(けど、4組の視点なんてガチのマジで書ける気がしない…)
「永遠亭から出してくれ、ね。なんだお前、閉じこめられているのか?というか、何故、私の名前を知っている?」
八卦炉を抜き身の状態、いつでも打てる準備をしながら私はヨモツとやらに問いかける。
「本で読んだからですよ。ほら、稗田家…でしたっけ?その家が出している幻想郷縁起、その英雄伝という項目の
ヨモツはいたずらっぽく目を細めてそう言った。
私は呆れたようにため息をつき、八卦炉から手を離して頭をかく。
「英雄と言われると少々こっぱずかしいがな……まあ、悪い気はしない。まぁアンタが私の事を知っている理由は分かった。それで、本題だ。永遠亭に閉じ込められているってのはどういうことだ? 永琳のやつ、あんたをここに軟禁でもしてるのか?」
「軟禁……というより、隔離ですかね。どうやら、永琳にとって私は『病気』らしく、治療のため~などと難癖をつけられては、ここに留め置かれているんですよ。
抜け出そうにも、輝夜の『永遠』の魔法のせいでこの部屋から出ることすら敵いませんし、万一、抜け出せたとしても『迷いの竹林』を突破できずに迷っているところを見つかってしまい、手詰まりの状態でした」
「あぁ…わかったわかった。言いたいことは大体伝わったよ」
私は片手で頭をガシガシと掻きながら、彼女の言葉を遮った。
これ以上、身の上話だか苦労話だかを聞かされて同情でもしちまったら、私の損得勘定がブレちまう。何より、こいつの言うことが本当なら、相手はあの八意永琳と蓬莱山輝夜だ。幻想郷でも上位の部類に入る、知恵も力も弾幕も規格外の化け物二人を敵に回すことになる。
「すまんが、明らかにアンタを連れ出す利益と損害が釣り合っていないし、そもそも私はアンタにそんなことをする義理も義務もない」
腕を組み、はっきりと拒絶を突きつけてやる。これでヨモツからさらなる譲歩、強いては情報を聞き出せれば儲けモンなのだが。
「うーむ、そうですか…残念です」
だが、ヨモツは眉一つ動かさず、ただ困ったように小首を傾げただけだった。
「…案外簡単に諦めるんだな」
肩透かしを食らって、思わず眉をひそめる。もうちょっと食い下がってくるか、あるいは力ずくで脅してくるかと身構えていたからだ。
「長生きですからね。待つことには慣れ切ってるんです。魔理沙さんが無理ならば、他の誰かが私を連れ出してくれるのを待つだけです」
ヨモツはそう言って、実におっとりと微笑んだ。
焦る様子もなければ、懇願するような卑屈さもない。ただただ何かを待ち続けたであろうその様が不気味だった。
(…待つより掴みに行けばいいものを)
私にはヨモツの事を理解できない。今さっき会ったばかりだし、彼女の事を何も知らないからだ。彼を知り己を知れば百戦
…実際のところ、なにも今すぐこのヨモツを永遠亭から連れ出す必要なんてない。今、永琳たちは会議中のはず。だったら、その会議が終わるのを待ってから、正面切って「偽物の月の噂があるのだが、何か知っているのか?」と永琳に直接問い詰めた方が、よっぽど確実。多少の小言や、怪しい薬の実験台にされかけるリスクはあるにしても、永遠亭の化け物どもを丸ごと敵に回すよりは遥かにマシ。
私の思考を見透かすように、ヨモツはただ穏やかにこちらを見つめている。
その泰然とした態度が、妙に引っかかった。
(……こいつ、私が「何を」求めてここに来たのか、気づいている?)
「魔理沙さん」
思考の合間に声がかかる。
「永琳の会議が終わるのを待って、後から聞き出そう……などと考えているのなら、それはお勧めしませんよ」
「……へぇ」
「あの子に聞いてもはぐらされて終わりですよ。だって、そうでしょう?」
ヨモツは小首を傾げ、実になんでもないことのようにあちら側の手札を開示した。
「あの子たちが、『偽物の月』の噂を流した張本人なのですから。わざわざ教える事なんてしません」
「―――なるほどな。そんな気がしてたぜ」
となると、やはり知りたいのが”理由”
以前の永夜異変の際は、永琳が天文密葬法…だったか、ともかく何らかの方法で偽物の月を浮かべ、本物の月を隠した。
だが、今回は『わざわざ月は人工物だ』という都市伝説を流し、偽物の月を浮かべている。
そこに”理由”が潜んでいるはずだ。なぜなら、偽物の月を空に掲げるならば、以前の方法でよいのだから。わざわざ回りくどい「噂」を幻想郷に流布させる必要なんてどこにもない。
(……噂、都市伝説、そして現実に現れる『人工の月』……)
永遠亭の連中は月の都を破壊しようとしている?
いや、それはない…永琳たちは基本的に月の都に対する害意はないはず。
確か以前、住吉三神を用いたロケットで月に行った際、対峙した月人が『八意様の言っていたとおりね、増長した幼い妖怪が海に堕ちてくる』と言っていた…ような気がする。正直、かなり昔の事であまり覚えていないのだが。この記憶が正しければ、少なくとも私たちの事を伝えるぐらいの関係性は保っているというわけだ。
(…とすれば、逆か?月の都を守るため?誰から?)
目の前のヨモツを見る。にこやかな表情でしているだけで、何を考えているかは読めない。
(こいつのせいか?いや、ヨモツは永遠亭に閉じこめられる程度の力しかない。こいつではないはず…まず、あの月の都に被害を出せるほどのやつがそうそういるとは思えないしな)
どれだけ脳みそをこねくり回したところで、手元にあるピースが少なすぎる。考えても分からないことは、一旦棚上げにするのが私の性分だ。今は目の前にある、この情報源をどう扱うか、それだけに集中すべきだろう。
私が腕を組んだまま険しい顔で黙り込んでいると、ヨモツは退屈しのぎに私の風貌を上から下へと眺め、ふと思いついたように口を開いた。
「そういえば、魔理沙さん。貴女は本業の魔法使いの傍ら、随分と“泥棒稼業”にも熱を入れているのですね」
突拍子もない唐突なその発言に、私は思わず眉を跳ね上げた。
「……おいおい、人聞きが悪いな。私はただ、死ぬまで借りているだけだ。――で、それも本に書いてあったのか?」
「はい。稗田家の幻想郷縁起に。なかなか手厳しい事が記されていましたよ」
ヨモツは悪戯が成功した子供のように、くすくすと嬉しそうに笑う。
阿求のやつに、後でちょっと文句を言いに行ってやらないと気が済まないな。とはいえ、目の前のヨモツが私の弱み(?)を握ってどうするつもりなのか、警戒を強める。
「……そりゃどうも。だが、もし私のコレクションを狙っているなら、諦めてもらうぜ。どれもこれも、私の命の次に大事な研究資料だからな」
「まさか。私が欲しいのは自由だけ。むしろ、そちらの稼業に熱心な貴女だからこそ、喜んでいただけると思いまして」
そう言って、ヨモツは懐を探り、葡萄、桃、筍がレリーフとして彫らせた奇妙な石ころを私に見せた。
「私をここから出してくだされば、お礼に伊弉諾物質…と言っても分かりませんよね。うーん、龍珠…あー、この世界を構築した万能物質をいくつか分けて差し上げましょう。今の幻想郷はおろか、外の世界でも手に入らない、世界がまだ混ざり合う前の、純粋な混沌の欠片を」
「…よし、何処に行きたい。この霧雨魔理沙がどこにだって連れ出してやるぜ!」
私は陥落した。
困っている人が居たら、助けてやるってのが人情ってやつだしな!
「私、この幻想郷を見て回りたいんですよ。永遠亭に来る前にも少し回ったのですが、ある妖怪を追っていたため殆ど見て回れず……」
「ふーん。そいつは大変だったな。で、何処に行きたいんだ?」
「そうですね……おすすめの場所ってあります?」
「そうだな……活気がある場所は人間の里だし、酒が飲みたいなら夜雀の屋台を探したり、鯨呑亭で飲むのもいいだろう。静かに過ごしたいなら、冥界の白玉楼あたりか……まあ、あそこはあの世だがな」
「へぇ、あの世ですか……それはいいですね。是非とも行ってみたいです」
ヨモツは懐かしむようにふふ、と喉を鳴らした。あの世、という物騒な響きに怯むどころか、かえって深い愛着や心地よさを感じているかのような、独特の不気味さがある。
私は指を折りながらいくつか候補を挙げたが、ふと目の前のヨモツの顔を見つめて、言葉を付け足した。
「だが、今のお前は逃亡の身だ。どこに行くにも追っ手の様子を伺うためにも一日か、二日は身を隠す必要がある。それはわかるな」
「えぇ、確かに。とすれば、私たちはどこに行くべきですかね? 名案がある、というお顔ですが」
どこか楽しげに、ヨモツは首を傾げてこちらの出方を窺う。私はニィと不敵に口角を上げ、自慢げに胸を張ってみせた。
「私の家――魔法の森にある、霧雨魔法店なんてどうだ?」
私が親指で自分を指すと、ヨモツは少し意外そうにパチクリと瞬きをした。
「私の家なら、一年中怪しげな魔力と湿気が充満してて、普通の奴らは近づきもしない。そこでしばらく追手をやり過ごしながら、私にその『月』の話と、さっきの石ころについてじっくり講釈を垂れてもらう。――どうだ、悪くない提案だろ?」
「ふふ、なるほど。それは実に見事な隠れ家ですね……ちなみに、映画とかってありますか?」
「映画……ね」
唐突に飛び出した妙な単語に、私は一瞬言葉に詰まった。
映画…か。正直あまり詳しくないが、香霖が何本か持っていた覚えはある。確か、暗い部屋で白い幕に大きな光の影を映して、物語を動かすとかいう珍妙な代物だったはずだ。なぜ隔離されていたはずのヨモツがそんな言葉を知っているのか、一瞬疑問がよぎる。
だが、ここで見栄を張らないのが霧雨魔理沙だ。知らないからと突っぱねて、この特大の取引を逃すわけにはいかない。
「聞いたことはあるが、正直そこまで詳しくない。ただ、香霖――知り合いの古道具屋に聞いてみれば、何かしら融通してくれるか、機械の動かし方くらいはわかるかもしれない。多分、そんぐらいならすぐ調達できるぜ」
「それはありがたいですね。完璧…と言ってもいいかもしれません」
そう言うと、ヨモツは嬉しそうに目を細め、実におっとりと微笑んだ。どうやら私の家と、私が提示した条件がすっかりお気に召したらしい。
「さあ、そうと決まれば善は急げ、だ。いつあの永琳や輝夜がこの部屋に戻ってくるか分からないからな。……あっ、ついでに鈴仙も攫っておくか。目を覚ました後に、私たちの特徴や逃げた方向をチクられたら面倒だしな」
そう言って、私は鈴仙と戦った廊下まで戻り、床に転がって未だのびていた鈴仙をヨモツの細い腕へと担がせる。気絶した因幡の兎は、見た目以上に大人しくヨモツの肩に収まった。
私はそのまま愛用の箒に跨り、その木製の柄を両手でしっかりと握りしめた。私の魔法に呼応するように、箒の周囲に集まった魔力の粒子がバチバチと火花を散らし始める。
「よし。しっかり捕まっておけよ。舌を噛まないようにな!」
「ええ、よろしくお願いしますね」
ヨモツが鈴仙を抱えたまま、私の背後にそっと寄り添う。
背中に伝わる彼女の重みは、不思議なほど羽毛のように軽かった。
私はニィと不敵に口角を上げると、一気に魔力を込めて箒の加速性能を限界まで跳ね上げた。
次の瞬間、鼓膜を震わせる爆音とともに、私たちは永遠亭から飛び去った。
見上げた天には、分厚くどんよりとした曇り空が低く垂れ込めていた。いつもなら夜の訪れとともに瞬き始めるはずの星々は、重苦しい雲の層に完全に遮られ、ただの一つもその光を覗かせてはいない。
星も月もない暗い空の下、冷たい夜風だけが私たちの頬を容赦なく叩いていた。
輝夜達は、本物の満月を隠し、地上人が見る空に浮かぶ月を偽物の月とすり替え、そしてほんの少しだけ、欠けさせたのである。
これで、地上と月を行き来する事は不可能になった。
――『東方永夜抄』キャラ設定.txt