真のオルクス大迷宮50階にあった自然ではなく人の手によって作られた扉。その扉を開き、中に入った刀真達が見たものは立方体の石に埋められた人だった。
「・・・・人?」
上半身から下と両手を立方体に埋められたまま顔だけが出ており、長い金の髪がホラー映画の幽霊のようおに垂れ下がっている。その髪の隙間から月を思わせる紅眼が覗いている。
「(年は12から13ってところか)さて、どうしたもんか」
流石に人が石に埋まっているとは刀真達も思っておらずどうすればいいのか悩み、紅眼の少女もじっと刀真達を見る。
「・・・・・」
思案すること数分、
「「「すみません、間違いました」」」
刀真、ハジメ、千癒の3人は同じことを言った。
「ま、待って!・・・お願い・・・助けて・・・」
立ち去ろうとする刀真達を少女は慌てて引き留める。その声は掠れ、呟きのように小さく近くにいた刀真にしか聞こえなかったが、必死さは刀真達にも伝わった。
「・・お願い・・・何でもする・・・だから」
少女は必死に顔をあげて懇願する。
「助けてやりたいのはやまやまだが、やばそうな匂いが漂ってるんでな」
「「・・・・」」
刀真の話を聞き、ゲームでもこういう展開があることを知っている千癒とハジメが頷く。
「ってわけだ。悪いな」
刀真は少女に誤り、部屋を出ていこうとする。
「ちがう!・・・私、悪くない。・・・待って!私・・・・・裏切られただけ!!」
この場所に閉じ込められ何年たったのかもわからない少女にとって刀真達は道に灯った一筋の光だった。だからこそ、少女は必死に声を張り上げた。
少女の今日一番の感情がこもった声に刀真は足を止めてしまった。そして、動こうとしては止まり、思案する。そんなことを何回か繰り返した後、
「あぁ~~~~~くそ!!」
乱暴に髪をかくと振り返り、拘束されている少女に近づくと、
「・・・言いたいことや聞きたいことは色々あるが、とりあえず飲め」
収納空間からストローをさしたペットボトルを取り出し、飲めと言った。
少女が言うには彼女は普通の吸血鬼だったがある日、先祖返りし通常の吸血鬼異常の力を得た。彼女はその力を国や国に住む民のために振るっていたが、家臣に必要ない、叔父にはこれからは自分が王になると言われたらしい。
「でも、私、すごい力があるから危険だって、殺せないから・・・」
「ここに封印されたと」
「ん」
少女はここに封印されている理由を話し終えると、喉の渇きを潤すために水を飲む。
「もしかしてどこかの国の王族だったの?」
「ん」
「・・・殺せないってどういうこと?」
「・・・勝手に治る。怪我してもすぐに治る。首落とされてもそのうち治る」
「そ、それは凄いね。もしかしてすごい力ってそれなの?」
「これもだけど・・・魔力、直接操れる。・・・陣もいらない」
「・・・勇者がかすむぐらいのチートだね」
一緒に話を聞いていたハジメ達も少女の規格外に驚く。
「・・・・助けて。あと、水もください」
2本目のペットボトルを飲み終えた少女は刀真達に助けをこう。ついでに飲み物のおかわりも頼んだ。
「「「「刀真/とーくん/様/君」」」」
少女の境遇を聞いた全員がその境遇に同情、共感を覚え、助けたいといったまなざしを刀真に向ける。
「・・・・・・」
そのまなざしを向けられた刀真は考える。千癒達と同じように少女の境遇に同情を覚えたし助けたいと言う気持ちも確かにある。だが、助けた後に起こるであろうリスクを考えるとどうしても迷ってしまう。
そして、悩みに悩んだ末、刀真が出した答えは、
「あ」
少女を助けるだった。
刀真は立方体に手を添えては、別の個所に手を動かし、何かを探っていく。
「ここが一番確実だな」
探ること数分、目的の箇所を見つけた刀真は武装色の覇気を拳に纏い、見つけた箇所に思いっきり拳を突き出し、立方体に触れる寸前で拳を止める。
刀真の行動を見ていた誰もが何で寸止めしたのか?と疑問を感じていると、ヒビが入る音が聞こえてきた。いったい何処から?刀真を除いた全員が音の発生源を探し、見つけた。音は刀真が寸止めした個所から発生しており、日々は徐々に広がっていき、数秒足らずで全体にまで広がった。
「1発で壊れないなんてなどんだけ頑丈な物質で出来てんだこれ?でもまぁ、これでしまいだ」
1回で立方体を壊せなかったことに驚く刀真だったが、今度は寸止めではなく軽く小突くように立方体に触れた。すると、立方体は砕け散った。
自身を支えていたものが無くなり、少女は地面に女の子座りで座り込む少女に刀真は着ている上着を被せた。その際、少女は刀真を手を握った。弱々しい力のない手だった。少女はまっすぐ刀真を見る。無表情だが、その瞳には少女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。
「・・・・ありがとう」
自分を助けてくれた刀真に少女は感謝の言葉を贈る。
「(ナギさんに助けられたエヴァさんもこの子と同じ気持ちを抱いたのかね~~)」
前の世界での知り合いの事を思い出していると、
「・・名前」
「ん?」
「・・・名前、教えて」
囁くような声で少女が刀真に名前を教えてほしいと言ってきた。
「(そういえば自己紹介してなかったな)刀真、上条刀真だ。んでこっちは・・」
「千癒、医山千癒」
「な、南雲ハジメです。よ、よろしくお願いします」
「ロクサーヌです。刀真様の筆頭従者です」
「ライザリン・シュタウト。ライザって呼んでね」
自己紹介がまだだったことを思い出した刀真は自分たちの名前を少女に教える。名前を教えた貰った少女は何度も名を復唱する。その際、刀真の名前が多かった。
「それで、お前の名は?」
「・・・・名前、付けて」
「は?」
少女の名前を尋ねた刀真に返ってきたのは“名前を付けて”という斜め上を行く返答だった。
「えっと、もしかして名前忘れちゃったの?」
「・・・前の名前、もういらない。刀真が付けた名前がいい」
「え~~~~」
ライザの問いに少女がそう答え、刀真は本気で困ってしまった。
どこぞのスライムみたいにポンポン名前のアイディアなど浮かんでこないのだ。
「う~~~ん」
少女から向けられる期待の目に変な名前を付けるわけにもいかないと思い、名前を必死に考える。そして、部屋に入り少女を見たとき、月のようだと感じた。
「(そういえばあいつが読んでいた漫画に月を連想させるキャラがいたな。名前はたしか・・・)ユエ」
「ユ・・・エ?」
「あぁ、月を現す言葉だ。部屋に入ったときにその金色の髪と紅い瞳が夜に浮かぶ月に見えたからなんだが、みんなはどう思う?」
「とーくんにしてはいい名前」
「ピッタリな感じがします」
「響きもいいね」
千癒達女性陣にも好評の名だった。
「・・・・ん、今日からユエ。ありがとう」
少女“ユエ”も付けられた名前が気に入ったのか無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせながら礼の言った。
「さてとユエも解放したことだし、さっさとこの部屋から・・・っ!」
“出よう”と言いかけたところで何かの気配を感じ取った刀真は天井を見上げると何かがそこにおり、天井から降ってきた。
「全員、後ろに下がれ!」
大声で後ろに下がるよう伝えると、未だに自分の手を握っていたユエを引っ張って抱え、近くにいた千癒を抱えて強化した脚力を使って後ろへと下がる。残った3人も縮地を使ってそれぞれ後ろへと下がった。
後ろに下がった数秒後、刀真達が直前までいた場所に天井にいた何かが地響き立てながら地に降り立った。
それは体長5メートル程ある蠍に似た魔物だった。勿論普通の蠍ではなく巨大な鋏が付いた腕が4本あり、尻尾も2本ある。
「(この蠍、いつからこの部屋にいた?少なくとも部屋に入る前も入った後も気配は感じ取れなかった)ユエの封印解除がトリガーか。お前をここに閉じ込めた叔父さんはお前に出てほしくないみたいだぞ?」
「・・・・・」
刀真の推測にユエは何も答えなかった。否、ユエはじっと刀真を見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。ユエは自分の運命を刀真に委ねたのだ。
「(覚悟あり・・か)なら、俺も示さなくちゃいけないな。ロクサーヌ、ライザ、ハジメ、来てくれ」
その瞳を見た刀真は不敵な笑みを浮かべ、少し離れた場所にいる3人を呼び寄せた。
「3人はここで千癒とユエを守っていてくれ。あの蠍は俺が相手をする」
「1人で戦うの!?皆で一緒の戦ったほうが」
「いや、俺1人で戦う。何となくだが、1人で戦わないといけない気がするんだ。でも、油断だけはするなよ?」
ハジメの問いに答えると、刀真は地を蹴り蠍に向かっていった。
刀真と蠍型の魔物の戦い。初手をとったのは蠍だった。蠍は尻尾を刀真に向け、尻尾の先になる針から紫色の液体を飛ばす。かなりの速度で飛来する液体に対し刀真は、
「“嵐脚”」
バク転すると同時に足から衝撃波を飛ばして液体を両断した。
「(溶解液か)まずは尻尾だな」
斬られ、吹き飛び、散らばった液体が地面に落ちると瞬く間に溶かしたのを見た刀真は何の液体だったのかを知り、最初に斬る箇所を決めると、
「“剃”」
高速移動で蠍の背後に移動し尻尾を斬り落とそうと刀を振るうも、切り落とすことができず代わりに金属同士がぶつかったときに出る甲高い音が鳴り響いた。
「(この硬さに今の衝突音、ただの外殻じゃないな。金属に近い何かで出来てるな)」
今の接触で特殊な外殻で見を覆っていることを知った刀真は蠍が振るった腕を“月歩”を使って躱すと、地ではなく空を踏みしめる。その状態で居合の構えを取り、覇気を刀へと流す。
「朧・雷霆」
そして、強化された脚による踏み込みと“剃刀”を使い、電光石火の如き速さで蠍との距離を詰めると移動速度も加算した高速の居合切りで蠍の尻尾を2本まとめて斬り落とした。
「連鎖」
だが、刀真の攻撃は尻尾を斬っただけでは終わらず、空を踏みしめすばやく体勢を変えると怒涛の連撃で左腕1本、右側の前足2本、左側の後ろ足2本を斬り落とした。
『キシュア!?』
巨体を支えていた脚の半数を一瞬で失い倒れそうになる蠍だったが2本の腕を使ってバランスを整えることに成功するが尻尾を斬り落とされた今、攻撃する手段は支えに使っていない腕1本となってしまった。
「ユエのことも含め色々とやらなきゃいけないことが終わりにさせてもらう」
そういうと刀真は持っている刀に目視できるほどの莫大な覇気を流し込む。
『キ、キシュ、キシャアアアア』
圧倒的力の奔流に蠍は初めて恐怖を覚えるが、その恐怖を払って残った腕の鋏を開き刀真を挟み切ろうと腕を伸ばした。
「・・・・・」
刀真は“剃”による高速移動で挟み切りを躱し、刀を上段で構えた状態で蠍の前に姿を表す。そして、
「朧・覇劫(はごう)」
莫大な覇気を乗せた刀を振り下ろした。莫大な覇気が乗せられた斬撃は蠍を斬るだけでは止まらず部屋の奥の地面に斬撃痕を刻み込んだ。
「「「「「・・・・・・」」」」」
その光景にハジメ達は唖然とするだけだった。
一方、刀真はというと、
「・・・やべ、力加減間違えちまった」
部屋の奥まで出来た斬撃痕を見て加減を間違えたことに気づいたが、すでに遅し由良助。
「ハジメの錬成で直せるかな~~?無理だよな~~」
“錬成師のハジメならワンちゃん直せるかも?”と考えた刀真だが、惨状を目にして無理だと思い、溜息を吐いた。すると、拍手が聞こえてきた。全員が拍手のするほうに振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。
「素晴らしい戦いだったわ」
自分達以外の人間がこの場所にいることに驚き、声を出せずにいる刀真達を無視して女性は近づこうとしたが、
「動くな」
“剃”を使ってハジメ達の元に戻ってきた刀真が刀を切っ先を女性に向けて言う。
「あら怖い。見ず知らずの女性に刃物を向けるだなんて」
「・・・殺気を出している奴が何を言ってるんだか。それで?あんたは一体何者で?何が目的だ?」
刀を向けられているのに表情一つ変えず怯えるふりをする女性に呆れつつ、刀真は女性が何者で何が目的なのかを尋ねる。
「何者かの答えだけど、貴方とそこの坊やとお嬢さんと同じ違う世界から来た者よ。一つ違うのは強制ではなく自分の意思で来たことね。目的はこの部屋に封印されていた子の確保と言ったところかしら」
女性は刀真やハジメ、千癒の3人と同じく別の世界からやってきたこと、目的は部屋に封印されていた少女の確保、すなわちユエを手に入れることなのだという。その言葉を聞いた刀真達はユエを守るように前へと出た。
「貴方たちのおかげで無駄な労力を使わずに済んだわ。さぁ、その子を渡して頂戴。勿論、ただとは言わないわ。お礼に貴方たちを元の世界へと帰してあげる」
「何?」
「私は自分の意思でこの世界へと来た。なら、その逆も当然できるわ。貴方たちは元の世界に帰れる、私はその子が手に入る。どうかしら?互いに悪くない条件だと思うのだけれど?」
「「「・・・・・・・」」」
「(力はあるようだけれど所詮は子供。故郷に帰りたい、家族に会いたいとい気持ちには逆らえない)」
無言となった刀真、ハジメ、千癒を見て女性はしてやったりと心の中で笑みを浮かべる。故郷に帰すという女性の言葉に嘘はない。だが、いずれは此処と同じように自分たちが支配する世界、自分たちのせいで故郷がと絶望する彼らの表情を想像しただけで。
「っ!?(いけない、いけない、思わず想像してしまったわ)んん!それで、どうするのかしら?」
思い浮かんだビジョンを振り払い、女性は刀真達に尋ねる。
「・・・成程、魅力的な提案だ」
「っ!?」
「なら」
「だが、断る!」
女性の提案に惹かれた刀真を見て、ユエが目を見開く。交渉成立と内心ほくそえんでいた女性だったが、刀真はその提案を断った。
「な!?故郷に帰りたくはないの!?」
「帰りたいに決まってるだろう。でも、まだやらなきゃいけないことがあるんでな。それに、俺たちの星を支配しようと考えている相手との交渉なんてするわけないだろう」
「っ!?」
刀真の発言に女性は目を見開く。
「な、な」
「何で分かった・・か?企業秘密だ。帰り方だが、旅をしながら探す・・・いや、今ここであんたから世界を超える方法を聞き出し、奪うって言う手もあるな?」
驚く女性を無視して刀真は不敵な笑みを浮かべ得ながら言う。
「・・・交渉は決裂ね」
どういう手段化は分からないが自分の考えを読み取った刀真を危険対象と認定した女性が手を掲げると、女性の背後に刀真に取って見覚えのあるものが現れた。
「(あれはオーロラカーテン?)」
見覚えのあるものに刀真が驚いている中、そこからこれまた見覚えのある機械兵士が現れた。
「おいおい、オーロラカーテンの次はカッシーンかよ」
「オーロラカーテンの事もカッシーンのことも知ってるだなんて。坊や、貴方いったい何者なの?」
「その言葉そっくりそのまま返させてもらう」
知るはずのない情報を刀真が知っていることに女性はまた驚き、何者なのかを尋ねるもその言葉をそのまま返された。
「教えるわけ・・・・いえ、ここで死ぬ貴方たちには特別に教えてあげるわ。私の名はアゲハ。ハンドレッドの幹部候補の1人よ。そして・・・・」
『ドレッドライバー』
『スチームライナー』
女性、アゲハは長い髪をかきあげながら自身の名前を教えると、武骨な形をしたベルトを腰に巻き、1枚のカードをスラッシュしたあと、ベルトに差し込んだ。
「変身」
オカルティックな音が鳴り響く中、アゲハはベルト中央右側になるレバーを掴み、左側へ開く。すると、黒い霧で包まれた機関車と焔が現れる。機関車がアゲハの周りを一周した後、焔がアゲハを包み、黒い霧を纏った骨が全身に巻き付き、その身を変えた。
『ドレッド零式』
「字は仮面ライダードレッド」
「・・・まじかですか?」
アゲハが仮面ライダーに変身したことに刀真は信じられないような表情をする。
「ふふふ、さぁ、貴方たちの絶望した表情を見せてもらうわ」
「・・・戦闘ロボに仮面ライダーが相手とか勝てる気がしない・・・・とでも言うと思ったか?」
「?」
「そっちがそう来るなら、俺も遠慮なく使わせてもらうぜ」
刀真はアイテムボックスから中央にタヌキの頭部を模したコアがはめ込まれた簡素な外見をしたベルトを取り出し腰に巻く。
『DESIRE-DRIVER』
「そのベルトは!?」
「(このベルトのことを知ってるってことはクォーツァーじゃないな)なら、コイツも知ってるよな?」
刀真はさらに納刀された短刀をあしらい、左右対称で刀から妖しい瘴気が出ているように思わせる外見をしたアイテムをボックスから取り出す。刀真はそのアイテムを2つに分離させ、ドライバーの左右にそれを装填する。
『SET AVENGE』
「・・・・変身」
『BLACK GENERAL BUJIN SWORD』
アゲハがやっていたようにキーワードを呟きながらベルト中央にある納刀された小刀を引き抜くと翠黎の霧が刀真の体を包み、赤い斬撃が縦に走る。赤い斬撃のより霧は晴れ、刀真は全身に黒い甲冑を身に纏っていた。
『READY? FIGHT』
戦いの合図を告げる音声が部屋に鳴り響いた。