ありがたいことに、お客様は私と取引をしてくれるようだった。
「ああ、ありがとうお姉さん!よーし、それじゃあどのカードが欲しいんだい?」
お客様はカードを二枚選んで受け取っていく。そして、私の手元には残ったカードと、画面の境界が残る。やった!
「よかったー!ようし、早速戻ろう……ジャッジ?」
「できる限り我々の意識を、早急にここから離れる事に専念するべきだった、もしくは我々が彼女の知覚領域にいる事を、把握しているべきだった、そして今は、次の行動に備える事が得策だろう。ミケ、プレイヤー」
ジャッジがそういう間もなくして、どこからが弾幕が飛んできた。
私とお客様はそれを回避する。
「い、いきなり何!?」
驚いて弾幕が飛んできた方を見ると、そこには落胆の表情を浮かべた天弓千亦がいた。
「あ、ちま「黙りなさい」」
有無を言わせないような迫力があった。
「市場においての絶対的なルール。カードを二枚以上取引する事は禁じられています。例外はありますが」
「……誰?」
「おっと、申し遅れました。市場のプレゼンター、天弓千亦と申します。もっとも、もはやあなた方には関係ありませんが」
「千亦様、どうしてもこのカードを手に入れないといけなかったんです。お願いですから、見逃してはくれないでしょうか」
私はダメ元で交渉してみる。が、千亦の様子は変わらない。睨みながらこちらを見下ろしてくる。
「プレゼンターってなんですか?」
「この市場をまとめ上げている人物、という意味だな。市場のことをただ氷山の一角の、カケラも理解していない我がまなこから見ても、千亦はよく己の役割を果たしていると言えるだろう」
「うわっ?えっ?なんで人の言葉じゃないのに、意味が伝わってくるの?」
お客様が困惑している、というより、私も驚きである。何故か猫の言葉が人間であるお客様に伝わっている。
「え?ジャッジ何かした?」
「いや、私の認識の内では、このような奇怪な現象を引き起こすような、あるいは引き起こされるような行動は意識内ではしていない。もちろん、私の意識外で何かを引き起こした可能性も、否定できないが」
「言い回しがなんか、回りくどいですね」
「しかし、こうして言葉が伝わるならば、改めて名乗ることにしよう、私の名はジャッジという。この摩訶不思議な幻想の地に迷い込み、元いた次元へと帰る方法を探している、不運で哀れなる白猫だ。君の名前に、好奇の念が湧いて仕方がないな。操り人形よ」
「いや、私は操り人形じゃありませんよ。私の名前は東風谷早苗で、守矢神社で風祝をやらせていただいてます」
「それは重畳、なるほど、君は自分がプレイヤーによってではなく、己の意志で動いていると主張するのだな。であれば、その意見を尊重し、真実であると仮定しよう、君が君自身の意志で取引に応じてくれたこと、実に好ましく思うよ」
「……私を忘れていませんか?」
あ、忘れてた。完全に千亦の事を忘れていた。
「ミケ、早苗、あなた達は
「ああ、全くもって正論だな。これに関しては否定しようがないほどに君に非があるぞ、ミケ。君はなんという事をしでかしてしまったんだ」
「うう、ごめんなさい」
まさかジャッジにも責められるとは思わず、心に重く罪の意識がのしかかる。
「本来ならば、あなた方はこの市場から排除されるべきですが、ミケ、貴方は商売に真摯に向き合っていた、そして早苗、貴方はルールを理解していなかった。ルールというのは知らなければ意味がありませんから。よって、手持ちのカードを全て没収して不問とします」
「カードの没収!?それは困ります!」
「ていうか別に市場から排除とかどうでもいいです。そんなことより、私はカードの流通を止めに来たんですけど?この市場のプレゼンター?なら流通を止めてくださいよ」
「流通を止める?はあ、もう止められないわよ。月虹市場は開かれた。いいでしょう。貴方達は排除します」
どうやら穏便には済んでくれないようだった。私と早苗は構える。まさかニ対一で弾幕勝負をすることになるとは、考えたこともなかった。
「全て
戦闘が始まった。千亦が弾幕を飛ばしてくる。スペルでもないのに、とても避けるのが難しい。まだまだ余裕はあるが。
「ミケ、避けることができた事態ではあるが、こうなってしまった原因は、愚かなことにも私にある。雀の涙にも及ばないほどに、小さな力であるかもしれないが。私も手をかそう」
「ありがとうジャッジ、って言いたいけど、すぐに元の世界に戻ったほうがいいんじゃない?はい、これ」
私はジャッジに画面の境界を渡す。というのも、千亦や早苗は気付いていないが。私は、ジャッジと少しばかり長く一緒に過ごしたからか、見えてきた。プレイヤーの存在が。それと……この世界について……いや、よしておこう。
「君も見えるのだな。いや、恐れる必要はない。たとえどんなに非常識な存在だとしても、我々はただの猫だ。その有り様は変わらない。そうだろう?しかし、私の存在がこの幻想的な世界になにか、形容することのできない悪影響を与えてしまっているのも事実だ。大変心苦しいが、君の言葉に甘えて私は元の次元に戻らせてもらおう」
「うん、ジャッジと会えて良かった。さようならジャッジ」
「私の本当の名前は、パブロという。不都合がなければ、これからはそう呼んでほしい。さようなら、ミケ」
頭上からパブロが消える。無事に元の世界に帰れたのだろうか?どうかそうであってほしい。
いつのまにか、早苗の後ろにいるプレイヤーは見えなくなっていて、私の体に千亦の弾幕が直撃する。
直撃するが、無かったことになった。
「何だろう、いや、もしかして」
後ろを振り向いた。私の背後にはプレイヤーがいた。
「ミケさん?ちょっとミケさん!」
ダメだダメだ、しっかりしないと。目の前に集中する。
と、同時に、私の手に見慣れないものが握られていることに気付く。
「な、何これ?パブロのアビリティカード?」
「なんでもいいですけど、弾幕が飛んできまあ痛い!?」
「早苗!?」
早苗がやられて呆気に取られてしまったが、急いで千亦の弾幕を回避する。彼女は虹が好きなのだろうか。放つ弾幕は虹色に関係しているものが多かった。まあ、私も人のことは言えないが。
とりあえず、弾幕を躱しながら、私は手元にあるジャッジのアビリティカードを確認する。
『スペシャルエンディング』*1
パブロと、見たこともないアヒルみたいな妖怪の絵と共に、カードにはそう書いてあった。
カードには色々な種類のものが存在する。持っているだけで効果を発揮する物と、使用すると発揮する物。
おそらくこのカードは後者だろう。使うタイミングは、まったくもってわからないが。
私は手に持っていたアビリティカードを使った。そして、瞬時に理解する。今、私をプレイヤーが操っている。
本来ならば絶望的な状況だ。だけど今は、今だけは私が
負ける気はしない。プレイヤーが下手くそだったら負けてしまうが。
「お願い、プレイヤー!私を勝利に導いておくれ!」
私の言葉に反応はしないだろう。きっとプレイヤーには聞こえていない。多分。
それでも体は動いてくれる。勝手に弾幕を避けて、千亦を追い詰めていく。
普段の私ならば絶対に避けることもできないであろう弾幕も、まるで知っているかのように体が動き、軽々と避けていく。
「これなら、いける!」
少しズルをしている気分になったが、今回だけだ。これ以上弾幕シューティングの枠組みを壊さないためにも、これで終わらせる。
「さようなら!プレイヤー!パブロ!」
千亦の最後のスペルカードを避けきった。そして、このゲームも
なんてことはない。ただ今までの日常に戻るだけだ。愛おしく、美しい幻想郷の日常へ。
一匹の白猫が、何も無い白い世界に佇んでいました
その白猫の背後に、スキマが現れ、彼女はこう言いました…
ご機嫌よう。
ジャッジ
心ここに在らずといった様子で、ジャッジは言いました…
何か用でもおありかね、わざわざこの次元まで訪ねてくるとは。
私個人としては貴方と話すことはこれっぽっちもないのだが
微笑みを浮かべながらも、寂しそうな目を浮かべ、彼女は言いました…
そう邪険にしなくてもいいじゃない。
こうして、世界が繋がってしまったのだし
貴方には謝罪をしておこうと思ってね。
ジャッジに疑問が浮かびました
何か謝る事があるのか?
……本来ならば貴方はこちらの世界へ来るべきではなかった
貴方はこの世界で、他の存在とともに消えゆくはずだった。
だけど、何が原因なのか、貴方は忘れ去られた存在として
幻想郷へ来てしまった。
そして、私は貴方を元の世界に戻さなければいけなかった
ジャッジは気にした様子を見せませんでした
知っての通り、私は消えゆく定めにある。
これはたとえ君であっても、覆すことはできないことだ
ただ、深い後悔に包まれて消えるだけ
そう覚悟していた。
しかし、私はこの幻想郷で、眉唾物だと切り捨てた希望を感じた。
哀しみの感情を忘れられた。
ただ、それだけで。
迷い込んでいた間の時は、私にとってかけがえのないものとなった
この言葉が、八雲紫の心を満たしました
そう言ってもらえて光栄だわ。
……そろそろお別れを告げる時かしらね。
存在が失われる前に、一つだけいいか
ジャッジは振り向いて、八雲紫に問いかけました。
ミケは、我が友は今どうしている?
私の頭に恥知らずにも蠢く好奇心が知りたがっているんだ。
あの子は今、市場のルールに逆らったせいかしら。
神様にこき使われてるみたいよ
ジャッジは声をあげて笑いました
エンディング 後悔以外に残った物