超有能な幼なじみを堕落させたんだがなんかおかしい   作:散髪どっこいしょ野郎

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それからの時代

「もうええわ!どうも、ありがとうございましたー」

 

「ハーッハッハッハァ!」

 

「……」

 

 

 穸を笑顔にさせる作戦その一、売れっ子お笑い芸人のライブに連れて行くプランは失敗に終わった。俺を含めた周囲は大爆笑しているのにも関わらず穸はポーカーフェイスを貫いていた。というか仮にこれで笑ったところでそれは俺の力じゃねえな。本末転倒だ。

 

 

「なー穸ー、面白かったか?」

 

「うん」

 

 

 帰り道、問いかけてみると一応楽しんではいたらしい。なんなら芸人がくっちゃべる最中穸が面白がっていたことは無表情ながら分かっていた。伊達に何年も幼なじみやっていない。

 

 まあ時間はたっぷりある。覚悟しろ穸。こうなったら意地でもお前を笑わせてみせるからな!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「────ッ!」

 

 

 布団をはねのけベッドから起き上がる。今日は……

 

 

「ふははは……俺の勝ちだな」

 

「……うん」

 

 

 出勤時間が大体同じなため起きるタイミングも重なる。ということで近頃はどっちが先に起きられるか勝負をしていた。

 

 節約のためだか知らないが穸は頑なに俺の隣で寝ようとする。だから寝室にあるベッドは一つだけだった。

 

 

「へ~いへいへい」

 

 

 俺が朝食を作り、穸が諸々の準備を整える。日ごとに役割分担を変えているため毎日がフレッシュ。

 

 

「いっただきまーす」

 

「いただきます」

 

 

 今日は趣向を凝らして調味料から自作したサンドイッチにした。シンプルながら奥が深く、道を極めるにはまだまだ遠い。

 

 そしてとうとうやってきた出勤時間。普通なら普通に二手に分かれて行動するのだが、穸はちょっと変なことをする。

 

 

「んじゃあ行ってくるわ。また後でな」

 

「……ちょっと待って。その前に」

 

「なんだよ──ん、お前ホントハグ好きだな」

 

 

 いってらっしゃいのハグを強要させられる。……ハッ!まさかこれは──

 

 ──いつでもお前を絞め殺せるという宣戦布告!実際かなり力入ってるしこれまで穸をいいようにしてきた分の恨みも溜まっているのだろう。

 

 やはり侮れないなお前は。だからこそ面白い。

 

 

「ククク……」

 

「……また変な笑い方してる」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「鶏もも肉と……小松菜も買っとくか」

 

 

 今日は穸の帰りが遅い。従って、夕食を作るのは俺の役目だった。

 

 買い物は嫌いじゃない。それに、美味いもんでも食わせればアイツの鉄仮面を剥がせるかもしれない。そう思うとやる気は絶好調。ウキウキの足取りで帰路を急いだ。

 

 

「んっんっん~♪」

 

 

 帰宅。今日はガッツリめにから揚げと副菜を三種類ほど用意。米もたくさん炊いてあるため、足りないという事態にはならないだろう。

 

 飯が足りないというのは個人的に最も避けたい事例の一つだった。俺ん家は度々食料が枯渇しひもじい思いをしたことがあったため、こと食に関しては本気で挑んでいる。

 

 

「ククク……」

 

 

 アイツが食ってきた豪華な食事とは違う、()・家の飯で好きな料理脳内順位を上書きしてやる。そう考えただけで思わず笑みがこぼれた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「お、帰ったか。飯にしようぜ」

 

「うん」

 

 

 今日はこしらえた夕食が冷める前に帰ってきた。

 

 

「仕事はいいのか?」

 

「うん。しっかり終わらせてきた」

 

 

 正直に言うと、年収は俺より穸の方が高い。もちろんその分勤務時間も多いが、俺はこの現状で満足しない。挑むなら徹底的に。使えるモノは何でも使う。いずれは穸以上に成り上がるつもりだ。……まあ、まずは飯だな。

 

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

 

 下味をしっかりつけたから揚げにマヨネーズをプラス!ふははは……なんて背徳的(ギルティ)なのだろう。

 

 

「……我ながら美味えな」

 

「うん。美味しいよ」

 

 

 しかし穸の表情筋は固定されたまま。プランその二、料理作戦は能わなかったが、継続はしていくつもりだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『明日休みだし居酒屋行かね?』

 

「送信っと……」

 

 

 メッセージアプリに打ち込み、送信ボタンを押す。

 

 確かこの時間帯は穸も昼休憩を取っている筈だ。流石に飯は食うだろうし、携帯の通知にも気づくだろう。

 

 そうやってしばらく画面とにらめっこしていると、返事が来た。

 

 

『分かった』

 

 

 淡泊だ。が、嫌な相手と飲みに行かなければならないとなると誰だって無愛想になるだろう。だからといって引いてやる優しさは俺には無いが。

 

 

「さーって、と……」

 

 

 飯を食い終わり、改めて仕事に集中する。交わした予定のことを思えば残り時間はウイニングランみたいなものだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「お前ホント酔わねぇな」

 

「……みたいだね」

 

 

 俺はそれなりに酒に強いと自負していたが、穸はとことんまで規格外だった。軽く10杯は飲んでるのに顔が赤くなる素振りすら見せない。

 

 ザルかー。ならプランその三もダメだな。酔わせて笑顔にさせるのはちょっと反則な気もしていたしやめるか。

 

 

「んっく、んっく……ぷはぁー。仕事終わりの酒旨えー!」

 

「…………」

 

 

 飲む。つまみを食う。飲む。つまみを食う。その繰り返しで数時間が経過したが、穸は最後まで酔わなかった。

 

 

「うぷ……飲み過ぎた……明日は二日酔い確定だな~……」

 

「あさりの味噌汁作っておくから」

 

「お~……悪いな」

 

 

 帰宅してソファに寝ころぶ。寝落ちしそうな予兆があったので歯は磨いてあった。……てか、これダメだな。あー、寝る……。

 

 

「……玲瓏。そこで寝ると首痛くなっちゃうよ」

 

「つったってねみぃんだもんよぉ……」

 

「……しょうがないな」

 

 

 毛布を掛けられるのを感じながら、俺は意識をシャットダウンさせた。

 

 

「……玲瓏」

 

 

 その直前、穸が俺の傍にやってきたのを気取ったが、何をしているのかは分からないまま、寝落ちした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「やっぱお前ピアノ上手えな」

 

「……」

 

 

 電子ピアノで練習をする穸を眺めながら呟く。弾奏は淀みなく聞き心地が良い。

 

 その道ではかなり名の通っている穸。今回もピアノコンクールに誘われていた。これはそのための練習だ。

 

 

「でもよお、電子ピアノとグランドピアノじゃ勝手が違くないか?」

 

「……大丈夫。私なら合わせられる」

 

「……言うじゃねぇか」

 

 

 後日、久しぶりにコンクールに顔を出したがやはり穸が頭一つ抜けている。当然のように優勝を掻っ攫っていった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 本番のものは電子ピアノのソレより深く、運指が少し重くなるけれど、適応した。ミスも無く、私は無事弾き終えた。

 

 

「…………」

 

 

 大歓声が響き渡る。だけど私には賞賛も名誉も要らない。今日最も重要なことは──

 

 

「……いた」

 

 

 玲瓏の姿を確認してから深々と一礼。仮に観客がいなくとも、私はそれだけで十分だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……玲瓏」

 

「見てたぞ。やっぱお前人気あるよなー」

 

「……私は、貴方が来てくれただけでいい。それ以外何も要らない」

 

「!……ククク……」

 

 

 いつも思っていたけど、玲瓏はどうして求めると変な笑い方をするのだろう。嘲笑っているわけではないのは知っている。だからこそ不可解だった。

 

 

「祝賀会、行くぞ」

 

「うん」

 

 

 何度も再確認してきたこと。私の『唯一』は、貴方がいい。

 

 貴方は私に『愛している』と言ってくれた。なら、たとえその言葉が冗談だとしても、もう逃がさない。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ひなたぼっこしようぜ」

 

「うん」

 

 

 窓際に二人並んで座る。季節が季節なだけあって日差しは柔らかく、ポカポカとした陽気に当てられていた。

 

 

「手……握ってていい?」

 

 

 コイツマジで甘えん坊になったな。ま、そんなところも含めて惚れてるんだけどな!

 

 

「ほらよ」

 

「ん……」

 

 

 ひんやりとした掌が俺の右手に添えられる。今まで意識してこなかったけど穸の手めっちゃスベスベしてんな。

 

 そして最終的には手どころか腕をガッチリ掴まれた。ふははは……コイツは確実に堕落させられている。よりによって大嫌いな筈の俺に。

 

 笑顔にするプランを作る上惚れさせる作戦も立てなければならないのは中々キツいが、やり応えがあってこその可落穸。そしてそれを踏破してこその幅野玲瓏。

 

 隣で寝息を立てる穸に笑いながら、俺は思考を巡らせていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……ねえ」

 

「ん?」

 

「その……私、両親に貴方と同棲していることを伝えていないのだけど」

 

 

 それはなんでもない休日の朝。テレビを見ながらソファでだらけていると穸はやけに神妙な面持ちで話しかけてきた。

 

 

「俺だって言ってねぇよ。いうて俺たち同棲してるだけで別に付き合ってもいないだろ?」

 

「……え?」

 

 

 告白するにはまだ好感度が足りないと踏んでいた。が、穸にとってはそうでないようで──

 

 

「穸?どうした急に抱きついてきて」

 

「……顔、見せられないから」

 

 

 背後から抱きしめられながら会話が進んでいく。

 

 

「……私は、貴方と一緒にいたい。これからもずっと」

 

「?ああ」

 

「……だから……私と結婚してほしい」

 

「……なんだと?」

 

 

 結婚。それすなわち穸は俺のことを──いやいやないない。俺はきっと嫌われてるだろうし、復讐のために婚姻関係に持ち込もうとしているだけだろう。中々やるな、可落穸。いいぜ。乗ってやるよ!

 

 

「んじゃあすっか。結婚」

 

「……本当に、私でいいの?」

 

「何言ってんだ。俺はお前以外眼中にねぇぞ」

 

「……ありがとう」

 

 

 幼なじみにして俺が唯一惚れた穸と結婚かぁ……ハーッハッハァ!想像するだけで脳漿がスパークしそうだぜ!

 

 

「そーなるとお前の親御さんにも挨拶しねぇとなー」

 

「……いざとなったら、二人で逃げるつもりだけど……貴方は連れ出してくれる?」

 

「ハッ、上等!」

 

 

 そこまで深く俺を堕とすつもりか。流石俺の幼なじみ。ヒリつく勝負をさせてくれる!

 

 まあ外聞を取り繕うのは割と得意だし、普通に行けるだろ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「穸と結婚させてください」

 

「……」

 

「……やっぱり、君か」

 

 

 俺の両親への挨拶はめっちゃ簡潔に終わった。こんなバカ息子でよければよろしくと失礼極まりない(俺が言えた義理じゃねえが)報告会になった。

 

 しかし肝心なのは穸の親御さん。父親はなんか意味深なことを呟いているし、母親は黙りこくっている。

 

 

「……先に言っておきます。私は、この人と一緒でないと生きていけません。お願いします。結婚を許してください」

 

「……」

 

 

 この人と一緒じゃないと生きていけない、か。嬉しいこと言ってくれるなコノヤロー!

 

 思わずいつもの笑みが溢れそうになるがグッと堪え、真剣な表情を作る。

 

 

「……穸ちゃん。少し、玲瓏くんとお父さんの三人にさせてくれるかしら」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「玲瓏くん」

 

「はい」

 

「正直に言うとね、ワタシと夫はあなたのことを良く思っていなかったの。あなたが穸ちゃんを連れ出す度、穸ちゃんに無理をさせていないかって」

 

 

 まあそうなるのも当然だわな。俺のようなクズに愛娘をいいように扱われていたら、親として当然関係性に疑問を持つだろう。

 

 

「だけど、ワタシたちはあの子を笑顔にすることができなかった。いつも優しくて、清廉なあの子を、笑わせることができなかったのよ」

 

 

 穸の無表情は実家でもそうだったのか。薄々予想はついてたけど……まいったな。難易度が更に跳ね上がるぞ。

 

 

「そんなあの子が、あなたと離そうとした時初めてワタシたちに逆らってくれたの。あの子が自我を見せてくれたのはその時が初めてだった」

 

 

 え、俺離されようとしてたの?割と危ない綱を渡っていたんだなと改めて確認させられたな。

 

 

「今日も、あの子からワタシたちに話しかけてくれた。いつもそんなことは無かったのに。だからきっと、あの子を笑顔にできるのはあなただけ」

 

「おれからも頼む。玲瓏くん。君にしか頼めないことだ」

 

 

 両親公認となればより一層やる気が高まってくる。部屋の外にいるであろう穸に意識が向いた。

 

 

「穸ちゃんをお願いね、玲瓏くん」

 

 

 こうして、俺は穸と結婚することになったのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 結婚が決まってからの帰り道。なんとなく言葉を発する気になれなくて押し黙っていると、穸が口を開いた。

 

 

「玲瓏」

 

「んだよ」

 

「前にも聞いたけど……。貴方にとって、私は何?」

 

「……」

 

 

 どうする。言うか?いやまだタイミングってのがあるしな……。

 

 …………。

 

 ……。

 

 ──言うか。どうせ前にも愛してんぜって言ったしな!

 

 

「お前は、俺の幼なじみで、俺が唯一惚れた女だ」

 

「────」

 

 

 歩みが止まる。そうして初めて気づいたが、もう空が赤くなっていた。

 

 

「うおっ、お前急に抱きつくと転ぶっつーの」

 

「……ありがとう……嬉しい……」

 

 

 五分程抱きつかれていたがようやく離れた。親にこうして甘えたことはなかったのか?

 

 

「……それと、勘違いしているようだから言っておくけど……私は貴方が好き。大好き」

 

「──────────は?」

 

 

 今コイツはなんと言った?

 

 好きだと?大好きだと?

 

 ……そ、そうか、これも演技なんだな!?俺を騙そうと──

 

 ──目が、本気だ。

 

 

「でも……どうしてだ?俺のどこに惚れる部分があるってんだ?」

 

「私の知らない世界を見せてくれた。私と対等であり続けてくれた。私を連れ出してくれた。そして、私の傍にいてくれた。貴方が、貴方だけが私の全てだから」

 

 

 ……ただでさえ緊張していたってのに突然の情報の連続で脳がパンクしそうだ。

 

 

「……いつからだ?いくらなんでも前々から惚れてたってわけじゃねぇだろ?」

 

「幼児の頃から」

 

 

 ……ちょっと勘弁してくれよ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あー……穸?」

 

「うん」

 

「動けねぇんだけど」

 

「うん」

 

「話聞いてるか?」

 

「うん」

 

「聞いてねぇな」

 

 

 ソファに座っていたら正面から思いっきり抱きしめられた。互いの心音がハッキリと伝わってくる。

 

 あれから穸は暇さえあれば俺にくっつくようになった。正直暑い。

 

 ……ハッ!まさか、少しでも物理的な苦しみを与えたい──とかじゃなくて。

 

 ………………好きだから、なんだろうなぁ。俺のこと。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「穸ー、また前みてぇに川行かねぇか?」

 

「うん」

 

 

 どこでもいい。貴方が連れ出してくれるなら、どこでだって私は幸せだ。

 

 準備をする時間でさえ、私にとっては甘露。想いが通じ合っている自覚がより幸福を加速させた。

 

 

「……空き缶見つからないけど」

 

「今日はちゃんと小鍋もってきたからな」

 

 

 ……ああ。懐かしい。魚を捕る彼の姿。何もかもが幼かったあの頃を想起させる。

 

 

「よし、食うか。いただきまーす」

 

「いただきます」

 

 

 スパイス調味料で味付けされた魚。下処理が丁寧だったため雑味は少なく、どんなコース料理よりも美味しく感じた。

 

 

「美味いな」

 

「……うん」

 

 

 好き。好き。私は玲瓏が好き。そして彼は目の前に、私の傍にいる。

 

 

「……ふふ」

 

「────ッ!?」

 

「?どうしたの」

 

「おま、え、やっと、笑っ」

 

 

 ……え?

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ふはぁー、やっと息が抜ける」

 

「……お疲れさま」

 

 

 披露宴がようやく終わり長く息を吐き出す。ダチや親戚も大勢来たため結構疲れた。

 

 今でも信じられないくらい唐突だった。まさか穸が俺に惚れていたとは。だがコイツは嘘をつくヤツじゃない。そう考えると俺って鈍かったのか?

 

 

「なあ穸」

 

「なに?」

 

「お前のこと、幸せにするからな」

 

「……私はずっと、幸せだった。貴方がいてくれたから」

 

 

 ……ククク……ふははは……ハーッハッハッハァ!あーもう、やべえ。めっちゃ好きになっちまうじゃんこんなの!

 

 見てろよ穸!これからもずっとお前を幸せにしてみせるからな!

 

 

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