推しの子を目指して   作:滑空ペンギン

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第20話 注目の的

 

 

 

 

「よし、それじゃあゲート部屋に突入するよ」

 

ヒカルのその言葉に、前衛組から順に侵入を開始する。

第四階層の階層守護者(フロアガーディアン)は、漆黒の体毛に覆われ大型バス程もある犬のようなモンスターだった。そいつは血のように赤い目でこちらを見つけると、四肢と首に付いた鎖をジャラジャラと鳴らしながら立ち上がる。その体格に相応しい大口を歪ませ、まるでこちらをあざ笑っているようだった。

 

「特徴からあのモンスターはバーゲストの可能性が高いわね」

 

発信(ディセミネーション)』を介して冬子の声が頭の中に響く。

 

「バーゲストなら他に大熊と人型の形態を持っているはずよ。霧を発生させる能力も有るみたいで霧に紛れて襲って来るらしいわ。それからブラックドックを召喚するみたい。図書館の資料によると昭和40年に出現記録があるわ。その時は討伐に特別レイドが発布されたみたいね。即死攻撃も持っているみたいだけど、具体的なデータは無かったわ」

 

冬子が図書館で仕入れた情報を、『交換士(オペレーター)』のスキル『発信(ディセミネーション)』でパーティー全体に共有する。『発信(ディセミネーション)』は発信対象を選べ発声の必要が無いので、知能のあるモンスターや対人戦での情報の秘匿にも使えるので積極的に使用している。

完全に立ち上がりこちらに正対したバーゲストはその巨大な口から濃い霧を吐き出しはじめ、同時にブラックドックが召喚され始める。自身に有利なフィールドを形成しようとするバーゲスト。しかし、わざわざ相手に合わせる必要も無い。ヒカルは足に力を込めて一気に間合いを詰める。忠一も同じことを考えたようで、レベル差もあり少し遅れて飛び込んでくる。

飛び込みながらバーゲストの鼻先を切りつける。剣の長さもあり致命傷には程遠いが、鼻先から出血し霧の発生を止める事は出来た。鼻先を切られ怯んだ隙に、バーゲストの太い前足を忠一の大薙刀が一気に薙ぐ。切断は出来なかったがそれなりのダメージを与えたようで、バーゲストは咄嗟に前足を引いた。

その隙を逃さず、ヒカルは目の前にある右前足を切りつける。両方の前足を切られ体勢を崩したバーゲストは、横に倒れこんだ。

 

「行きます!」

 

カナデ先輩の声が玄室に響く、倒れ込んだバーゲストに向かって、先輩の乗り込んだスーパーロボットを彷彿させる強化外装骨格(アームドゴーレム)『ダイダラ』が走り。五メートルに達する金属の巨人が宙を跳びランニング・ボディプレスを炸裂させる。強化外装骨格(アームドゴーレム)としては規格外の大きさを誇るダイダラだがバーゲストは更に大きい、しかし体勢を崩した状態でこの質量に抱き着かれては容易に起き上がれそうになさそうだ。

楓と由良の二人も強化外装骨格(アームドゴーレム)を展開し、バーゲストの後ろ足の鎖を二人がかりで引っ張っている。楓は両腕が特徴的な2メートルほどのパワードスーツ型の強化外装骨格(アームドゴーレム)で由良の方は、高さだけならカナデ先輩の『ダイダラ』とも張り合えるほどの大型機のだがが。

まるで装甲を剝がされ最低限の骨組みだけの強化外装骨格(アームドゴーレム)にコックピットが付いているような見た目をしている。その二人の力もあり完全に拘束された状態で、アイが抑え込まれたバーゲストの頭部を狙い、ハンマーを振り下ろす。

 

「えい!」

 

一撃目で牙が数本粉砕し、続けざまに二撃めと殴りつける。重い音が響く度に、バーゲストの咆哮が玄室を震わせた。

その周囲では、召喚されたブラックドッグの群れに対し、大地くんが挑発(プロヴォーク)を発動して敵の注意を引き付け残りのメンバーがブラックドックを攻撃している。

ヒカルも槍に持ち替え、バーゲストの急所を狙う。首には巨大な金属製の首輪が装着されているため、隙間を狙い槍を突き刺すように攻撃を仕掛けていく。

不意に熱気を感じ視線を横に向けると、涼香さんがバーゲストの耳の穴に薙刀()を突き刺し、全力で魔力を込めている様子が見えた。薙刀()の刀身が高熱を発している様で耳の奥から肉の焼ける匂いと「ジュウジュウ」という音が響いてくる。たまらずバーゲストの悲鳴が一段と激しくなり振り解こうともがいている。

やがて周囲のブラックドッグも全て殲滅され、バーゲストも集中攻撃に耐えきれず、ついに瘴気となって消散していった。

 

 バーゲストが消えると、そこには巨大なモンスタークリスタルと黒い鎖の山、そしてバーゲストのモンスターカードが残されていた。

 

 ドロップ品はバーゲストとブラックドックのクリスタル、謎の鎖、それにバーゲストのモンスターカードだった。モンスターカードはピクシー達に取られないよう直ぐに回収し、現状使用者が居ないため他のモンスターカード同様売らずに保管しておくことになった。

 

 五階層を少し探索したところで時間切れになり、現在は食堂でダイブ後の打ち上げをしている。

 

 初めて遭遇した鎧犀(アーマーライノセラス)の突進を真正面から受けた大地くんが吹き飛ばされ重傷を負う等とトラブルはあったものの、無事に全員死に戻りすることなく帰還出来た。大地くんも二次職(セカンド)硬盾士(ハードシールダー)に、彩音さんも踊り子(ダンサー)にクラスチェンジ出来たけど、正直皆が安定したレベリングを行うにはもう少しレベルを上げないと危ないかな。

 

 

葦原学園生徒会。同じ敷地内に立つ普通科校舎の年季の入った木造校舎とは対照的に、真新しいコンクリート建築の特級棟の一室。普通科とは違い、外界の家格が反映される特級科では、生徒会にもある程度の格と実力が求められる。

そんな葦原学園生徒会室では、数人の生徒会役員たちが忙しなく書類の処理を進めていた。

 

「ただいまー、やってるかい」

 

生徒会室に気軽な挨拶が響く。

 

「『やってるか』じゃありません! 会長、いったい何処に行っていたんですか!」

 

副会長用の机で書類を処理していた会計のユリカは両手を突きながら立ち上がり、お気楽な様子で帰ってきた生徒会長に怒りを見せながら報告を行う。

 

「会長!アザミ書記も今朝、普通科生を切り捨てたので停学になりましたから、色々と人手が足りないんです。早く手伝ってください」

 

「えっ、アザミもヤっちゃったの? キキョウもだけど学園全体だと今週だけで5件目だよ。流石に多すぎない?」

 

切捨御免状。彼らが話している切り捨てとは、特級科に許された特権の一つであり、校内抜刀許可条にも記載されている『無礼打ち』を指す。

特級科の学生が普通科の学生を無礼打ちした場合、速やかに学園へ届け出を行う必要があり、いかなる理由であろうと二十日間の停学謹慎が課せられる。普通科生が死亡しても停学になるだけであり他にこれといったペナルティは発生しないし罪に問われる事も無い。国籍も抹消されている普通科生は基本的に消耗品でありココ葦原学園では普通科生と特級科生の価値の差を如実に表している。

 

二人いる副会長の一人であるキキョウは数日前から普通科の男子生徒を切り捨て停学中であり、書記のアザミも今朝の通学中に彼女を拉致しレイプしようとした数人の普通科男子、そのリーダー格の首をハネ取り巻きを片端(かたわ)にしたため、現在は学園に書類を提出し停学期間に入っている。

 

学園のシステムに慣れ、学園の女性は全て自分達の性処理の玩具であると勘違いした普通科男子が、特級科の女生徒を襲おうとして返り討ちに遭うに遭うのは、この時期の学園の風物詩の一つである。

多対一の状況と言えど、魂魄結晶(ソルデバイス)を失いダンジョンの外では大幅に身体能力が落ちスキルも使えない普通科生が、魂魄結晶(ソルデバイス)を持ちダンジョンの中と変わらず強化されていてスキルまで使用できる特級科生に敵うはずもなく、一方的な結果になるのは目に見えていた。

 

「この時期の風物詩とはいえここは少年院では無いのだから。学園上層部も最低限の素行審査位はやって欲しいものだ」

 

自分の机で作業をしていた副会長の銀次郎が視線をあげ眼鏡の位置を直しながらそうこぼす。

 

「まったくだよ碌に羅城門にも潜らずにトラブルばかりだからね」

 

そんな銀次郎の言葉に生徒会長である頼治(よりはる)は自分の机に座りながら一人ごちる。

 

「それで、本当にどこへ行っていたのですか?」

 

庶務のミクリがアイスココアを机に置きながら聞いてくる。

 

「普通科に突然入学が決まった二人、その片割れが決闘(メンズーア)をすると聞いたからね、良い機会だと思い。委員会に紛れて見学してきた」

 

その言葉に皆、件の二人について思い当たり納得する。

 

「あ~あの例の二人ですね、入学式直前に突然決まったっていう。会長あの二人の入学は宮内庁から圧力が有ったと言うのは本当ですか?」

 

「おそらく本当だろ、学園に対して勅命が下ったという噂もある位だ。学園上層部の混乱具合もだが。一部の名家達の動きがおかしかった現に私も寿永(・・)様から彼等を気にかけてやる様にとお告げを頂いたぐらいだからね」

 

それなりに普通科と確執のある華組が。唯の生徒であるヒカルを近くで観察するには、顔を隠して行動するのが当たり前な決闘委員は。生徒会長であり学園内で顔が売れている頼治(よりはる)としても都合がよかった。

 

「そして実際にこの目で見た来たが。驚愕としか言いようがなかったよ、前座の一年に勝利するのは想定内だったが、入学して一月に満たない人間が雑魚とはいえ二次職(セカンド)を倒すのは異常としか言えないよ」

 

会長の呟きを聞いた銀次郎はその信じられない言葉にまさかと聞き返してくる。

 

「会長。今の言い方だと一年の方が勝利したと聞こえるのですが」

 

「間違っていないぞ、例の一年が勝ったそれも戦闘系の二次職(セカンド)を鎧袖一触にしていた」

 

「まだ新入生に羅城門が解放されて一月経って無いのですよ?それとも外でレベルを上げていたのですか?」

 

ミクリの質問に、会長の机に積まれている書類を処理しながら頼治(よりはる)は答える。

 

「いやそれは無いんじゃないかな、学園のデータにもレベル1の無職(ノービス)で登録されているし入学式で確認した限りとてもレベルを上げている様には見えなかった」

 

「それなら本当にこの短期間で最低でも二次職(セカンド)までレベルを上げたのでしょうか……」

 

「もしくはとても強力な規格外(イリーガル)に就いたかだが。見た感じでは強力な規格外(イリーガル)特有の外れた感じはしなかった」

 

会長の言葉に室内は異様な雰囲気に包まれるが、本人は構わずココアを一口飲むと書類の山を手早く片付けて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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