勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
自分のやらかしの責任を取るため、夜間警備の任を仰せつかったその夜。
「こうして野外で一晩を過ごしていると、魔王討伐の旅路を思い出しますね。あの頃は、寝床に贅沢を言ってられるような状況ではありませんでしたし」
「そうだなぁ。ついこの間までそんな生活が当たり前だったのに、今となっちゃ遠い昔みたいに思えるから不思議だよ」
思っていた通りと言うべきか、ジュリアは家に帰ることなく俺と共に見張りをすると言い出した。
こうなったのも俺の責任なので、一緒に残る必要はこれっぽっちもないのだが、『夫の不始末は、妻である自分の不始末と同義。私も微力ながら付き合います』と言って聞かず。
「ジュリアのスープ、他の警備の人達にも好評だったぞ。皆、涙を流しながら喜んでたわ」
「それも当然でしょう。この世で最も尊く、愛くるしい存在である私から施しを得られるのですから、彼らはもはや一生分の幸運を使い果たしたと言っても過言ではありません」
「過言だわ」
夜勤の人たちの労を労うため、食事を作ったり、体の不調や怪我を治したりと、聖女じみたことをやっていた。
ジュリアは紛れもなく聖女なのだが、外面モードとのギャップがあれすぎて……。
「そう言うスレイだって、私に比肩するくらいには大人気じゃないですか」
「そうか? 別に俺、カッコいいわけでもないのに?」
「私にとってはこの世で何よりも魅力的……ゲフンゲフン! すみません、口が滑りました。今の言葉は忘れなさい」
「難しいことを言うなぁ。……分かった。忘れる」
「はいその返事は間違いです。そこは『ごめん、よく聞こえなかった』と言って、そもそも無かったことにするのができる男の言動というものです。『忘れる』だったら、聞こえていたという事実が残ってしまうじゃないですか」
「難しいことを言うなぁ」
俺にその辺りの機微を求めないでほしい。
「そういえば、昼間に会ったセリーナさんとソニアさんのことで気になったことがあるんだけど」
「ええ、あの綺麗なお姉さんたちがどうしました? まさかとは思いますけど浮気ですか? 見た目が派手でギャルっぽいのに、実際の性格は内気でおどおどしているセリーナさんのギャップにやられましたか? それとも、知らず知らずのうちに妖しい色気を醸し出してしまっているソニアさんの方に目を奪われましたか? もしや、両方とも自分のものにしたいと思っているとか抜かしませんよね? そんな世迷言を口から発してみなさい。そんなことをしたあかつきには、スレイの目の前に私の亡骸が出来上がることになりますよ。貴方からの愛を享受できなくなったなら、こんな世界に用はありませんからね。直接死後の世界にいるであろう神に直談判して、代わりに私がこの世を統べる新たな神として爆誕してやります。そしてスレイが天寿を全うし、審判を下すまで待ち続けましょう。勿論内容は有罪です。なにせこの私を袖にするという、ありとあらゆる罪の中で最も重い大罪を犯したのですから。その刑罰の内容も決めないといけないですね。そうだ、常に私のそばに付き従い続けると言うものにしましょう。いわば終身刑です。もう死後の世界なので、永遠に私から離れられなくなりますが、まあこの程度誤差みたいなものでしょう。そんなことにはなりたくないでしょう? はい、ここでなりたくないと言ったら大減点です。私と共に過ごすことを苦痛に感じるなどと宣うなんて、不遜にも程がある暴挙なのは周知の事実だからです。とにかく、死んだ程度で私から逃げられると思っているなら、能天気であると評価する他なし。むしろ死後が本番とも言えますね。死んでなお愛する夫に連れ添う妻の鑑。無限に褒め称えられるべき偉業です。そんな甲斐甲斐しい私を褒めてください。いいから褒めろ」
「今日も支離滅裂具合が絶好調だな」
化け物かこやつは。
女性の話題を出すだけで暴走するとか。
もはや一種の言論弾圧では?
「そういうのじゃなくて、シスターさんでも恋人作ったり結婚したりは大丈夫なのかってのを聞きたかっただけだ。ジュリアと結婚する時もそれで俺も悩んでたし」
「なんだそんなことですか。それならそうと言ってくださいよ。スレイのせいで早とちりしちゃったじゃないですか」
異性の名前を出すだけで言葉の洪水を浴びせてきたのはどこの誰だと思ってんだ。
そのあたり反論したいところではあるが、したところで無駄なのは百も承知なので、黙ってるけど。
「基本的に二十歳になるまでは禁止されてますが、それ以降なら別に問題ありませんよ。一生結婚できなくなるとか、そんな厳しいものではないのです」
「そうだったのか。俺はてっきり、生涯を神様に捧げるとかそんな感じのものかと思ってたわ」
「若いうちに妊娠とか出産すると命に関わるからってことで、年齢制限されてるだけなんですけどね。普通に神父でもシスターでも結婚できます」
……神様関係ないじゃん。
「そもそも宗教の教えなんてものは、やったら危ないことを禁止するための理由付けで使われることもありますし」
「そうなん?」
「味は美味しいですが、ちゃんと調理しないと食中毒や寄生虫に寄生されたりする動物の肉があったとします。スレイも感染症くらいは知ってるでしょう?」
「……まあそれくらいは。ばい菌が体に入ってくることだろ?」
母さんや、小さい頃に通っていた教室でも教わったことがある。
なんでも、ばい菌という、目には見えないくらい小さな生物があちこちにいて、それが自分の体に侵入することで、風邪とか食中毒になるとかで。
「でも大昔には感染とか寄生虫とかそういった概念がないですし、もし一部の人が理解できていたとしても、それでも大衆に広まるような知識じゃありません。なので多くの人たちは『なぜこの肉は美味しいのに、我々は食べてはいけないのか』の理由が理解できていないわけです」
「ふむふむ」
「そこで偉い人は考えました。『もう神様がダメって言ってるからダメってことにしよう』と」
「そうなの!?」
「まあ、諸説はありますけどね。なんにせよ、神様が禁止してると言うと、割と多くの人が受け入れてくれるんですよ。我々の結婚などの話も、体の成熟し切っていないうちだと危険だから禁止されてるだけです。教義的には産めよ増やせよ地に満ちよですから」
そういうことだったのか。
…………あれ?
「じゃあ、ジュリアが結婚するのも本当はダメじゃねえの? まだ十八歳だろ?」
「そうですよ。お酒は大丈夫ですし、婚姻に関しても法律的には問題ありませんが、本来教義的な意味では結婚できません」
「なんでそこで無理に俺と結婚しようしたんだよ? あと二年待ってれば何にも問題なかったじゃないか」
なんとなく浮かんだ疑問を問いかけると、ジュリアはやれやれといった様子で肩をすくめる。
なんか腹立つな。
「そんなもの、さっさとスレイと一緒に生活してイチャラブしたかったから以外に理由がいりますか? 私は寂しがり屋さんなんですよ? 二年もスレイをおあずけされるとか待ってられません。魔王を倒したんですから、これくらいのご褒美あって然るべきでしょう」
そんな苛立ちも、その当のジュリアの言葉で吹っ飛んだが。
「な、なんだよ急に……」
「急ではありません。今日の付き添いだって、貴方がいない家に帰ったら、一人ぼっちになったような気分になって耐えられないからですよ? それくらい私はスレイから離れたくないのです」
「……なんか、最近のジュリアは素直になることが多いな」
心臓に悪いからやめてほしい。
「お嫌ですか?」
「むしろ好きだけど」
本心ではやめてほしくないどころか、むしろ大歓迎ではある。
ただ、俺の顔が人様に向けられなくなるような気持ちの悪いニヤけ顔になってしまうのが嫌なだけで。
そんな歪み切った自分の顔をどうにか戻そうと奮闘していると、毛布に包まったジュリアがこちらに手招きして。
「それではスレイ。早く一緒の毛布に包まりましょう。そろそろ春になりますが、まだまだ寒い夜が続いています。いくらスレイがおバカさんだとは言ってもこの極寒の環境にある以上、風邪をひいてもおかしくはないというもの。こんな夜は互いに身を寄せ合って温まるのが何よりベストな対応です。見張り台の上だと風も強いせいで体温も奪われますし、これは仕方なく、本当に仕方なく密着せざるを得ない状況だから提案しているのであって、私がスレイの体に引っ付いて安心感を得ようとしたりイチャイチャしたり匂いを嗅いだりするために要求しているわけではないのでそこは勘違いしないように。まあ? 私の気持ちを勘違いして欲しくないだけで? もしもスレイがそういった下卑た欲望を我慢できずに、私とべっちょりくっつきたいのであれば? そこは喜んで……もとい、イヤイヤながらも貴方の妻としては、そういう夫の欲求には応える義務があるといいますか? 私も世界一心の広い無敵の聖女様ですから、スレイがどうしてもと言うのであれば、そんな愚かな勇者様の慎ましい希望程度なら受け入れて差し上げますよ? さあ来なさいスレイ。こちらは受け入れ準備は万端です」
「もうちょっと見張ってたいから、ジュリアは先に寝てていいぞ」
「しのごの言わず早くこっちに来なさい。いじけますよ」
「ウス」