暁の黄泉鴉   作:マサイのゴリラ

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127.無限の力

 散開し、四機のジェット戦闘機は東饗(とうきょう)を囲うようにして飛ぶ。

 ラプター1は玉藻に向け、核弾頭を抱えて飛行する。

 

「……核爆弾。それで私を仕留められると思っているのか。まあ、人間らしい考えだな」

 

 黄金の妖力を発する玉藻は、腕を組んでつぶやいた。

 自分に向かってくる者は歓迎する。

 しかし、国連軍が取った手段。

 それそのものについては、玉藻の評価は良くなかった。

 「行き詰まると、いつもそ(・)れ(・)だ(・)な(・)」と。

 

 

「あれが、玉藻の真の姿……。それに、戦闘機だと……!?」

 

 燃え盛る地上から空を見上げる鴉も、乱入してきたラプター編隊に気がつく。

 それがどこの軍の所属なのかは理解できなかったが、彼の脳裏にはかつて人間だった頃と思しき記憶がチラついていた。

 

「……味方、なのか……。まさか玉藻を討伐しに……?」

 

 鴉はそう推察する。 

 何者なのかは知らないが、玉藻が日本以外の国々にも手を出したことは彼も知っている。

 経済的な支配ではなく、破壊的侵略。

 それに対する報復を望む者が、あの戦闘機を駆っているのだと。

 

「無茶だ……。尋常の術では、やつは殺せないぞ」

 

 

「兵器も使わず、部下も連れず。それでも海外の主要国を滅ぼした……。たった一人で。その事実を、呑み込めないわけでもあるまい」

 

 鴉の考えは玉藻とも共通していた。

 核弾頭を抱えて突っ込んでくる一機の戦闘機を見つめながら、玉藻はつぶやく。

 

「神秘の力を知るがいい」

 

 玉藻の妖力が爆発的に解放される。

 背後に現れるは、九つの金色の尾。

 そして、彼は鯨類のエコーロケーションのように霊力を発した。

 

『国連軍……で当たっているかな?』

 

 

『『『!?』』』

 

 ラプター1から5まで。

 パイロットたちの脳に玉藻の声が響く。

 

『"Demon Fox"……!? 馬鹿な、無線機にジャミングしてきたのか……!? 何も持っていない様に見えたが』

 

『ラプター2も聞こえたか』

 

『テレキネシスか……!』

 

 パイロットたちはすぐに理解する。

 玉藻が膨大な霊力を発し、数キロメートルの距離を取りながら旋回する戦闘機に霊力波をぶつけ、念話を実現させていた。

 そして英語で語りかける。

 

『ようこそ、我が日本へ。しかし、無断で侵入し土足で上がり込んでくるとは感心しないな』

 

『土足? 冗談だろ。俺たちは地に足をつけてないんだぜ。それにこれは家宅捜査さ』

 

『令状はあるんだよ! 持って来てねぇけどな!』

 

『……はいはい。くだらないジョークはそれまでだ』

 

 玉藻は発する妖力を強める。

 

『……!? 何だ、あの光は……!?』

 

 パイロットの一人が驚愕する。

 玉藻を中心に、金色の光が地上を、夜空を照らしていた。

 パイロットたちが加山優香のように、高い霊力の持ち主として目覚めたのではない。

 事実、玉藻と鴉の目に見える"赤黒い太陽"は彼らには見えていなかった。

 

『私の妖力を、全力より少し手前ほどまで解放した。君たちのように低い霊力の持ち主でも、肉眼で見られるようにね』

 

『……何を』

 

『どうせここで死ぬんだ。最期ぐらい、パイロットらしく……派手に散らせてあげようと思ってね。大好きだろう? アクロバティックな飛行は!』

 

 玉藻は両手のひらに妖力を充填する。

 野球ボールほどの大きさに輝く光の球を掲げて、そしてラプター1に向けて飛び出した。

 

『……ラプター2から5。実行(エグゼキュート)』

 

 ラプター1はさらに加速し、玉藻に向かう。

 

「消えろっ」

 

 玉藻は正面から来るラプター1に向けて、両手から妖力を爆発させる。

 まっすぐ、二本の極太の妖力光線が戦闘機に放たれた。

 ラプター1はすぐさま機体を翻(ひるがえ)し、妖力光線を間一髪で回避。

 そして玉藻の真横をかすめるようにして突き抜けて行った。

 

「……おや」

(核弾頭(アレ)はすぐには使わないつもりか……?)

 

 玉藻とすれ違い、距離を離していくラプター1。

 それを振り返りながら眺めている玉藻は、真横から近づいてくる高周波音を耳で拾った。

 ラプター2とラプター4だった。

 

「ははっ、いいねぇ!」

 

 バルカン砲の掃射を玉藻に向けて行うラプター4。

 ラプター2は玉藻の注意を引き受けるために近づいただけであり、すぐさま機体の頭を持ち上げてラプター4の攻撃を回避する。

 超高速連射される弾丸は玉藻に届く──ことはなく、見えない壁によって阻まれた。

 

「接近戦(ドッグファイト)がお望みかな」

 

『!』

 

 玉藻は両手を広げて、極太の妖力光線を再び発射する。 

 攻撃を中断したラプター4はすぐさま退避に専念し、ラプター2と交差するようにして玉藻から逃れた。

 しかし玉藻のターンは始まったばかりである。

 彼は妖力光線を放ちながら、踊るように攻撃と破壊を振り撒く。

 攻撃に参加していなかったラプター3とラプター5も巻き込むようにして、全方位に妖力光線を振り回した。

 

「くそっ! めちゃくちゃだ!」

 

 地上の鴉もまた、回避に心血を注いでいた。

 妖力光線が地上を削れば、その地点から残留した妖力が噴き出して爆発していく。

 これに巻き込まれないよう、未だ"暗い太陽"の力をまといながらも疾走して巻き添えとなることを避ける。

 

『ッ!? まず──』

 

 玉藻の妖力光線が、ラプター3の左翼をかすめて破壊する。

 機体は高速スピンしながら地面へ真っ逆さまに落ちていき、爆発とともに大破した。

 

『……ラプター3、大破』

 

 ラプター1の低い声が無線に入る。

 無機質で、感情を排した声色だった。

 それとは対照的に玉藻は。

 

「まずは一機」

 

 炎と黒煙を上げる墜落地点を横目に、笑顔でそう口にした。

 

「意外と速いな。私の知ってる機体(やつ)よりも性能が良いのか。ぱっと見、マッハ3を超えている」

 

 玉藻は残り四機となった敵部隊を追いながら分析を続ける。

 極太の妖力光線を振り回すその様は、チョークで蟻(アリ)を追い詰める少年だった。

 ラプター4が玉藻を熱源センサーで捕捉し、搭載したミサイルを発射する。

 玉藻を覆う透明な結界(ドーム)は強力な妖怪の攻撃ですら破れず、物理的な破壊力だけでは当然通用するはずもなく。

 ミサイルは結界にぶつかり、爆発した。

 

『ラプター1!』

 

『Wilco(了解した)』

 

 ラプター2の呼びかけに、ラプター1は強く応える。

 ラプター1以外の三機は、玉藻の元へと一気に向かう。

 様子が変わった編隊に、玉藻は攻撃を止めて悪癖である観察を始めた。

 

「……まさか、使うつもりか?」

 

 三機は煙幕をばら撒き、玉藻の視界からラプター1を隠そうとする。

 彼ら普通の人間の目には、"暗い太陽"の赤黒い空も真っ黒な夜空にしか見えない。

 それでも玉藻が戦闘機を追えるのは、何かしらの方法で見えているからだというのがパイロットたちの考えだった。

 

『"Demon Fox"、我々の力がお前に通用しないのは想定内だ。ラプター3の死も含めてな。だがお前は、自分の底も我々に見せた』

 

 東饗(とうきょう)23区よりも外を飛行するラプター1は、最高速度で玉藻の元へ向かう。

 核爆弾を落とす準備は、すでにできていた。

 

『お前を覆う結界(バリア)は透明だったな。ならば通すはずだ。光は。原爆の──』

 

 

 ──電磁波(ガンマ線)は!

 

 

 ガンマ線は電磁波。

 つまり、波長の短い光の一種である。

 透明ならば、光は通る。

 熱と爆発が届かずとも、放射線が玉藻の体を蝕むはず。

 ラプター1は煙幕にまぎれ、核弾頭を内包する兵器倉(ウェポンベイ)を開放。

 残る四機と東饗もろとも、全てを塵にする自爆作戦を決行する──

 

 

「──と、いうことを考えていたのはわかってた」

 

 

『『『!!?』』』

 

 一億度を超える爆炎と放射線が放たれるはずだった夜空は、絶えず静寂を貫いた。

 死を覚悟したパイロットたちは、生きている自身に驚きを隠せない。

 そして玉藻も当然生きており、彼だけが何が起こったのかを理解していた。

 

「まあ、多少なり知識があれば熱が届かずとも放射線で殺せそうだ、と思うだろうね。透明な結界を張っていたらね。やはり頭が弱い! 私が、透明じゃない結界も操れるという可能性を除外していたなぁ〜〜」

 

 ラプター1が弾頭を投下した場所には、真っ黒い球体が浮かんでいた。

 弾頭を包み込むほどの大きさ──直径五メートルほど──のそれは、玉藻が生成した結(・)界(・)だった。

 

「光も何も通さない……加えて、私を包む結界と性能は特に変わらないものだ。原爆だろうが、ガンマ線バーストだろうが閉じ込められる、最強の壁さ!」

 

 この時点で、ラプター編隊の作戦は失敗した。

 そして、彼らの死も。

 

「解放」

 

 玉藻はパチンっと指を鳴らす。

 その瞬間、黒い球体の一部分に穴が開き──真っ白い光線が解き放たれた。

 そして、玉藻から離れつつあったラプター1に直撃、蒸発させる。

 

『ラプター1!!』

 

「空に向けて撃ったから、核の雨が降るようなことはないが……空気の中の塵のほんの少しは放射化したかなぁ。ツァーリ・ボンバ並みの核爆弾だったら、流石に対処に困ったけども」

 

 玉藻は頭をかきながら、金色の尾を揺らす。

 ラプター編隊が圧倒的な戦力差を理解し、茫然自失しながら機体を動かす中、玉藻だけは笑っていた。

 ここからは、掃除だった。

 

「そぉれ」

 

『!?』

 

 玉藻は九尾の先から細い妖力光線を放つ。

 三機は攻撃もできず、光線から逃れることしかできなかった。

 回避そのものは三機にとって容易であったが、玉藻からすればまだまだこれは遊びであり。

 九本の光線を避けていくのを見た玉藻は、指先からも妖力光線を発射する。

 合計、十九の紫電色の光線だった。

 

「さよなら」

 

 玉藻が両手を振るうと同時に、五本二対の妖力光線が網目状になって戦闘機に襲いかかる。

 一瞬でラプター2とラプター5がバラバラに切断され、鉄屑になって地面へ墜落していった。

 ラプター4だけが玉藻の魔の手を逃れ、東饗から離脱。

 東饗湾を突っ切り、太平洋へ向かっていた。

 

『映像は、押さえた……。人類の、次の反撃のために……必ず、持ち帰っ──』

 

「"昏御津羽(くらみつは)"」

 

 直後、東饗から南東の空が紫電色に輝いた。

 海のど真ん中、空を覆う厚い雲を突き破るように、玉藻の妖力の色の巨大な光柱がそびえた。

 玉藻がラプター4のパイロットの魂に流し込んだ、膨大な妖力の奔流(ほんりゅう)そのものである。

 

 

「…………!!」

 

 鴉は地上から、その全てを目にしていた。

 圧倒的。

 その一言に尽きた。

 怯えてはいない。

 怖気てもいない。

 ただ、脚が震えていた。

 

『楽しんでいただけたかな? 鴉』

 

「! 玉藻……!」

 

 鴉の頭に声が響く。

 再びの念話である。

 

『とまあ、こんな感じだ。私の力は。これだけ妖力を使ったら流石に消耗……するなんてことはなくてね』

 

「……なに?」

 

『私の妖力は無(・)限(・)なんだ。そう、文字通り……だからこその、最強』

 

 玉藻の尾が風に揺れる。 

 体毛の一本一本が、キラリと金色に輝いた。

 

 

 

 

 

 

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