プランB/楽園を探して   作:シャブモルヒネ

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行ってらっしゃい、エリ

 

 全てが始まったあの襲撃から丸一日。

 ううん、今はまだ次の日の昼前だから、一日未満だね。それしか経っていない。

 

 昨夜は……地獄のように過激で危ない旅路だった。

 私たち一行は、あの夕暮れのグラウンドからタイムアタックでもしてるのかって勢いで移動してきた。

 燃やされてしまったらしい我が家には戻らずに、お母さんの先導で郊外のボロ小屋に直行。中にはいかにも盗難車って感じに塗装の剥げたミニバンがあって、当たり前みたいに皆で乗りこんだ。お母さんがこんなこともあろうかと用意していたものらしい。法定速度オーバーで死体だらけの街中を飛ばして隣の地区へとかかる橋に辿り着くと、厳戒態勢って感じの検問が現れた。お母さんが平然と「すいませ~ん、私たち悪魔に追われてまーす」って人懐っこい笑みを振りまいたと思ったら、後部座席に置かれていたボストンバッグからショットガンを取りだして夜空にぶっ放した。警官さんたちが逃げ惑う隙間をロケットスタートの勢いで飛びだすとサイレンが鈴なりになって追いかけてきて、ドリフト走行で横Gがかかる車内で縮み上がっていると、お母さんが手榴弾を放り投げてパトカーの群れを追い払ってしまった。生きた心地がしなかった。お父さんはボストンバッグの脇ポケットから携帯糧食を見つけて嬉しそうに笑ってた。

 

「おっ、これ俺ん好きな味じゃ~ん! エリも食う?」

 

 公的権力を振り切って目的地である街に辿り着くことができたのは空が白み始めた頃合いだった。

 嵐のような一夜だったと思う。

 こんなメチャクチャを想定して準備して実行までしちゃうお母さんは意味が分からないし、お父さんもお父さんで私と同じレベルで何も知らなかったみたいなくせに平然と全部受け入れててやっぱり意味が分からなかった。器が大きいのか、単純に信頼が上限突破してるのか。

 死ーちゃんはずっと寝てた。

 この一行の中でまともなのは絶対に私だけだと思う。

 

 

 そんなわけで、私たち一行は今、タイとの国境に近いパダン・プサールという町を訪れている。

 鉄道乗り換えの拠点であり、タイへの陸路の玄関口でもある町。空港も近い。

 ほとんど寝てないけどむしろ元気。ナチュラルハイってやつかもしれない。

 私とお父さんとお母さん、そして死ーちゃんは、二回目に乗り換えた車に積み込まれていた大量の服から好きなやつに着替えて、今は帽子を目深にかぶって街中を堂々と歩いている。

 変装。潜伏。なんだか本物のスパイになった気分。ちょっとウキウキしている。

 

 ちなみにパワーちゃんはあの金髪の魔人さんと別ルートで移動しているらしい。なんでもパワーちゃんも狙われる可能性があるからって。

 どうしてかな。パワーちゃんは関係なくない? って聞くと、それも後で話すって死ーちゃんは眠たげな目のまま呟いた。

 なんだか意味深。

 この現状、そして敵について、この場で最も詳しいのはやっぱり死ーちゃんだと思う。

 ちゃんと教えてもらえないと私たちはこれからどう動くかって方針さえ立てられない。

 

「じゃあメシ食いながら話そうぜ~。俺ぁ腹減ったよ」

 

 そんなわけで飲食店を探した。

 大通りを避け、裏路地を通りぬけると、ビルの隙間にひっそりと佇んでいるこじんまりとしたカフェを見つけた。小さな立て看板には『another way』と店名が書きなぐられている。

 

「ここにしよ」

「おー」

「……お母さん?」

「ん。ちょっとね。知ってる店を思いだして」

「ふぅん?」

 

 入店すると、カランと小気味良いベルの音が鳴る。

 お母さんは一瞬立ち止まり遠い目で店内を眺めていた。

 

「いらっしゃい」

 

 マスターはちょっと髭が特徴的なおじさん。

 私たちは案内されたボックス席に腰を掛け、それぞれ好きなものを注文した。

 

「俺はカレーとアイス、オレンジジュースと……あ、メニューにないけど炒飯できる?」

「私はピザとパスタ、あとコーヒーも。取り皿もお願いしていいですか」

「私はハンバーグのBセットと……わ、餃子ある。それと、これ! メロンソーダ! 死ーちゃんは?」

「ハニートースト。季節の盛り合わせフルーツ。バニラアイス。チョコレートケーキ。窯焼きホットケーキ。いちごパフェ。今言ったのを全部5つずつ」

「…………」

「…………」

「か、かしこまりました」

 

 悪魔の胃袋は異次元にでも繋がってるのかもしれない。

 

「奢るとは言ったけど……。まあいいや。エリの命の恩人みたいなものだからね」

 

 食事はわりとすぐに運ばれてきた。

 一口つけると、美味しくて口内が幸せで満たされる。一晩の疲れがとろとろに溶けていくみたい。

 

「さぁ~て、じゃあ話する? 何から聞いたらいいか分かんねえけど」

「ひとまず何をおいても先にこれだけは。ええと、死の悪魔さん? 死ーちゃんって呼んだ方がいいんだっけ?」

「ほうひへ」

「じゃあ死ーちゃん。エリを助けてくれてありがとうございました。契約に思うところがないわけでもないけど、条件は破格みたいだし、ああしてなければ今頃こうして家族でご飯を食べることもできてなかったと思う。なのでありがとう」

「へふひはふへははへははい」

「……ええと」

「別に助けたわけじゃない、だって」

「エリ、よく分かるね……」

「なんかよ、食うの忙しいみたいだし、もうちょい後にする?」

「……ん。ひとまず大丈夫」

 

 死ーちゃんは三品ほど一気に口に詰めこんで人心地ついたみたいだった。

 ちなみにフルーツやケーキを素手で掴んでしまうせいで手も口元もべちょべちょのぐちょぐちょだ。他のお客さんがいなくて良かったと思う。

 

「聞きたいことは何」

「どうして私たちの味方をしてくれたの? これからもそのつもりはあるの?」

「エリちゃんが昨夜言ってた通り。私は面白そうなドラマを見せてもらう契約をしただけ。味方になったわけじゃない」

「差し出す対価に見合った力は貸してくれる、と……。うん、悪魔の契約って感じ。もちろんそれで充分ですけど」

「え~! 死ーちゃん味方してくれるんじゃないのお!?」

「契約分は手を貸す」

「そんなぁ~」

 

 ずずー、とジュースを啜る音を立てながらお父さんが平手を掲げた。

 

「なあ~、一個いいか?」

「どうぞ」

「今回のコレってホントにマキマさんがやったの?」

「そう」

「なんで? やっぱ俺が公安バックレたから?」

「違う。マキマは…………」

 

 そこまで言うと、死ーちゃんは止まってしまった。まるでアンドロイドが故障したみたいに。

 何事? って感じにお父さんとお母さんは顔を見合わせて、動かない死ーちゃんの顔の前で手を振ってみたら、ようやく唇が動いた。

 

「私の言葉で……マキマの動機を決めてしまうのは……違うと思う」

「え。どういうこと?」

「マキマの気持ちはマキマだけのものだから」

「……よく分からないけど、まるであの魔女の気持ちが分かるみたいに言うね?」

「私はお姉ちゃんだから」

「お姉ちゃん? 誰の?」

「私が、マキマの」

「ん?」

「あ?」

 

 怪訝な顔を浮かべるお父さんたちを尻目に、死ーちゃんはパンケーキに手を伸ばして豪快にかぶりついた。パフェの容器に指を突っ込んで生クリームをペロペロと舐め、早くも頼んだメニューの一巡目を平らげてしまった。

 お父さんとお母さんはというと、揃って頭上に大量のクエスチョンマークを浮かべている様子。

 

「え~と? あなたが? マキマの? お姉さん?」

「そう」

「二人は……姉妹?」

「ちなみにあと二人いる」

「へえ~……そうなんだ~。四姉妹なんだぁ~。……しっ、姉妹!? え? え? あなたマキマの姉なのっ!?」

「そう言ってる」

「うっ……わぁ~……。し、知りたくなかった……。え、じゃあ何? 姉妹なのにこっち側についてるの?」

「姉妹でも同じ道は選ばないでしょ。協力することもあるしそうならないこともある」

「そっかぁ~。いやー私たちとしてはありがたいお話ですけどね」

「おいおいおい、ちょっと待ってくんない……? アナタ、悪魔ですよね? じゃあマキマさんも……悪魔……だったりすんの?」

 

 死ーちゃんはこくりと頷いた。

 

「えええ~!? マジかよ~!」

「そこは納得しかなくない? あんなのやれる奴が人間って方がイヤでしょ」

「そうかあ? そりゃちょっと厳しいとこはあったけどよお」

「デンジ君は基準がおかしい。……あ、ちゃんと知らないのか。あの魔女が裏で何をやってたか」

「聞きたくねえ~」

「マキマの目的は」

 

 ぴしゃり、と死ーちゃんの無感情な声が割りこんでくる。

 細い指先がお父さんに向けられていた。

 

「チェンソーマンを手に入れること」

 

 お父さんは不満そうだった。

 行儀悪くテーブルに肘をつき、わざとらしく溜め息をついてみせる。

 

「はあ~? またかよ~」

「また、って?」

「エリには教えたじゃん? 日本に居たときも色んなヤツに狙われてたんだよ」

「……でもさ、それってなんか変じゃない?」

「何が?」

「だって、お父さん公安で働いてたんでしょ? 言っちゃアレだけど心臓が欲しいならその時にどうにかできたと思うんだけど」

「それは違う」

 

 死ーちゃんが訂正する。

 

「マキマが欲しいのは元のチェンソーマン。契約でデンジ君と一つになっているチェンソーマンじゃない」

「……? どゆこと?」

「今のチェンソーマンはデンジ君との混ざりもの。マキマは元の純粋なチェンソーマンに戻したい。そのためにデンジ君との契約を破棄させようとしている」

「俺とポチタとの契約……って?」

「キミたちの間で交わされた契約は、デンジ君がチェンソーマンの心臓をもらう代わりに夢を見せてあげること」

「そうだけど……何でんなこと知ってんの?」

 

 死ーちゃんは答えず、静かに問いかける。

 

「デンジ君の夢って何?」

「俺の夢ぇ……? いやフツーの夢だよ?」

 

 

――食パンにジャム縫って、ポチタと食って

  女とイチャイチャしたりして

  一緒に部屋でゲームして……抱かれながら眠るんだ……

 

 

「普通の暮らしをして、普通の死に方をしたい。楽しくて旨いもん食いたい。って言ったかな?」

「それを見せるのがチェンソーマンとの契約」

「ああ。それが何?」

「仕事をして、お金をもらい、おいしいものをたくさん食べる。仲の良い家族と温かな生活を送る。そういう幸せに満ちた普通を見せるのが契約。じゃあ、そういうのが全部壊れたら?」

「壊れたら……?」

「今のデンジ君は、もう仕事はできない。家も無くなった。お金がなくなれば貧困生活に逆戻り。あとは……家族だね。レゼちゃんとエリちゃん、あとパワーちゃん。全員死んだらデンジ君の夢は無くなっちゃう。そのまま絶望して何も望まなくなれば……チェンソーマンとの契約は破棄されたも同然になる」

「……はあ? な、何言ってんの?」

 

 死ーちゃんは能面の顔つきでこう続けた。

 マキマって人の目的は、お父さんの全てを壊して一生立ち直れなくなるくらい傷つけることだ、と。

 

「いやいや……そんなの、ダメだろ」

 

 お父さんは静かに、けれど確固たる決別の意思を滲ませながら呟いた。

 

「絶対にダメだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真昼の太陽光が燦々と照りつけるビルの屋上で、何をするでもなくお父さんと二人、都会の街並みを眺めていた。

 手すりに寄りかかりながらお父さんは大きく溜め息をついた。

 

「あれからもう13年も経ったのかあ~」

 

 

 死ーちゃんとの話し合い。あの後、お母さんが死ーちゃんにたくさん質問して情報を聞き出した。

 結果、色んなことが分かった。

 

 死ーちゃんが最初に視ていたのはポチタ君だったこと。

 お父さんと契約した場面も視ていたし、その後にお母さんと出逢った時も視ていたらしい。そして――お母さんが支配の悪魔に使役されないように介入したとも言っていた。

 お母さんが呟いた言葉が印象的だった。

 

――あなたが介入しなかったら、私は……マキマの手駒になってたんだろうね。昨日のクァンシたちと同じように……デンジ君の敵になっていたのかも。

 

 

 もしそうなってしまっていたらどんな歴史が刻まれていたんだろう?

 お母さんはお父さんと結婚できない。

 当然、私が生まれてくることもない。

 こういうの、バタフライエフェクトって言うんだっけ。

 悪魔の気まぐれ一つで運命のレールって簡単に切り替わっちゃうんだ。

 

「レゼと再会できなくて、エリも生まれなかった人生か。想像もつかねえや」

 

 お父さんはぼんやり遠い目でここではないどこかを探している。

 これ、あれかな。

 昔を思い出してるやつ。

 子どもの頃とか、ポチタ君と契約した時、お母さんと初めて逢った時のことを考えてる。

 

「俺ってさあ、ずっと普通になりたかったんだけど」

「うん」

「ちゃんと普通やれてたかなあ~って考えっと、まあ~やれてたんじゃねって思うんだよ。エリはどう思う?」

「普通っていうか上澄みでしょ。美人の奥さんにスーパー可愛い娘がいるんだもん」

「お、そうだな」

「ホントに思ってるぅ~?」

「思ってる思ってる。そこんとこはマジだから」

「ふ~ん」

「なんか俺が巻き込んだみたいでゴメンな~」

「それもホントに思ってる?」

「あんま思ってない。だって俺悪くないじゃん」

「だよね。私もそう思う」

 

 お父さんは手すりに背を預け、雲一つない抜けていくような青空に目を細めた。

 

「働いて、ありがとうって言われて、好きなもん食えて……すげえいい生活だったと思うよ? ただなあ~……。実はよ、旨いもんばっか食ってると飽きてくるんだよ。たまにはマズイもん食ったり、毒あるかもってドキドキしてるほうが楽しいよ。……うん。俺ぁそう思う。エリはどう?」

「う~~ん。定期試験みたいな感じ?」

「なんだそれ?」

「学校ってちょこちょこ大事な試験があるの。いい点とらないとヤバイからたくさん勉強しないといけなくて大変。こんなの覚えて何の役に立つの~ってイヤ~な気持ちになったりする。けど試験が終わったらヤッタ~遊びに行くぞ~! って飛び上がりたくなる。……そんな感じ?」

「そうそう。多分そんな感じ」

「イヤなことがない人生なんてないもん。だったら「私今、苦労時代しちゃってるぅ~」って楽しんじゃった方が良くない? って私は思う」

「だよな~。エリも分かるか、お父さんの気持ち」

「分かる分かる。だって私、今ちょっと楽しいもん。死んじゃうかもしれないのに」

「実は俺も。久しぶりにヤベ~ってちょっと楽しくなってんだよな。いやあダメだな~とは思うよ? 家族が危険なんだから。これ、秘密な?」

「お母さんに?」

「お母さんに。絶対そんなの嫌って言うから」

「言うだろうね~」

「言いますよ」

 

 ぎくりとする。

 お父さんと揃って目を向けると、お母さんがすぐ傍で立っていた。

 ここは遮るもののない広々としたコンクリートの屋上で、ドアから十メートルぐらいは距離がある。なのに近付いてきたのに全然気付かなかった。

 お母さんは肩を竦めて、溜め息一つ。

 

「……お父さんがこういう性質なのはもう知ってることですし」

「へへ。そりゃどーも」

「それはそれとして、ちゃんとヤッタ~になるよう頑張らないとね」

「おー。じゃあどうすっか」

「うん……。こうなったらどうしてもエリを巻き込まないわけにはいかないと思う。ごめんね、エリ」

「私は全然」

「怖くはないの?」

「うん、皆一緒だもん。それにどうにかするしかないならどうにかするしかないでしょ」

「……はあ~。お父さんに似てきたね」

「それって褒めてる?」

「びみょー」

「微妙なんだ」

「……お母さんは?」

「ん?」

「お母さんは怖くないの? こういうの」

「怖いけど、原因を排除しなきゃって気持ちのほうが強いかな」

「ふうん……。お父さんは?」

「俺? お母さんと似たようなもんかな~、って思ってたけど、なんつうか……」

 

 お父さんは頭の後ろをぼりぼりと掻いてみせる。なぜか照れくさそうに。

 

「エリが銃の悪魔やっつけたときさ、俺死んでたじゃん? そんときに俺ん母ちゃんに会ったような夢見たんだけど……。ほら、三途の川みたいなとこで……」

「うん」

「顔ははっきり見えなかった。けど俺ん母ちゃんって分かった。なんかにっこり笑ってんのも不思議と分かってさ、手ぇ振ってみたんだ。おーい母ちゃ~ん、って。そしたらな、母ちゃん、『デンジ、たくさん頑張ったね』って褒めてくれたんよ」

 

 お父さんは再び街並みへと目を向けて、手すりに肘を乗せた。

 背中を向けたまま呟いた。

 

「そっか~、俺も親に褒められてた時期あったなぁ~って思い出した……」

「……うん」

「もっと顔ちゃんと見たくてさ、近くに行こうと思ったんだけど」

「けど?」

「けど……エリもこんな気持ちだったんかな~、もっと褒めてやりてえな~って思ったら、生き返ってた。……変な夢だったな~。死にたくねえってすげえ思ったもん」

 

 むず痒いような、そわそわするような感じがした。

 何か気の利いた言葉を言ってみたかったけど全然出てこない。私がもっと大人だったらお父さんの言ってることも分かるのかな。

 

「だから、あれだ。家族全員ちゃんとまた普通に暮らそうぜってハナシ」

「お父さんさ」

「あん?」

「照れてんでしょ~」

「うっせ」

 

 

 そして、これからどうしようかって話になった。

 

 逃げるという選択肢はなかった。

 世界中のどこに隠れても見つかってしまうだろうから。

 お母さんからアメリカを味方につけるという案が挙がった。死の悪魔との契約者という最強のカードをちらつかせて協力を仰ぐっていう選択肢。でも私が兵器扱いされて隔離されそうってお母さん自身が却下した。要するに、余所の国を頼るのはお勧めしないってこと。

 

「じゃあどーすんの?」

「死の悪魔さんと交渉したらね、手持ちの悪魔は貸してくれないけど他ならいいって」

「他ぁ?」

「人間とか、動物、あと魔人」

「魔人って……。あ~、あの魔人か。エリを助けてくれたレゼの同級生のひと?」

「そうそう」

「えっ? あのひとってお母さんの同級生なの!?」

「あ~、うん。……後で説明するよ」

「知りたい知りたい!」

「夕方には合流すると思うから、その時ね」

「え~~っ!」

「それよりね、死の悪魔さんにどんな眷属がいるんですかって聞いてみたの。そしたらめっちゃ出てきてビビった。これ見て」

 

 お母さんはメモ紙を私たちに見せてくれた。

 そこにはびっしりと様々な人物についての特徴が羅列されている。

 名前ではなく、『〇年前ぐらいに手に入れた』『××の国のひと』『△△の能力を持っている』といった感じ。

 どうやら死ーちゃんは名前を覚えるのが苦手らしく、思い出しながら教えてくれたんだって。

 そこにはあの金髪の魔人さんについても書かれていた。

 へえ~、あの人、ハサミの魔人だったんだ……。

 

「ひとまず五人までなら貸してくれるって死の悪魔さんも約束してくれたよ」

「ふ~ん、やったじゃん。……どれどれ、色んなヤツがいんのな。ええと、ヤクザに、医者に、サメ……サメの魔人? 日本で見つけたって……これビームのことじゃね?」

「ビームくんっぽいね」

「びーむって誰? 知ってる人?」

「お父さんが公安に居た頃の同僚みたいな魔人のひと」

「うおお~ビームにしようぜビーム! ……んあっ? このリストに居るってこたぁ……ビーム殺されてたってこと!?」

「だろうね」

「マジかよ……。死の悪魔、涼しい顔してめちゃワルじゃん……」

 

 リストにはいくつか赤い丸がつけられていた。

 お母さんが目星をつけた人材らしい。

 ええと、蜘蛛の魔人? 火の魔人は二人もいるんだ? あとはクァンシ――?

 

「クァンシって、昨日いた弓矢のウェポンズのひとのこと?」

「そう。昨日あの後、死の悪魔さんがペロリしたんだって」

「ペロリ……?」

「眷属にしたってこと」

「ふぅん……? でもさ、クァンシってひとは支配の悪魔が先に眷属にしてたんじゃなかった?」

「上書きできるみたい」

「もう何でもありだな~」

「なあなあ、この★マークはなに?」

 

 お父さんが指す箇所には大きな星マークとともに赤字で『要検討!』って注釈がつけられていた。

 更に奇妙な名称らしきものも書き添えられている。

 

『サンタクロース』

 

 なんだろう?

 お父さんと揃って首を傾げた。

 だってサメだの蜘蛛だのって物騒な名前の後に御伽噺の登場人物が出てきたんだから違和感がすごすぎる。

 何故にサンタクロース? もしかしてずっと昔から実在してる不老不死なひとだったりする?

 そう聞くと、お母さんは神妙な顔つきで首を振った。

 

「これ、コードネームなの。ドイツの何でも屋で、その筋じゃ超有名なヤバい人」

「どんぐらいヤバいの? ゴルゴサーティーンくらい?」

「ゴルゴを無差別テロにした感じ」

「ヤバすぎんだろ」

「でも実力は確かなんだよね……。支配の悪魔に対抗するにはうってつけの人材だと思う」

「ん~……。あんまヒデえこたぁしたかねえなぁ」

「そこは当人との交渉次第かな」

 

 なんにせよ、誰と手を組むかは慎重に考えた方がいい、とお母さんは言った。

 私たちは死の悪魔の力を使うことはできるけど、言ってしまえばそれだけだ。いわば大量殺戮兵器を一つ持っているだけの小集団。

 対して、相手は実質国家みたいなもの。

 組織としての力は桁違いだ。

 まず対峙するというスタートラインに立つこと自体が難しい。日本に辿り着くまでに様々な刺客がやってくると思う。どういった移動手段を選ぶのかという問題を考えなきゃいけない。

 ひとまず陸路で進んでみる?

 空路で一気に乗りこむ?

 それともサメとかの泳げる魔人の力も借りて海路を突っ切る?

 他には、キーマンである私のボディガード要員も増やさなきゃいけない。戦闘力はあればあるほどいいし、潜伏などの単独行動をとれる人なら選択肢の幅も広がる。

 少人数だからこそ一人一人の総合スペックが重要になる、ってのがお母さんの主張だった。

 

「おっ。パワーたちもう着いたみたいだぞ」

 

 お父さんと一緒に手すりから身を乗り出して、眼下を覗きこんでみる。

 軽自動車からパワーちゃんが下りてくるところだった。

 運転席からはフードを被った人物も現れる。こちらを見上げ、金色の毛先を揺らしていた。あの魔人さんだ。

 大きく手を振ると、向こうも手を振り返してきた。

 

「これで今のメンバーは揃ったかな?」

「そーだな。あとは死ーちゃんからレンタルする五人を誰にするか、か」

 

 私たち家族三人と、パワーちゃん。お母さんの同級生さん。そして死ーちゃん。ここに五人加えたら十一人になる。

 十一人。多いようで少ない。

 でもきっと精鋭の十一人になると思う。

 選ばれし十一人で、国家を操るような超悪いヤツに立ち向かう。

 

 こんなの――ワクワクするに決まってるじゃん!

 

 自分と家族の命が懸かった状況なのに、いやだからこそ、もう突っ走るしかないってこの逆境に胸の高まりが止まらない。

 全力を尽くし、仲間たちと手を取り合って、へとへとになりながらも目標に向けて突っ走る。そういうのが輝かしい青春ってやつなんじゃないかって私は思う。

 だからこれから始まるのはきっと希望を掴むための道のりなんだ。

 

「ねえ! 全部終わったらまた釣りしようよ!」

「あん?」

「みんなで勝負するの。一番大きな魚を釣った人が王様で、他の人たちに好きな命令ができるやつ!」

「気が早え~な。ま、俺が勝つけど?」

「私ですぅ~!」

「はは。じゃあまあ、ちょっくらマキマさんやっつけに行くかぁ」

「お~!」

 

 お母さんは苦笑いし、それから微笑んで頷いた。

 

 強烈な太陽光が地上に降り注いでいる。

 逆光の中、お父さん・お母さん・私の三人で並んで踵を返すと、階下へのドアから三人の人影が現れた。

 死ーちゃん、パワーちゃん、お母さんの同級生って魔人のひと。

 靴裏でざらついたコンクリートを踏みしめながら私たちは進む。

 これからどんな未来に辿り着くのか、それは誰にも分からない。

 でも大丈夫。

 私にはお父さんとお母さんがいるから。

 

 皆にも幸あれ。

 以上、エリでした。

 







 長々とお付き合い頂きありがとうございました。
 番外編のくせに長すぎですね。最初は三話ぐらいで収まるかな、と思ったので、ということは経験上きっと倍の六話ぐらいになるだろうと想定していたのですが、十五話になりました。どうなってんでしょう。自分でも分かりません。


 ええと、全然関係ない話をするんですが、最近マキマの経歴について色々考えてます。
 マキマが公安に来たのはまだ弱い頃だった説。
 始めから力があったら手駒を駆使して日本乗っ取りRTAができていたはずだから。原作一部の始めは立場弱そうでしたよね。中間管理職ごっこしてたと言われればそれまでですが。
 で、公安になる前に四騎士としてVSチェンソーマンをやっていて、その頃はよわよわロリマキマだった説を推したい。
 どんな経緯でチェンソーマンと戦うことになったのか?
 なんか本編で四騎士+αで戦ったみたいに言ってたけど、フカシなんじゃないですかね。あの四姉妹が一致団結してる絵面がどうしても浮かんできません。おそらく戦争の悪魔が「なんか地獄で好き勝手暴れてる奴がいる、生意気!」って他の姉妹を半ば強引に連れ出しただけなのではないでしょうか。
 死の悪魔は「妹の頼み」と言われればとりあえずでついてきそう。
 飢餓の悪魔は「救済になる」って言えばついてきそう。
 そして支配。マキマは単純によわよわ生まれたてだった説。人の姿をした弱小悪魔は他の悪魔に狙われそうだから、生き延びるためには戦争の悪魔についていくしかなかった。
 しかしそのグループでも居場所はなかったんじゃないかなあと私は思うのです。
 ナチスの悪魔や核の悪魔が戦争の悪魔の配下に居て、いびられてたのではないか。「姉の金魚の糞がよ~」って。そうなってても戦争の悪魔は助けないと第二部を読んでると思うのです。「お前が弱いのが悪いんだろ?」みたいに。で、死の悪魔も助けない。飢餓も救済以外は眼中になさそう。そんなシンデレラ状態。
 そこに現れたのがチェンソーマン。
 クソ姉どもをぶった斬って暴れまくって、どうにもならないクソな世界をメチャクチャにしてくれて、しかもいびってたナチスや核を殺すどころか二度と復活しないように食べてまでくれる。これはもう救世主であり王子様でありヒーローに映ったのではないでしょうか。
 そして全員ばらばらになって、マキマは日本に拾われて、第一部に至る、と。
 あとクァンシのレポーターの話ってマキマのことなんじゃないかって思ってます。公安時代にマキマを好きになって、でも中身(悪魔ってこと?)を知って、拒絶してしまったとか。それで日本を離れたとか。代償行為で魔人を囲ってるとか。マキマは「人間もクソですわよ~」って誰も信用しなくなったとか。そんなドラマがあったら面白そうって考えていました。
 暗い話ですね! こんな暗い話を考えるのが私は大好きです!


 刺客編、楽しみポイントが多すぎて待ち遠しいです。
 ではまた。
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