「あれか?」
天を見上げるトランクスの目に小さな星が……界王星が見えている。
無限に続くかと思われた蛇の道の終点にトランクスは立っていた。
「あそこに……」
――彼の頭の上には、死者であることを示す輪があった。
ヤムチャの犠牲のもとに人造人間たちが倒され、地球に平和が取り戻されてから1年後……。
ブルマとヤムチャの願いであり、希望でもあった「孫悟空が死ななかった世界」を見いだすため、往復分のエネルギーのチャージが完了したタイムマシンに乗り込もうとしたトランクスの前に「セル」と名乗る怪物が現れ、17号と18号を吸収して完全体になるためタイムマシンを奪って過去に行くと宣言した。
……人造人間たちを超える強さを持ったセルにトランクスは敗北し、殺されたのだ。
トランクスに蛇の道の先にある界王星のことを教えた閻魔大王は、セルは宣言通りタイムマシンに乗り込んで消えたと伝えた――
「う!?」
界王星を目掛けて飛び上がったトランクスは急激に引き寄せられ、地面への激突をぎりぎりで免れて着地した。
「おどれえたろー? この星、重力が地球の10倍もあるんだってさ」
そう言って笑う人物が、話だけで知る孫悟空であることにトランクスは気づいた。
そして……その先に、トランクスの師匠はいた。
「やられたな、トランクス」
師は軽く咎めるように……だが、やさしくそう言った。
「ヤムチャ……さん……」
約束を守れなかったと……母を悲しませてしまったと涙を流す弟子の肩に、ヤムチャの手がそっと触れた。
「界王神さま……ですか?」
「そうだ。ここにおられる界王さまの上役に当たるお方だな」
トランクスが落ち着いた後、ヤムチャは語った。
これまで界王神は、地球で起こる争いに介入することはなかった。
人造人間もそれを作ったドクター・ゲロも元は地球人。人造人間がどれだけ暴虐を尽くしたとしても、それは地球人同士の争いであり、界王神である自分が関わるべきではないと。
弟子の戦いの行く末を案じていた界王が、ヤムチャたちに手を貸すことが出来なかった理由もここにあった。
だが、あのセルという怪物が語ったことが真実ならば、脅威は地球だけにとどまらず、宇宙規模に広がる可能性があった。……何より、この世界で生まれてしまった災厄を、過去の世界の人々に押し付けてしまって良いのか?
――否、この世界が生み出した災厄は、この世界の人間によって打ち払われなければならない。
ヤムチャとトランクス――命を賭して絶望に立ち向かった二人の戦士の存在が、界王神の心を動かした。
「そこで、界王神さまはナメック星のドラゴンボールを使ってオレたちを復活させ、過去の世界の悟空たちと協力してセルを討伐することを決断された」
ヤムチャたちにはまだ伏せられていたが、界王神にはセル以外の脅威に対抗する手段を用意する目的もあった。
また、病死した悟空はドラゴンボールを使った復活が出来ないはずだが、界王神には何か奥の手があるらしい。
「じゃあ、じゃあ……みんな、ヤムチャさんやボクも、生き返ることが出来るんですね……!」
「ああ。だが、タイムマシンは基本一人乗り。無理やり乗り込むにしても、乗り込める人数には限度があるだろ?」
過去に送り込む最強の戦士を選定するために、界王神は武道大会の開催を決定した。
――あの世一武道会。
その大会にはここにいる悟空やヤムチャたちだけでなく、地獄にいるベジータも特例で参加するのだという。
「お前も出場しろ、トランクス。……ベジータに、会いに行こう」
「……はい!」
明るい笑い声が、界王星に広がった。
――希望は、死なない。未来は、甦る。
――これは、孫悟空が心臓病に倒れた後の世界……。
絶望に覆われ、未来が閉ざされた世界で、人造人間に挑んだ男の物語。
『ドラゴンボール異伝 ヤムチャvs人造人間』END