東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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大好きな歌()が投稿されたので、投稿です。
それはそれとして、今回のお供は
アマノジャクリバース 【魂音泉】
でした。


八日目 誰が為の願い

「ふむ、そもそもここはどこです?私の国ではないという事は確かでしょうが」

 

「あぁ!煩わしい。この窮屈な依り代は何ですか!」

 

「はぁ…さっさと脱ぎ棄てて、黄泉の国に戻らねば」

 

「ええっと、どこにいけば…おや?」

 

「へぇ、アナタもいるんですね」

 

「待っててくださいね。私の仇敵(旧友)

 


 

 

 異変解決者どもを退けた翌日。

 輝針城で、二人の人妖が立ち塞がっていた。

 

 お椀の舟に乗った小人――少名針妙丸。

 そしてその隣には、冷徹な視線を向ける楽園の巫女、博麗霊夢。

 

 かつての異変の主とその解決者。最悪のタッグだ。

 そんな私に向けて、針妙丸様が厳しい、けれどどこか私を気遣うような声をかけてくる。

 

「こら正邪や。そろそろ返してくれないかい?残りの小槌の魔力を」

 

 その言葉に、私は不敵な笑みを浮かべて返した。

 

「え?何を言っているんですか?これからですよ、本当の下克上は」

 

 針妙丸様は残念そうに首を振る。

 

「うーん、残念だけど……もう下克上は無理だよ。我々は闘いに敗れたんだ」

 

「そんな弱音を吐いて……大丈夫ですよ。これだけの反則的な魔力があれば、いつだって幻想郷中の妖怪を支配下に置けますよ」

 

 私は懐のアイテムの感触を確かめながら、さらに言葉を重ねる。まだいける。これだけの道具と魔力があれば、幻想郷をひっくり返すことなんて容易いはずだ。

 

 私は何度死んだって良い。一度でも、たった一回でも勝てれば、私の勝ちなのだ。

 

「いいんだいいんだ、もう。一緒に降伏しよう。幻想郷の妖怪達は敵対したりしない」

 

 針妙丸様は優しく諭すように、私に手を差し伸べてきた。

 降伏。妖怪たちとの仲良しこよし。そんなぬるい結末、私が受け入れるとでも思ったのか。

 

「お言葉ですが……」

 

 私は差し出された手を鼻で笑い、一気に表情を凶悪に歪ませて言い放った。

 

「――やなこった! 誰が降伏なんかするもんか!」

 

「ま、あんたならそう言うと思ったけどね」

 

 ()()()は苦笑混じりに、しかしその瞳に鋭い光を宿して針の剣を突きつけてきた。

 

「ならば、その魔力返して貰おうか!ちなみに反対するならば~、本気で捕らえるようにみんなに伝えておいたよ。命あっての物種じゃないかねぇ」

 

 背後では、博麗の巫女がお札と針を構えた。幻想郷中が私の敵。上等だ。強者が束になって私を殺しに来るというのなら、その全てを返り討ちにしてやるまでだ。今の私ならば、それが出来る。

 

「どんな奴に命を狙われようとも、こんな素晴らしい力返す理由が無いな」

 

 私は懐から『打ち出の小槌(レプリカ)』を引き抜き、二人をまとめて睨みつけた。

 

「我が名は正邪――生まれ持ってのアマノジャクだ!」

 

「はは、そこまで言うならしょうがない。霊夢…お願いするよ」

 

「はいはい。じゃあ、行くわよ。神籤『反則結界』」

 

 巫女の冷淡な宣告と同時に、彼女の周囲から七色のお札が、美しい円環を描いて一斉に放たれた。夜空を切り裂いて広がるその美しさに反して、弾幕の挙動は極めて凶悪極まりないものだった。

 

 放たれた札弾は、滞空する私たちの遥か外側――霊夢が瞬時に展開した、不可視の結界の壁に到達した瞬間、まるで見えない強固な障壁に遮られたかのようにピタリと静止する。さらに、間髪入れずに放たれた次の札弾が、先に空中へ停止した札に衝突してまた止まる。

 次から次へと放たれるお札が、外側から内側へとまるで緻密な石垣を築くようにどんどん「積もって」いく。それは退路を完全に塞ぎ、私をじわじわと中央へ圧殺するために縮まり続ける強固な城壁だった。

 

(チッ、相変わらず容赦のない密度だね……! だけど、これくらい!」

 

 私は殺到する超高密度の札弾に対し、あえて真っ直ぐに突っ込んだ。

 お札とお札の、わずか数センチの隙間。かすり傷一つが致命傷になりかねない死の格子を、身体を極限まで捻り、紙一重の隙間を潜り抜ける。まずは一列、続いて二列、三列――襲いかかる猛攻を、執念の身のこなしだけで何とか躱しきった。

 

 だが、気づけば、周囲は完全に宙に積み上がったお札の壁に囲まれ、私の飛行できる空間は元の数分の一にまで狭まっていた。

 完全に逃げ場のない檻。そこへ、巫女が勝ちを確信したように、私を寸分違わず追尾する光弾を容赦なく放ってきた。

 

 普通なら、ここで完全に詰みだ。動けばお札の壁に当たり、動かなければ迫り来る光弾に貫かれて墜落する。

 

 まぁ、普通ならば…だ。生憎、今の私は反則塗れ。

 

「使いどころはここだろ」

 

 私は懐から大きな『四尺マジックボム』を引っ張り出した。

 だが、こいつは点火してから爆発するまでに致命的な時間がかかる。そんなお行儀よく待っていられるほど、博麗の巫女の弾幕は甘かない。

 

 だから、私は迷わず爆弾の導線を奥歯で乱暴に噛み千切った。

 口の中に広がる、ひどく火薬臭くて苦い感触。そのまま火薬の芯へと強引に自身の魔力を流し込み、爆発のタイムラグを無理矢理に突き詰めて速める。

 

「特大のプレゼントだ、受け取りな!」

 

 導火線が火花を散らす前に、内部のエネルギーが限界まで膨れ上がって真っ赤に明滅し始めたボムを、私は全霊の力で霊夢の顔面めがけて投げつけた。

 

――ガァァァァァンッ!!

 

 空中で巻き起こる、凄まじい爆音と爆風。

 いくら幻想郷最強の巫女だろうと、至近距離から直撃コースで飛んできた爆弾を無視できるはずがない。巫女の冷徹な瞳が、一瞬だけ鋭く爆弾の軌道へと向けられた。彼女は御祓棒を翻し、迫るボムを迎撃せざるを得なくなる。

 

 巫女の意識が、完全に爆弾へと向いた。

 これこそが、私の狙い。彼女が爆風を遮るために視線と意識を逸らした、そのコンマ数秒の絶対的な死角。

 

「引っかかったな!」

 

 私は爆煙のカーテンに紛れながら、もう一つの懐の『反則』――赤黒いオーラを放つ『呪いのデコイ人形』を、すかさずその場に叩きつけるように設置した。

 人形が空中に固定された瞬間、周囲の空間がぐにゃりと歪み、ドクドクと不快な脈動を始め、巫女の五感を強引に引きずり回すための呪いを撒き散らし始める。

 

 煙の向こうで爆風を払いのけた巫女が、私を見失ったことに気づくより早く、この悪趣味な人形の呪縛が彼女の意識をガッチリと捕らえるはずだ。

 

「チッ!」

 

 巫女の舌打ちが響く。ビンゴだ。どうやら、私の思惑通りに事は進んでいるらしい。

 

「ついでにダメ出しだ。ひっくり返れ!!!」

 

 私の「何でもひっくり返す程度の能力」を使い、世界の上下左右、表と裏、そして彼女が知覚するすべての「方向」を、文字通り強引に反転させる。天が地に、地が天に。右へ避けようとすれば左へ身体が動き、前へ進もうとすれば後ろへ下がる。ただでさえデコイ人形で五感をデタラメに引きずり回されているところへ、感覚の反転だ。

 

「……っく!」

 

 空中で錐もみするように姿勢を崩す巫女。流石の博麗の巫女とて、この二重の反則に即座に適応できるはずがない。彼女が展開していたお札の城壁も、主の制御を失ってぐにゃりと歪み、ボロボロと自壊を始めた。

 

「あはははは! どうだ、世界が逆さまに見える気分は!」

 

 勝機は今、この瞬間をおいて他にない。

 私は手にした『打ち出の小槌(レプリカ)』に全魔力を注ぎ込んだ。レプリカとはいえ、引き出された莫大な魔力が赤黒い雷光となって周囲の空間をバチバチと引き裂く。さらに、まだ足りないとばかりに、今できるありったけの弾幕を生み出し、身動きの取れない巫女へ一斉に射出する。

 

「これで終わりだ、楽園の巫女ォ!私の下克上の、最初の生贄になれ!」

 

 結界を埋め尽くす、逆転と破壊の光弾。

 さらに私が構築した、彼女の退路を完全に断つ肉薄の弾幕の網。

 視覚も、聴覚も、平衡感覚すらも完璧に狂わされた今の巫女に、この全方位からの必殺の猛攻を躱す術など残されているはずがなかった。

 

 弾幕の嵐が、無防備に佇む彼女の身体を完全に飲み込み――。

 

 ――勝った。

 脳裏にその二文字が浮かんだ、まさにその刹那だった。

 

 

 

 

 

 

「『夢想天生』」

 

 私の攻撃がすり抜ける。

 

「はっ?」

 

 目の前の巫女は満身創痍になるはずだった。肉が裂け、服が弾け、あの忌々しい巫女が悲鳴を上げて墜落する――そんな、最高のカタルシスが訪れるはずだった。

 

 なのに、不発。いや、不発ですらない。

 私が手にした『打ち出の小槌(レプリカ)』も、退路を断つ弾幕の網も、彼女の身体をただ静かに『透過』していったのだ。まるで通り抜けるかのように、弾幕は彼女の肌を、衣服をすり抜ける。

 

「な、んで……直撃、しただろ……!?」

 

 わけがわからない。

 私の『ひっくり返す能力』は確かに発動している。デコイ人形の呪いだって、今もドクドクと空間を蝕み続けている。それなのに、彼女には上下左右の混乱も、五感の狂いも、一切通用していない。

 

 いや、通用していないんじゃない。届いていないんだ。

 

 弾幕の嵐の真ん中で、楽園の巫女はただ静かに佇んでいた。

 その身体は、まるで世界から解き放たれたかのようにうっすらと透き通っている。彼女を囲むように、言葉では表現できないほど神聖で、鮮やかな七色の光が、オーラのように揺らめいていた。

 

「無駄よ。今の私には、上下も、左右も、表も裏も関係ない」

 

 巫女の声が、鼓膜ではなく脳内に直接響く。

 そこには怒りも、勝ち誇ったような驕りもなかった。ただただ淡々と、そうあるのが世界の決まりだと言わんばかりの、圧倒的な絶対者の響き。

 

「あんたの反則も、呪いも、弾幕も、世界のあらゆる理不尽さえも、今の私には届かない」

 

 何者にも触れられず、一切の攻撃を受け付けない完全無敵の境地。

 あらゆるしがらみから、世界の理から、文字通り『宙に浮いた』博麗の巫女の究極奥義。

 

「ふ、ふざけるな……!そんな、文字通りの反則があって――」

 

 叫びながら、私は必死に能力を絞り出し、彼女の存在そのものをひっくり返そうとした。だが、能力を拒絶されるのではない。私の能力の対象となるべき現象すら、今の彼女には存在しない。触れることすら、叶わないのだ。

 

 巫女が、静かに御祓棒を掲げる。

 その瞬間、彼女の周囲から、世界の色彩を塗り替えるほどの眩い七色の光弾が溢れ出した。それはデコイ人形の呪縛を、空間の反転を、私の足掻きを、すべてを無慈悲に押し流していく。

 

「あ……」

 

 視界が、圧倒的な七色の光で埋め尽くされる。

 逃げ場など、最初から幻想郷のどこにも存在しなかったのだと思い知らされるような、容赦のない光の奔流。

 

(まぁいい。次だ、次。何回でも繰り返してやらぁ)

 

 勝つまでやれば、負けない。そう考えてた私は一瞬の苦しみを覚悟する。

 

 だが、それはいつまでたっても訪れない。

 私の鼻先数センチメートルという至近距離で、網膜を焼き尽くさんばかりの七色の光弾がピタリと動きを止まっていた。

 

 熱さも衝撃もない。ただ、存在そのものを消滅させかねない絶対的な「圧」だけが、私を完全に包囲している。死を覚悟し、奥歯を噛み締めたその刹那、降ってきたのはあまりにも場違いな、巫女の困惑に満ちた呟きだった。

 

「…嫌な予感がするわ。このまま貴女を倒したら、後戻り出来なくなる気がする」

 

「……あ?」

 

 私の口から漏れたのは、ひどく間抜けな疑問の声だった。

 目の前の巫女は、今や指先一つ動かすだけで、この私を跡形もなく消し去り、完全な勝利を手にできる。それなのに、なぜその引き金を引かない。

 

 巫女は夢想天生の七色の輝きを纏ったまま、自らの放った光弾を見つめ、それから苦痛を堪えるように小さく眉をひそめた。彼女は左手で自身の頭を軽く押さえ、信じられないものを見るような目を私に向けている。

 

「何よ、これ……。なんで私は、貴女を退治するのをこんなにも躊躇っている?」

 

 彼女自身、その言葉の意味が分かっていない様子だった。

 だが、そんなのは私にとってはどうでもいい事だ。

 

「……ふざけるな」

 

 私は、絞り出すような声を上げた。

 直撃を覚悟して固くなっていた身体から、拍子抜けしたように力が抜ける。それと同時に、内側から沸々と煮えくり返るような、凄まじい屈辱感と怒りが突き上げてきた。

 

「日寄ってんじゃねぇよ! 命乞いでもしてほしいのか? 残念だったな、私は死ぬことなんてこれっぽっちも怖かねぇんだよ!」

 

 そうだ。恐怖なんて、とっくに七日目の夜に置いてきた。

 魔法使いのスパークに呑まれ、メイドのナイフに微塵切りにされ、両手の指では足りないほどコンテニューしてきたんだ。どれだけ肉体を消し炭にされようが、私はなぜか、何事もなかったかのように被弾する直前の姿へと引き戻される。

 私には、無限の『やり直し』がある。ここでコイツの最大奥義にブチ抜かれてゲームオーバーになろうが、また数秒前の世界からニヤニヤ笑ってコンテニューしてやるだけだ。失うものなんて、何一つとしてないんだよ。

 

「霊夢……? どうしたんだい、とりあえず捕えないと!」

 

 お椀の上から、針妙丸が困惑した声を上げる。しかし、巫女の御祓棒を握る手はピクリとも動かない。

 私はその一瞬の躊躇を見逃さなかった。

 

(最強の巫女サマが、土壇場で特大のボロを出したんだ。このチャンス、乗らない手はねぇよなぁ!)

 

 いくら一切の干渉を受け付けない『夢想天生』といえど、術者である巫女の心が揺らげば、その絶対的な結界にだって一瞬の綻びが生じる。私の鼻先でピタリと止まっていた七色の光弾が、彼女の困惑に呼応するように、僅かに明滅してその圧倒的な「圧」を緩めた。

 

 正面から殴り合えば、無敵の術が解ける前にこちらが消し炭にされる。だが、相手の目的が「私を捕らえること」であり、なおかつ攻撃の手を止めているのなら、話は別だ。

 

 私はすかさず懐から『スキマの折り畳み傘』を引き抜き、力任せにバッと開いた。

 

「霊夢、危ないっ! 正邪が動くよ!」

 

 お椀の上から針妙丸の鋭い悲鳴が響く。霊夢に向かって突撃してくると思ったのだろう。

 だが、あいにく私は天邪鬼だ。敵が最大の隙を晒した時、プライドを捨てて全力でバックれることになんの躊躇いもあるはずがない。

 

「あばよ、お優しい巫女サマに元、我が主よ! 勝機を自分でドブに捨てたんだ、この勝負は私の勝ちだな!」

 

 ――バリィッ!!!

 

 空間を強引に引き裂く、境界の耳障りな音が夜空に炸裂する。

 巫女がハッと我に返り、慌てて御祓棒を振り直した時には、私の身体はすでに折り畳み傘が作り出した暗黒の裂け目へと滑り込んでいた。

 

「待ちなさい、正邪……!」

 

 背後から追撃の七色の光が放たれ、スキマの入り口を激しく灼いたが、境界を越えて空間を飛び越えた私にはもう届かない。

 反転し、歪んでいく視界の向こうで、悔しげに夜空を見つめる針妙丸と、未だに自らの手を信じられないといった様子で見つめたまま立ち尽くす巫女の姿が、急速に遠ざかり、闇の中に消えていく。

 

「ははっ、あはははははははッ!」

 

 八日目、終了。

 生き延びてしまった。だが、あの巫女の言葉の意味は何だ。

 私は苛立ちをぶつけるように夜風を切り裂き、いよいよ逃げ場を失いつつある幻想郷の空を、さらに高く、孤独に加速していった。

 

 

 

 

 


 

「おやおや、天逆毎(あまのざこ)がいるのですか」

 

「へぇ、転生体とは言え、ここまで力を取り戻しているとは」

 

「面白い」

 

「彼女のとこに行く前に、少し会ってみますか」

 

「それにしても、この国はとても綺麗ですね」




もう少しで弾幕アマノジャクも終わりですね。
この裏で何が起こっているか…勘の良い読者ならお気づきでしょう。

筆が乗って、徹夜で書いてしまった。
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