たぶんもう誰も待っていないぐっちゃんパイセンとのエピソードです。
その子どもは宇宙から落ちてきた。
落ちてきた、どころか。
「なんだったのかしら…」
私の頭のうえに振ってきて、その子どももろとも肉片になり血をぶちまけて、ぐちゃぐちゃになった。
地面にクレーターを作り、蹲る子どもはピクリとも動かない。
後に息子にそれはいわゆるヤムチャポーズってやつだから、覚えとくといいよなんて言われることになるのだが、さておき。
確信があった。
この子どもは、死んでいない。
これでも長生きしてきた身。
その子どもが自然発生的な不老不死ではないことはよく分かった。
だが、同時に一つの宇宙を内包したような魔力で満ちている。
死んだ直後はまたぞろどこぞの魔術師か科学者かとも身構えたものだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
やがてぴくり、と指が動き、その子どもが跳ね起きた。
「あ、あのクソトカゲ娘ぇぇええええええええ!!なぁーにが私の歌の力で元の世界に返してあげるだ!危うくあの世に行きかけ…た?」
跳ね起きた子どもの赤い瞳が私を見つけ、大きく見開かれる。
ついで、足元に広がる殺人事件もかくやと言わんばかりの凄惨な光景が目に入ったのか、ガタガタと震え始めた。
「……もしかして、やっちゃった?」
その銀髪の子どもに、文句の一つでも言って呪ってやろうと口を開こうとしたその瞬間、鼻を掠める懐かしい香水の匂い。
そして、突如溢れ出した存在しない記憶
『虞や虞や…我らの子だ』
『ああ、ああ…項羽様!なんという…!』
いいえ、それはたしかに存在した記憶。
あの駆け抜けるような日々の中で、私は確かにあの方との愛の結晶を授かったのだ。
それに昔からよく聞く話だ。
赤子はコウノトリが運んでくる。
きっとこれもその類だ。
成層圏よりもはるか上空、宇宙から歌声に吹き飛ばされて飛んでくるということもあるだろう。
うん。
間違いない。
「ええ、私が母よ」
「…は?急になに?頭でも打った?」
「ええ、大丈夫。私が母よ」
「なんだこのおばさん!?おごっ!?」
それからの日々は、案外悪くないものだった。
2人で代行者から追い回されたり、うっかり真祖の城に飛び込んだせいでこの世の終わりかと思うほどのバトルに発展したり、宇宙人が襲来してきて親子パワーで撃退したり。
あとは宇宙で項羽様と出会った話を聞いたり。
生きるのに飽き、人間すら見放そうとしていた私にとって、その体験は少なくとも人類の救済に少しだけ手を貸してもいいか、と思えるくらいには大切な思い出だった。
●
「これが出会いよ」
「聞いても意味がわからなかった…」
「正確には、あの子から項羽様の匂いがしたから取り込むことにしたのよ」
カルデアの食堂内。
シュールストレミングの匂いが香る一人の女性と、茶髪の少女が紅茶を啜る。
噂の項羽様って臭いのだろうか。
「にしても初手おばさんはさすが先輩すぎる…」
「まぁそういう生意気なところも可愛いわよね。かかと落としたけど。教育として」
「こっちはこっちで母親面が分厚すぎる」
「ふっ、百年ものよ」
聞けば、そこから百年。
たまに一緒に行動したり、ふらりと離別して気まぐれで合流したりと割と無軌道に暮らしていたようだが。
情の深い目の前の『センパイ』はずっと気にかけていたらしい。
不死身同士、気まぐれすぎるその親子は、それでも繋がりを喪わなかった。
時にはどこぞの魔術の一族に囚われたセンパイを先輩が助けに行くともあったらしいし、口は悪くても仲は良くやっていたのだろう。
まぁ、だからといって自分の別側面をサーヴァントとして息子のもとに送り込むのはちょっと愛が重い気もするが。
「そこんとこ先輩的にどうなんですか?」
「んあ?なに?聞いてなかった」
カレーライスでご満悦な顔をしていたよく知る方の先輩に話を振れば、心底わからないといった表情の返事が来る。
というかそんな三者面談みたいなことを人が飯食ってる横でするな、という抗議が飛んできたが無視。
「だから、先輩はセンパイのことどう思ってるんですかって聞いてるんです」
「……んー……毒親?」
「いい度胸ねバカ息子。今から自爆したっていいのよ」
「別にいいけど…」
「よくはないんですけど!?絶対やめてくださいね!私はごく普通の一般人なんですから!」
こんなことになるならマシュも呼んでおけばよかった!と後悔する少女に構うことなく、ノータイム令呪でどこかにそのグラサンをかけたセンパイを飛ばして、ラッシーを飲み干した偽イリヤは口を開いた。
「まぁ、マジで。最初は頭のおかしい女に絡まれたと思ったもんだけど……百年たった今もそれは変わらねーな、さすがに。初手あなたの母よはイカれすぎだろ」
「それは確かに…」
扱いが雑すぎるな、なんて今更なツッコミはしない。
常に人員不足を嘆く目の前の先輩は、同時に少数精鋭すぎる自分のサーヴァントたちに頭を悩ませていることを知っているからだ。
なんなら殿堂入り枠のアーラシュさんはさておき、次点でバーサーカーのスパルタクスが一番まともなまである。
…語り手を気取り、自分は戦わずマスターで遊ぶことに余念のないキャスター。
反骨心の塊で、ただ圧政者を見据えて突き進み最後に爆発するバーサーカー。
性格はまともで通常攻撃が宝具並の大英雄だが、本当の宝具を撃つと極大の爆発を引き起こし自滅するアーチャー。
シュールストレミングの臭いが染み付いていて、槍を持たないのにランサーと母親を自称するサングラスかけた年中水着の必殺技が自爆のセンパイ。
宇宙から来たというなぜか水着姿で槍を持った倒された敵が爆発する謎のアルトリア顔のお姉さん。
…うん。
濃いな。
カルデアに来るサーヴァントたちは基本的に濃いが、中でもキワモノたちが集まっている。
「まぁこっちとしても、迂闊に人前で正体も明かせないし死ぬに死ねない身体になった身だし…そういう意味で、その辺の生き方を教えてくれたのは助かったかな…世俗へのほどほどな馴染み方的な」
たしかに、すでに満たされた聖杯など争いの火種でしかない。
その割にのほほんと生きてきた感じもあるが、果たしてそこのところはどうなのだろう。
「ぶっちゃけ宇宙で宇宙人と極貧二人暮らししたりしてたし…生活面だとあんま役には立ってないな…」
「役にはたってないんだ…」
「とりあえずあえて敵に囲まれて自爆するって戦法くらいかな、見習うべきところは」
「絶対そこじゃなかったですよね?」
「スーパーFateギャラクシーのあとに隠居生活して楽しいわけないじゃん。自活能力もねーおばばの介護だぜ実質。料理するのも俺、買い物するのも俺、携帯電話の使い方教えるのも俺、銀行で金を下ろすのも俺、掃除洗濯も俺。息子じゃなくて
「その割に大事にしてるのほんとツンデレだなって思います」
「うっせ」
そんなんでも僕にとっては初めて出来た親なんだよ、と鼻の頭をかき、目を逸らして口にする先輩はとても可愛らしくて。
「…なるほどなるほど。なぜかつれないなーと思っていましたが、母性を求めてたんですね。では、どうぞ!」
『セイバーを発見。業務的に処理します』
「なぬっ!?その聖剣は私が普通にコインランドリーに忘れていったフォーストシーズンの聖剣!?しれっと新調したはずなのに!」
直後に始まった母親カルデアNo.1決定大会で全てが有耶無耶になるあたり、うちのカルデアも人が増えてきたなぁと立夏は努めて現実逃避をするのだった。
「ぐわー!せっかくヒロインXXへと進化したというのにここで脱落ですか!?自分の聖剣からの反乱で!?」
「アルトリア特攻って便利だよな。定期的に沸いてくるし」
「ツンデレのハズでは!?」
「ツンドラだから俺。あ、エミヤママーパンケーキ作ってー」
「くっ、この状況でその呼び名は悪意しかない───!」
爆発する厨房。
吹き飛ぶヒロインXX。
シュールストレミング臭すぎて出禁になる実親(?)。
『母親面は圧政!』と大会参加者に突撃して爆発するバーサーカー。
喜々として参加者を煽り、景品として躊躇なく自分のマスターを差し出すキャスター。
…そんな光景、私は見ていない。
「───先輩、先輩?現実逃避してないでこの事態の鎮圧に立ち向かってください!」
「えー…マシュが私のママになってくれるなら考えるけど…」
「新たな火種をばら撒くのはやめてください!?」
結局エミヤが優勝してことは収まるのだが、火種になったはずの先輩がしれっと自室に避難して難を逃れていた件について、しっかり追及しようと私は心に決めるのだった。
最近たぶん長続きしないプリズマ☆イリヤの二次創作『プリズマ☆イリヤNTR本』を書いてます。
内容は間桐桜救済からのライダーにおねショタNTRされる的な感じです。
…もしよろしければ、暇つぶしに覗いていって頂けると幸いです。
https://syosetu.org/novel/411531/