2023年1月。IS学園から2人目の男性IS操縦者 井上大河が逃亡し、忽然と姿を消した。彼はどの様に脱走したのか。そして何故逃亡という道を選んだのか。全世界を揺るがすIS学園脱獄事件。その真相が明らかになっていく。
楯無が大河を起こそうとして部屋に向かった時、すでに大河の姿はなかった。楯無は昨晩の間に逃亡したと考えるが、どの様に脱獄したのか。楯無はクローゼットを開けて内部を千冬に見せた。
「こ、これは…!?」
驚愕する千冬の目には…驚くべき光景が…
設置されているクローゼットの内壁が、寮の壁を貫通して切断されていた。
切り口から、ノコギリ状の道具を使用したと思われたが、それを大河がどの様に手に入れたのか、それとも誰かが渡したのかと考えられた。
入学初日…
「ハァ…」
IS学園に入学した初日。大河は自室の壁にもたれかけてため息を溢した。自分はここで3年間過ごさなくてはならないとなると気が遠くなりそうだ。こんな所に何になるんだ。そんなやるせない気持ちに苛立ち、思わず壁を強く叩いた。
「!?」
すると、大河は何かに気づいた。もう一度強く叩くと、わずかに音が響いた。今度は壁に耳をつけて壁をノックすると。音が響いた。
(この壁…中が空道だ…!)
それから横に設置されているクローゼットが目に入った。その瞬間、大河にある気持ちが芽生えた。「早くここから抜け出そう」と。
そこから大河の脱走計画が少しずつ始まった。まず、クローゼット内の内壁に人が這って入れるほどの大きさの線を書く。そして四隅に印をつけた。まずはここからだ。続いては道具の調達だ。
休日の外出を利用して大河はある物を買った。ビニール袋にはひき肉が入っていた。校内へ入り寮へ戻る途中で一夏とすれ違った。
「大河。そのビニール袋に入ってるの何だ?」
「あぁこれ? ひき肉だよ。俺ハンバーガーが大好物だから作るんだよ」
大河は持っているビニール袋からラップでくるんだひき肉を取り出した。ただそれは、5kg程の量だ。それから寮の廊下で千冬にもすれ違った。
「こんにちは。織斑先生」
「ん? それは何だ?」
「ひき肉ですよ」
大河はビニール袋からひき肉を取り出して見せる。すぐにしまうと、自室へ向かおうとすると…
「井上」
「!?」
千冬か大河を呼び止めた。
「もう一度中身をよく見せてみろ」
(気づかれたか…!?)
大河は顔色を変えた。気づかれたか?待て。冷静になるんだ。自分にいい聞かせながら振り向く。
「あと、これもありましたね。これも必要ですから」
大河が取り出したのは、アルミホイルとキッチンペーパー。
ビニール袋から取り出したのを見て、千冬も納得したのか大河にさっさと戻れと言って去っていった。大河は自室に戻りため息をついた。危なかった。気づかれていたら計画は台無しになっていた。そしてビニール袋からひき肉を取り出し、キッチンテーブルに置いた。
「待ってろよ一夏。後で美味いハンバーガーをご馳走してやるからさ」
すると、大河はラップを剥がしたひき肉に手を突っ込み、弄り始めた。すると中から出てきたのは細長いプラスチックのケース。中を開け、ある物を取り出した。それは、5本の細いノコギリの替え刃。何とひき肉の中にノコギリの刃を隠していたのだ。そのまま持ち込んだ当然没収されていただろう。アルミホイルとキッチンペーパーは怪しまれた時用のカモフラージュだ。
こうして、外出をする度にひき肉やバンズ等に紛れさせて、脱走に必要なノコギリやハンドドリル、ドライバーにLEDライト、暗視ゴーグル等を少しずつ手に入れていったのである。
そして、消灯時間。皆が寝静まった中大河は…
「……」
1人、クローゼットの内壁と寮の壁の印の部分にハンドドリルで穴を空け、ノコギリの刃で切り始めた。細心の注意を払いながら。少しずつ、少しずつ。約3週間かけて、夜な夜な壁に穴を開けてあった。そしてついにクローゼットを貫通して壁に穴が空いた。中を覗いてみると…
「嘘だろ…」
何と中は人が1人入れるほどの空洞になっていて断熱材が入っていなかった。
(まさかの手抜き工事かよ…)
知りたくも無い真実を知った大河はクローゼットを閉めた。今日はここまでだ。
それから大河は消灯から1時間の間、モグラの様に穴を掘り始めた。消灯時間に布団から抜け出すと、クローゼット内の穴に入り、スコップで下へ穴を掘った。時間になれば穴を抜け、あらかじめ掘る方向は調べてある。学園の修繕作業でIS学園の設計図をこっそりコピーしていたのだ。下へ進み、それから前へ掘り進む。しかし、ある程度掘り進めた所で掘った土が邪魔し始めた。これらをどうするか。
(そうだ…!)
閃いた。あるじゃないか。この土を隠せる場所が。
大河の楽しみは掘った土をグラウンドやアリーナに捨てること。体育の時やアリーナでの特訓の時にさりげなく捨てる。地面に穴が空いた時は穴の修繕に掘った土を紛れさせていた。土の処分先を見つけ、そこからさらに行動は大胆になっていった。消灯する時にISを片腕だけ展開しておき、消灯時間になったらすぐにクローゼットを開けて穴の中へ入り、部分展開した右手だけで穴を掘り進めた。音で気づかれないように慎重に。そして掘り続けること約3ヶ月。穴は、全長400メートルに達した。
「よし…ここから下だ…」
大河はIS学園の設計図を見ながら下へ大きく掘り進み始めた。掘り進めて15分。ガリっと音がし、土とは違う感触がした。コンクリートだ。ここを崩そうとなれば音でバレる可能性が高い。しかし…
(ん? ヒビが入ってる…?)
ライトで照らすと、コンクリート部分にヒビが入っている。もしかしたら崩せるかもしれない。大河は人が2人入れるくらいの大きさまでに穴を横に掘り、金属の棒とハンマーでヒビが入ってる場所を叩き始めた。叩いているうちに固いはずのコンクリートはどんどんヒビが広がっていき、ボコっと穴が合いた。貫通したのだ。大河は穴の中をライトで照らすと、大型の配管が壁を貫通して設置されていた。間違いない。ここだ。大河はここで引き返し、急いでベットに戻るのだった。
大河は計画は次の段階に入った。
「大河、何作ってんだ?」
「猿梯子だよ。作業で使うんだ」
大河が作り始めたのは猿梯子。丈夫なロープと廃材を組み合わせて作るお手製の物だ。全長は約2メートル。これだけあれば十分だ。焦らず、慎重に。1つ1つをこなしていく。
(よし…次は…)
「ッ! よし…」
大河は制作した猿梯子を穴の中に金属製のフレームで固定し、ゆっくりと垂らした。そして慎重に足を乗せていき下降していく。一方間違えれば足を踏み外して転落だ。焦らす慎重に。ゆっくりと降りていく。そして、壁を貫通する巨大な配管に降りた。そこは地下の配管が通る場所になっていた。大河は配管に目をやると何やら違和感を感じた。大河は軍手を取って触れる。触れた感じ鉄ではない。よく見ると、銀の塗装が剥げて茶色い部分かちらほら見える。
「この配管…鉄じゃない…陶管だ…しかも結構古いもんだし…」
何とこの配管は鉄ではなく陶管。かなり年季の入ったもので銀の塗装で鉄製に誤魔化していた。しかも…
「壁の所シリコンぶち込んであるな…ここヒビ入ってるぞ…それに接合部は接着剤の上に補修テープで巻かれてるし、完全に手抜きだろ」
それだけじゃない。バルブやら配管の継ぎ目等のあちらこちらに見える杜撰な手抜き工事。よくバレなかったなと大河は感じた。設計図を見るとこの陶管は雨水管とあり、出口は島の西側の海に流れる様になっている。
「これだ…!」
海に通じる道。抜けるならここだ。抜け出すルートは決まった。大河の計画はまた次の段階に進んだ。
ある日、大河は寮の外に行き島の西側へ向かった。海に通じる雨水管を探す為だ。歩く事約10分。茂みの中を進むと、その下に銀色の塗装が剥げかかった巨大な雨水管が飛び出していた。その下はちょうど海。海面すれすれの辺りに配管の口がある。後ろを振り返ると、大河の部屋からほぼ一直線。まさにここから脱出しろと言わんばかりの配置。
準備は全て整った。後は決行日。時間は夜一択。出来れば物音が抑えられる様にしたい。そう考えていると神の思し召か大河に追い風が吹いた。
「大河、明日の夜台風来るってさ」
「マジで?」
台風。これだ。暴風雨の音で掻き消すことが出来る。決行日は決まった。
そして、その日を迎えた。外は雨音の中雷鳴が響く。消灯時間に大河はカーテンから外を覗くと台風で雨は土砂降りで風が吹き荒れ、雷が鳴り響く。今日だ。今日しかない。
(このIS学園に来て約1年、いろんな事があったなぁ…)
僅かな時間だが過ごした学園生活が頭の中をよぎる。しかし、今の彼にもう未練はない。
(じゃあな。一夏。思いの外楽しかったよ)
大河は寝巻きを脱ぎ、黒いウエットスーツを着てその上に黒のレインスーツを着た。そして、身の回りの私物やら衣服などを鞄に詰め込み、ビニール袋で何重にも巻いて防水処置を施した。
「ハァ…!ハァ…!」
大河はライトをつけて鞄を持ちながらクローゼットに開けた穴から入り、掘った穴の中をひたすら這って進んだ。そして穴へ到達。まずは鞄を先に落として次に猿梯子で下に降りる。焦らず慎重に降りていく。フレームで固定してあるとはいえ、重みで落下する危険がある。暗い中ライトの灯りだけが頼りだ。そして無事に配管の上に降り立った。配管からは水が流れる音が聞こえる。
大河は近くに隠していた鉄のハンマーを2本手に取る。ヒビの入った部分にハンマーを当て、更に上からハンマーで叩いた。その瞬間、配管のヒビが広がった。一息ついてもう一度ハンマーを振り上げ、ハンマー目掛けて振りおろした。ひびが更に広がった。
(もう少しだ…)
ここまで来れば、あと少しで陶管に穴を空ける事が出来る。そして、ハンマーを大きく振り上げ、渾身の一撃を放った。
「ッ!!」
陶管のひびは渾身の一撃を受けて一気に広がり、そして大きな穴が空いた。その瞬間、中の雨水が周囲に飛び散った。冷たい雨水が大河にもかかり、身体を冷やした。大河は中を除き、ライトを照らして流れる方向を見た。そして鞄を手に持ち、配管の中へ入っていった。
「ハァ…ハァ…!」
大河は冷たい雨水が流れる配管の中を這っていった。こんな回りくどい事をする必要があるのかと言われれば必要ないだろう。外からの脱走は恐らく24時間体制で監視している職員に見つかる可能性がある。それゆえにこんな面倒な方法を取らなければならないのだ。
(冷たい…!身体が冷える…!)
大河の身体は雨水で冷え切ったいた。配管の中を這う中、雨水に浸かりながらの移動なのでとにかく身体が凍える。手も悴んでいる。一刻も早く脱出しないと、低体温症になってしまう。寒さと後ろから流れる雨水に耐えながらひたすら這った。そして、這い続けること約30分。前方から雨風の音と雷鳴が聞こえてきた。出口だ。大河はとうとう東側の出口に辿り着いたのだ。
(外だ…!)
大河は配管から外を覗いて周囲を見た。誰もいない。大河はそのまま配管から這い出て鞄を茂みの中へ投げ入れて海に入り、そして茂みの中へ上がって身を隠した。雷鳴と暴風雨が吹き荒れる中、もう一度周囲を見渡す。誰もいない事を確認し、茂みの中に石で重しをしたグリーンシートを剥いだ。そこにあるのは、黒いゴムボート。この日のために用意しておいたものだ。本当はエンジン付きがいいのだが、そんな贅沢な事は言えない。急いで海面に浮かべ、鞄の中から取り出したロープで固定してオールで漕ぎ始めた。目指すは東京の海岸。激しく暴風雨で波は大しけ。その中をゴムボートで進むなど、無謀過ぎだ。しかし、そんな事は百も承知。向かい風が吹き荒れ、波は大きくうねり、ゴムボートを大きく揺らす。そして、横殴りの雨が大河に降り注ぐ。ISを展開したい所だが、見つかる可能性がある。極寒と台風の中で、暗闇の中自分のライトの明かりと暗視ゴーグルが頼りだ。
「うわぁぁぁ!」
風でうねる波が大きくゴムボートを揺らし、大河は落下しそうになる。しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。ひたすら漕ぐ。漕ぎ続ける。手が悴む。凍える。体温が奪われていく。雨と風、冷たい海水を浴びながらもひたすら漕ぐ。その時…
「うぉぉぉぁぁぁ!!」
大きくうねる波がゴムボートを揺らし、大河は海に投げ出された。海に落ちた大河は流されるゴムボートを必死に泳いで追いかける。この冷たい海水から出ないと命が危ない。暗い中大河は海の中を凍えながら泳ぐ。ゴムボートに手を伸ばし、しがみついた。暴風雨の中大河は波に大きく揺られながらも必死にしがみつく。波が少し穏やかになった所で一気に乗り込んだ。
「……!ハァ…ハァ…寒い…!」
極寒の海に放り出された大河の体温は一気に下がっていた。身体は凍え手は悴んで力が入らない。しかし、それでもここで倒れるわけにはいかない。再びオールを手にしてゴムボートを暴風雨の中漕いだ。
そして、漕ぎ続ける事約1時間半…
「………」
体力も限界。いつまで漕ぎ続ければいいのかと思い続けていると、遠方にかすかに何かが見えた。明かりだ。まさしく陸地だ。海沿いの道路の街灯の光だ。近づいて来たのだ。大河は最後の力を振り絞って、オールで漕ぐ。街灯の光が、だんだんと近づいてくる。
「ハァ…!ハァ…!」
そしてゴムボートは砂浜に乗り上げた。大河はオールを投げ捨ててゴムボートも乗り捨てた。鞄を持ち、砂浜に足を踏み入れ、自分が今いるのが東京の海岸にいる事を感じた。やった。ついに成し遂げた。井上大河はついにIS学園から脱獄したのだ。極寒の中で大河は雷が鳴り降りしきる雨の中両手で天を仰いだ。
「遂に…遂に抜け出した…!」
喜びを噛み締め、そのまま井上大河は暗闇の中へ消えていった…
いかがだったでしょうか?ついに大河がIS学園から脱獄しました。作者の足りない頭で考えて初期の頃に思い描いた展開とは別物になってしまいました。今まで更新が遅れてすみませんでした。リアルの方で忙しくなかなか執筆の時間が取れませんでした。そのため期待はずれな結果になってしまってすみません。必ず完結させますのでよろしくお願いします。今回はここまでです。感想お待ちしています。