なんか原作に存在しない組織の実験体として転生した件 作:マジカルバーバリアン
訓練場に、乾いた足音が響く。
アーク、ノア、カイル、ミナ──四人で組む新しいチームは、アークの念獣を仮想敵とし、今日も訓練をこなしていた。
「行くぞ。」
アークの声とともに、小型の念獣が召喚される。 黒い影のような獣が、音もなく地を這い、ノアが最初に飛び出す。 全身にオーラを纏い、跳びかかってきた念獣を受け止めると、強化系らしくそのまま弾き飛ばす。
「援護します!」
ミナが小型の念弾を素早く連射する。 細かく、速い射撃。 だが、一発一発の威力は抑えめだ。 ノアの動きを邪魔せず、隙を作り出す援護に徹している。
「こっちも行くぜ!」
カイルが間合いを取って構えると、両手に溜めたオーラを一気に放出した。 放たれた念弾は、ミナのそれとは対照的に一撃必殺の威力を秘めた大砲のような一発だった。
念獣がかわそうと動いた瞬間──
「ノア!」
アークの短い指示に、ノアが動く。 念獣の進路を塞ぎ、回避を封じた。
そこに、カイルの念弾が炸裂する。
ドォン、と地面を揺るがす爆音。 念獣の体がかすれ、霧のように消えていった。
「──よし。」
アークは小さく頷いた。 連携はまだぎこちないが、確かに形になりつつある。
「ふふん、やるじゃん俺たち。」 カイルが胸を張り、軽口を叩く。
「次はもっと速く動けるようになります!」 ミナもにこにこと笑いながら拳を握った。
ノアは、アークにだけ小さく微笑みかけた。
表面的には、順調だった。 冗談めかした声、笑顔、声をかけ合う様子── まるで普通の、仲のいいチームのように。
──だが。
「これもすべて、教祖様の加護のおかげですね!」
ふいに、ミナがそんなことを言った。
「だよな、この力を与えてくれた教祖様に頭が上がらないぜ。」 カイルも、普段の雰囲気とは違いまじめな口調で続ける。
アークは何も言わなかった。 ノアもまた、そっと視線を伏せた。
この温度差。 この小さな亀裂。
俺たちは、まだ──本当に「ひとつ」にはなれていない。
そんなことを、アークは痛いほど自覚していた。
────────────
簡易な休憩を挟み、次は“発”の確認訓練に移った。
次の巡礼も近いかもしれない──そんな空気を感じながら、俺たちは互いの能力を再確認することにした。
訓練場の片隅、粗末な的が並ぶ一角に、俺たちは集まった。
「じゃあ、最初はノアから頼んだ。」
俺が促すと、ノアは小さく頷き、一歩前に出た。
──ノア。
強化系。
彼女の能力は、単なる筋力増強ではない。
細胞、筋繊維単位で強化を施し、通常の念による強化とは段違いの身体性能を引き出す技だ。
「《超強化〈フルブースト〉》」
ノアがそっと呟くと、空気がぴんと張り詰めた。
オーラが彼女の体を隙間なく包み込む。
過剰な光も爆発もない。ただ静かに、確実に──力が凝縮される。
軽く拳を振るっただけで、空気が震えた。
「やっぱりすげぇな……まるで別人みたいだぜ。」
カイルが肩をすくめながら漏らす。
「でも、持続時間は短いから。長期戦はできないよ。」 ノアが照れくさそうに笑った。
──攻防一体。
だが、無理な持続はできない。
リスクもある分、瞬間的な爆発力は圧倒的。
「次、カイル。」
カイルは気怠そうに両手を挙げた後、オーラを練り上げる。
放出系らしく、溜めた念を一点に集中させていく。
「《爆圧弾〈ブラストコア〉》」
掌に集まった念が、青白い光を帯びた球体となった。
それを──ぶん、と軽く振るった勢いで、遠くの標的へと叩きつける。
ズドン!!
爆音とともに、標的が木っ端みじんに吹き飛んだ。
「……威力は一級品だな。」 俺は冷静に評価する。
だが、溜めが長い。連発はできない。
その隙をどうカバーするかが課題だ。
カイルは俺の視線を受けて、肩をすくめた。
「やれやれ、やっぱAシリーズ様は目が厳しいな。」
その言葉に皮肉が混じっているのはわかっていた。
けれど、その裏にわずかな尊敬が滲んでいることも。
「最後、ミナ。」
呼ばれたミナは、ぴしっと背筋を伸ばして前に出た。
その姿勢からも、真面目な性格がにじみ出る。
「《連弾砲〈クイックバースト〉》!」
ミナは両手から小型の念弾を次々と放った。
バババババッ!
連続で標的を穿ち、細かく正確に破壊していく。
「速いな。」
俺が感心して呟くと、ミナは耳まで赤くしながら、ぱたぱたと手を振った。
「そ、そんな、アーク先輩に褒めてもらえるなんて……!」
──速射。
威力はそこそこだが、手数と正確さで圧倒するタイプ。
制圧戦向きだろう。
それぞれが自分の“得意”を持ち、それぞれが違う個性を持っている。
──悪くない。
俺たちは、まだ不格好なチームだ。
けれど、確かに──一歩ずつ、形になり始めていた。
────────────
巡礼の知らせは、ある日の訓練後に突然訪れた。
訓練場に集められた俺たちに、教育係のマリナが、いつものように興奮した様子で告げた。
「アーク班の初めての巡礼が決定しました! 今回は、同志である『黒鴉会』の祈りを助けるため、邪なる異端『灰狼党』を討つのです!」
黒鴉会。
灰狼党。
──要は、どちらも裏社会の連中だ。
協力する側の『黒鴉会』は、教団が“同志”と呼ぶ新興マフィア勢力。
敵対する『灰狼党』は、古くから地域を支配してきた武闘派マフィア。
祈りだ、正義だと言いながら──実態は、ただの血なまぐさい抗争への介入。
俺たちは、その最前線に放り込まれるのだ。
(結局、俺たちは──雇われた傭兵みたいなもんだな)
静かに、そう思った。
────────────
夜、物資倉庫の裏。
薄暗い月明かりの下、俺たち四人は肩を寄せ合うようにして集まっていた。
「ついに、俺たちのチームで巡礼だな。」
小声でカイルが言う。
「……ああ。」
俺も応じる。
ノアは膝を抱え、少し強ばった表情で月を見上げていた。
ミナは背筋を伸ばし、いつでも出発できるように待機している。
しばらく沈黙が流れたあと、俺はゆっくりと口を開いた。
「──何があっても、生きて帰ることを最優先にする。」
「うん。」
ノアがすぐに頷く。
だが、カイルとミナは少し違った。
「もちろん、生きて帰るさ。でも……教祖様の御心に応えるためなら、俺たちの命なんて安いもんだろ?」
カイルが真剣な顔で言う。
ミナも、真面目な顔で続けた。
「はい。教祖様のためなら、命を賭ける覚悟はできています。」
その言葉に、俺はかすかに胸を締めつけられる思いがした。
──やはり、温度差はある。
ノアも俺も、それを言葉にしなかった。
ただ静かに、それぞれの覚悟を胸に、夜風を受けていた。
「……絶対に、生き延びよう。」
俺は改めてそう告げた。
ノアがそっと、うなずいた。
────────────
夜。
俺たちは、新興マフィア──黒鴉会の根城へと派遣された。
そこは、街外れのビル群を改造した豪華なアジトだった。
「よう来たな、祝福のガキども。」
黒鴉会の幹部らしき男が、にやにやと笑いながら俺たちを出迎えた。
「明日だ。灰狼党の本拠地を叩く。お前らには、先行部隊として穴を開けてもらう。」
まるで当然のように命令する態度に、内心うんざりする。
(──要するに、こいつらにとっちゃ、俺たちは使い捨ての駒だ。)
だが、逆らうことはできない。
命令は絶対だ。
「了解しました。」
俺は無表情を崩さず、頭を下げた。
カイルがふん、と鼻を鳴らし、ミナは真面目にぴしっと敬礼している。
ノアだけが、ちらりと俺に視線を送った。
(……今まで通りこなせばいい。それだけだ。)
心の中で、そう念じた。
────────────
翌日──
夜明け前。
灰狼党の本拠地への襲撃が始まった。
銃声と怒号が飛び交い、爆発音が夜空を裂く。
黒鴉会の兵たちが攻撃し、灰狼党の構成員たちが応戦する。
まるで地獄絵図だった。
俺たちも、その混乱の中に身を投じた。
ノアが突撃し、カイルが援護射撃をし、ミナが手早く敵を掃討する。
(──順調だ。今のところは。)
そう思った矢先だった。
「おいおい、子どもじゃねぇか。」
前方から、図体のでかい男が現れた。
その後ろには、痩せぎすの男。
二人の間には、妙な統一感があった。
「ベッツ兄弟──!」
黒鴉会の兵が、血相を変えて叫ぶ。
──ベッツ兄弟。
図体のでかい方は兄のガルド・ベッツ、痩せぎすの方は弟のリクス・ベッツ
灰狼党の用心棒であり、念能力者。
俺たちの目の前に立ちふさがったのは、敵の切り札だった。
「悪いけど!死んでもらうよ!」
ノアが前に出て拳を振るう。
ベッツ兄弟の兄貴分、ゴツい方がニヤリと笑った。
「へえ、ガキのくせに随分と威勢がいいな。」
弟分は、後ろでチラチラとこちらを窺っている。
(──遠距離で発動させるタイプの発か?。)
俺は即座に予測した。
兄が前衛、弟が後衛。
厄介な連携だ。
「へへ、潰すか。」
巨体の兄が、地面から大きな瓦礫を掴み放つ。
瞬間──ゴッ、と瓦礫が異様な加速で飛んできた。
「──っ!」
ノアが身をひねって回避。
だが、すれすれを掠めた衝撃だけで、バランスを崩す。
「こいつ、ただの投擲じゃない……!」
俺は即座に推測する。
(あれは、投げた物体の運動エネルギーを増幅している……!)
「ガル兄、あいつらまとめてやっちまおうぜ!」
弟が叫ぶ。
「任せとけ!」
兄がもう一度、地面の瓦礫を拾い上げ、念を纏って投げつけた。
ズンッ!!
瓦礫が信じられないスピードで飛んでくる。
俺たちは散開して回避行動に移る。
「っ──注意!」
俺が叫ぶと同時に、今度は弟が手を翳した。
瓦礫の進路が、ぐにゃりと変わった。
ノアに向かって一直線──
「ノア、下!」
俺の叫びに反応し、ノアが飛び退く。
瓦礫は彼女の足元を掠め、地面に深いクレーターを穿った。
兄が投擲した物体を弟が操作して追尾する。
(兄が力を、弟が軌道を補う。連携型……厄介だ。)
「ノア、左へ! カイル、援護しろ!」
即座に指示を飛ばす。
ノアが鋭く跳び、カイルが《爆圧弾〈ブラストコア〉》を撃つ。
だが、兄が瓦礫を盾にして防ぎ、弟がそのまま反撃の流れを作る。
一瞬の連携。無駄がない。
「……リーダー様、ちゃんと指揮取ってくれよ?」
カイルが皮肉めいた笑みを浮かべながらも、次弾の準備に入る。
(くそ、強い──)
俺は念獣を召喚。
両腕が鋭い鎌になった獣が飛び出し、兄に肉迫する。
だが──
「邪魔だ。」
兄の拳一撃。
強化された打撃が念獣を粉砕した。
(やはり、ただの念獣じゃ押し切れない──)
「ミナ、撹乱を頼む!」
「はいっ!」
ミナが連弾を放ち、弟を牽制する。
その隙に、俺はさらに二体目の念獣を召喚。
今度は、速度重視の念獣。
兄の背後を突こうとするも──
「──見えてんだよ!」
兄が振り向きざま、またも瓦礫を強化して叩きつける。
(速い……!)
ノアが突撃。
《纏体強化〈フルブレス〉》。
全身を強化し、兄の拳と正面からぶつかる。
ガンッ!!
激しい衝撃音。
互角──いや、わずかに押される。
「まだ……っ!」
ノアが必死に耐える。
「援護する!」
カイルが溜めた最大出力の《爆圧弾〈ブラストコア〉》を放つ。
その爆撃に合わせ、俺は念獣を囮にし、ミナが弟を狙う。
──連携だ。
──そう思った、だが。
「バラバラだな、お前ら。」
兄が、豪快に笑いながら瓦礫を弾き飛ばした。
「連携? 笑わせんな。お前ら全員、バラバラだ!」
──痛いところを突かれた。
俺とノア。
カイル、ミナ。
心のどこかで、線を引いていた。
(……俺は、ノアしか信じていなかった。)
(カイルもミナも、根はいい奴だ。教団の被害者だ。なのに──)
年齢が上の俺が、子供を、仲間を省いてどうする。
(……違う。今度は──)
俺は息を吸い、叫んだ。
「お前ら、好きに動け! 俺が合わせる!」
ノアが振り返る。
カイルがニヤリと笑う。
ミナがぱちりと瞬きをした。
「了解!」
ノアが叫び、再び前線へ。
カイルとミナもそれぞれ、自分のタイミングで攻撃を仕掛ける。
俺はその動きを読み、後方から念獣を配置する。
ノアの拳が、兄の胸を穿つ。それに合わせて、念獣の鋭い爪が腕を裂く。
その瞬間、兄は一歩下がりながら、楽しげに笑った。
「へえ、やっと面白くなってきたじゃねぇか!」
唸るような声。
それは、戦場の熱を愉しむ、獣の咆哮のようだった。
「リクス、あれ、やるぞ」
「……わ、わかったよガル兄」
弟がぎこちなく手を掲げ、兄に向ける。
次の瞬間、兄の身体からオーラの流れが大きく変わった。
重く、鋭く、だがどこか、歪んでいる。
(何か……おかしい?)
兄の動きが加速する。
目で追いきれない。
さっきまでの瓦礫投擲や強化の比じゃない。
ノアが拳を構えるが──遅い。
兄の拳が、ノアの腹に食い込んだ。
俺は即座に念獣を差し向ける。 硬い鋼鉄に包まれた獣が突進し、兄の攻撃を受け止めようとする。 だが──
「邪魔だっつってんだよォ!!」
振り下ろされた拳に、念獣の肩が砕けた。
(おかしい、これは……)
先ほどまでのオーラとは比べ物にならない質と量
まるで二人いるような──
「──人形みてぇだ」
カイルが呟いた。
(……そうか。
これは、弟の“操作”だ。自身のオーラも加え
兄の限界を超えて、強制的に動かしてる──)
「お、おいガル兄、大丈夫かよ……」
弟が額に汗をにじませながら、念を維持している。
兄の体は、動きこそ鋭いが、どこかぎこちない。
筋肉の動きと神経の連携が、ほんのわずかにズレている。
「ノア、立てるか!」
「っ、うん……なんとか」
ノアがよろめきながら立ち上がる。
その横で、ミナが速射を連打し、弟に牽制をかける。
カイルも、タイミングを見て再度《爆圧弾〈ブラストコア〉』を練っている。
俺は思考を巡らせた。(なら──これならどうだ?)
掌を翳し、念を込める。
「出ろ。」
新たな念獣。
新たな念獣。 禍々しい黒い鎧のような外皮をまとった獣が、地面を這うように出現する。 その足元に伸びた爪が、地面を叩いた瞬間。
ゴウン、と音を立てて、地面が隆起した。
兄と弟の足元に、岩塊がせり上がり、動きを封じる。
「なっ──!?」
「おい、リクス、なにやってんだ!」
「ダメだ、動きが……念が、阻害されて……っ!」
アークの目が細まる。
(発持ちの念獣。カイルやミナは──仲間だ。
隠す理由なんて、どこにもない。)
弟が制御を狂わせ、兄の動きが僅かに乱れる。
その隙を、見逃すわけにはいかなかった。
「今だ、全員で行くぞ!」
再び、戦局が動く。
ノアの拳が兄の腹を貫き、ミナの連弾が弟を撃ち抜く。
カイルの爆圧弾が直撃し、地面ごと吹き飛ばす。
念獣が起き上がる前に拘束する。
勝った。
──だが。
「ひとつ……聞いていいか?」
血にまみれながら、兄が呻くように言った。
「お前ら……最近噂の“教団のガキ”どもだろ。
こんなに強えのに、なんで鉄砲玉なんかしてやがる?
ミナが戸惑いなく答えた。
「私達は祝福の子。教団のために、教祖様のために従うまでです」
その言葉に、兄弟が薄く笑う。
「祝福、祝福って……いいように使われてるだけの“駒”じゃん。アンタら」
その言葉に、ミナの瞳が一瞬だけ揺れた。
「その歳で、俺たちと渡り合える練度だと?
常軌を逸した訓練でもしてなきゃ、そんなもん身につくわけねぇだろ。」
兄が血を吐きながらもなお、嗤うように続けた。
「……ま、最後くらい、ちょっとはマシなこと言ってやるよ。
ガキがいいようにされてんのが癪でな。
あえて言う。“祝福”なんかじゃねぇよ。“洗脳”って言うんだ、そういうのは。」
弟も、顔を歪めながら呟く。
「俺たちのボスも言ってたぜ。教団はマジで異常だって。
戦場に子供ばっか送り込んで、仕事終わったら次……。
あれ、神の使いじゃなくて、ただの兵器だよ」
沈黙が落ちる。
カイルが鼻で笑いながらも、視線を逸らした。
「……バカ言え。そんなわけ、あるかよ。
俺たちは、教祖様に選ばれた“祝福の子”だ。そう、だろ?」
けれど、その声にはいつもの皮肉っぽさに微かな揺れがあった。
ミナも、小さく唇を噛みしめていた。
「でも……教祖様は、私たちに力をくれました。
施設だって、食事だって……全部、教祖様が……」
言いながら、自分の言葉に疑念が混じったのか、視線が彷徨う。
「……でも、どうして、こんなに……怖い思いばかり……」
ミナの声が、かすかに震えた。
俺は黙って二人を見ていた。
(──揺れてる。まだ小さい火種だが、確かに……)
教団への疑念。その最初の種が、確かに彼らの中に芽を出し始めていた。