イタリア人の前でパスタを圧し折るとぶちギレるらしい。   作:薔薇尻浩作

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パスタは多分次の話から作ります。
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貧乏人のパスタ 2

 

『魔法少年・ショータ』シリーズは某青年誌に掲載されていたコミックを原作としたアニメ作品らしい。

 

 リブさんは大袈裟にも神作品だとか知らない人間は損をしているだとか、美辞麗句を並び立てては賞賛していた。

 とは言え、流石にこんな頭のおかしいアニメが人気のわけが無いだろうと思ったが、流石はHENTAIの国である我が日本。

 あんな変態的なエロ描写が多分に入ったアニメが既に第3期まで放送されており、来年には映画化が決定しているのだとか。

 

 もう終わってるわこの国。

 

 

「元々は『殺戮魔法少女♡ブラッディ・マリィ』っちゅう人気作品のスピンオフ作品やからな。そっちから流れてきたファンからも根強い人気があるっちゅうわけや」

 

「人気作品の割にはタイトルが物騒極まりない」

 

 

 ようやく土下座ポーズから立ち上がったリブさん曰く、丁度アニメ界で魔法少女ものがブームになった時に作られた作品らしい。

 魔法少女モノにも関わらず、男の娘を主役として放送コードギリギリのエロ描写をふんだんに盛り込んだ結果、大きいお友達や腐り果てた貴腐人(誤字に非ず)を中心に大ヒット。

 

 

「まあ話も物騒やったしな。魔法少女とは名ばかりの暴力系のエログロ漫画や。1クールでアニメも終了してもうたしアニメ化作品にしては大した人気は出ぇへんかったんよ。んで、制作陣もそこを反省してか『魔法少年・ショータ』シリーズでは明るいお色気要素満載なコメディ調になったらしいで』

 

「反省するところが間違っている気がするのですが。局地的に」

 

 

 

 こうして『魔法少年・ショータ』シリーズはスピンオフ元である『殺戮魔法少女』の名前をあっという間に抜き去る勢いで盛大にバズったのだとか。

 

 

「ちなみにウチのオススメは第2期の第4話『戦慄! メスガキスライム娘の乳首ねぶり地獄』の回と、第3期の第2話『散らされる菊の花!? クイーン・ホーネットによる恐ろしき産卵攻撃』の回やな。めっちゃエロいで?」

 

「うん。絶対に観ない」

 

 

 幼い少年を強制的に女装させた上に年上の女性から触手責めされる。そんな倒錯的なエロ要素が毎話毎話ギッチリと詰め込まれているアニメが全国区でバカ受けしてる現実は絶対におかしいと思うけど。

 というかサブタイトルに乳首ねぶりとかついてる時点で頭が痛くなる。あと産卵攻撃って何だよ。聴いただけで何故かお尻の穴にキュッと力が入ったんだけど。

 

 

「バンビちゃんも知っての通りウチはアニメやマンガが大好きなオタクなわけやけど……何百何千とアニメやマンガを観て来たウチが一番にハマった激アツ作品が『魔法少年・ショータ』シリーズなんや!!」

 

「いや、まあ。人様の趣味に口出すような無粋な真似はするつもりありませんよ? 私はあまり興味は無いですけど学校の友人に重度のオタクの人とかいますし」

 

「えぇ~そこは興味を持ってやー』

 

「私の趣味は料理で十分ですし」

 

 

 のめり込み具合には個人差が大きいとは言え、ラノベやアニメが好きな人は結構多いと思う。私も友人から借りたライトノベルにハマった事もあるし。

 以前はオタク=気持ち悪い。なんてネガティブかつ排他的な意見が過半数を締めていたようだが、今ではアニメも漫画も莫大な収益を誇る立派なサブカルチャーとして認められている。

 

 外国人が日本のアニメにハマった結果そこから日本語を勉強し始めた。そんな話は割とよく聞くエピソードだと思う。

 

 

 

 

『デュフッ……デュフフフフフッ。お久し振りで御座るな早乙女氏ぃ……今期のアニメは豊作ばかりで充実した連休が過ごせたで御座るよ。時に早乙女氏は今期のアニメでは何に注目してるで御座るか?

 

 ……え、観てない? 1作も? そもそもアニメとか漫画にあまり興味が無い?

 フォカヌポォwww んん、実にもったい無いっ。深夜アニメをチェックしないなどあり得ないっ!! 人生の半分以上を損しているに違いないですぞっ!!

 そーんな早乙女氏の為に拙者がセレクトした今年のお勧めアニメセレクションをプレゼントォ゙!! 今ならなんと原作ラノベまで付いてくる。んん!! このチャンスを逃すなどあり得ないっ!! コポォww

 

 先ず拙者がお勧めしたいのは、つい先月まで放送されていた【追放されたオレ。実は世界最強の暗殺者〜無敵のスキル尿路結石生成で無双します〜】と言う作品。何と作者が執筆中に本当に結石で入院したという逸話が……』

 

 

 

 

 ゴールデンウイーク明けに血走った目でアニメやエロゲを布教しているクラスメイトの顔をふと思い出した。

 そう言えば以前、彼から魔法少女モノについても布教されたような記憶が薄っすらとある。もちろん適当に聞き流していたので記憶は既にあやふやではあるのだけれど。

 

 未成年には思えない老け散らかした顔つきとバンダナがトレードマークのクラスメイトと、目の前のリブさんとは比べるのが烏滸がましい程に、むさ苦しさとヴィジュアルのクオリティに違いはある。

 だがオタク趣味にかけている熱量としては、リブさんも我が友人と大して変わらないのではないだろうか。

 

 

「まあ、リブさんがアニメやらマンガやらが好きなのは元々知っていましたから別に偏見とかは無いですけど」

 

 

 現に我が家に遊びに来る時はよくアニメキャラらしきイラストがデカデカとプリントされたTシャツとか着てる事が多いし。

 それによく見ればリブさんが今日持ってきたバッグにはカラフルなイラスト入りの缶バッジが大量にくっついてる。

 確かハマっているアプリゲームの推しキャラだとか、そんな事をいつかの日に語っていたのを思い出した。

 

 

「ならバンビちゃんがショータくんのコスプレをしてくれてもええやないかい!! むしろ、しないなんてあり得ないやないかい!?」

 

「理論の飛躍が甚だしい」

 

 

 いや、本当に。別にアニメやらマンガやらにのめり込んでいるオタク趣味をバカにする気はサラサラ無いのだが、それを他人に強要するのは話が違うと思うのだ。 

 

 まあ、百歩譲って。何らかのアニメキャラのコスプレをしてみるのは良いだろう。だが、何が問題だかと言えばリブさんに指定されているキャラクターは女装した少年である事なのだ。しかも衣装はピンクでフリフリのドレスだし。

 

 

「せめて普通の男キャラにして下さいよ」

 

「リアル男の娘にパンピーの男キャラのコスをさせるなんて過激派にぶち殺されかねない暴挙やねんで!?」

 

「誰だよ過激派」

 

 

 コスプレ云々よりかは、むしろ女装の方がハードルも高いし拒否感だって強い。

 何度も主張しているが私にとって小学生にも間違えられる程の低身長と、女のような顔つきはコンプレックスなのだから。

 

 

「おねがいしゃーっす!!」

 

「イヤですって」

 

「おねがいしゃーっす!!」

 

「だから幾ら土下座されてもイヤなものは……って何ですかそのポーズ?」

 

 

 もはや埒が明かない。初恋相手による再びの土下座ラッシュ攻撃に内心で辟易していた私だったのだが、リブさんの行動に変化が見られた。

 

 両手と額を床に擦り付けて平服する一般的な土下座スタイルから一転。

 両手両足をピンと伸ばして床に寝そべってから、ますます声を張り上げて私に女装コスプレを懇願し始めたのだ。

 

 

「いや、あの。そもそも何なんですか? その陸に打ち上げられて、そのまま死んじゃった魚みたいなポーズは?」

 

「これこそ土下座よりも深く頭を下げた土下寝や!! ウチの誠意をこれでもかと見せ付けてるんやで!?」

 

 

 初恋相手の留まることを知らない進化する醜態に私はますます頭が痛くなってきた。

 

 

 

「いや、むしろ変なギャグを見せ付けられてバカにされてる感が強いのですが」

 

 

 土下寝って何よ、土下寝って。得意科目は国語全般なんだけど、そんな言葉自体を初めて聴いたんだけど私。

 普通に変なポーズで地面に倒れているようにしか見えないので、謝罪だとか請願だとかそういった意思を訴えるのには逆効果な気がする。

 

 いや、土下座だろうと土下寝だろうと私としては反応に困る事に違いは無いのだけれど。

 

 

「さあバンビちゃん!! ここら辺でそろそろ折れておいた方がええで!? 何故ならこの土下寝が通じひんかったら次は最終兵器を出さざるを得ないのやからなぁ!!」

 

 

 ドン引きする私の反応に何やら手応え有りと勘違いしてしまったのだろうか。

 リブさんはここぞとばかりに声を張り上げた。土下寝姿のままで。

 

 

「いや床に寝そべりながらそんな偉そうに脅迫されても……と言うか土下寝以上の謝罪のポーズがあるんですか」

 

「全裸や」

 

「はい?」

 

 

 何だろう……今、物凄く不穏な言葉が聴こえてしまったような気がする。

 

 

「ウチは!! 全裸で!! 土下座すると言うてるんや!!!!」

 

「プライドとか羞恥心とか人として色々なものをかなぐり捨て過ぎでしょう!?」

 

 

 女性の裸などまともに見たことが無いというのに、何が悲しくて初恋の女性が全裸で土下座する姿をこの目に納めなきゃならないのか。

 いや、年頃の青少年として異性の裸体に興味が無い。などとは決して言い切れないのだが、もう下心とか性欲云々の前に純粋な驚愕と困惑以外の反応を返せる自信が無いのだけれども。

 

 

「覚えときぃ、バンビちゃん。女には。女にはなぁ!? ……人生賭けてでもヤらねばならん時っちゅうもんがあんねん!! ウチはヤる時はヤる女なんや!!」

 

「いやそれ普通に考えて絶対に今このタイミングに賭けるモノじゃないですよね!?」

 

「さあウチは脱ぐでっ!? ウチは本気で脱ぐで!? 下着までひん剥いた本物のスッポンポンやで!? ここでバンビちゃんがコスプレしてくれるのを認めてくれないんやったら、バンビちゃんはこれに託つけて美人のお姉さんの全裸を眺める気満々のムッツリ助平さん。っちゅうレッテルを貼られるんやで!?」

 

「今まで聞いてきた中でも最低の脅迫だ!?」

 

 

 土下寝ポーズのまま器用にも視線だけを上げてキリッとした表情でそう宣ったリブさんは、もうどこまでも普通に最低の人間だった。

 

 

 その後、本気で服を脱ぎ始めて下着姿になってしまったリブさんを慌てて止めるハメになり、結局のところ私はリブさんの要望通りにコスプレをする事を渋々に了承。

 こうして日本男子である早乙女 鹿之助。15歳はピンクでフリフリの魔法少女ドレスを身に纏う事になってしまったのでした。

 

 

 ……何だかんだと不平不満を抱き文句を言いつつも、最終的には彼女の言うことに逆らえない。

 これが俗に言う、『惚れた弱み』というやつなのだろうか?

 

 

「っしゃああああ!! バンビちゃんの魔法少女コス!! 毎晩妄想していたエッチな姿がついに実現するんや!! クッフフフ……アカン、興奮し過ぎて涎出てきたわぁ。ウチの中のえちちコンロは既に着火済みやあ!!」

 

 

 ……ああ。何で私、こんな変態女に惚れてしまったんだろうか。

 

 いや、マジで。

 

 

「はあああぁぁぁ……」

 

「どないしたんバンビちゃん? 溜息は幸せが逃げてまうで?」

 

「お気になさらずに。いや、本当に」

 

 

 頭の中に浮かんで来た蛙化現象という言葉をどうにか追いやる為にも。

 私は深い。それはそれは深くて重い溜息を吐き出したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「足元に風が入ってきて落ち着かないんですけど……」

 

 

 アニメの主人公であるショータくんが初めて変身した際にも呟いていた感想だが、スカートというのは下半身が薄ら寒くてどうにも落ち着かない。

 世の女性はこんな防御力の低い衣服を穿いていて不安にならないのだろうか。

 

 

「まあ丈の短さのせい。も、あると思うのですが……な、何でこんな無駄に布をひっつけてフリフリにしてるのに肝心の丈の長さが膝より上なんですかっ!?」

 

 

 過剰なまでのフリルとパニエ? と呼ばれている下着部分のボリュームは過剰なまでにフリッフリなのに、こうして着用してみるとあまりにも丈の長さが頼りなくて顔が熱くなる。

 もはや変態的な欲望を一切隠そうとしないリブさんからは女性もののランジェリーまで渡されたので、流石にそれは投げつけて返却した。

 とは言え、私だって自分が着用しているブリーフパンツを見せ付けるような歪んだ性癖は持っていない。

 布地の多さに反比例する勢いで丈の長さが短くなっているスカートから下着が見えないか、何だか不安になって来た。

 

 

「上半身も無駄にフリフリしてるし……なんかリボンとか宝石みたいな飾りも過剰だし。ついでに言うなら胸はブカブカなくせして腰の部分だけやけに苦しいし。コルセットでしたっけ? このベルトみたいなやつ」

 

 

 男の自分に胸が無いのは当たり前だから良いとして、それでもこのウエストの締め付けはどうにかならないのだろうか。

 中世ヨーロッパを舞台にしていた映画でお付きの女官にプロレス技でも仕掛けられてるのかという勢いでコルセットを締め付けられているワンシーンを思い出す。

 痩せっぽっちの私ですら不快に思うのだ。俗に言うぽっちゃり系の方々がこんなドレスを身に纏うにはかなりの勇気と根性が必要なのだろうな。

 

 と、そんな不躾な事を考えながら、私は最後に薄茶色のカツラ。主人公であるショータくんの髪型を真似する為に渡された、俗に言うウィッグを被った後に着替えをしていた脱衣所から恐る恐る外に出た。

 

 

「……あの、着ましたけど。リブさん? これで良いんでしょうか?」

 

 

 当然、そこには今か今かと私を待ち構えているリブさんの姿が目に入る。

 目線はガンギマっており、何故かジョジョ立ちしてるし。ちなみにハンバーグ頭の主人公のラストシーンと同じく、やけにくねらせた腰に手を当てたポーズだ。

 

 

「……oh」

 

「リブさん? もしもし、リブさーん?」

 

 

 さて。色々と勇気を持って披露した私のコスプレ姿に対するリブさんの反応は、非常に鈍かった。

 彼女がどうしても着ろと言うから嫌々に。それこそ自分の中の尊厳とか面目なんかを削り落とす覚悟で女装してやったというのに、肝心要の彼女の反応はほぼ皆無である。

 

 

「リブさん? あの……せめてなんか反応をして頂かないと私もどうすればいいのか分からないのですが」

 

 

 仮に似合うと褒められたところで微妙な気持ちになるのは明白ではあるが、やっぱり似合わないし気持ち悪いと蔑まれるのもソレはソレで傷付きそうだ。

 一瞬の空白の時間の中で、怯えたような気持ちでそんな事を考えていた時である。

 

 

「Bellissimo!!」

 

 

 変化は正に一瞬で、劇的だった。

 

 

「え? あの、何て? イタリア語で言われてもちょっと分からない……って何で勝手に写真撮ってるんですか!?」

 

 

 腐った魚よりも生気に欠けているであろう死んだ目でもって、私がリブさんに問い掛けた瞬間である。

 

 何やら物凄い勢いで一言叫びをあげたかと思えば彼女はその後、ひたすらに興奮した様子でスマフォを構えたかと思えばカメラを連写。

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャと喧しいシャッター音に私の文句と悲鳴は遮られ、それはもう好き勝手に私の痴態をレンズに納め始めた。

 

 お前マジでふざけんなよこの変態女!!

 

 

「後生やバンビちゃん!! ちょっとでいいからスカートの中も撮らせてぇなあ!?」

 

「嫌に決まってるでしょう!! いい加減にしないとボクだってマジで怒りますよ、このバカ!!」

 

「あぁん……今のセリフ最高やぁ。次はもっとツンデレっぽく言うてくれへん!?」

 

「こ、このバカ!! バカ女!! この変態!! ド変態!! 変態大人!! HENTAI!!!!」

 

「ありがとうございますっ!! ありがとうございますうっ!!」

 

 

 しばらくの間。カシャカシャというシャッター音と私の罵声が部屋中に響き渡っていた事は、語るまでも無いだろう。

 

 

 大人という存在はどうしようもなく醜い。

 ゴキブリのように床を這い回りながらも私のスカートの中を撮影しようとする、初恋の人のアレな姿に。

 

 私はまた一つ、知りたくもないこの世の真理を学んだのだった。




・早乙女 鹿之助
中3男子。オリヴィアからはバンビちゃんと呼ばれている。趣味は料理。初恋の女性のあんまりにもアレな姿に割とマジで百年の恋も冷めかけた。

・オリヴィア
20歳の女子大生。愛称はリブ。趣味は酒とアニメと漫画とラノベとエロゲ。もはや隠しようが無いほどの重度のショタコン。男の娘だろうが女装少年だろうが美少年だろうが普通のショタだろうが美味しく頂ける。

・クラスメイトのオタク
多分もう出ない。
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