌ててそちらに行った。

 入園前から乗ると決めていたわけだし、どう考えても人気のある方を優先するべきだ。…“相対的に”人気がある方を優先するべきだ。

 

「これが“かすみ”が乗りたかったアトラクション?」

「はい!」

 

 キャラクターの乗り物みたいだ。演出の一部なのだろう、ふんわりと甘い香りが漂っている。

 

「乗り物によってルートが変わるんです」

「それは混みそうだね」

 

 見た感じ、船と違って一度に大人数を捌けるタイプの乗り物ではないし、ルートが変わるなら何度も乗りたい人が出てくるのは容易に想像できる。

 ファストパスを取れたから良かったものの、それなしでは当然のように3桁の待ち時間が確定するようだった。

 動きの少ない待ち列は無視してさっさと乗り場まで向かう。特権階級の気分を味わった。

 

 

「全体的に全部可愛かった」

「よかったです。強引に連れてきちゃったので、楽しんでもらえるか少し心配していて」

 

 メルヘンな感じの世界を満喫した。

 視界に映るもの全てが丸っこくて可愛らしいし、360°見るところがあって目が足りない。これはリピーターが出るだろうなという乗り物だった。

 

 その後、船に乗ったけれど、人気の差を認めざるを得ないクオリティの差があった。コンセプトは良さそうなのに惜しいところだ。

 何が違うんだろう。ジャンルも見せ方も何もかも違うから比較するのも難しいけれど、うーん。

 その後も、休憩がてら似たように船に乗って移動する乗り物に乗ったけれど、そちらも空いていた。多分、飽きるんだと思う。動きがゆっくりだし。一周で全部見られるから、何回も乗りたいと思わないのだ。

 はじめて来た者としては楽しかったんだけどな。

 

 

 園内を歩いているうちに、土産物屋が建ち並んでいるエリアに差し掛かった。

 

「閉園間際はお店が混むので、先に見ませんか?」

「見る見る」

 

 外が暑すぎるので屋内なら何でもいい。なんて余計なことは言わずに店内へ。

 

 棚には、お菓子やぬいぐるみ、キーホルダーなど雑多な商品が並んでいる。どれもキラキラしているし、お値段も立派だ。さすがディスティニーランド。

 

 壁掛けの商品展示スペースには、たくさんのキャラクターグッズが並んでいた。

 単品で売られているものもあれば、ペアのもの、4つ並んで1セットのものも売られている。複数個のものはグループで来たときに買うものだろう。

 

 一緒に写真を撮ったキャラクターたちのキーホルダーも売られていた。しかも、ショーの時の衣装を着ているバージョンだ。

 いかにも期間限定な雰囲気の漂う商品に、つい手が伸びる。ここまで縁があるなら、もう買うべきな気がする。

 

「これ、記念にどう?」

「欲しいです!」

 

 ペアで売られていたキーホルダーとそれぞれの家族へのお土産を購入した。耳付きカチューシャより、他所でもつけていられるこっちの方が個人的にはいい感じだ。

 

 

 

 お店を出ると、道に線が引かれていた。

 

「パレードをやるみたいですね」

 

 なるほど。山車が通るから道を開けているのか。敷物を敷いて座っている人たちですでに待機列ができている。

 

「見たい?」

「それもいいですね」

「それも?」

「パレードの間は人がそっちに集まるので、アトラクションが空きます。悩みますね」

 

 乗れたら乗ろうと言ったジェットコースターに乗るチャンスということだ。もちろん、パレードが見たいと言えば賛成してくれるだろう。

 

「私はショーが見られたのでパレードは見ても見なくても、といった感じです」

 

 乗りたかったんだろうな、ジェットコースター。

 今回は初心者を案内する役割を芳澤さんは率先して買って出てくれた。楽しませようとしてくれていた。こちらに色々と合わせてくれたわけだ。もちろん、本人も楽しみながらだけど、任せきりで悪いなぁとも思っていた。

 

「あのジェットコースターに行ってみたい」

 

 ぱあっと笑顔になった。正解。

 

 処刑台に登るみたいな気持ちでいたけれど、意外と魔法の効果はあるもので、乗ってしまえばきちんと楽しめた。

 落ちるときに叫べば怖くなくなるというおまじないを書いてくれたブログの魔女に感謝した。

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

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