雪に椿   作:罠ビー

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雪に椿

 

 

 ベルモットとの対決から数日経った。

 

 俺はベルモットに眠らされていたがあの場に冷泉も来ていたらしい。灰原を連れてきたのも冷泉らしく、それを聞いた時は余計な事をとも思った。しかし結果的にアイツが組織と本当に無関係であった事にホッとしている。

 しかも後から聞いた話では冷泉は組織のスナイパーと戦闘をして殺害したそうだ。それで蘭やジョディ先生が助かったのでなんとも言えないが流石に同級生が人を殺めた事にショックが無いわけではない。

 

 あの後灰原と蘭は警察に保護された。現着したのは萩原刑事だったらしい。ジョディ先生やFBIの事は伏せてだがベルモットやカルバドスに拉致されたというふうに口裏を合わせた。

 丁度灰原が冷泉に連れ去られる場面の目撃者もあり女児誘拐未遂事件として捜査されるらしい。被疑者3名内1名死亡で逃亡した女性2名を捜索するという形らしい。

 

 

「それで……いいの?毛利さんはあの子の家に行ったんでしょう」

 

「ああ。あの日から登校してないって蘭に聞いた」

 

「あの子、組織の人間を手に掛けたのよ。報復されても不思議じゃないわよ」

 

 

 そう灰原に言われればしくじったと気づく。今のアイツの家なんて張られてて当然だ。

 

 

 蘭達に何かある前にと急いで飛び出した俺は何とか蘭達が冷泉の家に着く前に合流できた。

 

 

「萩原刑事に伊達刑事。お二人も雪に用事ですか?」

 

「あー蘭ちゃん。そうだよ。ちょっとこの前の事件で聞きたいことがね」

 

「ご家族が居るはずだけど……出ないな」

 

 

 刑事二人がドアの前でインターホンを押すが返事はない。目くばせをした伊達刑事が家の裏手に回る。萩原刑事がノブをひねると鍵がかかってないらしい。

 

 嫌な予感がする。中で冷泉のご両親が亡くなっているのではないか?この緊迫した状態と、服部と問い詰めた時の冷泉の尋常でない寒気がするような気配はそんな想像を掻き立てさせる。

 あまりの物々しい雰囲気に園子は引いており今にも腰の拳銃に手を添えている萩原刑事を咎めようとしているが蘭は目を伏せたままだ。

 

 結果的に中はもぬけの殻だった。冷泉のご両親の姿もない。連れ去られたかと考えるもその割には荒らされた形跡はなく逆に整っている。というより生活の痕跡が少なくまるで直近は一人しか住んでいなかったありさまだ。

 当然冷泉自身の姿もない。冷泉の部屋だと思われる部屋も誰もいなかった。しかしその部屋は少ないながら冷泉の私物があり冷泉がここで生活していたのは間違いなく感じられた。

 似合わないかわいらしい小物や蘭達との写真、学校の教科書が並べられた机の脇にあったあまりにも物々しい桐箱。おそらくこれの中身はあの刀だったんだろう。

 

 

「新一だけじゃなく雪まで⋯⋯なんで何も言わないでいなくなっちゃうのよ」

 

 

 目を腫らして泣く蘭とそれを慰める園子。二人を尻目に俺は二人の刑事に聞く

 

 

「二人は雪姉ちゃんに何の用だったの」

 

「⋯⋯内緒で頼むぜ。蘭ちゃんたちの誘拐事件に雪ちゃんが関わってるかもしれなくてね」

 

「萩原!!冷泉が幼女を連れ去ったって話も出てる。何か裏がありそうなんだがな。毛利の嬢ちゃん達も冷泉に関する質問だけはだんまりだった。しかもこの事件は捜査が打ち切られてな」

 

「そうしたら雪ちゃんは失踪してるし。なんかあるぜ班長」

 

 

 二人はこの事件の結末に釈然としていないようである。そしてそれは俺も同じだ。この件には組織の他に大きな力が働いてる。必ず冷泉を見つけ出してやる。

 

 冷泉には償ってもらわなきゃなんねえからよ。蘭をこんな顔にさせたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで無事不審者と手打ちには出来たのだが……緑川さん」

 

「この状況はどういう事だい」

 

 

 ライを引かせた後、この場の収拾をつけに来た警察に見つからないように雪ちゃんと抜け出す。遠目に萩原の姿が見えたがこっちも仕事だし、ここで雪ちゃんの身柄を警察に引き渡すのは難しい。

 

 

「カルバドスの銃撃をかわした君に対してこの距離で構えても牽制にはなりはしないだろうけどこれは意思表示だ」

 

「そのようだ。あなたは私を殺す気はそこまで無い」

 

 

 どういう理屈かは不明ではあるが雪ちゃんは俺の心を読んでいるかのようにそう言う。確かにそうだ。俺は例えその意図がなかったとして命の恩人である雪ちゃんを殺したくはない。

 しかしいざという時は撃つ。例えこの拳銃に意味はなくとも冷泉雪を制圧する。その備えはしてある。

 

 

「しかしそれだと私はただ帰るだけだ」

 

「帰れない事は雪ちゃん自身が分かってるでしょう。カルバドスを自らの意思で斬った雪ちゃんはもう」

 

「別に斬りたくなったら斬るだけだ」

 

 

 もう一切を取り繕ってはいない返答。彼女が既に殺人鬼として一線を踏み越えたからだろう。常に殺人の選択肢が表示でもされてるように、今この瞬間にも俺には常に殺意が向けられている。それは俺じゃなくても例えあれほど仲の良かった蘭ちゃん相手にも変わらないだろう。

 

 

「君が殺した男の仲間が君を殺しに来る」

 

「大歓迎だな」

 

「でもその矛先が君にだけむくわけではない。蘭ちゃんとか園子ちゃんに向く可能性も高い」

 

 

 俺の言葉に彼女は向けている殺気を重くする。その感情ほ嫉妬だ。彼女にとって蘭ちゃんや園子ちゃんが害される事ではなく獲物を横取りされる事に憤っている。そんな雪ちゃんの様子を哀れに思うとともに許せない気持ちも湧いてくる。

 

 

「取引をしよう雪ちゃん、いや紅椿」

 

「ほう……『よく調べたわね』」

 

 

 俺の言葉に雪ちゃんはその雰囲気に艶を滲ませつつ、さらなる重さと鋭さを持った殺意に乗せて返してきた。

 

 

「君を自由にするわけにはいかない。かといって君を拘留しようとすれば君は抵抗するだろう」

 

「『抵抗しても流石に鎮圧はできるのではないかしら?流石に多勢に無勢よ』」

 

「だとしたらお前は雪ちゃんを棄ててまた闇に潜るだろう。そして罪の無い人を殺し、普通に暮らせた人に罪を被せる」

 

 

 俺が怒りを滲ませながらそう言うと雪ちゃん(紅椿)は蠱惑的な笑みを浮かべて肯定する。ああ、つまりこの妖刀(ヒトデナシ)は人を嘲笑っている。

 

 

 

 

 

「しかしお前は雪ちゃんを出来れば棄てたくない」

 

 

 

 俺の言葉にヒトデナシは初めて虚を突かれた表情をする。

 

 

「お前がどんなに厄介だろうと所詮刀だ。宿主または担い手が必要だ。道具は使い手が居なければ使われない」

 

「雪ちゃんはお前が0から育て上げたお前の為の担い手なんだから」

 

 

 

 証拠品の遺失記録と白鞘の日本刀による斬殺事件の記録。明らかにおかしすぎる情報が違和感を塗りつぶしていた。

 

 白鞘の日本刀で斬殺事件が起きて、日本刀が遺失する。この不可解な事件記録は概ね2年と間を置かずに起こっていた。おそらく持主が耐えきれなくなって凶行に及んでいるのだろう。

 しかしここまで事件はあまり間を置かずに起きるのに何故17年前の事件以降謎の斬殺事件は起きていないのか。

 

 最期の事件はまだ幼い娘を連れた母親が被害者だった。中山 紬。旧姓 冷泉 紬。彼女が頸を落とされ斬殺されてもなお守ろうとしたベビーカー、そこに母の頸を抱き締めるように眠っていた赤児は弟夫婦に引き取られた。

 

 それから17年。おかしいのだ。中山 紬の父、冷泉 巌氏の蔵でその白鞘の日本刀が見つかり所持者が巌氏になっていたのが。

 

 しかしその不自然さも、持主が凶行に走る妖刀が15年以上その姿を隠し続けている理由も、最期の事件の後に当時赤児だった雪ちゃんをこの刀は持主として定め17年の間彼女を惑わし続けたなら凡その謎に説明がついてしまうのだ。

 

 

 その答えに辿り着いた時怖気が走るとともに強い吐き気と不快感を覚えた。

 

 まだ善悪を知らない幼い冷泉 雪を持主に定めてジワジワと殺人鬼としての素養、己の担い手としての素養を練り上げて彼女にとって敵であるはずの自身の最高の担い手にしていく。

 

 だから紅椿は17年間手塩にかけて育てた冷泉 雪を壊されたくはない。さらに言えば雪ちゃんに修羅道を歩ませる事にも拘ってる可能性すらある。壊すことも辞さないだろうが壊されるくらいならある程度の条件は呑める可能性は高い。

 

 俺達が紅椿を制御する為にこの可能性に賭けた。

 

 

「『それでこの娘を人質にするとして貴方は私に何を求めるのかしら』」

 

 

 乗ってきた。この場面での破談はなさそうで安心する。

 なんとかしてこのヒトデナシに首輪をつけなければならない。それにこれは俺のエゴだが例え手遅れだろうと雪ちゃんに背負わせる十字架は少なくあって欲しい。

 

 

「人を殺さないで欲しい。殺して欲しい奴は俺が用意する」

 

「……いいよ緑川さん。なら私は緑川さんの剣になろう」

 

 

 艶の消えた愛想の少ない声で返される。紅椿は引っ込んだのだろう。

 17年間精神が紅椿の影響を受けてた雪ちゃんがあの妖刀から離れられると思えない。今もあの刀は餌を与える、生贄を与えるといった取引をした俺の事をせせら笑っている事だろう。

 雪ちゃんの運命を捻じ曲げ、多くの人の運命を生き血として啜って。

 

 腹立たしい。いずれ真っ二つに折ってやるから覚悟しとけ。

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 私は刀を手にベビーカーを押す母親の頸を落としていた。

 堕ちた頸はベビーカーの籠の中に落ちる。中には赤児が

おり何も分からない彼女は母親の頸を無邪気に抱いていた。

 

 私はベビーカーから赤児を拾い上げる。ベビーカーは無数の手によって地面に吸い込まれていった。無数の手は私の足に、服に、顔にも絡まっていく。しかし頸には手をかけてこない。

 

 赤児の頸と私の頸に赤い糸が結びつけられている。その糸は刀の柄にキツく、キツく結びつけられていた。

 

 




 という事でここで完結です。
 途中から設定を違法建築してたり、雪の殺人鬼像が序盤から変化していたりとパッションで書ききったのがわかる粗が目立ちます。
 これも緋色の弾丸見たパッションで書き始めたのでさもありなん。それでも日間ランキング10位という見たことない景色を見れました。

 短い間でしたがご愛読ありがとうございました。
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