もしかして作者が1番気に入ってるかもしれない暗部当主編です。
「これより、更識楯無を更識家の当主と任命する」
更識家17代目当主、更識楯無には悩みがある。
「また断りの連絡が入りました」
「なんでよもー!」
従者として傍らに控える布仏虚の無情なる報告に、机に突っ伏して泣いた。
何度経験しても振られるというのは辛いものである。
IS学園を卒業し、日本政府直属暗部の更識家を正式に継いだ楯無だが、日々忙しい仕事の合間に挟まれる見合いにほとほと嫌気がさしていた。
立場として相手を見つけなければいけないというのは分かる。
学生の頃はまだしも、お酒も飲める年齢となったのだ嫌だ嫌だと泣き叫ぶこともしないほどに精神も成長した、はずだ。
まぁ体裁もあるのだ、渋々ながらも見合いを受けて適当に断るかと思っていたのだが、
「振る前に振られる、計画通りですね」
「どこがよ! 何で振られてるのかまったく分からないんだけど!」
「これまでのお相手にアンケートをとってきましたが、1番の理由がハードルが高すぎる、ということです」
「え? あれくらいで?」
かわいく頭を傾げる楯無だが、虚の眼はマジで言ってんのかコイツと雄弁に語っている。
暗部の当主と番になるもの強さがなければいけない。
相手の条件などを聞かれた際に楯無が求めたものである。更識家としても特に否定する理由もなかったので、道場で手合わせをすることになった。のだが、
「えい」
「ぐはっ」
「えいえい」
「ぐほっあぐあっ!」
ISは元より肉体的にも優秀であった楯無が負けるはずもなく、屍の山が積みあげられていった。本人としては軽い手合わせで、どう這い上がってくるのかを見たかったのだが、ボロボロになって断る相手が続出。手合わせ話になった。
では次にという事で、頭の良さを見たいと条件に出した。
「とりあえずウチのセキュリティを突破してもらって」
「無理です」
「戦闘指揮のシミュレーションとか」
「できないです」
どうも暗部というかIS学園にいたメンバーが優秀過ぎてハードルが上がってしまったらしい。
では女性としての魅力を出して、異性としていい相手がいないかと探すことにした。
「女性としての趣味、つまり料理ね!」
本人も周りも忘れ気味だが、更識楯無は素のスペックが高くさらに胡坐をかくことのない努力家である。料理だけでなく裁縫や茶道などとりあえず思いつくものを片っ端から極めていった。
「すいません、ちょっとついていけないです」
「そんなっ!?」
だがまだ若い楯無、スペックが高すぎる女性は逆に引かれるという現実を身をもって学ぶ羽目になった。あとはもうブリュンヒルデの称号くらいしか、と思ったが身近にその称号を持っていながら独身を貫く恩師がいた事に気が付き、ギリギリで引きとどまった。
とはいえ現実はそう変わらないが虚も口に出すことはなく、ただでさえ釣り合う相手が少ないというのに自らハードルを高めている、目の前で項垂れた相手を見ていた。
「なにそのかわいそうなものを見る眼は!」
「実際かわいそうな生き物だと思ってますので」
「わぁ……ぁ…………」
「泣いてもかわいくはないですね」
容赦のない言葉に号泣する楯無、どうせ独り身でなどと言ってる当たり妹との血筋が感じられるが、恋人がいるからいいもんね! などと虚への八つ当たりが始まると欠片ほどにあった同情が消えた。
「あ、週末休暇をいただいてますので」
「なによ! 雇い主ほっぽいてしっぽりする気!」
「そうですが?」
自ら仕掛けたカウンターに撃沈した雇い主を無視して部屋を出る。
端末を操作し愛しい相手へ連絡をつなげた。
「…………どうも、お仕事中ではなかったですか? えぇ…………ちゃんと休みは確保しましたよ。…………わたしだって楽しみにしてますから」
さっきまでと一変して朗らかな表情で会話をする虚。普段はクールに仕事をこなす彼女の豹変ぶりに通り過ぎた職員も思わず振り返ってしまう。
「はい……………………あの、ひとつお願いをしてもよろしいですか?」
「なんでこんなにあるのよぉ!」
山のように積み上げられた書類を前に泣きべそをかく楯無(成人済み)だが、泣いて仕事が減るわけもなくダラダラと手を伸ばした。
「うぅ虚の裏切り者ぉー‼」
本来なら手伝ってくれるはずの親友はデートに行っている。気分転換は用意しておきますので、という謎の伝言はあったがそれはそれ。ありとあらゆるカップルへの呪詛を吐き散らしながらも優秀な身体は書類を進めていった。
「……………………はぁ」
それなりの量を片付けたが、いまだ山は消えず飲み干したコーヒーのおかわりを入れた。
湯気の立つコーヒーを火傷しないようにそっと口をつける。
自分の選んだ道を後悔することはない。もちろん揺らいだことはあるが、友人とも話し合い覚悟を決めたのだ。日本という国を守るという立派な仕事だとも思っている。
ただそれでも、たったひとつだけ望みを、わがままを言うのなら、
「……………………だれかいてくれないかな」
ポツリとこぼした言葉は、突如鳴り響いた警報にかき消された。
「何があったの!」
『侵入者です! 数は1! かなりの強さで、ぐあっ‼』
通信が途絶えるよりも早く、飛び散ったコーヒーを気にすることなく駆け出した。
楯無がたどり着いた時、襲撃者は訓練場のど真ん中で立っていた。
何の警戒もなく、黒い刀を構えることなく静かに天井を見上げている。
「……………………何のつもり?」
楯無の問いに答えることなく刀を構えた。
「…………そ、後で好きなだけしゃべらしてあげる!」
飛びかかる楯無の一撃を躱し反撃するも、振り下ろされた刀は扇子によって受け止められた。
「あいにく特別性なの」
自慢げに広げられた扇子には達筆な文字で「残念!」と書かれていた。
『残念なのはお前の頭ンゴ』
「はぁ!?」
距離をとり急に機械音声でしゃべったと思えばまさかのネットスラング。
『見合いはこれで何連敗中ンゴ? 行き遅れ待ったなしで草』
「それ以上しゃべらなくていいわよ。牢屋に入るのに無駄なけがはしたく無いでしょ?」
それも頭の悪い煽り言葉だが、日々仕事のストレスが溜まっている楯無。業務中の腹芸はともかく、煽り性能しかない言葉と内容に青筋がピキピキとなる。
『人生の墓場にも入れないヤツが何か言ってるンゴねぇ』
「残りの人生オリの中で過ごすといいわ!」
それからは無駄に高度な戦いが繰り広げられた。
刀だけを使う侵入者に対して訓練所内にある得物を自由自在に使いこなす楯無、もし武術の試合であれば称賛の拍手が送られただろうが、生憎観客はおらず無駄にレベルの高い戦いにほこりなどが舞い上がるだけである。
ボロボロになった訓練所と廃棄が確定した得物の中、汗を流すことなく相手の情報を整理した楯無がとった手段は、
────悪く思わないでね。むしろ称賛の証よ」
水の如きナノマシンを操るIS、
アクア・ナノマシンの生産量、操作範囲が格段に向上した性能は、訓練場のような閉じた空間であれば、あっという間に深海のごとく相手の動きを拘束できる。
「どう? これでもう動け────
全身を黒いパワードスーツのようなもので纏っていた侵入者の顔を拝もうとして、強者としての勘が楯無に回避を選ばせた。
「…………そこまでやるのね」
謎の光と共に衝撃で散らされたアクア・ナノマシンが水蒸気が晴れた時、人と獣が合わさったかのような黒いISが立ちふさがっていた。
刀ではなく人を簡単に掴めるほどの大きな腕から繰り広げられる爪、さらには肩から生えてくる追加の腕が人でありながらも人ではないと認識させる。
アクア・ナノマシンであたりを埋め尽す拘束技、
果ては、
「…………なにそれずっるい」
『────
運が良いのか悪いのか制御権の取り合いで技が使えないが相手も使えず、手持ち武器のみでの実力勝負に持ち込まれてしまった。
辛うじて周囲に水を纏い防御には使えるが、基礎スペックでは相手の方が上なのだろう、シールドエネルギーは激しい攻防の結果底にたどり着きかけていた。援護は無駄な被害を出すだけ、ここで自分が食い止めなければいけない。しかし相手は自分の能力を模倣し、能力以外の先頭では分が悪い。
あまりにも絶望的な状況で楯無は笑った。
「更識家当主として、あきらめるなんてありえないのよ」
ランスを構え息を整えると、
「更識家17代目当主、更識楯無。参る」
全てのエネルギーを推進に回し、辛うじて操作できるアクア・ナノマシンを纏いながら突撃した。
「────────で、なにしに来たのよ」
辛うじて解除されていないISを纏ったままボロボロになった訓練場で大の字で寝転がる楯無。
少し離れた場所では首の皮ギリギリ掠らない場所へランスが突き刺さっている春明が寝転がっていた。
「なんかストレス溜まってるらしいから相手してあげろって虚さんに言われて」
「もっとあったでしょうが! もっとこう、ちゃんとした言い分とか!」
「最近たるんでるらしいから、じゃあ襲撃しに行きますねって言ったらOK出たけど」
「確かに警備も不甲斐なかったわね」
じゃあ仕方ないかと諦めた。
IS、ビーストを解除し起き上がると胡坐をかいて座り込む春明。事前申告があったとはいえ、それなりに警戒していたのだが警備に関してはISなしで切り抜けている。後日訓練の倍が決定したが、春明の知るところではない。
「……………………」
なんとなく話したいことが思いつかない。
文句やらなにやら言いたかったのだが、それよりも久しぶりに全力で動けた満足感が大きすぎる。
「……………………だっこ」
「何言ってんだコイツ」
気が緩んだのか出てきた言葉は辛らつな言葉で返された。
「疲れたのぉ! 抱っこしてくれないと動かない!」
「いくつだよ」
「いくつになっても誰かに甘えたいの! だからだっこ‼」
年甲斐もなく駄々をこねる楯無に諦めたのか、それとも痴態を見たくなかったのか、渋々ながらIS解除した楯無を引き起こそうとして、
「すきあり!」
「ぐへっ!?」
伸ばされた手を引っ張り込み倒れた春明のマウントをとると、楯無は縋るように胸元へ頭をこすりつけた。
「……………………ね、頭撫でて」
「…………」
「…………………それとね、がんばったって褒めて」
雑に撫でられた手に頬が緩み、もう片方の手を持ちあげると自分を抱きしめるように背中に乗せる。
────────がんばったな、刀奈」
耳元で呟かれた言葉、全身を震わせ謎の衝動にかられるままに息荒く目の前にいる後輩を獲物に定めた。
結局タイミングよく帰宅してきた虚によって止められお預けを喰らったものの、この日以降、楯無が見合いをすることはなかった。
「できちゃった婚って、よくない?」
「寝言は寝ていえむっつりスケベ」
「寝るのね! 準備できてるわよ!」
「じゃあその距離は何だよ」
「……………………もうちょっと待ってくれない? あのほら…………で、デートとかからね? ムードとかお互い準備って必要だと思うの」
とはいえ、更識家に婿が席を置くことになるのはもう少し後の事である。
久しぶりの戦闘描写が楽しくてもっと書きたかった。けどイチャイチャ書かないとって自嘲した。
Yが拾われた後を入れたかったワガママ。
いうて最後くらいしかイチャイチャしてないけども。勢いでできるけど冷静になって腰が引けるのいいよね。お次は…………って次も姉か。どっちの姉だろ。