◇◇◇
「これが、私の見た未来と、今発生しているノイズについてです」
しばしの動揺から、落ち着いた場所で話そうとナイトアイ、オールマイト、塚内は近くの交番にやってきていた。元々スクラッグの件で――詳細は話せないながらも――捜査協力として部屋を借りており、そこで今回のあらましをナイトアイは語ったのだった。
未来が変わるケースが発生したこと、未来のヴィジョンにノイズが入るようになったこと、そして、そのノイズに何らかのかかわりがあると思われるヴィジランテのこと。
先ほど見た未来の光景についても伝えており、以前行われた自身の死が変わったことについてオールマイトも驚きを隠せなかった。
「しかし、ナイトアイ。君らしくもない。相手が子供だったのなら、もう少し穏便な手もあったのではないかな?」
「……その通りです。ですが、あの虫型ヴィラン――オールマイトたちの言う通り、宇宙人である彼らと渡り合う力を持っているヴィジランテであることには変わりない。話をするにも、まずは捕縛を優先して……いえ、確かに私自身、冷静でないところはありました。なにせ、私の見た予知がこうも外れることなんていままでなかったことでしたから」
自分の考えの根幹が崩れるような出来事であった。流石のナイトアイであっても動揺してしまうのは無理のない話である。
とはいえ、ナイトアイ自身の考えに変わりはない。相手がイリーガルな手段を使っているヴィジランテである以上、ヒーローとしての自分は彼を捕まえなくてはならないのだ。
「幸いなのは、そのヴィジランテたちが善良な者であるだろうということか。警察としても無視はできないが……」
「しかし、一緒にいたのはロボットなんだろう? そもそも個性の不正使用ではないのに捕まえることはできるのかい?」
オールマイトの疑問通り、法律に照らし合わせて捕まえることができるのか疑問ではあった。
「おそらくは以前発生した超能力者の一人。それに、ロボットを使っているというのならサポートアイテムの不正使用の観点から捕まえることができます。法的にはヴィランではないが、補導対象とはなります」
「なら、近くの中学高校あたりを調べればいいのでは?」
塚内の疑問も当然だ。
背格好からして、十代の男子。それだけ分かれば、あとは聞き込み調査などで対象の人物はある程度絞れる。
「なんにせよナイトアイ、今は落ち着く時間が必要だ。それに、とんでもない未来が見えたみたいだが幸いにして――私の死が確定した状況からは好転したじゃないか」
そう言って、オールマイトは笑った。
件の少年もどうやらその未来にかかわっているようだし、疑問も尽きない。しかし、もともと見えていたオールマイトの死は見えなくなった。
謎の怪物と対峙するヒーローたちとヴィジランテの少年。ヒーローたちはボロボロだったが、死んではいない様子ではあったのだ。もちろん、オールマイトも。
そこから先の未来はノイズがひどくて不確かだったが、ナイトアイはノイズだらけの未来を必死に見た。そして、オールマイトを殺すはずであった白髪の青年の姿を見ることはなかったのだ。
(幸いなのは、あの怪物に打ち勝てる可能性があるということ。未来がとても不安定なことになっているとは思うが……ノイズだらけであっても私があのヴィランを見逃すはずがない。そして、私は見た…………スーツを着て笑うオールマイトの姿を)
トゥルーフォームであったが、元気そうな様子でニコニコしていた。どれだけ先の未来かはわからないが、確かに彼が生きられる可能性が生まれたのだ。
「…………」
「塚内君、どうかしたのかい?」
と、そこでオールマイトが難しい顔をした塚内に気が付いた。
すこし逡巡したようすであったが、意を決して塚内は語りだす。
「ナイトアイさんの予知については大体、分かりました……そのノイズがある以上、どの程度確かな未来は分かりませんが…………基本的に見たヴィジョンは的中するんですよね?」
「ああ……ノイズが見えた場合、的中率が下がるのか、何かアクションを起こすことで変動する可能性が生まれるのか、そこは定かではないが……」
「的中率だとしても、変動する可能性が生まれるのだとしても――その少年がオールマイトたちと一緒に戦っていたというのなら、彼を捕まえて、その場に現れない状況になったらどうなるんですかね?」
「どうなるって、そりゃぁただ彼がいないだけで怪物自体は現れるのでは?」
「オールマイトの言う通り、その可能性のほうが高いと俺も思うんです……ですが、もしもですよ」
それは、大人として、とっていい選択肢なのか疑問はある。だが、その可能性について考えないわけにはいかなかった。
「その怪物を倒すために、その少年が必要なら――このまま、その少年を捕まえるために、動いていいんでしょうか」
「――――塚内君、それは……」
「わかってます。警察としても取るべき手段ではない。捜査するべきことです。だけど、宇宙人騒ぎのことといい、本来なら取るべき手段を選ぶと、取り返しのつかないことになるんじゃないかって……そんな気が、するんです」
警察としても、ヒーローとしても、その少年を探さないわけにはいかなかった。本当に未来のために彼が必要なのだとしても、どこの誰なのか調べる必要はあった。
捕まえるかどうかはまた後々考えることとなり、各学校に通達し調べることとなったが――不思議と、その少年のことは分からなかった。周りとのかかわりが薄いのか、あるいは、誰かがかばっているのか。
未来はまだ、誰にも分らなかった。
◇◇◇
出久とナイトアイの邂逅からしばらく。
スクラッグも動きは見せておらず、出久たちが戦うこともなかった。そのおかげか、警察の捜査からも目を向けられることがなく、出久たちは平穏な日常を過ごしていた。
学校のほうには探りを入れられ、先生たちもまさかうちの生徒がと顔を見合わせていた。なお、事情を知っているデントは冷汗をかいていたが、なんとかごまかした。出久自身無個性ということもあり、そんなことができる人間とも思われていなかったので、他の先生もまさか彼がヴィジランテなんてしているとは夢にも思わず、追及も何もなかったのである。
そのまま、静かに日常は過ぎていく――そう思っても不思議ではないぐらいに静かであったのだ。
だが、事態は着実に進行していた。
赤谷海雲を乗せた護送車が行方不明になった件は覚えているだろうか。
謎の事件として取り扱われ、今もなお捜索が続いている。その護送車と、中に乗っていた人たちは今――地球軌道上、スクラッグの宇宙船の中にあった。
「あ、ああああああああああ!?」
赤谷海雲と、一緒にいた警官たちはスクラッグの因子で体を改造され、その身をスクラッグそのものへと作り替えられていた。
個性の研究のため、警官たちは徹底的に解剖され、今はもう完全に元の人間とは別の何かへと変貌を遂げている。
海雲だけは無個性であり、超能力者であったため、その自我をわずかに残したまま改造されることとなってしまった。その結果が、今の地獄だ。
「僕が、僕が――消えて、あああ」
超能力者が放つエネルギーと、スクラッグの用いるそれは似通った波形を持つ。
地球の磁場を突破する際に放出されたエネルギー、それが落雷という形で降り注ぎ、当たった人間にそのエネルギーに由来した力を目覚めさせた。
似たエネルギーを用いていたがために、スクラッグは超能力者がそのエネルギーを扱うためには精神を残さなければならないことを理解していた。
だからこその、海雲の自我を残したままの改造なのだ――だが、スクラッグたちも一つ見誤っていた。海雲の超能力は、自身を強化するもの。スクラッグの肉体を与えられ、強化された肉体に超能力が加わることで、一時的にだが自分の自我を強化することで彼は体の自由を取り戻したのだ。
「ここから、出ないと――僕は、僕は……僕は?」
それでも意識は混濁し、自分が誰なのかも不確かになっている。
ただここから逃げなくてはいけないことだけは理解しており、あたりを手当たり次第に探る海雲。異変を感じ他のスクラッグたちがわらわらと集まってくる。何事かと驚かれたが、海雲が脱走しているのを確認し、すぐに捕縛するために動き出した。
「コイツ、ドウヤッテ?」
「ヒトマズ、捕縛スルゾ!」
スクラッグたちがとびかかるが、そのすべてを海雲は一蹴した。
ただでさえ超パワーを発揮する力だったのだ。そこに、強靭な肉体が加わることで以前の彼とは比べ物にならないほどの力を発揮したのだ。
「邪魔を、するなああああ!!」
あたりに爆発音が響く。
どこに向かえばいいのかもわからない。どうすれば、いいのかもわからない。だが、強化された感覚に従って前へと進み、彼はたどり着いた。
それは出久に向けられた選抜隊の使用したものと同じ降下用のポッド。設定は済んでおり、後は乗り込んで射出するだけの状態であったのだ。行先はもちろん、出久のいる町。
「……」
導かれるようにそのポッドに乗り込み、海雲は地上へと帰還する。
次の戦い、その始まりが迫っていた。