とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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6、運命の出会い⑥

 

 

「そうか......やっぱりそうだったのか......」

「思ったよりも冷静だな、オサム」

「空閑には負けるけど.....でも、ようやく納得できた気がするんだ」

 

 

 今までバラバラだったパズルのピースが途端に揃っていくかの如く

 散乱していた玩具がまたある場所に帰結したかのように

 

 鍵となるのは千佳の持つ副作用(サイドエフェクト)。それは彼女を危険から遠ざけるという自衛の役目を持つ。

 

 しかし、今その能力は誰かの秘密を暴く攻勢の一手となる。三雲の思考は本人も驚くスピードでまとまっていった。

 

(何故彼女が訓練中に換装体にならず、生身のままでいたときがあったのか。それは彼女が近界民(ネイバー)でボーダーのトリガーをそもそも待っていなかったからか...?)

 

 かなり強引な論理展開ではあったが、それでも三雲はたどり着く。

 彼女の秘めたる核の情報に。

 

(持っている情報は少ない。明確な根拠は千佳の話だけだ)

 

 三雲はB級に昇格したとはいえC級に毛が生えたばかり。一方雨取や空閑はボーダーに入隊して間もなく、ことボーダーにおいては三雲の方が詳しい。

 

 つまり、ボーダーの抱える事情や裏で起きているさまざまな暗躍など三雲たちにとっては知る由もないのだ。

 

(それに目的は......わからない。でも、今動かなかったらきっと後悔する!)

 

 しかし、ただ言えるのは対近界民を担う組織の建物内に空閑以外の近界民が潜りこんでいるという事実。

 

 ただでさえ空閑の入隊というだけでかなりの反対にあったのだ。ボーダー本部がその事実を耳に入れればきっと厳しい行動をとる。

 

 当然、ミサカもタダで大人しく捕まるとも思えない。

 ましてやボーダーの正隊員と渡り合う、しかもおそらく上位に位置する人間に比肩する実力があるのならば尚更だ。

 

 もちろん単なる正義感だけではなく打算もある。

 

 雨取麟児

 

 (ゲート)を超えて近界民の世界へと旅立ってしまった雨取千佳の兄。

 彼は今どこにいてそもそも生きているのか。それを知るのが三雲たちの目標。

 

 そのためには近界民についての情報を類を問わず知る必要がある。

 

 しかし、三雲たちはまだ中学生である上にボーダー内でもお世辞にも高い地位にいるとは言えない。

 よって、得られる情報にも限りがあるのだ。

 

(もし本部よりも先に彼女と接触ができたなら、何か情報が得られるかもしれない.....!)

 

 本部で彼女が拘束されてしまった場合、よほどの理由がなければ三雲達がミサカと会うことはできない。

 例え会えたとしてもきっと話す内容にも制限がかかることだろう。

 

 加えて、三雲たちの所属する玉駒支部は近界民友好派を掲げている。

 なにか彼女にも事情があるのならば、条件や取引次第では玉駒で匿うことだってできるかもしれない。

 

 

「僕は彼女を探す。空閑はどうする?」

「俺も行くよ。オサム1人だと何しでかすかわかんないし」

「千佳は.......」

 

 

 三雲は千佳にも声をかけようとした。しかし、その瞬間に彼自身の脳がストッパーをかけた。

 

 果たして彼女をミサカの元へと連れて行っても良いのだろうか。

 

 雨取は震えていた。

 それは、目と鼻の距離に近界民が近付いていたという恐怖とできたばかりの友人が近界民であるという受け入れ難い事実によるもの。

 

 わざわざもう一度彼女とミサカを向き合わせる必要はないのではないか。

 

 加えて、肝心のミサカの居場所も皆目見当がつかない。

 長くどこで終わるかもわからない捜索の道に雨取を巻き込む必要は無いのではないか。

 

 そんな感情が三雲の心中を渦巻いていた。

 

 

「お.......修くん!」

 

 

 気付けば三雲の左腕はいつもより重くなっていた。

 

 重いとは言っても所詮女子の力。

 目を瞑り、言葉の端々からは震えが伝わってくるかのよう。

 

 しかし、それでもその確かな感触からは彼女の決心と覚悟が深く感じ取れる。

 

 

「そうか.........僕は千佳の意思を尊重する。空閑もそれで良いな」

「俺は問題ないよ、()()()()

 

 

 雨取千佳は見せた。己の恐怖と向き合う覚悟を。

 空閑は表した。三雲が隊長たる器を持ち、付き従う価値のある人間であるということを。

 

 であれば、二人を置いていく理由は微塵もない。

 

 一人は瞳の奥に熱を灯し

 一人は不敵な笑みを浮かべ

 一人は決心した

 

 

 しかし、そんな矢先の出来事

 

 三雲達は足並みを揃えて第一に彼女の姿を見た人がいないか捜索に乗り出したその瞬間のことだった。

 

 

「おーおー、なんとも綺麗な友情ですね。と、ミサカは少々の感激とひとつまみの羨望を抱いてみます」

 

 

 その影は通路の角から現れた。

 

 3人の顔には焦りと驚きの汗が浮かび出す。

 動かし始めた足は止まり、急に現れた人物に相対する姿勢へと変わっていく。

 

 現れたのは話題の中心、件の少女、本部に潜り込む近界民

 

 ミサカその本人だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

(一体いつから!?それに空閑もレプリカも気づかなかったのか!?)

 

 

 彼女は通路の角の影から現れた。

 その口ぶりを見るに、おそらく3人の会話はおおかた聞かれてしまっていると考えるべきだろう。

 

 しかし、そうなのであれば空閑はおそらく彼女の存在に気づいていたとしてもおかしくない。

 もし空閑が気づかなかったとしても、彼にはより高性能な探知能力を持つレプリカがいる。

 

 だが実際はどうだ。

 

 

「なぁ、レプリカ。アイツがずっと近くにいたの、気づいていたか?」

【全く気づかなかった。トリオン反応が一切感じられない】

「なるほど、どうりでレプリカのトリオン探知にも引っかからないわけだ」

 

 

 彼らの会話を聞く限り、空閑もレプリカも彼女の存在に気づかなかったのだろう。

 

 それほど彼女の脅威度の高さの証明でもあり、そして手強さをも三雲に感じさせた。

 

 

【ようやく合点がいった。彼女自身にはトリオンの波がない】

「トリオンの波がない?トリオンがないんじゃなく?」

【ああ、彼女のトリオン反応は常に一定だ。まるで機械のようにな。人間には生きている限り固有のトリオンの波が存在する。一方で彼女にはトリオンでできたそこら中の壁と見紛うほどトリオンの波が存在しない】

 

 

(そうだ、千佳は!?)

 

 彼女の副作用(サイドエフェクト)ならば波の如何に関わらず彼女の存在に気づけたとしてもおかしくない。

 空閑とレプリカの話を聞いた三雲は雨取に確認を取るかのように視線を送るが、帰ってきたのはふるふると顔を横に振る反応だけだった。

 

(どういうことだ!?千佳の副作用に反応しないってことは敵じゃないってことなのか!?)

 

 出鼻をくじかれてしまった一行は警戒しながらも、相手の出方を伺っている。

 

 こちらが動くのが先か、相手が動くのが先か。

 時間は少ない。何を言おうとここは通路、誰かがこの場に訪れてもおかしくない。

 

 少しの膠着ののち、その均衡状態を破ったのは意外にも雨取だった。

 

 

「み.....ミサカちゃんは近界民(ネイバー).......なの?」

「...........」

 

 

 単刀直入に切り込む雨取。

 本題はそれだと言わんばかりに息を呑む三雲。

 

 少しの硬直、そして二度口を開け閉めした後にミサカは告げる。

 

 

「いいえ.......と言っても無駄なのでしょうね」

 

 

 ポツリと漏れ出た彼女の呟きは彼女が近界民(ネイバー)であることを暗に示していた。

 

 

「ふぅ..........」

「何をチカ子は安心しているのですか?と貴方の不可解な行動に疑問を持ってみます」

 

 

 ミサカは想定外の出来事に追いつけないでいた。

 

 これでも嫌われる、軽蔑されるくらいの予想はしていたのだ。

 先ほどから見ていた彼女の震えを考慮すれば、彼女が近界民に何かしらの恐怖を覚えているのはまず間違いない。

 

 

「貴方は近界民が嫌いなのではないのですか?なぜそこでほっと息がつけるのか理解しかねるのですが」

「ミサカちゃんは"友達"だから........」

「友達........」

 

  

 ミサカはその言葉を何度も反芻(はんすう)した。

 

 初めは意味を深くなぞることはできなかった。

 だが、段々と噛み締めるにつれその感覚が次第に広がっていく。

 

 

「ちゃんと話すことができて、なんとか向き合えそうで......」

「だからと言って私が信用できると決まったわけではないでしょう?と、ミサカは論理の不都合を指摘します」

「千佳は近界民ならなんでも怖いって訳じゃない。事実、ここにいる空閑も"近界民"なんだ」

 

 

 確かに雨取は近界民にトラウマがあり、恐怖だって抱く。

 

 実際に彼女と初めて会った時は本能で恐怖を感じ取った。

 だが、その後の交流でそれらの恐怖は次第に薄れていった。

 

 それに彼女は学んだのだ。

 近界民の中には空閑のように気さくな人間もいれば、レプリカのような理知的な生物もいることを。

 

 故に、彼女は踏み出した。

 

 

「もし何も知らないままで......話せないままなのが怖かったから......」

 

 

 雨取は嫌だった。

 

 せっかくボーダーでできた、歩み寄ってくれた友達と話すことも無しに敵対してしまうことを。

 

 反対に、彼女の言葉はミサカに向かって深く突き刺さる。

 

 これまで出会った人間は皆、自分の"上"の人間だった。

 それは、大人という意味でもあり、立場のある人間でもあると言える。

 

 彼らは確固たる意志を貫く強さを持ち、それでいて役割に準じた態度で彼女に接していた。

 当然彼らが自分を大切にしてくれているのはわかっている。

 

 しかし、それはミサカにとって(ほどこ)されているに過ぎず、自分より上の人間からの行為でしかなかった。

 それでも満足はしていた。

 

 今の彼女は貰えるものにケチをつけられるほどの地位、立場にないからだ。

 

("トモダチ"........学習装置(テスタメント)で概念は理解はしていましたが....このような感覚なのですね)

 

 ミサカはこの時初めて理解した。

 

 この世界にはこのような対等であろうとする関係があるのか、ということを。

 それはとても満ち足りた、素晴らしい関係性だ。

 

 学園都市では残念ながらそのような関係性には恵まれなかった。

 自分に向かって差し伸べてくれた手はあった。けれど、その手を握ることは叶わなかった。

 

(これが.....後悔と反省)

 

 もう一度その機会に触れてわかる。

 この手を握らなければきっと後悔する。

 もうこんな機会は巡ってくることはない。

 

 

「ずるいですね.......迅はこうなることがわかっていたのでしょうか......」

 

 

 気がつけばその言葉はミサカの口からこぼれ出していた。

 その言葉を三雲は聞き逃さない。

 

 

「迅さんだって!?迅さんを知っているのか!?」

「おや、あの男は私のことを何も話していなかったのですね。と、ミサカはあの男の評価を下げざるをえないと考えます」

 

 

 三雲にとって彼女の口から頼りになる先輩の名前が出てくるとは思っていなかった。

 だが、同時に彼女が迅の手の内にあることもわかった。

 

 彼の身を急な安心感が襲う。

 迅が手を回しているのならば、ひとまず彼女の身に危険が訪れることはないだろう。

 

 

「それで、貴方達は私にどのような目的で接触を図ろうとしたのでしょうか」

「あ、ああ。そのことなんだけど.....」

「しっ。とミサカは聞いた身でありながら貴方の発言を静止します」

 

 

 急な静止に虚をつかれる三雲。

 だが、その理由はすぐにわかった。

 

 

【誰かがこちらに近づいているようだ。二人組で話をしているのだろう】

「先ほど気になっているのですがなんですか?この炊飯器は」

「コイツは炊飯器じゃないぞ。レプリカだ」

【よろしく。私はレプリカ。ユーマのお目付役だ】

 

 

 浮く黒い炊飯器もといレプリカは遠くから近づいてくる隊員の存在に気づいた。

 もし、このまま話を続けていたらその隊員達に聞かれ、内容が内容なのでとんでもないことになっていたかもしれない。

 

 

「ふむ、では場所を変えるとしましょう」

「場所を変える?でも何処に?」

 

 

「決まっているではないですか。()()()()ですよ。と、ミサカはキメ顔でそういってみます」

 

 

 

 

 





私ごとながら、本作品の評価の方が50件を超えました!
ただただ感謝でございます。
これからも、ゆくりゆくりと更新していければいいなぁと思っております。
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