神殺鎗は、神々の世界に生きる   作:レヴィ

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#18 Like ash

「これで良かったんやろ?」

 

どろりと溶けるような闇の中。

両の手を服の袖口に突っ込んだまま崩れかけの煉瓦壁を背にもたれかかったギンは、暗い空を見上げながらゆっくりと口を開いた。

 

「……忠告はしてきたの?」

 

「そりゃもちろん」

 

「なら完璧よ」

 

壁を挟み、ギンとフレイヤの二人は互いに顔を合わせることもないまま言葉を交わす。

フレイヤは目深に被っていたフードをほんの少しだけずり上げると、ふぅと一息吐いた。

 

「……それで?何が訊きたいの?」

 

「カミサマが知ってることや」

 

「ふぅん……」

 

白。

まぁここで嘘をつくはずはないものね、とフレイヤは目を伏せた。

 

「……最初に言っておくわ。今から私が言う事は、とある人物から聞いたことの受け売りよ。情報の裏も取れていない。それでもいいわね?」

 

「ほな誰から聞いたか教えてもらえます?」

 

「言うわけないじゃない。それを言ったら、それこそ私は用済みじゃない」

 

「ありゃ、バレてもうたか」

 

「貴方ねぇ……」

 

神である自分への、あまりにも不遜なギンの態度。

頭痛とため息を強引に喉奥へ押し込んだフレイヤは、再び息を吐いた。

 

「……結論から言うわ。貴方が尸魂界へ帰る方法は」

 

 

 

恐らく無い。

 

 

 

暗闇。そして、静寂。

 

 

 

 

 

#18 Like ash

 

 

 

 

 

「……驚かないのね」

 

「まぁ」

 

息を吞む音も、心臓が跳ねる音も、まして、声一つ発さない。

まるで自分の放った言葉が聞こえていなかったかのように平然とするギンに、フレイヤは首を傾げた。

 

「尸魂界。虚。死神。初めて聞いた時は、まるで御伽噺かと思ったわよ」

 

「へぇ、カミサマでも驚くんかい」

 

「神様だから驚くのよ。何億年も生きてるのだから、世界の大抵のことは知っている自負があるわ。その私が聞いたこともない単語の連続だったのだもの」

 

「ま、そりゃそうか」

 

ククッと声を押し殺して笑うギンに、フレイヤはとうとうため息を吐いた。

 

「貴方ねぇ。帰りたいから私に尸魂界について調査させてるんじゃないの?」

 

「さて。どうやったかなぁ」

 

黒。しかし、明らかなすっとぼけ。

本当にやりにくい男ね、とフレイヤは小声で不満を漏らした。

 

「……私からすると、貴方のような人間……いえ、死神だったわね。には、さっさと帰ってもらいたいところなのだけどね」

 

「……せやろな」

 

「まぁ、私にこの情報を教えた人物も、調査を続けると言っていたわ。帰る方法もまた見つかるかもしれないのだから、気長に待っていなさい。何百年、何千年と寿命があるのでしょう?」

 

「そうさせてもらいますわ」

 

かさりという、ギンが壁から背を上げた音がフレイヤの耳に届く。

 

「……それにしても、良ぅボクに『帰れない』って伝える気になったなァ。ボクがカミサマのことを殺すとは考えなかったんかい?」

 

「考えたわよ」

 

この狐、どうせニヤニヤしてやがる。

壁で隔てられているため表情までは見えないながらも、声色だけで手に取るようにギンの表情が分かるフレイヤは内心で口汚く罵りながらも、それをぐっと抑えてため息を吐いた。

 

「でも、貴方はそこまで短絡的ではないでしょう。情報を持っていないから殺す、なんて野蛮人にはとても見えないわよ」

 

「買いかぶられたもんやなぁ」

 

「事実を言ったまでよ」

 

短絡的ならもっとやり易かったのだけどね。

見た目にそぐわない老獪な聡明さを持つギンに毒づくフレイヤ。

 

「で?他に訊きたいことは?」

 

「特に」

 

「……そう。ま、何か訊きたいことができたらまた来なさい。オッタルにもギンは通すよう伝えておくわ」

 

「おおきに」

 

「シルの時は絶対に話しかけないで頂戴」

 

「分かっとるよ」

 

きぃ。

鳥が鳴いた。

 

「……最後に」

 

「ん、何や」

 

「どうして……帰れないと分かっても、そんな平然としていられるの?」

 

少年が遊びから帰って来ても、家が真っ暗だった時。

怪我をした冒険者が復帰しても、誰も歓迎してくれなかった時。

孤独。

 

「聞いたわ。護廷十三隊のことも、少し。貴方もそこの隊士だったのでしょう?」

 

「まぁ」

 

「それなら、帰る場所があるじゃない。何で?何でそう、平然としていられるの?」

 

この男は、その(孤独)限りではない。

帰る場所があるはずなのに。

なのに、どうして。

 

「……どうしてやと思う?」

 

「知らないわよ……」

 

「それが死神の倫理観や、言うたら答えになる?」

 

「……私が嘘を見抜けること、忘れたのかしら」

 

「せやったな」

 

わざとらしい嘘を吐くギンと、フードを深く被り直すフレイヤ。

 

「……答えは」

 

「え?」

 

その場を立ち去ろうとしたフレイヤの背中に、今にも掻き消えそうな声が届いた。

 

「答えは、それがボクだからや」

 

「貴方、何言って……」

 

フレイヤが振り返った時にはもう、ギンの気配はまるで、灰のように消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

願わくば。

 

願わくば、ボクのことなど忘れてほしい。

 

イヅルにも。乱菊にも。

 

 

 

 

 

 




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