ホグワーツ魔法魔術学校特別体育教師“伏黒甚爾”   作:物体Zさん

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第六話

 

 

 

 

 「ハッ、そうかよ」

 

 軽く鼻で笑って返したが、内心は別だ。強がりだ。目の前のガキ——五条悟の今の強さと将来性に、俺は正直言って辟易していた。小学生でこの術式の練度、肉体の使い方、そしてあの圧。さっきの踏み込みも、防御の切り替えも、子供の動きじゃない。呪術師としての基礎が既に骨の中まで染み込んでいる。

 

 六眼と無下限。その組み合わせは理屈では知っていたが、実物を見ると別物だ。術式の制御精度、呪力の流れの滑らかさ、無駄のなさ。普通の術師なら成人してようやく触れる領域に、ガキの時点で足を踏み入れている。

 

 もしこのガキがさらに術式への解釈を深め、肉体を成長させればどうなるか。想像するだけで面倒くさい未来しか見えない。今の俺でも、真正面からじゃまず勝てないだろう。搦手を使い、情報を集め、削りに削ってようやく勝ち筋が見える程度だ。

 

 真正面から殴り合って勝てる相手じゃない。

 

 俺は雪を踏みながら軽く肩を回した。悟は少し離れた場所でこちらを見ている。呼吸は乱れていない。息も整っている。さっき空中に打ち上げられたのに、動揺の痕跡すら残っていない。

 

 「ホッホッホ、凄まじい才能じゃな」

 

 ジジイが少し離れたところで言った。腕を後ろに組み、いつもの飄々とした顔でこちらを眺めている。まるで面白い舞台でも見ている観客だ。

 

 ニヤニヤしやがって。絶対ホグワーツに連れて帰ることをまだ諦めてない顔だ。

 

 「爺さんもオレと戦う?」

 

 悟が視線をジジイに向けた。青い瞳がじっと観察するように細められる。六眼は魔力も見えるのかどうか分からないが、ジジイが普通じゃないことくらいは理解している顔だ。

 

 「いや、わしでは到底敵わんだろう」

 

 ジジイは肩をすくめた。

 

 「呪術と魔法、似ているようで似ていない業の技じゃ。わしが手を出しても君の勉強にはならん。今日は見ていて勉強させてもらうとしよう」

 

 嘘だな。あのジジイが本当に敵わないと思ってるわけがない。ただ、戦う意味がないと判断しただけだ。

 

 悟は少し考えるように首を傾げた。

 

 「ふーん」

 

 雪がまた降り始める。庭の白が少しずつ厚くなる。

 

 悟は俺を見た。

 

 「おじさん」

 

 「なんだ」

 

 「さっきの、まだ本気じゃないでしょ」

 

 鋭い。ガキのくせに変な勘をしている。

 

 俺は肩をすくめた。

 

 「ガキ相手に本気出すほど暇じゃねぇ」

 

 悟は笑った。今度ははっきりと笑う。

 

 「やっぱり」

 

 そして一歩踏み出した。雪が軽く舞う。

 

 「でもさ」

 

 青い瞳が俺を真っ直ぐに見た。

 

 「オレもまだ本気じゃないよ」

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 悟の周囲の呪力の密度が一段階上がる。無下限の境界がわずかに震え、落ちてくる雪が広い範囲で止まる。庭の空気が張り詰める。

 

 ジジイが楽しそうに笑った。

 

 「ホッホッホ……これは面白い」

 

 俺はゆっくり息を吐いた。

 

 なるほど。

 

 六眼のガキは、まだ遊びのつもりらしい。

 

 「……いいぜ」

 

 雪を踏みしめ、重心を落とす。

 

 「じゃあもう少しだけ遊んでやる」

 

 青い瞳が、嬉しそうに細くなった。

 

 「ハハハ、やったね。おじさんって禪院の人でしょ。だから知ってると思うけど……位相 黄昏——」

 

 チッ……呪詞か。

 

 ガキの口から出たその言葉を聞いた瞬間、身体が勝手に反応していた。頭の中で術式の構造が浮かぶ。あの呪詞は無下限呪術の術式順転《蒼》。御三家、いや日本の呪術界にいれば五条家の無下限を知らない奴はいない。理屈だけなら禪院の蔵書にもいくらでも書かれている。

 

 術式順転《蒼》。

 

 術式の効果を増幅させ、-1のような虚数の空間を創り出すことで引力を発生させる技。空間を圧縮し、周囲を引き寄せる。対象を拘束することもできるし、術者自身の移動にも使える。さっきからガキが見せていた瞬間移動みたいな踏み込みも、この応用だろう。

 

 「収束」の力。

 

 打撃の先に小さな吸引を重ね、相手の身体を引き寄せながら叩き込むこともできる。逆に相手を一気に引き寄せることも可能だ。自分に使えば加速になる。座標を圧縮すれば瞬間移動に近い移動になる。

 

 応用の幅が広い。

 

 そして殺傷力も高い。

 

 あの呪詞を最後まで言わせれば、庭ごと俺が吸い寄せられる可能性もある。

 

 だが——

 

 「させるかよ」

 

 俺は雪を蹴った。重心を一気に前へ倒す。地面を滑るように詰める踏み込み。呪力の加速じゃない。筋肉と骨だけの速度だ。

 

 悟の口はまだ呪詞の途中だ。

 

 つまり、術式の真理をまだ理解していない。

 

 術式を発動するのに言葉が必要な段階。まだガキだ。

 

 距離を詰める。

 

 悟の青い瞳がわずかに揺れた。六眼が俺の軌道を読み始める。

 

 だが遅い。

 

 俺は悟の目の前で止まらない。

 

 腕を大きく広げた。

 

 そして——

 

 両手を叩き合わせる。

 

 パンッ——!!

 

 乾いた音が庭に炸裂した。拍手じゃない。掌と掌の間で圧縮された空気が一気に爆ぜる。空気の壁が弾け、衝撃波が前方へ叩き付けられる。

 

 雪が爆発した。

 

 悟の身体が揺れる。

 

 「うわ!」

 

 音と空気の振動で身体が大きく持っていかれる。術式に集中していた意識が崩れる。呪詞が途切れる。

 

 吸引は発生しない。

 

 蒼は完成しない。

 

 悟は一歩、二歩と雪を滑るように後退した。小さな足が庭石に当たり、バランスを崩しかける。

 

 俺は動かない。

 

 その場に立ったまま、腕を下ろす。

 

 悟は体勢を立て直し、こちらを見た。青い瞳が大きく開いている。

 

 「……今のなに?」

 

 「ただの空気だ」

 

 「空気?」

 

 「空気は武器になるんだよ」

 

 悟はしばらく俺を見ていた。六眼がさっきの動きを解析しているんだろう。掌の衝撃、空気の圧縮、振動の伝播。

 

 やがて、口角がゆっくり上がった。

 

 「……なるほど」

 

 雪が静かに降り続ける。

 

 悟がもう一度構え直した。

 

 今度は呪詞を言わない。

 

 青い瞳が静かに光る。

 

 「やっぱり面白いね、おじさん」

 

 俺は肩を鳴らした。

 

 「()はちゃんと当ててみろ」

 

 ま、次なんてないがな。

 

 さっきの踏み込み、空気の衝撃、地面を持ち上げる足の叩き込み。あれでこのガキの術式の癖は大体見えた。六眼で見ている分、理解は早いが、それでもまだ「経験」が足りない。術式をどう使えば人を殺せるか、その一歩手前の段階だ。

 

 だからここで終わりだ。

 

 「ガキ、もう終わりだ」

 

 悟が首を傾げる。雪が髪の上に積もり、その白さがさらに際立つ。

 

 「え?そうなの?これからなのに?もっとやろうよ」

 

 目が輝いている。完全に遊びの顔だ。強い相手に会って嬉しい、そんな顔。

 

 「うるせぇ、これ以上やったら殺しちまいそうだ」

 

 言うと、悟の瞳がわずかに細くなった。

 

 「へぇ……まだ何か手があるんだ」

 

 やっぱり勘のいいガキだ。

 

 「ねぇよ」

 

 俺は肩をすくめて言った。

 

 ある。腹の中の芋虫に食わせている天逆鉾。あれを抜けば、この庭で無下限なんて意味を持たない。術式そのものを消し飛ばす刃だ。だがそんなことをわざわざ教えるわけがない。

 

 未来の敵に手札を見せるほど、俺は甘くない。

 

 悟はまだこちらを見ている。だがその視線の奥にあるのは、警戒じゃない。純粋な興味だ。

 

 その時、後ろからゆっくりと足音が近づいてきた。

 

 「ホッホッホ、少々綺麗な庭が荒れてしもうたの」

 

 ジジイだ。腕を後ろに組み、白い息を吐きながらこちらへ歩いてくる。足元の雪がきゅっ、と軽く鳴る。

 

 俺は肩越しに振り返った。

 

 「ったく誰のせいだ」

 

 「フシグロ君とサトル君のせいじゃ」

 

 「オレも!?」

 

 悟が素直に驚く。

 

 「ホッホッホ、わしが直すとしよう」

 

 ジジイがローブの中から杖を取り出した。細い木の杖だ。先端に雪が積もっている。それを軽く払うと、庭の中心に向かってゆっくりと振った。

 

 その瞬間——

 

 空気が静かに揺れた。

 

 雪が逆に舞い上がる。さっき吹き飛んだ雪片が、まるで見えない糸に引かれるように戻っていく。抉れた地面が持ち上がり、崩れた土が元の形に戻る。足跡すら消えていく。

 

 時間が巻き戻されているみたいだった。

 

 俺と悟が作った痕跡が、少しずつ消えていく。

 

 雪の白が、再び整った庭を覆う。

 

 悟の目が大きく開かれる。

 

 「魔法すげー!!」

 

 完全に子供の声だった。さっきまで術式をぶつけ合っていたのと同じガキとは思えないほど、純粋な驚きだ。

 

 無下限呪術の使い手が、初めて見る魔法に目を輝かせている。

 

 「やっぱガキだな」

 

 思わず呟く。

 

 悟はまだ庭を見ていた。さっきまで荒れていた地面が、何事もなかったみたいに整っている。

 

 「どうやったの今の!?」

 

 「簡単な修復魔法じゃよ」

 

 「へぇ……!」

 

 六眼がジジイの杖をじっと見ている。術式じゃない力の流れを理解しようとしている顔だ。

 

 ジジイは楽しそうに笑った。

 

 「君も魔法を覚えれば出来るかもしれんの。ホッホッホ」

 

 悟は少しだけ考え込む顔をした。

 

 そして俺を見た。

 

 「おじさん」

 

 「なんだ」

 

 「また来てよ」

 

 俺は鼻で笑った。

 

 「暇があればな」

 

 雪はまだ静かに降り続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伏黒甚爾とアルバス・ダンブルドアが五条家を去った後、その五条家では夕餉の時間がやってきていた。外ではまだ雪が降り続いている。昼間よりも静かな降り方だが、庭の松の枝は白く重く垂れ、屋敷の瓦もすっかり冬の色に染まっていた。廊下の奥から炊き上がった米の匂いと味噌の湯気が漂い、障子越しの灯りが柔らかく揺れている。

 

 畳の部屋の中央、低い卓に座った五条悟は茶碗を両手で持ち、白米を口へ運んだ。まだ子供の小さな手だが、その動作は妙に落ち着いている。箸が茶碗の縁に当たり、小さな音が静かな部屋に響いた。

 

 (おじさん……強かったな)

 

 悟はゆっくり噛みながら考えていた。昼間の雪の庭、あの男の踏み込み、空気の破裂音、地面が盛り上がった感触。六眼の視界に残る記憶が、まるで今も続いているみたいに鮮明だった。

 

 六眼をもってしても感知できない存在。

 

 それがまず異常だった。呪力というものは、たとえ僅かでも人間に宿る。呼吸、思考、感情、そのすべてに微細な揺らぎがある。六眼はそれを見抜く。空気の中に漂う粒子のように。

 

 だが、あの男にはそれが無かった。

 

 完全に呪力から脱却した存在。

 

 そこにあるのは純粋な肉体だけ。骨、筋肉、重心、速度。その全てが常識から外れていた。呪力を使わないのに、術師と同じかそれ以上の動きができる。

 

 天与呪縛。

 

 呪縛によって強化された肉体。悟は蔵書でその言葉を読んだことがある。だが実際に見るのは初めてだった。術式も呪力もないのに、あれほどの速度と破壊力が出るとは思っていなかった。

 

 悟は箸を止めた。

 

 (あの踏み込み……)

 

 雪が弾けた瞬間、視界から消えた影。六眼は確かに動きを捉えていた。だが追いつく前に距離が詰められていた。呪力の加速ではない。純粋な身体能力。

 

 そして——

 

 無下限の外側から来る攻撃。

 

 地面を叩いて自分を打ち上げた動き、空気の衝撃波。どちらも無下限の想定の外だった。触れないなら、触れずに攻撃する。距離を止める術式の盲点を、あの男は一瞬で見抜いていた。

 

 悟は白米をもう一口食べる。

 

 (ひょっとしたら本当に殺されてたかも)

 

 そう思った瞬間、背筋が少しだけ冷えた。怖いという感覚とは違う。事実として理解しただけだ。もしあの男が最初から殺すつもりだったなら、戦い方は全く違っていたはずだ。

 

 雪の庭で遊ぶような動きじゃなく、もっと静かに、もっと確実に。

 

 悟は箸で味噌汁の具を掬う。湯気が六眼の前で揺れる。

 

 (最後、何か隠してた)

 

 それも分かっていた。六眼は術式の流れを視る。だがあの男は途中から、何かを出さないようにしていた。まだ使っていない手札がある。

 

 術式ではない。

 

 別の何か。

 

 悟の口元が少しだけ上がる。

 

 (面白いな)

 

 強い術師はたくさんいる。御三家にも、呪術界にも、記録に残るほどの強者はいる。だがあの男は違う。理屈の外側にいる。

 

 それが、妙に楽しかった。

 

 悟は茶碗を置いた。窓の外を見る。雪はまだ降っている。

 

 青い瞳が静かに光った。

 

 (また来ないかな)

 

 今度は、もっと強くなってから。

 

 そう思いながら、悟は再び白米を口に運んだ。

 

 「坊っちゃま、こんな物が」

 

 白米を口へ運んでいた悟の傍へ、女中が膝をついて寄ってきた。両手で差し出されたのは一通の手紙だった。和の屋敷には妙に似合わない、厚手で白い紙。しかもただの封書ではない。赤い封蝋が押され、その中央には盾のような紋章が刻まれている。獅子、蛇、鷲、獾。四つの獣に囲まれた大きなHの文字。

 

 「うん?」

 

 悟は箸を置き、手紙を受け取った。指先に伝わる紙の質感はなめらかで、雪の日の湿気の中でも少しもよれていない。封蝋には微かに魔力の残滓があり、日本の呪力とは違う、さらりと軽いのに芯だけが強い不思議な感触があった。

 

 「ホグワーツって……」

 

 悟が紋章を眺めながら呟くと、女中は一歩下がって答えた。

 

 「フクロウが咥えて持って参りました」

 

 「ふーん……」

 

 悟は片眉を上げた。夕餉の席にフクロウが手紙を持ってくるという光景が頭に浮かび、少しだけ口元が緩む。さっきまで雪の庭で会っていた、あの白髭の老人の顔が自然と脳裏に浮かんだ。

 

 封を切る。赤い蝋が乾いた音を立てて割れ、中から羊皮紙が現れた。独特の匂いがした。古い本棚、乾いた木、インク、そして冬の風。悟は紙を広げ、灯りに透かすようにして読み始めた。

 

 『サトル・ゴジョウくん、先ほどはお邪魔させてもらったよ。わしはアルバス・ダンブルドア、ホグワーツの校長をしておる。君の才能と素質、そして宿した呪力と魔力……是非ホグワーツで——』

 

 「魔力?」

 

 悟はそこで小さく首を傾げた。六眼で見たあの老人の力は、確かに呪力とは違っていた。だがそれをこんなふうに文字として突きつけられると、急に現実味が増す。日本の呪術師とは違う体系。違う理屈で成り立つ力。

 

 だが手紙はそこで終わっていなかった。文章の途中から筆跡が変わっている。先ほどまでの丸く整った、どこか品のある字ではない。もっと荒く、ぶっきらぼうで、余計な飾りのない筆致だ。

 

 『ホグワーツには来るな。それと五条悟、お前はまだガキだ。術式への解釈を深めろ。いいか?呪術は引き算だ。あと筋トレしろ』

 

 「あれ?」

 

 悟は思わず声に出した。読み違えたかと思って最初から見直す。やはり途中で文体が変わっている。ホグワーツがどうこう、才能がどうこうと持ち上げていた流れが、突然ぶった切られて、殴り書きみたいな短い言葉が続いていた。

 

 呪術は引き算。

 

 それと筋トレしろ。

 

 最後の一文がやけに雑だ。悟はその部分を見つめたまま、昼間の雪の庭を思い出した。あの男の踏み込み。呪力がないはずなのに、六眼でも一瞬見失いそうになった速さ。拳ではなく、地面を叩き、空気を叩き、無下限の外側からこっちを揺らしてきた男。

 

 「……おじさん」

 

 女中は意味が分からず首を傾げている。悟は手紙を顔の前に持ち上げ、匂いを嗅いでみた。雪の匂いはしない。だが、紙の端の方に、ほんの少しだけ煙草の葉に似た乾いた匂いが残っている気がした。

 

 引き算。

 

 悟はその言葉を頭の中で反芻した。無下限は足し算だ。守りを積み、距離を重ね、近づけなくする。術式順転も出力も、すべては重ねて厚くしていく方向にある。だがあの男は違った。余計なものを削ぎ落とし、必要な瞬間だけ最短で動く。力を盛るのではなく、無駄を消す。そういう戦い方だった。

 

 筋トレしろ、の一文で全部台無しにも見える。だが悟には分かった。あれは冗談じゃない。実感として書いている。術式だけでは足りない。肉体も要る。そういう意味だ。

 

 悟の口元が少しだけ上がる。

 

 「ふふ、変なの」

 

 そう呟きながらも、声はどこか楽しそうだった。

 

 「坊っちゃま、なんと書いてあるのですか?」

 

 女中が恐る恐る尋ねる。

 

 悟は少し考え、羊皮紙を畳みながら答えた。

 

 「変な学校の校長が、うちに来いって」

 

 「はぁ……」

 

 「あと、変なおじさんが筋トレしろって」

 

 女中はますます困った顔をしたが、悟は気にしなかった。手紙を膝の上に置き、窓の外を見る。雪はまだ降っている。白い庭の向こうに、昼間立っていた男の姿が一瞬だけ重なる。

 

 呪術は引き算。

 

 その言葉が妙に耳に残る。

 

 悟は残っていた白米を口に運び、ゆっくりと噛んだ。甘い。温かい。だが胸の奥では別の熱が小さく灯っている。術式の解釈。肉体。無下限の外側。考えることが増えた。

 

 食べ終えると、悟は手紙を懐へしまった。

 

 誰にも見せるつもりはなかった。あの手紙は、招待状というより、初めて貰ったまともな助言のように思えたからだ。

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