その後の話をしようと思う。
ぐだぐだになって終わりを迎えた私の帰郷は、最終的な結末だけを見れば大団円に、終わりそうで終わらなかった。
それも当然のこと。
インフラは乱れ、社会は混乱し、産業も滞ってしまっていたのだから、立て直すには一朝一夕では済まされない。
抵抗を続けていた人類も残っていたけれど、世界の一部がエルフたちに適した環境に整えられていたというのも、復興を遅らせている大きな理由だろう。
だけど、人類って案外しぶといもので。
降って湧いた天災の中でも、変わらない日常を演じ続けることで平静を保っていた人は結構いたらしく。
壊れかけた世界は、ギリギリのところで踏みとどまっていたそうだ。
一度私が挫いたことで教団への不信感と、単純な侵攻速度の低下もあったようで。
その部分はちょっとだけ誇ってもいいかなとは思ったりして。
侵略を受けてしまったのを含め、別の世界の存在が明らかになったことは、この世界の様相を大きく変えるきっかけになるだろう。
そんな中で、事実上の最高責任者に近い薫さんとリアちゃんを含めた面々の会議の中、私の故郷に対する通称が定められた。
【娯楽の国】。
ありとあらゆるジャンルの膨大な数のサブカルチャーが、この世界の最大の特徴だという結論になったらしい。
私が趣味にしていたのはマナコスト制のやつだけだったけれど、まずカードゲームだけでも何種類もあるし、それぞれルールも異なれば世界観も大きく分かれ、それぞれのゲームにチャンピオンがいる。
もちろんそれは世界全体に大きな影響を与えるものではなく、あくまで娯楽の範疇ではあるけれど、カードゲームが一本化しているあの世界にしてみたら驚天動地の環境で。
まあこの時点で阿鼻叫喚である。
ルールの調整を行うことになるだろう女神様の苦労が忍ばれる。
せめて詳細なルールブックは配布して欲しい、切実に。
たまたま私がカードゲームを趣味にしていただけで、テレビゲームや携帯ゲームにテーブルゲーム、アニメや漫画に小説と様々な媒体で様々な娯楽が見渡す限り広がっている。
ネットを漁れば個人でそういったものを発信できていた世界だ。
あの世界に輸出されたバーチャル文化だってこっちでは一般的なもの。
ネットワークの復旧にはしばらくかかるかもしれないけれど、私の部屋に残っていた作品だけでその名が決まるくらいには、娯楽というのはこの世界ではありふれたものだったのだ。
両親や友人たちとの再会は…………まあ割愛で。
いや感動の再会だったのは間違いないけどあとから思い出すのはくっそ恥ずかしいし。
わんわん泣いて何度ただいまと言ったのかも分からないくらいで、痛いほど抱きしめられた話なんて、わざわざ言うような話でもなくて。
個人的には、お兄さんがなにやら吹っ切れてレジスタンスのリーダーとして振舞っていたと聞いて、なんだやっぱりこの人主人公じゃないかと、奇妙な安堵を感じたのが印象に残っている。
勇者ちゃんたちは狙いの魔王を探しつつも、こっちに来てた故郷の人たちを頼ることにしたらしい。
エロマンガ諸島連合ケツマン興国勇者ノアナール隊というのが彼女のパーティーの正式名称らしく、その名前が出たことに一定の納得が湧いて出た。
バーチャル配信者【エロマンガ・ショート】の中の人がエロマンガ諸島連合のお偉いさんだというのが発覚して一悶着あったのだが、正直私に関係のない場所で存分にファンタジーしてて欲しいとも思う。
名前を除けば割とまともなんだけどなぁこの人たちは。
魔王様と少年は相変わらずのようだ。
世界の広さを知った魔王様は時折遠い目をしながら愚痴を零してくるようになった。
そして角付褐色白黒目巨乳系の美女が少年の近くに現れるようになったそうで。
ショータ君とかいうホビアニでも他のジャンルでも居そうな名前らしいし、あっちはあっちでまたなんか騒動があるのだろう。
どうでもいいけどそれ勇者ちゃんたちが探してる魔王じゃないよね? ちゃんと名前確認したんだよね???
そして、私の話になるのだが。
「こんな時期ですけど、家庭の事情で編入してきました。ウィー・マインです。よろしくお願いします」
今まさに、教室の壇上で、クラスメイトに向かって自己紹介を投げかけていた。
家に帰り着き、こっちの世界での様々な出来事を面白おかしく話していくうちに、学校に通ってなかったことがバレたのである。
お母さんは保護者であった薫さんに感謝しつつも私を正座させて懇々とお説教をはじめ、最終的にカードゲーム世界のほうで教育を受けることになった。
あと電子タバコも見つかってめっちゃ怒られた。
これに関しては保護責任者も巻き込んで正座させられていた。
あちら側ではまだそこまで復興が進んでいないし、白い少女と天の光を引き裂いた私の姿はある意味で神格化されていたらしく、その辺の諸々が落ち着いてほとぼりが醒めるまではこっちの学校に通うことになったのだ。
いつもの友人たちと同じ学校かと思っていたのだが、私みたいに別の世界の出身でこっちの常識が足りていない子のための学校があるそうで、クラスの面々にはなかなかに個性的な顔が揃っていた。
『あ~! ぷろでゅーさーもおバカさんだったんですね~!』
開口一番に失礼なことをのたまうドローンで姿を投影した精霊の精霊とか。
「くくくくっ……御主とは奇妙な縁が結ばれておるようだなぁ」
そんなこと言って結構嬉しそうな笑みを浮かべている魔王様とか。
「ウィーさん! こちらでもよろしくお願いしますね!」
「ちょっと『私』、大きい声上げないでよ。……嬉しいのは、私もだけどさ」
双子みたいにそっくりな顔で席をくっつけている魔法少女とか。
「………………えっと」
――滅茶苦茶気まずそうに視線を逸らしている、エルフ耳を靡かせた少女とか。
まあ、私から特に言えることはない。
侵略者たちはゲームでの決着により『私の生まれた世界』からいなくなったのだから。
だいたい、尖った長耳なんてのはこの世界じゃ割とありふれている。
なんなら精霊の精霊だって三角耳であるし、別に珍しい特徴でもないだろう。
他のみんなと挨拶を交わしながら、件のエルフちゃんのとこまで歩いていって声をかける。
「
許すとか許さないとか、そんなのはもう決着がついたのだ。
この世界じゃ、世界を滅ぼそうとしたとか若気の至りくらいでしかないのだから。
不屈の魔王が同じ教室にいるってのに、そんなことを気にしたって仕方がない。
ここに居るのは、名前も知らない、白いドレスでもない、学生服のエルフの少女。
私にとってはそれだけで十分だ。
退屈しそうにないクラスメイトに歓迎されながら、私の学園生活は幕を開ける。
その中でも色んなことが起きるだろう。
なにせこれだけ個性的な連中に囲まれているのだ、事件が起きないほうがむしろ異常と呼べるだろう。
だけど、一言で説明しきれないそんな話も、簡単に、わかりやすく伝える魔法の言葉が存在する。
すなわち、カードゲームの世界ならよくあることだって。
この世界はカードゲームで全てを決定する。
国同士の優劣も。
大企業の取引も。
戦争の結果さえも。
そんな大それたことではなく、個人的なことだってそうだ。
ゲームに勝てば割引してもらえるカード割なんて制度もある。
不良たちだって暴力ではなくカードゲームに訴える。
恋愛関係だって、最終的にはゲームの勝者が決定権を得るだろう。
だからずっと、所謂ホビーアニメみたいな世界だと思っていた。
人知れず闇のゲームなんかが跋扈していて。
派手な頭髪の主人公たちが世界の危機をゲームで解決して。
なんだかんだでハッピーエンドを迎える良くある世界なんだって。
だけど違った。
闇のゲームも世界の危機も、その辺で遭遇するよくある出来事に過ぎなくて。
別の世界からの来訪者が方向性の違う意味不明な混沌を持ち込んで来たり。
アホみたいな見た目や名前の飛び交うイカれたカードが覇権を競っていて。
因縁のラストバトルだってぐっだぐだに終わったりして。
ツッコミどころが満載で、嫌なリアルがあちこちに漂っていて。
ハッピーエンドの先にもずっと続いて、様々な騒動が巻き起こる、人の紡いだ、人の世界なんだって。
だから、やっぱり、私が生きるこの世界は。
――ホビーアニメじゃないらしい。
その名に込められたのは特別な役割や意味などではなく。
どこにでもある、平凡な、普遍にして不変の愛。
――ウィー・マイン
何の変哲もない普通の友達。
だからこそ出来ることもある。
――フレンダ・ノーマ
特別なことなんて何もしてないよ?
だって、友達が困ってたら助けるでしょ?
――ユウ・ジーン
長い放浪の果て、彼らは楽園へと辿り着いた。
それを手に入れるために、巫女は躊躇わず力を行使した。
その為の手段ならば、彼らは身をもって知り尽くしていたのだから。
――フォレストエルフの白木巫女
人を助けてさよならでは、ただの通りすがりの善い人でしかない。
ヒーローの資質とは、共に寄り添い、歩み続けることさ。
――うんこまん
物語は終わっても、彼女たちの人生は続いていく。
――エンドロール
どのフレーバーが好みだい? ―― 一服
-
ウィー・マイン
-
フレンダ・ノーマ
-
ユウ・ジーン
-
フォレストエルフの白木巫女
-
うんこまん
-
エンドロール