粛清王「綾小路清隆」   作:ポポのタン

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第3話 粛清王、新入生代表の挨拶をする

 突然だが、少しだけ俺の出す問題を聞いて、答えを考えてみてほしい。

 

 問い:人は平等であるか否か

 

 今、現実社会では平等が叫ばれ続けている。男女の雇用機会の均等、障害者への雇用や扱い方、都会と田舎の医療格差、金持ちの家と貧乏な家の教育格差などなど......

 

 こういった事柄に対して、格差を是正するべきだ、平等にするべきだという発言をするのは政治家の常套文句の一つであり、逆に格差を広げるべきだと発言するような政治家は1人もいないだろう。人はみんな平等である。大層立派な言葉だと思う。

 

 さて、先ほどの問いに話を戻そうか。人は平等であるか否か。答えは当然否である。人は不平等な存在であり、平等な人間など存在はしない。それぞれの人間の不平等さが社会で定義される実力を生み出し、その実力がまた不平等を加速させていく。まさに不平等のループだ。

 

 人は不平等な存在で、そんな不平等な人間によって生み出された社会もまた不平等なものである。できもしない社会を平等にするという夢を抱くより、不平等な社会で強い人間になるためにあらゆる努力を惜しまない方がよほど堅実的だと俺は思う。そんな風にあらゆる努力をしている人間ですら、ある日突然死ぬかもしれない。改めてこの世界は本当に不平等だと思う。

 

 だからこそ人生とは面白いと、俺は数年前から考えるようになった。明日死ぬ可能性はゼロではない。粛清王などという立場になってもそれは同じだ。明日突然予測できないところから弾丸が飛んでくるかもしれない、俺の真上に隕石、ミサイルが落ちてくるかもしれない、すれ違った人間に不意にナイフで腹を刺されるかもしれない.....。明日死ぬ可能性がゼロではないからこそ、俺は今日という日を全力で楽しみ、自分のやりたいことをやりつくそうと思えるのだ。そんなふうに生きてきたら粛清王などという、まさしく人々に死を振りまく不平等の権化のような存在になってしまったのだが。

 

 なあ、今この文章を読んでいるそこのお前。

 

 お前は自分の人生について、ちゃんと考えたことがあるか?

 

 今この文章を読んでいるこの瞬間にも、自分の将来が、人生が、死という人生の終わりへ着実に近づいていることに気が付いているか?

 

 もしかしたらこの文章を読んでいるお前は明日死んでいるかもしれない。

 

 もしかしたらこの文章を読んでいるお前の大切な人は明日死んでいるかもしれない。

 

 だからこそ今日という日がどれだけ貴重でかけがえのないものであるか。

 

 だからこそ今日という日を楽しみつくすことがどれだけ大切なことであるか。

 

 長々と語ったが、俺の言いたいことはつまり、今日という日を楽しみつくすことこそが、不平等な社会の中で幸せになるコツだという、ありふれたことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 綾小路清隆

 

 4月。入学式。俺は学校に向かう車の中で、後部座席に座り頬杖を付きながら、変わりゆく街の様子を意味もなく窓から眺めていた。車はドイツ製の黒い高級車。そういえばちっこい名探偵が事件を解決していく国民的漫画。そこに登場する敵組織のキャラクターもこんな車に乗っていたな。そんなどうでもいいことを考えていると、車を運転している俺の側近である黒から声がかかった。

 

「しかし本当によかったんすか、清隆さん。入学する生徒、在籍している生徒の情報を事前に入手しなくて。」

 

「....何度も言わせるな。事前にそんな情報を持ってたら、流石にヌルゲーすぎるだろ。俺は鬼畜ゲーも好きだし、クソゲーも好きだがヌルゲーは嫌いなんだよ。」

 

「相変わらず人生をゲームみたいに考えてるんすね、清隆さんは。」

 

「おう。こういう思考回路をお前にもおすすめする。毎日がハッピーだ。」

 

「.....いや、自分にはできそうにないっすね。」

 

「もったいねえな。」

 

 俺はそう言い、再び窓の外を眺める。学校に近づいてきたからだろうか、俺と同じ制服を着て歩いている生徒が増えてきた気がする。学校に通うのが人生で初めての経験だからだろう。ワクワクが抑えられない。もっとも、今から入学する学校は世間一般の学校とは一味も二味も違うわけだが。

 

「本当ならこの学校のシステム、Sシステムってやつの詳細も知りたくはなかったんだがなぁ。」

 

「しょうがないっすよ。Sシステムってやつの詳細を知ったからこそ、清隆さんはこの学校に入学することにしたんでしょ。」

 

 正論だ。ただ何も言い返さずに黙ったままだと、まるで俺が論破されたように見えるので(実際に論破されているのだが)、話を逸らそうと別の話題を切り出した。

 

「まぁ。事前にSシステムの詳細を知ったおかげで、クラス配属にも口を出せたわけだし、悪いことばかりでもないか。」

 

「そういえばどのクラスにしたんです?」

 

「....Dクラスだ。」

 

「よりにもよってDっすか?」

 

「ああ。事前に月城常成から各クラスの特徴を聞いたとき、俺が最も自由に行動できるクラスがDだと判断した。」

 

「しっかしDならクラスのコントロールをしなくても、入試や面接に適当に答えるだけで配属されたんじゃないっすか?」

 

「いや、入試や面接はガチでやりたかったからな。手を抜くわけにはいかなかったんだ。」

 

「...なんでっすか?」

 

「ん?入試主席っていう称号が欲しかったからだが。」

 

「...相変わらずゲームみたいっすね。それで手ごたえはどうだったんすか?」

 

「ばっちりだ。ほらこれ。」

 

 そういって俺は手に持っている、入学式の新入生代表あいさつの原稿用紙をひらひらと黒に見せた。黒は呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな顔をした。今年43歳のおっさんのくせに、子供っぽい奴だな。

 

「よかったすね。いっちょかましてきてくださいよ、粛清王様。」

 

「....お前にその呼び方をされると、体がかゆくなるな。」

 

 そんな話をしているとタイミングよく、高度育成高等学校の校門が見えてきた。校門の前には入学式らしく、俺と同じ赤い制服に身を包んだ新入生が大勢立ち止まっている。あそこに車を停止させるのは無理そうだと思い、少し離れたこの場所で車を停止させた。後部座席の扉が自動で開いた。扉が開いた拍子に桜の花びらが1枚俺の頭へと振ってきた。

 

「ほら、早く降りてくださいよ清隆さん。桜の花びらも清隆さんの入学を祝ってるっすよ。」

 

 黒が笑顔でくさいセリフを俺に行った。俺は車から降り、振り返って黒と向き合った。

 

「かましてきてください、清隆さん。」

 

「あぁ。ぶちかましてくるぜ。」

 

 扉が閉まり、ドイツ製の黒い高級車が発進した。さよならのの合図だろうか。ブレーキランプを何回も光らせている。俺はそのブレーキランプが見えなくなるまで、黙って車の走り去った方向を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、行くか。」

 

 ブレーキランプが見えなくなるまで見送り、ひと段落就いたところで俺は校門へ向かって歩き始めた。

 

 思ったより時間が経ってしまったのだろうか。校門の前に居た新入生たちの群れはまばらになっていた。改めて校門の前に立つ。天然石を連結加工した頑丈な作りをした門が俺を待ち構えている。東京都高度育成高等学校。日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する(つもりらしい)、それを目的とした学校。しかし、実情の一部を知っている俺からすれば、卒業すれば希望進路がほぼ100%叶うと詐欺まがいな過大広告で生徒を集める悪徳学校という印象が大きい。そもそもこの学校のSシステムなる制度で本当に日本の未来を支える生徒はできるのだろうか。ただ、物事の裏をかき他者を欺く生徒しか生き残れないのではないか。仮にそんな生徒ばかりが生き残り、この日本を支えることになるのなら、一人の日本国民として俺は断固として反対の姿勢を―

 

「そこの君、何を立ち止まっているのですか?入学式まで時間がありません。急いでください。」

 

 ふいに声をかけられた。声をかけてきたのはおそらく上級生であろうか。生徒会と書かれたアームバンドをしている。身長は小さく、紫色の髪の毛を左右にお団子でまとめており、小動物のような印象の女子生徒であった。よし、この先輩のことはハムスター先輩と呼ぼう。

 

「すみません。校門と校舎の大きさに圧倒されていました。」

 

「そうでしょう!この学校はすごいんですよ。学校の施設内に校舎だけではなくて、さまざまな施設があって、特に私のおすすめはおいしいケーキが食べられるパレッ」

 

「橘、何をしている。」

 

 ハムスター先輩の、なぜか自分のことのように繰り出されるこの学校の自慢話を止めたのは、静かだがどこか威圧感のある声だった。

 

「会長!」

 

「橘、入学式までに時間がない。早くその新入生を案内しろ。」

 

 会長とよばれた生徒は眼鏡をかけた、どこか威圧感のある男だった。身長は俺より少し低いだろうか。眼鏡の奥の瞳からは、やはり威圧感が漂っている。

 

「分かりました会長。ということで君、所属クラスを教えますので、まずは名前を教えてください。」

 

「綾小路清隆です。」

 

「君が綾小路君ですか!?」

 

 ハムスター先輩(名前はおそらく橘先輩であろうが)が分かりやすく驚いた表情を浮かべている。また、俺の名前を聞いた会長と呼ばれていた男が足を止め、こちらを見てきた。

 

「.....お前が綾小路か。」

 

「そうですけど...会長先輩こそ名前は何なんですか。」

 

「ちょっと!会長に対して会長先輩とは何ですか!失礼ですよ!」

 

「橘、落ち着け。」

 

 どうやらハムスター先輩はこの会長先輩のことが好きらしい。少しでも無礼な態度をとればこちらに嚙みついてくる。まるで飼い主と犬だな。よし、ハムスター先輩は忠犬橘先輩にグレードアップしよう。そんなこの場に不釣り合いなことを考えていると、会長と呼ばれた男は隣のワンワン吠えている忠犬を無視して自己紹介を始めた。

 

「俺の名前は堀北学。この高度育成高等学校の生徒会会長をやっている。」

 

「ふぅ。私の名前は橘茜です。高度育成高等学校の生徒会書記をやっています。よろしくお願いします。それはそうと!会長のことを会長先輩と呼ぶことは許されません。だいたいこんな時間まで校門の前で」

 

「改めて、俺の名前は綾小路清隆です。よろしくお願いします。堀北会長、忠犬橘先輩。」

 

 ワンワンうるさかったため思わず忠犬橘先輩と呼んでしまった。しかしこれは不可抗力だ。許してほしい。

 

 

 

 

 

 

 感動的な自己紹介のあと。ワンワン吠える忠犬を無視しながら、3人で入学式が行われる体育館へと足を運んでいる。

 

「堀北会長は俺のことを知っている様子でしたが、もしかして入学試験の成績からですか?」

 

「その通りだ。入学試験の成績で最も優れた成績を修めた者は、入学式での新入生代表挨拶を行うことになっている。事前に通知は送られているはずだが、準備はしてきたか?」

 

「ええ、準備万端です。かましてやりますよ。」

 

「......何を言うつもりだ?あいにく、公序良俗に反することを挨拶で言うのは認められない。」

 

「公序良俗には反しませんし、別におかしなことを言うつもりはありませんよ。ただ、一般的な高校生の行うような新入生代表の挨拶とはかけ離れているとは思いますが....」

 

「....」

 

 堀北会長は訝しげに俺の顔を見ていた。失礼な。

 

「大丈夫ですよ。あくまで()()()()()ふさわしい挨拶をするだけです。どうやらこの学校は一般的な高校とはかけ離れているようですし、ちょうどいいと思いますよ。」

 

「.....どういう意味だ?」

 

 堀北会長のこちらを見る目が鋭くなった。この学校の本質に新入生が気づいているかもしれない。その可能性が堀北会長の俺への警戒度を上げたのだろう。まぁ俺はSシステムの詳細についてすでに知っているから、その警戒は無駄なんだがな。かといってこの場でSシステムについて堀北会長に話せば、どうして新入生が知っているんだと問い詰められることになる。この場では現段階で気づけるそれっぽいことを言っておこう。

 

「この学校の敷地内に入ってから、異様な数の監視カメラがありました。まるで生徒たちの行動を監視しているような配置。生徒の安全を確保するという目的としては、いささか過剰すぎではありませんか?」

 

「.....監視カメラは生徒の安全を確保する目的でも使用されている。」

 

「つまり、それ以外の目的でも使用されていると。」

 

「どう解釈してもお前の自由だ。」

 

 そんな話をしていると入学式が行われる体育館についたようだ。さっきまでワンワン吠えていた忠犬橘先輩はいつの間にか落ち着いて、黙って俺たちの話を聞いていたようだ。

 

「会長と綾小路君はそれぞれ、生徒代表の挨拶と新入生代表挨拶があるので舞台袖へお願いします。私は司会を行うので進行席に行かせていただきます。」

 

「分かった。いくぞ、綾小路。」

 

 俺は堀北会長とともに舞台袖へ行き、入学式の進行を舞台裏で待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから、本年度の東京都高度育成高等学校の入学式を始めます。」

 

「まずは生徒代表の挨拶、3年Aクラス堀北学生徒会長お願いします。」

 

 堀北会長が呼ばれた。舞台袖から新入生、在校生、全てから見える壇上に登壇した。500人ほどの前に登壇したはずなのに、緊張感を見せないのは流石だな。しかし、やけに2年生の人数が少ないな。入学式をさぼっているのか、はたまた退学処分を科された生徒が多いのか....。そんなことを考えていると堀北会長の生徒代表の挨拶が終わったようだ。こちらへ向かってくる。

 

「続いて新入生代表の挨拶、1年Dクラス綾小路清隆君。お願いします。」

 

 俺の名前が呼ばれた。一度立ち止まり、深呼吸。よし行くか!気合を入れなおし歩き出すと、すでに舞台袖まで戻ってきていた堀北会長が俺の前に立った。

 

「綾小路。お前の新入生代表挨拶。期待している。」

 

 そんなことを言われて、俺は自然に笑みが漏れた。

 

「ええ。期待していてください。」

 

 俺は堀北会長の目を見て笑顔でそう返した。

 

 

 

 

 

side 堀北鈴音

 

「堀北学生徒会長、ありがとうございました。」

 

 ....まさか兄さんが生徒代表の挨拶をするなんて、いきなりで驚いて頭が真っ白になってしまったわ。兄さんがこの学校に入学してから2年。その間私は兄さんと会話するどころか、顔を見ることもできなかった。それはこの学校の外部との接触を完全に遮断するという特性上仕方のないこと。もっとも、そんな特性がなかったとしても、兄さんは私の顔を見たくないのかもしれないわね....。入学式だというのに悲観的な気持ちに浸ってしまう。こんな気持ちのままではだめね。せっかく兄さんと同じ学校に入学できたのだから、兄さんが卒業する前に仲直りをして、私の成長した姿を兄さんに少しでも多く見せる。そう気持ちを奮い立たせると、さっきまでの悲観的な気持ちが少し薄まった気がした。

 

「続いて新入生代表の挨拶、1年Dクラス綾小路清隆君。お願いします。」

 

 ....どうやら私を差し置いて入学試験で主席をとった生徒が、新入生代表の挨拶をするようね。しかも、私と同じ1年Dクラス。会話をしたことも、まだ顔も見たこともないのに妙なライバル意識が芽生える。

 

 舞台袖から新入生代表の生徒、綾小路清隆という生徒が壇上へ向かって歩いてきた。顔立ちは整っている。きれいな鼻筋、二重の目、シュッとしたフェイスライン。女子に人気が出そうな見た目をしている。身長も高い、もしかしたら兄さんよりも少し高いかもしれないわね。.....彼の容姿を褒めるのはなぜか妙に腹が立つわね。さて、私を差し置いて主席で入学した彼がどんな新入生代表の挨拶をするのか。兄さんの挨拶よりも素晴らしいことは無いと思うのだけれど。それでも新入生の代表として、私を差し置いて代表に選ばれた者として、最低限のレベルの挨拶はしてほしいわねと上から目線で、壇上のマイクの前に立った彼を正面から見る。.......緊張で盛大に失敗したらそれはそれでいい気味ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式というのはどの学校も基本的には同じだろう。在校生のありがたいお言葉に煩わしさを感じたり、整列だの立ちっぱなしだの、面倒なことが多いから邪魔くさく感じてしまう。また、この高度育成高等学校の入学式には、親は参加することができない。つまり、高校入学という晴れ舞台を親に見せることもできない新入生たちは、モチベーションが皆無という事だ。入学式が早く終わらないかと考える新入生が半分、入学式の後のホームルームのことを考える新入生が半分。入学式に煩わしさを感じている上級生が半分、かわいい新入生を物色する上級生が半分である。つまり新入生代表の挨拶をまともに聞く生徒もいないという事である。大方、新入生代表の挨拶を行う生徒がどんな生徒なのか、それぐらいしか気にならないだろう。

 

 新入生代表の挨拶を行う生徒が壇上のマイクの前に立ち、生徒を上から見下ろす。その生徒は挨拶を直ぐには行わずに、生徒たちに向けて笑顔を向けた。顔立ちが整っている生徒だからであろうか。上級生、新入生ともに一部の女子が顔を赤らめた。

 

 最初に気が付いたのは誰であろうか。突然壇上に立っている新入生代表の男から強烈な威圧感が漏れ出した。その威圧感に体育館に居る生徒のほとんどは思わず身をすくめてしまう。これが単なる威圧感ではなく、研ぎ澄まされた殺気だと気づくことのできる生徒はこの体育館に何人いるのだろうか。自身の存在が根底から揺るがされるような強烈な殺気。体育館に居る生徒は恐怖を感じながら、壇上の男に無理やり意識を持っていかれた。今この瞬間、高度育成高等学校の入学式史上、最も静寂な空間が体育館に誕生した。その空間を全身にありありと感じながら、壇上の男は笑顔で口を開いた。

 

「静かにしてくれてありがとうございます。改めて新入生代表の1年Dクラス、綾小路清隆です。日本の次世代の人材を育成する高度育成高等学校の新入生代表の挨拶を任されたこと、大変うれしく思います。」

 

「この学校に入学したからには、この学校の「日本の未来を支えていく若者を育成する」という理念に反しないよう、日々の生活で自身のできる最大の努力をしていこうと思っております。」

 

 壇上の男、綾小路清隆は変わらず強烈な殺気を生徒全体に感じさせながら、その行動とは裏腹に当たり障りのない平和な挨拶を行っていた。

 

「ところで、この学校には一般的な高校とは異なっている部分が多くあると、入学したばかりの私でも感じることがあります。例えば、生徒を監視するように設置された異様な数の監視カメラ、新入生と比べて明らかに生徒の数が少ない上級生、卒業すればほぼ100%希望の進路を叶えるという胡散臭さ満点の広告などなど。私にはこれらのことが、まるでこの学校が生徒の実力を測ろうとしているように感じられてなりません。.....すみません。見当違いのことを言っているかもしれませんね。入学したばかりの未熟な新入生が、暴走してしまったと寛大な心で許していただきたいと思います。ただ....」

 

 そう言うと綾小路清隆は今まで以上に強烈な殺気を体育館全体に放った。あまりに強烈な殺気によって冷や汗や震えが止まらない生徒もいる。今にも倒れてしまいそうな生徒もいるようだ。

 

「ただ.....もし私の話していることが見当違いではない....すなわちこの学校が何らかの手段で生徒の実力を測ろうとしているならば....私は高校生活の3年間でこの学校の実力を測り返そうと思います。是非、同級生はもちろんのこと、上級生の方々や学校関係者の方々には覚悟をして頂きたい。長くなりましたが私の挨拶は以上です。静かに聞いていただきありがとうございました。」

 

 綾小路清隆がそう締めくくり、礼をして舞台袖へ歩いていく。一気に強烈な殺気から解放されて、ほとんどの生徒が過呼吸になっている。中には座り込んでしまっている生徒や涙目で震えている生徒もいるようだ。

 

「あ、綾小路清隆君。ありがとうございました。」

 

「つ、続いては学校代表者の挨拶。月城理事長お願いいたします」

 

 橘書記が入学式を何とか進行しようとするが、体育館にはいまだに彼の残していた恐怖の残り香が色濃く漂っていた。

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