転生したと自身の状況を青年が理解したのは早かった。だって身体が人間じゃなくてタコになっているのだから理解したくなくてもするしかない。
青年が周囲を見渡せば、青年と同じ生物であろう存在が数え切れないほど同じ空間をふよふよと浮かんでいる。その生物に青年は心当たりがあった。
身体を青白く発光させながら空中を漂うこの生物の名はヌ・ヤヤ。ヌ・エグドラの幼体であり、現在最新作であるモンスターハンターワイルズで初登場を果たした頭足類だ。個人的に好きなモンスターだったので、その存在は幼体成体問わずに青年の知識に入っていた。
そんな存在に転生出来たのは青年にとって喜ばしいことだった。ヌ・エグドラが生息地である『油湧き谷』の頂点捕食者ということもあり、生物としての実力が保証されているのも嬉しい。
しかしその喜びは探索に出かけた際に砕け散ることとなる。
……ここ、どこだ?
そう、青年が転生した場所はヌ・エグドラの生息地である『油湧き谷』ではなかったのだ。唯一の救いは奥地では溶岩などが流れていたり、上層に油泥があることから油湧き谷と環境は似ていることだろうか。
青年はヌ・エグドラが頂点捕食者として君臨出来ているのは油湧き谷の環境のお陰であると考えている。その理由としてヌ・エグドラが纏う油泥は自分で生み出したものではなく、外で採取したものだと推測しているからだ。
その油泥がなければヌ・エグドラは火を吹けるだけのタコになる。その火吹きも燃料の油がないので威力は著しく落ちるだろうし、何より油泥が無いとヌ・エグドラの特徴である全身炎上が出来ない。
なんてヌ・エグドラ油泥なければ弱体化する説を語ったが、油湧き谷と環境が似ているのでここではそんな心配をする必要はないだろう。なら次はどうやって成長するのかという問題が浮かび上がる。
正直言って青年はヌ・ヤヤのことを何にも知らない。作品にも初登場だからか、情報が全く無い。何を食べて、どういった経緯でヌ・エグドラに成長していくのかなんて何も分からない。本来なら備わっているであろう生物としての本能も青年の意識がログインしたからかログアウトしてしまった。
ならこれしかないと青年はふよふよと浮かぶ同胞達に視線を向けた。つまり、同じ生物なら彼らの行動を真似すればいい。
それから青年は同胞の行動を見て、ヌ・ヤヤの生態行動を勉強した。知りたかった食事方法も知ることができ、取り敢えず1人でも生きていけるようにはなった。
ヌ・ヤヤは隠れるつもりが一切ない体色をしているので、一纏めになって行動すると目立つ。そのため敵が寄ってくることが多い。なのにヌ・ヤヤ達は自由気ままに動くので、このまま共に行動しているといつか喰われると察した青年は生きたまま喰われて死ぬのだけは嫌なので知りたいことを知るなり早々に同胞達から距離を取った。
必然的に1人で生きることにはなったが、やることは変わらない。ほぼ1日中、食事のために油泥の中に身を潜め、成体に比べると遥かに細くて短い触腕で餌を探す。その過程で油泥を体内に取り込んだり、餌探し中に油泥がヌ・ヤヤの目立つ体色を外敵から隠す役割があると知った時は感心したものだ。
捕まえた蟹の幼体をむしゃむしゃ食べながら青年が何かに気付いたように空を見上げると、ちょうど青空を横切るようにリオレウスが飛んでいく。その姿を初めて見た時は看板モンスターの一角に会えたと感動したものだったが、奴の流れ弾ならぬ流れ火球で同胞が焼かれた瞬間を見てからは自身の命を脅かす警戒すべきモンスターになった。青年はジッとリオレウスの姿を注視し、リオレウスの視線が自身のいる場所に向いていないことを確認した後、再び食料探しに戻るのだった。
◆
青年がすくすくと成長し、ヌ・エグドラと呼ばれるまで成長した頃。今更だが転生特典が判明した。
青年の目の前に鎮座するのはWorld系統のキャンプ。起きたら背後に知らぬ間にあるのだから、青年は大層驚いた。なんなら触腕を切断されたヌ・エグドラみたいにのけぞった。
驚きそのままに壁の隙間に潜り込み、しばらく様子を見ていたがキャンプにハンターが来る様子は無く、好奇心が勝った青年は警戒しつつもキャンプに触腕をくぐらせ、中に置かれているアイテムBOXを漁った。
すると脳内に浮かび上がるのはゲーム画面風に表示されたアイテムBOXの中身。それが自分のプレイしていたデータのものだと知ったのは、装飾品集めが面倒くさくて妥協した装備セットを見た時だ。一つ二つなら偶然とも言えるが、流石に5つも同じならそれを偶然として片付けることは出来ない。
さしづめ俺の転生特典は今までプレイしてきたモンハンのアイテムと装備ってとこか。
見覚えのあるテンプレ装備などを見ながら青年はそう判断を下した。残念ながら装備は全部人間のものなのでヌ・エグドラになった青年では使えるのは剣類の武器やアイテムのみだが。そのことに青年は若干落胆しつつも触腕をアイテムボックスから引き抜き、転生特典であるこのキャンプをどう扱うべきかと頭を回す。
しかし見つめているうちに、何故かキャンプの入口が魅力的に見えて来た。そこでふと青年の脳内に蛸壺という言葉が過ぎる。
少し狭そうだが、入らないこともない。ものは試しだと青年はキャンプの中に身体を潜り込ませてみた。
……ええやん。
その日、青年の拠点が出来た。
◆
自分が安定して暮らせるように、大抵のモンスターは縄張りを持つ。それはヌ・エグドラである青年も例外ではなく、彼も自身で作り出した縄張りを持っている。
とはいえ青年の縄張り意識は非常に緩く、基本的にはのほほんと暮らしており、知らぬ間に別の大型モンスターに縄張りを奪われていたなんてザラだ。
青年としては縄張りなんている?という考えなので縄張りを奪われてもどうでも良いし、そんな考えなので他の大型モンスターの縄張りにも平気な顔をして入り込むのだが、入り込まれた縄張り主の大型モンスターからすると我が物顔で縄張りに入ってきては獲物を狩って食べるヌ・エグドラなんて食料を奪う敵でしかない。
だから襲って追い返そうとするのだが、タチが悪いのがヌ・エグドラが生物として普通に強い点だ。ヌ・エグドラの元になったタコという生物は全身が筋肉の塊といってもよく、見た目の割にとても力持ちだ。しかも軟体生物特有のうねうねと動く触腕に関節なんてものはなく、触腕が届く範囲ならば何処にでも伸ばせるため死角が無い。
そこに人間の意識が入っているため、戦い方次第ではそのまま封殺される。突進を素早い動きで躱されて飛び掛かられ、触腕による手数の暴力で首を絞められて意識をオトされたモンスターも少なくない。殺されていないのは単に青年のお腹が空いていなかっただけだ。ちなみに空腹ならそのまま首を捩じ切られて仕留められる。
そんな感じで順調にこの地帯の頂点になりつつある青年だが、その青年が相対することを選ばずに姿を隠す相手がいる。
その相手こそハンターだ。青年としては元同族とは戦いたくないという理由で隠れているだけなのだが、そんなことなんて知る由もないこの地帯に生息し、尚且つヌ・エグドラの実力を知る一部のモンスター達からは、あのヌ・エグドラが戦いもせずに戦闘を避ける存在として最大限の警戒をこの地に訪れるハンター達に向ける。そのせいで狩りをしている最中でも四方八方から見られているようで落ち着かないとハンター達はギルドに報告している。
ギルドもその原因を解明するために調査をしているのだが、肝心の原因が人の気配を察知するなり姿を隠すため進展はない。しかも隠れている場所が壁の中だし、タコの中身が人間なので彼らが帰るまでジッと待ち続ける忍耐力もある。最近は壁の中を掘って作った自分だけの空間に拠点を置いて生活しているので余計に見つからない。ギルドの研究員が拠点を作って本格的な調査をしていた時なんて自分の拠点内でアイテムBOXから取り出したこんがり肉などを食べつつ、適当に作った鍋などを使って彼らが帰るまで料理の練習をしている始末。
そのため絶対にハンター達とは出会わないと思われたが、ひょんなきっかけからタコはあっさりとハンターの前に姿を現した。
◆
「クソッ! なんだよあの甲殻、硬くて全然刃が通らねぇ‼︎」
ギルドが契約した救助アイルーの担架に乗せられた1人のハンターが最寄りのキャンプにまで運ばれ、担架から落とされるなり大量の回復薬をぶっかけられる。
なんとか回復したハンターは役目は果たしたとウインクをしてから走り去るアイルーを見送った後、我慢の限界が来たのか苛立ちのままに自身をキャンプ送りにしてくれたモンスターに対する愚痴を漏らす。
「ぴょおぉ……」
「……ん?」
するとハンターの愚痴に頷くような感じで、ハンターの背後から何かの声がした。
おかしい、ここにいるのは自分だけのはず。気配すら感じない背後にいるであろう存在に暑さから来るものとは別の意味で垂れた汗を感じつつ、ハンターが恐る恐る背後を振り返ると──。
そこにはタコがいた。
「っおぉおおぉお⁉︎」
まるで幽霊にでも出会ってしまったかのような悲鳴を漏らしながらも、ハンターはなんとか自身の武器である大剣を構えた。対してタコは口の前にある他の触腕よりも短い2本の触腕を人間が腕を組むかのように絡ませ合い、ハンターの先程の言葉にその気持ち、よく分かるぞとまるで共感でもしているようにしきりに頷いている。
実はこのタコ、目の前のハンターがキャンプ送りにされるまでの一部始終をしっかりと見ていた。相手はグラビモスで、奴の睡眠ガスでハンターの動きが鈍ったところで熱線……通称グラビームで焼かれてそのままキャンプ送りだ。
ハンターが黒焦げ状態のままで救助アイルーに運ばれて行き、あの状態で本当に大丈夫なのかと気になったタコが壁の隙間を通って様子を見に来たタイミングで復活したハンターのあのセリフ。初見の剣士が事前情報無しでグラビモスに挑めば大体が感じるであろうそれに共感を覚えたタコは「お気持ち、分かりますよ〜」と修羅の里の集会場にいそうな武具屋の店主のセリフを脳内で垂れ流しながら姿を現したのだ。
グラビモスの甲殻は確かに硬いが、斬れ味が悪くなければお腹周りなどはしっかりと刃が通る。そうして攻撃を続け、お腹の甲殻を破壊すれば後は楽勝だろう。とはいえ、目の前のハンターが求めているのはそんなことではないだろうとタコは瞬時に見抜いた。
現在のハンターはいきなり現れた不気味なタコに警戒心でいっぱいなのだが、タコはそんなことには気付かずにあなたが1番求めているのはこれだろう?と最近呼び出したら来ると知った転生特典マイキャンプからハンターが今必要としているとある装備一式を取り出した。
タコの触腕に包まれたそれらは、一時期ネットで話題になった水冷ヘビィとそれに適した装飾品がついた防具。どちらもしっかりと強化しているのでこれを使えばハンターなら誰でもグラビモス相手に気持ちよくなれるだろう。
命を賭けてモンスターと戦うこの世界のハンターが使ってしまえば戻ってこれなくなってしまいそうな悪魔の武具を差し出してくるタコにハンターは困惑顔だ。何故自分の知らないキャンプが瞬きをした隙に自分のキャンプの横に当たり前のように鎮座しているのかと疑問符が頭上に浮かんでいる。
困惑している様子のハンターの姿を見て説明がなければ流石のハンターでもわからないことを理解したタコは触腕に生える棘を器用に使って地面に絵を描き始めた。描いた絵はグラビモスとタコが取り出したであろう武具を使うハンターの絵。いまハンターが1番欲しいであろう急に現れたキャンプの説明にはノータッチである。
絵を見て更に困惑するハンターに、するべきことはしたと勝手に満足したタコは装備を置いたまま呼べても戻せないマイキャンプを回収して早々に立ち去っていく。
「……あのモンスターはなんだったんだ?」
うねうねとキャンプを持って去っていくタコを見送りながら、ハンターは呆然とした様子で呟く。しかしソロで活動するハンターに返事をするものはいなかった。
その後、罠はないことを確認してからタコが置いていった装備でグラビモスに再戦し、完封かつ5分もかからずに討伐出来てしまったことでハンターはドップリとヘビィにハマることに。しかし他のモンスター相手ではあまり上手くいかないため、1番気持ち良くなれるグラビモスだけを狩るようになってしまったことをタコは知らない。ちなみにタコはハンターが次にここへ訪れた際に武具の返却をしてもらうつもりではあるため、ハンターは確定でタコに襲われることが決定した。
「うぅ、お腹が空きました」
またある時、お腹を空かせた行商人の少女がいた。時間は深夜で、普通ならば寝る時間。しかしお腹が鳴るせいか未だに寝付けずにいた。
「でも寝る前に食べると太るって聞きましたし……」
「ぴゅぴょお〜」
「へっ? ……きゃぁぁぁぁあ‼︎」
そこへ突然タコが出現。岩壁の隙間からニュルっと現れたタコに理解が追い付いた少女は思わず悲鳴をあげる。
「ひっ、食べないでくださいぃぃ‼︎」
少女がいる場所はタコがいてもまだ余裕があるぐらい広い空間だが、ハンターが狩りの際にキャンプを設営する場所として選ぶだけあって出入り口は大型でもだいぶ無理をしないと入れない小さな一本道のみ。しかもエリアの隅っこにその入口があるので、モンスターは基本的に立ち寄らない。だから少女も安心してくつろいでおり、現在身を守るものはどれも少女の近くには無い。とはいえ完全に気を抜いているわけではなく、入口から何かが入ってきたら音が鳴るトラップや、いつでも逃げられるように荷物は少女の手が届く位置にはある。しかし流石に岩壁の隙間から大型モンスターが現れてすぐ真横に来るなんて考えられるわけがないのだ。
反射的に両手で頭を抱え、身を丸めながら屈み、この状況では何の意味もない防御の体勢を取る少女をタコは視界に入れつつも、呼び出したマイキャンプからテキパキと道具を取り出していく。
実を言うとこのタコ、最初は出ていくつもりなんてなかったのだ。しかし太るから食べるのを我慢なんて聞けば、黙っていられなかった。
深夜に食べるカロリー満点のご飯の美味さ……。教えてやろうじゃないか……!
「やだ!離して!食べないで‼︎」
そろりそろりとタコから距離を離そうとする少女を触腕で優しく捕まえ(タコ基準)、タコのすぐ近くにある小岩に座らせたところで準備は完了。
まずはインパクトを重視して少女の目を釘付けにしようと考えたタコは丸めた先端の触腕部分に自作の小さな鍋を置き、自身の能力を使って身体についた油泥に着火。瞬く間に油泥を纏っていない触腕を除いたタコの全身がメラメラと燃え上がる。その炎によってある程度鍋が温まったところでタコは油泥がついていない綺麗な触腕で置き去りにされていた荷物から見つけたバターを投入。
バターが溶け、鍋全体に広がったところで満を持して肉を投入。肉の焼ける音が周囲に響き、タコが少女の様子を確かめるとタコの予想通りに少女は目を見開いてタコの姿を凝視している。
まぁ誰でも大型モンスターがいきなり目の前で料理を始めたら驚くと思うが、馬鹿なタコは少女が肉に夢中になっているなどと勘違いしていた。
勘違いを正せる者なんてこの場にはいないのでそのまま状況は進み、頃合いを見てタコは自作の調味料を肉に振りかけていく。それによって周囲に食欲が刺激される良い香りが広がり、少女は無意識に喉を鳴らした。
そして頃合いを見てタコが自身の触腕の棘で肉を持ち上げ、焼き加減を確認した後、そのまま差し出すように少女の前に触腕を伸ばす。
「ひっ、……く、くれるんですか?」
自身に伸ばされた触腕に少女は可能な限り身を引いて怯えた声を出すが、触腕の先端に先程の肉が刺さっていることで恐る恐るタコに問いかける。それに対してタコは大きく頷いた。
タコから受け取った肉を眺め、少女はゴクリと喉を鳴らす。少女の頭の中では食べるか食べないかの葛藤があった。
食べたら確実に太る。しかし食べないで拒否した場合、タコが怒るかもしれない。そうやってしばらく肉とタコを交互に見ていたのだが、肉を持つ少女をジッと見ているタコの姿を見て少女の頭では第三の考えが浮かび上がった。
(このモンスター、私にご飯を沢山食べさせてから私を食べる気なんじゃ…?)
その考えに至った瞬間、少女はヒュッと息を吐いた。手に持つ美味そうな肉が今では自身の命のカウントダウンを進める毒物にすら見えた。
今すぐこれを放り捨てたい。しかしそれをすれば確実にタコに殺される。一瞬で殺されるならまだしも、あの触腕で捻られて身体を引き千切られると考えると身体の震えが止まらない。本気で抵抗したのにびくともしなかった触腕の感触を思い出し、なんとか護身用の道具があるバッグまで辿り着ければ、あるいは出口にまで逃げることが出来れば……なんて少女は考えるが、どっちもナチュラルにタコが通せんぼをしている。しかもタコ自身が炎上している今、ハンターのような耐火性が無い少女がタコを乗り越えてその先に進める可能性はゼロだ。
今死ぬか、後で死ぬか。そんな二択を突き付けられたと考えた少女は……僅かな生存の可能性を信じて後を取った。タコに悟られないように震える身体をなんとか押さえつけつつ、毒物のように見える肉に齧り付く。
だがここで我慢の限界が来たのか肉の旨みが口内で広がる一方で、両眼からは涙が溢れ始める。嗚咽を出しながらも肉を食べ続けるそんな少女を見てタコは──。
堕ちたな。直前まで我慢していても口に入ればこんなもんよ。深夜に食べる罪悪感は凄いが、慣れれば楽になるさ。
馬鹿なことを考えていた。このタコ、ファーストコンタクトがあまりにも上手くいったことで自信を持ったのか、人間だった頃と今の姿では同じ行動をしても相手側が同じ受け取りかたをしないことをすっかり忘れている。そのため誰が見ても少女が怯えているとわかるのに、料理を食えば仲良くなれるとか思ってるし、タコが原因で少女が悲壮な覚悟を決めているのに、この馬鹿タコはよっぽどお腹が空いていたんだな、出てきて良かった良かったなんて考えている。一生蛸壺に引きこもってろ。
そんな馬鹿タコはこれじゃあ足りないだろうと更なる食料を追加する。アイテムBOXから取り出したのは作り置きしていたシチューと最近仕留めたばかりのゼレドロン。シチューが入った大鍋は先程まで肉を焼いていた鍋と場所を入れ替えて温め直し、ゼレドロンは頭の部分を触腕で巻き付けて持ち上げ、少女がいない方向を向いて漏斗から火炎放射をして直接焼く。
しばらく放射をして、ゼレドロンの表皮が真っ黒になったところでタコが少女の方を見れば、少女は何故か虚な目をして放心していた。
パフォーマンス的な意味を込めて焼いたのだが、少しやりすぎたか?なんてタコは考えていたが、少女からすると自身の末路を目の前で見せつけられたのと同然であり、そんな反応になるのも仕方なかった。
そんなことを未だに理解しないタコは、ならこれはどうだとゼレドロンの下半身にも触腕を絡め、そのまま捻っていく。ゼレドロンの身体からはぶちぶちと肉が千切れる音が鳴り、やがて限界が来たのか胴体部分から真っ二つに引きちぎられた。
断面から現れるのは焦げて真っ黒になった皮とは違った、湯気を上げたぷりぷりとした肉。何度もこれを見てきたタコからしても美味いとわかる焼き加減だ。
ふふっ、あまりにも美味そうな見た目に声も出ないか。お腹も押さえているからよっぽど腹ペコなんだな。
口をぱくぱくと開き、何かを確かめるように胴体を触る少女の反応にタコは内心で満足そうに頷く。そして早く食えと言わんばかりにゼレドロンの下半身と温まったシチューを少女に差し出した。しかしゼレドロンの上半身は触腕を巻きつけていた影響なのか頭辺りの部位がタコ基準の合格点まで焼けていなかったので、その場でタコが食べて処分する。
「ひぃ⁉︎」
バリボリと音を鳴らし、骨ごとガッツリと食べるタコに少女は漏らしかけた悲鳴を慌てて飲み込んだ。そしてタコから誤魔化すように急いで差し出されたゼレドロンの肉を食べ始める。
その鬼気迫るようなガッツキはタコからしても好印象で、タコも負けじと料理を用意しては少女に差し出していく。
生きる時間を稼ぐために、少女も次々と出される料理に必死で食らいついていく。食事の手を緩めるとタコがそろそろ絞めどきか?などと言いたげに覗き込んでくるため、一切ペースを緩めることができない。
タコからすればそんな意図は全くないのだが、異種同士のコミュニケーションは難しいのである。
(まだ…、まだこの匂いで小型肉食モンスターが釣れれば私が生き残る可能性はある)
希望を捨てずに残された可能性を信じて少女はなんとか肉を呑み込む。しかし悲しいかな。このタコはこんな形でもこの地帯の頂点捕食者である。仮に肉食小型が美味しそうな匂いに釣られて顔を出しても、縄張りではない場所な上、最初に目に入るのが炎上中のタコなのでそそくさと顔を引っ込めて帰ってしまうのである。
そんなことを知らない少女は頑張った。頑張ったが食べ続ければやがて限界が来る。流石に食い過ぎによる吐き気がキツくなってきたので、少女はとうとうタコから差し出された料理を断った。
そうなるとタコは少女の姿を確認するように覗き込んでくる。
(……大声でこのモンスターを驚かせて、その隙にバッグまでたどり着ければまだチャンスはあります。一か八かの悪足掻きですが、このまま食べられるよりかはマシでしょう)
大人しく殺されるつもりはない。そう少女が覚悟を決め、行動に移ろうとした瞬間。タコは一つ頷くと、テキパキと道具を片付け始めた。
「……えっ?」
呆然とする少女には目も向けず、片付けを終えたタコはマイキャンプを持って撤収を開始。帰りは一つしかない出入口を利用して普通に帰っていった。
「本当に料理を食べさせに来ただけ……?」
少女が仕掛けた音の鳴るトラップの音が響く中、炎上するタコが帰ったことで周囲の温度が下がって涼しくなった空間で、少女はへたり込みながら思わずといった風に呟く。しかしその問いに答えてくれるものは誰もいなかった……。
後日談だが、少女は行商人を続けながらもハンターの兼業も始めた。最初はハンターに適した肉体ではなかったのだが、どっかのタコが怖い思いをさせたせいで少女は夜に爆食するようになり、それに伴い体重が増え始めた。
前のスタイルが密かに自慢だった少女はダイエット代わりに死ぬ気で鍛え始め、知らぬ間にハンターに適した肉体となっていたのだ。鍛錬は確かにキツかったが、あのタコの前で食べ続ける料理よりかは遥かにマシだったと少女は断言している。
そんな少女はハンターの才能があったらしく、メキメキと実力をつけていくこととなる。双剣を使い、舞うように狩りを行う姿は少女の可愛らしい見た目もあって男性ハンター達からは非常に好評を得ている。しかし何故かタコ系のモンスターを目にすると文字通り鬼神化するらしく、同行したハンターからはあの時だけはシーウーが可哀想に思えたとコメントを残している。
さて、こんな感じでタコが人間の前に姿を現し始めたので、当然報告を受けたギルドもタコの存在を認識している。しかし調査員の前にタコは姿を現さないので全く調査が進まない。タコは自分が共感出来ることを呟いたり叫んだりする者の前に現れるので、タコを調べに来た調査員は条件に合わないのだ。
そんなタコは今日も共感出来るハンターの前に姿を現す。お気持ち、分かりますよ〜などとほざきながら。
「何が空の王者よ! ただ空から降りてこないヘタレじゃないの! あんなのヘタレウスで十分よ!」
「まぁまぁ、旦那さん。落ち着いて。少しずつだけどダメージは稼いでるから大丈夫だよ!」
「…ふぅ、そうね。怒りすぎたら判断が鈍るって聞くし、丁度キャンプにも着いたことだし少し休憩しましょうか。そろそろお腹も空いてきたからついでに中で食事もしまきゃぁぁぁぁあ‼︎‼︎」
「どうしたの旦那さん⁉︎ ってふにゃぁぁぁぁ‼︎‼︎」
「ぴゅぴょぴょ〜」
壁の隙間から、地面の中から、そしてハンターのキャンプの中からも。いつでもタコは共感出来る人の前に現れるのだ!
タコ主……共感出来る話題だとニュッと出てきて腕組みしながら頷いた後、武具一式やスリンガーとかアイテムなどを置くだけ置いて帰っていく。タコ的にはグッドコミュニケーション。
戦えば大技として太い6本の触腕に大剣を装備し、高速で回転しながら迫ってくる。この技は技の元になったキャラを肖ってFatality…攻撃とタコ主は名付けている。
ギルドの調査員……複数件の報告があるのでタコの存在はわかっているけど肝心のタコが全然見つからないため本当にいるのか疑っている。ある意味不憫枠。
報告を真似して報告書に書いてあるモンスターの愚痴を言ってはいるが、心が篭っていないためタコ主からすると
「あー、困ったなぁ、誰か助けてくれないかなぁ」チラッチラッ
ってしているように見えているため出る気はない。
ヘビィにハマったハンターさん……いつかグラビモスを狩りにタコ主がいる狩場へ向かい、タコ主に装備を没収される未来がある。ひん剥かれて裸になりつつも用事が済んで立ち去ろうとするタコの触腕に縋り付き、昼ドラみたいなセリフを吐くかもしれない。
行商人少女ちゃん……「なんで少女が1人でこんな危険地帯にいるんだ普通はあり得ないだろ」って言いたくなるのはわかる。筆者だって無理あるくね?とは思った。でも書いてたんだ。決してイヤイヤする少女にタコの触腕が絡まるのって良くね?なんて思ったわけじゃない。ホントだよ?故に無罪だ(確信)。
改めて行商人少女ちゃん……タコが本当に料理を食べさせに来ただけというのは理解したし、後々思い返せば出された料理は全て美味しかった。でもシチュエーションは最悪だし、勘違い中にゼレドロンの引き千切りをしたことは許していない。
タコを狩猟するつもりは無いが、あの触腕を全て斬り落としてタコ焼きにしてタコの目の前で食べることを目標にハンターを頑張っている。
最後に出てきたハンターさんとオトモ……リオレウスのワールドツアーをくらって数分間待ちぼうけを受け、降りてきたらしびれ罠などで嵌めてやると準備して待機していたが、リオレウスは数分間空をグルグルと飛んだ後、降りて来ずエリアチェンジ。罠が旧式のため取り外すことが出来ず、完全に無駄になって文句たらたらでキャンプに帰るとキャンプの中にタコがいた。
閃光玉やらヒカリゴケやらを置いて帰っていったタコに理解が追い付かずそのまま見送ったが、自分のキャンプの中がタコの油泥塗れになってて悲鳴をあげることになる。
今作の頂点捕食者って環境に結構依存している印象。ヌ・エグドラは個人的に好きなので次回作とかにも出てきて欲しいけど、結構難しくない? 1番出しやすいのはある程度の水さえあれば能力も万全になれるウズ・トゥナぐらい? でもレ・ダウなら画面外で雷が凄いステージがあればいける……いや、画面外がありならエグドラもいけるか。
……ジン・ダハトは正直言って望み薄では? ガムート枠になりそうな予感。