1/32の峠 ―Drift & Dash―   作:Kataparuto

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予告していた最後の短編となります。
これ以降はここでの新規投稿は行わない予定となります。
登場するのはタイトル見たらお分かりの彼。
MFGが15年~20年後説、ミニ四駆が15年後に続編の翼が出ていますので、15年後説を採用した年齢設定となっています。
それではお楽しみください。


サイドストーリー
SIDE STORY:英国の天才少年


 

 第1回WGP、それは世界中で放映され、モータースポーツへあこがれる子供たちに夢と希望を届けていた。

 それはここ、イギリスでも同様である。

 4歳のカナタ・リヴィントンはテレビ画面の向こう側で繰り広げられるミニ四駆の激闘にくぎ付けになっていた。

 その中でも、自分の半分にルーツがある日本の代表、ビクトリーズの青いマシンの力強いドリフト、赤いマシンの刺すような鋭いコース変更、極めつけは白黒のマシンの言葉では言い表せない芸術的な走り。

 そんなものを見てしまった彼が、その日のうちに親にミニ四駆をねだるのは必然だったのかもしれない。

 カートレースを始めていたのもあるが、カナタはめきめきとドライバーとして、ミニ四駆レーサーとしてもその頭角を現し始める。

 気づけば7歳にはイギリス国内の6つものタイトルを獲得、ミニ四駆でもイギリス最強として君臨するようになっていた。

 そして8歳の時、とうとう彼はあのWGPのイギリス代表選手として選ばれることとなる。

 

その年の開催国は日本だった。

初代ビクトリーズは引退し、土屋博士を中心とした運営体制は変わらず人員が入れ替わっている。

だが、初代チームから引き継がれた絆や、共通マシンを使わないという破天荒さで強豪の一つとして今も戦い続けている。

ただ、カナタが戦ってみた印象は、凡庸なものだった。

あの鮮烈な青と赤、そして今の自分の走りの基礎になっている芸術的な白黒マシンの走り。それは今のビクトリーズにはなかった。

 いくつかのレースが終わり、少し長めのレース休暇が与えられる。

 ただ、公式レースがないからと言って暇なわけではない、それがなければ興行があった。

 スポンサーを募り、興行として運営されるWGP、となればエキシビジョンなどの興行レースも当然行われる。

 そんな一つに今日はカナタが出場することになっていた。

 

「わぁ……!」

 

 カナタが招待されたのは日本でも有数の規模を持つ三国財閥が経営する遊園地。

 そこに常設されているミニ四駆専用サーキット、三国サーキットである。

 かつての日本代表、三国藤吉はこの経営者の直系の息子であり、今のビクトリーズの最大スポンサーでもある。

 

 「やーやー、カナタ君、遠いところわざわざすまなかったでゲス」

 「あ、えっと……、よろしくお願いします」

 

 スタッフに案内され控室へ行くと、そこには三国藤吉がいて、すぐに握手をしてきた。

 なれないながら握手を返すと藤吉は人懐っこい、満面の笑みを浮かべる

 

 「いやー今年初出場のイギリス代表、アルビオンナイツの強さは、さすがでゲスな。特にエースのカナタ君!重厚なアルビオンランサーの弱点をドライビングでカバーするあの走り、見事なものでゲス」

「……!」

 

 藤吉の言葉にカナタは驚いた。自分たちが使っているアルビオンランサーの弱点をさらりと言い当てられたのである。

 

「あぁ驚かなくていいでゲスよ、ワテも個人的にマシンを開発してた頃があって、一目見ただけでマシンの特性がわかるでゲス。まぁ世界大会でゲスから、君が思っている以上にほかのチームもそのことにはすでに気づいてると思うでゲスよ」

「……そう、なんですか?」

「あー、怖がらせるつもりはなかったでゲス!さて!話を変えて!今日は楽しくレースをしてほしいでゲス、カナタ君からリクエストのあったレーサー2人、ちゃんと予定を抑えたでゲスからな!」

 

 藤吉のその言葉に緊張していたカナタは年相応の喜びの笑顔をようやく浮かべる。

 

「本当ですか?ゴウセイバと、レツセイバが!?」

「本当でゲス、ワテの鶴の一声で余裕でゲス!さぁ、カナタ君、準備をしてコースへ来るでゲス!すでに二人は待ってるでゲスよ!!」

 

 カナタは自分の心臓が早鐘のように鳴るのを感じていた。

 あの走りをした2人にとうとう出会える、8歳のカナタにとって、今までのどんなプレゼントよりも、表彰台よりもうれしいものだった。

 急いで準備をしてコースへ走る。

 歓声あふれるそこに、あの二人が立っていた。

 

「お、来たな!」

「こんにちは、カナタ君だね!」

 

 笑顔で出迎えてくれた星馬兄弟。

 その姿はかつて画面越しで見た時より大人びていたが、それでもすぐに分かった。

 

「あぅ……えっと、始めまして。カナタ・リヴィントンです!」

「おう、よろしくな!俺は星馬・豪!でも今日はレースだ!容赦しないぜ!」

「大人げないなぁ……、あぁ僕はこいつの兄で星馬・烈っていうんだ、よろしくね」

 

 この時ばかりは母親から日本語も学んでいてよかったと思った。

 挨拶と握手を交わして早速レースとなる。

 司会の進行に合わせてマシンをコースにセット、いよいよだ

 

 ――僕の走りがどこまで通用するのか……。

 

 不安と期待が入り混じる感情の中シグナルを待つカナタ。

 

『レディーーーー!!ゴーーーーー―!!』

 

 レッドからグリーンへ、各車一斉に走り出す。

 

「アルビオンランサー……!GO……!」

 

 カナタが操るのは、イギリス代表チーム、アルビオンナイツのマシン、アルビオンランサーだ。

スタート直後、紅いマシンは瞬く間にストレートを駆け抜け、先頭へと躍り出る。

軽く沈み込むような挙動で加速していく姿は、F1マシンを思わせるものだった。

 続く最初のコーナーも高い水準でこなす。フロントノーズから伸びるウイングと、後方の大型ウイングが空気をつかみ、最小限の減速で鋭いコーナリングを魅せる。

 それらは、アルビオンランサーというマシンの完成度を示す走りだった。

 そしてチームエースのカナタのマシンはエースの証としてヴィクトリーレッドで塗装しなおされており、その赤いマシンの走りは、初代チャンピオン、バスターソニックの再来だと今大会では言われている。

 対して、豪と烈はそれぞれビートマグナムと、バスターソニックを使用している。

 WGP引退までに新マシンの投入も当然あったが、今回はエキシビジョン、旧来のファンも楽しませるということで名機のマシンチョイスとなっている。

 ただし、モーターや内装パーツは現在の最新型にアップデートしているのでカナタとも十分にやりあえる。

 

「ここは……!抜けれる……!」

 

 カナタのことを人々はサイレントアーティストと呼ぶ。

 これは無駄口をたたかず、いたって冷静沈着にレース運びをすることや、生来の性格からかシャイな一面があり、小学生らしいやんちゃさが少ないというのもある。

 だが、その二つ名は伊達ではなく、目の前で繰り広げられる走りは豪や烈からみても見事なものだった。

 その走行ラインは丁寧で無駄がない。コース設計者の意図する一番早い走りを見事に示している。

 だが……。

 

「よし、タイヤがあったまってきた、行くぜマグナム!!」

 

 コース中盤のテクニカルセクション、連続した様々な角度のヘアピンが右へ左へとマシンを揺さぶってくる過酷なセクションだ。

 藤吉のスピンバイパーであればサンダードリフトなどの必殺技がかみ合うセクションだが、ほかのマシンからするとかなり難易度が高い。

 だが、そこをマグナムは数珠繋ぎのような連続した途切れのないドリフトでクリアしていく。

 その姿はかつてのWGPのころよりあの白黒のセイバーをほうふつとさせる力みのない滑らかなものだ。

 丁寧なグリップ走法で連続コーナーをクリアしていたカナタの外側からあっさりとコーナーで抜き去るマグナム。

 

「えっ」

 

 カナタは困惑した、マグナムといえばあの力強く見るものを圧倒するようなパワフルさだ、だが今抜いていったマグナムは流水のようにつかみどころがない、つかもうとすればするりと手から抜けるような印象。

 ゆえに認識はしていてもブロックができなかった。

いや、そもそもコーナリング中だ、下手にラインを変えてしまえばこのマシンでは致命傷になる。

 

「カナタ君、悪いね!レースとなれば手加減はしないよ!」

 

 今度はうっかり広がってしまったコーナーでイン側に切り込まれる。

 烈の操るソニックは冷酷無比に隙をついてインをこじ開けた。

 だが、こちらを上回る速度で曲がっているのにも関わらず一切ブレがないその切り込み。

 説明がつかない、豪のマグナムのドリフトも、烈の鋭いコーナリングも、最大限の力を発揮している自分の走りより何もかもが速い。

 正直なところ、今大会においてカナタの走りはトップクラスだ、高性能高水準にまとまったマシンに隙は無く、唯一の弱点もカナタの走りでは問題にならないはずだった。

 だが、そんなカナタをもってしても、手も足も出ない相手。

 それが、星馬兄弟だった。

 

「やはり、あのマシンの弱点はカナタ君だから何とかなっているだけで、気づかれてしまえば脆いでゲスな」

 

 レースを眺めていた藤吉はやはりと納得した。

 アルビオンランサーはトータルバランスは非常に優れているが、その代わり機能を盛りすぎて車重が重いのだ。

 スピードに乗っている状態では驚異的なマシンだが、ひとたびそのレーステンポを乱されてしまい失速すると、その再加速がもたつく。

 カナタは天性のスキルでその欠点が露呈しないラインや走行テクニックを駆使して走っているが、ラインを選ばない走りをするマグナムとソニック相手では、つられて動けばラインを乱されて失速してしまう。

 わかっていても動けない状況で二人はアタックを仕掛けたのだ。

 とはいえ、性能は高いためそこを抜ければ抜き返すような場面もあるが、すべて予定調和の走行ラインでしかなく、熟練の領域に達している豪と烈を相手取ってしまうと、あえてそのラインを譲っているのは明白で、次のアタックポイントで仕掛けるための仕込みでしかない。

 カナタもそれを承知しているのでとにかく悔しかった。だが、同時にそれだけ全力で相手してくれている忖度のないレースとも伝わってきたので、ただひたすら今できる全力でレースをする。

 だが、結果は……豪と烈の勝利だった。

 

「負けた……」

 

 カナタは閉会式の後、控室で自分のマシンを両手で包み込むようにしてうなだれていた。

 ミニ四駆のほうとはいえ世界大会でも十分に戦えていた自分の実力、小学生のカナタが持っていたその自信は粉々に砕け散っていた。

 だが、その敗北の中に一筋の光明を見出していた。

 やはり速さを求めたとき、その正解はあの白黒のセイバーにある。

 豪や烈のコーチを務めていた、タクミ・フジワラ。

 もしあの人に会うことができれば自分の走りをもっと変えることができるのかもしれない。

 こうしてカナタは日本で、あこがれの人たちへの出会いを果たし残りの世界大会を戦い抜いた。

 そして帰国後はカートやF4に専念し、12歳にして国内タイトルを獲得する。

 名門RDRSを首席で卒業するなど、誰もが、このまま世界の表舞台を駆け上がっていくのだと信じて疑わなかった。

だが17歳のころ、カナタは突然、レース界から姿を消した。

そして数年後、彼が再び姿を現した場所は、日本。

 MFGと呼ばれる、公道レースへの新たなる門をたたいたその日、彼は、思いもよらぬ人物と再会することになる。

 それはライバルとして、そしてかけがえのない友として。

 白をベースとし、蒼のストライプを走らせたRX-8。

轟くロータリーの音は、かつての力強さを彷彿とさせるものだった。 

 

 WGPの伝説は、まだ終わらない。

 




改めて、完!

ということで、今回はカナタを主役にしたサイドストーリーでした。
ちなみにMFGを15年後説を採用したのでなのでカナタ19歳の時、青いRX-8の彼は25歳ぐらいとなります。
それでは、この最後の短編までお付き合いいただき誠にありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう

本格的な本編を読んでみたいですか?

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