ようこそ櫛田桔梗から攻略する教室へ   作:葱塩柚胡椒

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細かく描写しなければならない強迫観念のようなものに襲われてましたが、感想欄にそこまでやらなくていいという意見がありましたので、これからはそのようにしていきたいと思います。
少しでも読みやすくなってれば嬉しいです。

※1~5話を修正してみました。


6.櫛田桔梗の恋

 週末に集まったカラオケによるクラス会は無事に終了し、それぞれが帰宅することになった。

 

「それじゃあ、お疲れ~!」

 

「超楽しかったぜ!また来週からよろしくぅ~!」

 

 カラオケに集まった面々と別れを告げて解散をする。

 

「桔梗ちゃん。それじゃあ、帰ろうか」

 

「うんっ!」

 

 二人で連れ添って日が落ちた道を歩いていく。

 

「でも、良かったの?私から誘っておいてなんだけど私の家からかなり遠いよね?」

 

「ランニングにもなるし全然大丈夫。極真空手は止めたけど鍛えることは好きだからーーそれにこんな夜道を美人な桔梗ちゃんを一人で帰すわけにもいかないでしょ」

 

「も、もうっ!そんな簡単に女の子に向かって美人とか言っちゃダメなんだからね!」

 

 顔を赤くしながら言い返してくる桔梗は、とても猫を被っているようには見えない。

 

「(クラスの男相手ならこんな反応はしないはずだ。つまり、今までの積み重ねで大分俺に心を開いているということ)」

 

 ニヤ付きそうになる口元を表情筋に力を入れて抑える。

 

「え~、俺は本音を口にしてるだけなのに。桔梗ちゃんは昔から可愛かったけど、最近は可愛いだけじゃなくて綺麗になってきたから、思わず口から出ちゃうんだよな~」

 

「も、もおー。やめてよ~。そんなことさらっと言えるの謳歌くんぐらいだよ?謳歌くんは分からないかもだけど、そんな簡単に口に出すことなんか普通はできないんだからね!」

 

「(当たり前だろ。何言ってんだコイツ)」

 

 こんなこと素面で言える奴がいるわけがないだろうが。

 

「(全てはハーレムを作るためのイケメンムーブ。こんなもん 【女受けする理想の男の肉体】による、最高峰の顔面が無かったらしようともせんかったわ。

 何が『やめてよ~』だよ。俺が言い続けるの確信してるから言ってるだけだろうに)」

 

 言わなくなったらそれこそ拗ねるか、元に戻すように何か言ってくるな絶対。

 

「(それこそ一番このイケメンムーブで得してるのあなたですよね?学校じゃあ余り人前で言わないようにって注意してきたのに、二人になったら今まで通りでいいって言ってたの忘れてないからな?)」

 

 言動だけ見れば実にあざとく可愛いものだ。

 しかし、その内心は『これからも私の承認欲求を満たすために(あが)め褒め称えろよ?あん?』である。

 原作を知らなければ間違いなく騙されてた。

 

「(ーーさて、そろそろ頃合いか)」

 

 ポケットに入れているスマホに手を伸ばしながら、この世界に転生して一世一代の勝負をかける。

 

「あーっと……桔梗ちゃん。何か悩み事とかある……?」

 

「え?どうしたの?もしかして、私そんな風に見えたかな?」

 

 俺に尋ねれて桔梗は首を傾げてた。

 

「いや、まあ、ちょっと気になることがあってね」

 

「気になることって?」

 

 そう言うと、ポケットに入れていたスマホを取り出して、画面をタップしたあとにその画面を桔梗にみせた。

 

 

 ◇◆♥️◆◇

 

 

 甘いマスクにスラッと高くて筋肉質なスタイル。

 そんな芸能人でも裸足で逃げ出す二枚櫛謳歌と、甘酸っぱい青春の一頁を作っているという、並みの女子では到底成し遂げられないことをしている。

 そんな極上の優越感に浸っていると、その謳歌から唐突に切り出されるお悩み相談。

 

「(あれ?何かあったっけ?謳歌の前だと女子のあれこれとか、必要最低限しか見せてなかったと思うんだけど……もしかして、あの女に私の悪口を言われているときのことを思い出してとか?)」

 

 カラオケをしている最中は親しげに話し掛けて来たにも拘わらず、裏で好き勝手に言っていることを知っていれば心配になるのも頷ける。

 そんな優しく頼れるイケメンな幼馴染みの心遣いに嬉しくなった。

 だが、ーーその感情も次のことで虚無の彼方に消え去った。

 

 

 

 

 

『女子も女子でキモ過ぎ。どんな顔して私と馴れ馴れしくしてんの……?』

 

 

 

 

「は……?」

 

 

 その画面に映っていたのはカラオケ店で思わず口に出した、私が暴言をぶち蒔ける姿。

 そんな誰にも見せられない姿を言い訳のしようもないほどに、しっかりと撮影されている動画が目の前で流れている。

 

『……いい加減にしてくれないかなぁ……?ホンッットに……ッ!』

 

「な……んで……こん、な…………?」

 

「カラオケに来た記念に撮っておこうと思ってさ。まさか俺としてもこんなときに出(くわ)すことになるとは思わなかったんだ。ごめん」

 

 申し訳なさそうにこちらに謝ってくる謳歌。その姿から本当に狙って盗撮したわけじゃないみたい。

 今回のクラス会は謳歌からしたら初めての経験。だから、カラオケに私と来た記念にするために動画を撮っていた。ただ、それだけ。

 

「ち、違……違うの…………そ、それは……ええっと…………」

 

 いつもならスラスラと出るはずの言葉が全然出てこない。反論する余地もない決定的な証拠がそこにある。

 他人だと言っても今の今まで一緒に居たのだからそんな言い訳は無意味。だから、私が取れる方法もあるわけもなかった。

 

「(あっ……終わった……)」

 

 隠していた自分を他の誰よりも見られたくない人に見られた。これ以上はないという男の子に恋心を抱いた……初恋だったのに、僅かに弛んだ警戒心のせいで全てが崩れ去った。

 

「ハハッ…………あぁ、やっちゃったぁ……」

 

 横の壁に手を掛けるが、足に力が入らずにそのまま(うずつ)る。たった一日のことで私の初恋は終わってしまった。

 

「(私を唯一満たしてくれる男の子。そんな私の理想像そのものの男の子が、こんなほんのちょっと油断したせいで絶対に届かないところまで離れちゃった)」

 

 いつもはSNSに書き込んで終わりなのに、あの空間には謳歌という狙い出した男子が目の前に居た。

 馴れ馴れしく謳歌に近付くあの女の所業に、いつも以上のストレスを抱えたことによるミス。それが致命的だった。

 

「(多分、謳歌は言い触らすことはないだろうけど、私を見る目は変わっちゃうだろうなぁ……謳歌には優しくて可愛い私しか見せてこなかったんだし)」

 

 性格が悪い子よりも良い子の方が良いに決まってる。それは私が証明してきたことだし、私自身もそう思ったからその側面を誰にも見せることはなかったんだから。

 これで彼の中では大切な幼馴染みから、性格が悪くて近付きたくない女に私は変わってしまっただろう。

 

「(もう最悪……無理だよ。性格が良くないなんて分かってるよ…………でも、それでも私を認めて欲しかった。

 だから、無理やり明るく振る舞って努力してきたのに…………こんなあっさり全部終わっちゃうんだ)」

 

 きっと今までのような眼差しを向けてくれることはもうない。軽蔑した嫌悪する女を見る目でこれからは見てくる。それが怖くてアスファルトの地面から視線を外すことができない。

 覚悟もできないまま崩れ落ちた私に向かって、謳歌は言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

「いや、まあ知ってたよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………………………えっ?」

 

 

 

 (うつむ)いていたからか、頭の上から投げ掛けられるその言葉に反応が遅れた。今、一体、何て言った……?

 

「桔梗ちゃん昔から目立ちたがりだったし、急に勉強やスポーツで一位取ること止めて異様に周りの奴らに親切になったから、『今度はクラスの人気投票で一位になることにしたんだ』みたいのは、さすがに分かるって」

 

「え……?嘘……」

 

「いやいや、昔はあんなにバチバチで一等賞取りに行ってたの知ってるんだから、さすがに分かるでしょ。桔梗ちゃんどっちかっていうと好戦的なのは見てれば分かるし、そこまで驚きはないよ」

 

 見抜かれていた……?でも、確かに誰よりも関係が長く多く続いている幼馴染みだから、絶対にあり得ないことじゃない。

 

「でも、ならどうして……?私の本性に気付いていたなら、あんなに優しくしてくれるわけが……」

 

 性格の悪い人間に近付きたいだなんて人間が居るわけがない。誰だって本音で話す素直な女の子の方が好きなはずだ。

 それこそ、裏で自分の悪口を言い触らされたりする可能性だって捨てきれないのだし、距離を空けたいと思うことは自然なことだ。

 

「いや、人間そんなもんだろ?心が綺麗な奴なんてほんの僅かしかいないって。

 恋人のときとは違って、結婚してからは雑になったりして言動が変わるってのも珍しい話じゃないらしいし、みんな特定の相手には格好付けたり可愛く見られたいもんだろ?」

 

 それはそうかもしれないけど理屈と感情は別の話。性格がキツイ女よりも、私の外面である穏やかで優しい女の子の方がモテるのは当たり前のことなんだから。

 ーーだけど、その表情はとても軽蔑だとかドン引きした顔には全然見えなくて。

 

「学校のギャルとか誰かの悪口とか日常会話だろうから、桔梗ちゃんもギャルだと思えば悪口ぐらいなんともないって。

 なんだったらルックスも可愛くて、スタイルも魅力的な桔梗ちゃんに言われる方が百億倍は良いんだから、そんなに気にしなくてもよくない?」

 

 それは肯定の言葉だった。私の醜くて汚い本性であり性根を受け止め、受け入れてくれた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺から言わせれば、桔梗ちゃんと二人っきりの秘密の会話ができるんだからお得と言うべきだな。

 『一番』になってドヤ顔してた桔梗ちゃんも可愛かったけど、ストレスで(すさ)んだ桔梗ちゃんもきっと可愛ぃーーん?」

 

 謳歌の言葉が止まる。その原因は謳歌のズボンの(すそ)を、親指と人差し指で摘まむようにして挟んだ私だ。

 

「どうしたの桔梗ちゃん?」

 

「も、もういいからっ……いや、あの、ホントに……可愛いとか簡単に連呼しないで…………こ、この女たらしの軟派男……ッ」

 

「いきなり毒を吐かれた!?ええ……別に女の子をたらし込んだことなんてないよ俺?」

 

「天然でも天然ムーブでもムカつく。ストーカーとかも出てる癖になんで不用意に人との距離を詰めるわけ?包丁で刺されないと理解できないの?

 はあ~~~~、信ッじらんない。まさか、こんなペラペラ女を褒める男にバレるなんて……」

 

 そう、最悪。最悪だ。

 人生で最初の恋がこんなことになるのも。こんな外見が良いだけで女を簡単に口説く男にバレることも最悪だ。

 

 ーーだから、この顔の熱さは全然関係がない。

 

 顔をさっきとは別で上げられなくなってるのも気のせい。心臓の鼓動が胸を触らなくても高鳴っているのも気のせい。

 全部が最悪で気のせいに決まってる。

 

「(え?え?何、これ……?私、知らない。今まで謳歌はイケメンで『学校一』カッコいい幼馴染みで、そんな謳歌の隣は私が相応しいってだけだったのに。もう、それだけじゃない……)」

 

 鏡で見なくても分かる。顔があっつい……息もいつもよりもずっと熱い。全身から湯気が出そうなくらいに熱い。頭も湯だっているような気さえしてくるほど。

 こんなの知らない。

 

「(どうしよう……顔見れない……。なんでか知らないけど……なんかメチャクチャ恥ずかしい)」

 

「桔梗ちゃん?どうしたの?どっか痛いとか?」

 

「う、うっさい……違うから……いいから少し黙ってて。あとこっち見ないで」

 

「いやいや、そんな手と膝を地面に付いた体勢の桔梗ちゃん放っておけないって。絵面がシュール過ぎない?」

 

 うるさい。うるさい。

 自分の今の体勢なんて気にしてられない。知らない感情が爆発して身体がバラバラになってしまいそう。こんなのどうすればいいの?

 

「ほら、取り敢えず立ってさ。歩きながらでもーー「ち、ちょっとストップ!」……ぐへっ!?」

 

 謳歌の顔があるだろう部分に手を押し付ける。ダメだ。見れない……っ。

 そして顔すら見ることができない時点でどうしようもない。

 下手に見てしまえばどうにかなっちゃう。ーーだから、私が次に取る行動は一つしかない。

 

「き、今日は、ここまででいいからっ!そ、それじゃあ、また学校で!」

 

「ええっ!?ちょっと!?……桔梗ちゃん!車とかに気を付けて!」

 

 顔を謳歌から伏せたまま見えないようにして、背後を振り向いて走り去る。もう無理だ。耐えられないっ。

 

 目がぐるぐると回りそうだけど謳歌に言われたように、車に気を付けながら全力疾走をした。

 全力疾走をしたことで息が上がり、汗が吹き出て足に乳酸が溜まって太腿がどんどん上がらなくなる。

 コンディションは最悪。汗だくで走り回るなんていつもの櫛田桔梗と全然違う。こんなの全然可愛くない。

 

 でも、その疲労感と共に自覚する。

 

 冷静になったことで、さっきまで身体の中を暴れまわっていた熱の正体を知った。

 

「(昨日から……ううん、ずっと前から謳歌のことは好きだったけど……こんな……こんな心が爆発するみたいなことなんて一度もなかった……)」

 

 昨日までの恋愛感情が勘違いだったわけじゃない。でも、熱の大きさと温度がまるで違う。

 ほんの僅かだとはいえ、今までの仮面を外したというのに、謳歌はさも当たり前のように私の切り替えに順応した。

 あの会話に不自然な点なんて一つもなく、あったのは何十年もあの態度で接していたかのような心地よさだけ。

 

「嘘じゃなかった……謳歌は否定しないで受け止めてくれた」

 

 東京の一等地にある100億円のタワマン優良物件男子から、それとはとても比べられない何かになって、二枚櫛謳歌という男の子は私の心の中に居座った。

 彼の顔を思い出すだけで顔が赤くなる。言葉が笑顔が胸を高鳴らせるーーそして、ここまで証拠が出てきてしまっているならもう認めるしかない。

 

「私……本気で謳歌のことが好きになったんだ」

 

 櫛田桔梗、14の春。私は身体が燃えるような本当の恋を知った。




◆オリ主◆
「(クククッ、よしよし順調順調。ここから少しずつ落として、まずは捨てるには惜しい男という立ち位置に居座ってやるぞ)」
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