スイード王国王城へと到着し、城を守っていた兵士に案内されて王城内を歩いていく。
「そういえばルカ、お前にひとつ言っておかなければならない事がある」
目的地らしい国王様の執務室に到着する直前になってオーグが突然そんな事を言い出した。
「言っておかないといけない事? 何?」
「王の執務室に入ったらお前が使っていい言葉は『はい』だけだ。それ以外喋るな」
「なんで!?」
いや、基本的に国王様の相手なんてしたくないから全部オーグに丸投げして後ろの方で静かにしていようとは思っていたけど、それはさすがに無理じゃない?
「お前と父上のやり取りを見ていると不安でな……もしも何か問われた際はウォーレス、ルカの代わりに答えてくれ」
「か、かしこまりました!」
「ミランダもかしこまるなよ! さすがにそれは失礼だから!」
俺だって時と場合に合わせた対応くらい出来るから!
今までは特にそういう場面が無かっただけだから!
というかシンだって俺と何も変わらないじゃん! なんで俺にだけ言うんだよ!
「まぁ基本的には私が応対する。くれぐれも失礼の無いようにな」
「ぐぬぬ……!」
そんな俺たちのやり取りを聞いていたのか、案内してくれていた兵士は若干戸惑いつつも扉をノックして入室の許可を取ってくれた。
許可を貰い部屋の中に入ると、白髪の混じった茶髪に口髭を生やした恰幅のいい男性が椅子に座っており、その脇に文官っぽいヒョロい人と鎧を着た金髪の人が立っていた。
ふむ、しっかりと鍛えられた中々いい体をしておられる。
気も綺麗に流れているし、出会ったばかりの頃のクリスねーちゃんといい勝負が出来るくらいの実力かな。
「お久しぶりです、スイード王」
「おお! アウグスト殿下!」
俺たちの入室に気付いたスイード王は立ち上がり、オーグの手を取り感謝と労いの言葉を述べ、オーグはにこやかに応じている。
そんなスイード王とオーグのやり取りを見ていると、傍らに控えていた金髪に鎧の男性がこちらを見渡しながら訊ねてきた。
「それと……あの防御魔道具を造ってくれたシン=ウォルフォードくんというのは?」
「あ、俺……私です」
どうやらあの人のお目当てはシンだったようだ。
「おお、キミか! キミの魔道具のお陰でこの国を守る事が出来た。部下の被害も最小限に食い止められたと聞いている。礼を言う、ありがとう」
礼を言われているが、シンは若干申し訳なさそうにしている。
「いえ……もっと早く来られたら良かったんですけど……」
「キミたちは十分早く駆け付けてくれたよ。正直、想像を絶するほどの早さだった。これ以上望むのは贅沢だし、酷というものだ」
「……ありがとうございます」
男性はとてもにこやかに話しているのだが、シンは苦笑いを浮かべている。
お前さ、お前は今回の戦いの最大の功労者なんだからもっと堂々としなさいよ。今は言わないけど。
まぁ魔人撃破数ナンバーワンな俺はユリウスの背中に隠れてるんですけどね!
「シシリー=フォン=クロードさんというのはどの子かな?」
「あ、はい! 私です」
そんなシンを見ていると、今度は文官っぽいヒョロい男性が尋ねてきた。
「キミのお陰で多くの住民の命が救われたと聞いたよ。本当にありがとう」
「いえ……救えなかった人もいましたから……」
「全て救うなんて到底無理な事だ、キミはキミの出来る範囲で出来るだけの事をしたんだ。それでも他の者より多くの住民を救ってくれた。本当にありがとう。住民を代表してお礼をさせてほしい」
そう言って深々と頭を下げた。
「そ、そんな! 頭を上げて下さい!」
「クロードさん、私からもお礼を言うよ、ありがとう」
「そんな陛下! 畏れ多いです!」
「巷ではクロードさんを聖女と言う者もいるようですね」
「ほお、そうなのか?」
「こ、困ります……」
ほう、聖女様とな?
「ほほ、そういえばクロードさんはウォルフォードくんと婚約したんでしたな。夫となる者がいては聖女は出来ませんな」
「なんで知ってるんですか?」
他国の重要人物の情報というのは想像するより早く回るもの。
ということはシンは他国からアールスハイドの重要人物と思われているという事なのだろう。
さすが俺の弟!
「キミは自分の価値が分かってないようだね?」
「そうなんです。コイツは自分がどれだけ凄い人間なのか分かってないんですよ」
「おい、オーグ」
シンがオーグにツッコミを入れているが、残念ながら俺も同じ気持ちなのでフォローはしない。
「キミの事はアールスハイドだけでなく、各国の注目事項なんだよ。どんな行動を取るのか、誰と付き合い、誰と婚約するのか……本当なら私の娘も嫁がせたい所だったんだよ」
「そ、そんな恐れ多い……」
「はっはっは! 冗談だ。好きあって結ばれた者同士を引き裂くような無粋な真似はせんよ」
「は、はは……」
シンは困ったように笑いながら後頭部をかいている。
お前普段割となんでもそつなくこなすタイプなのにこういう対応は下手くそなんだな……
「では……ルカ=ウォルフォードくんというのは?」
「あ、はい。自分です」
なんとなく流れで俺も呼ばれそうな気はしていたので慌てることなく返事をしながら隠れていたユリウスの後ろから出る。
「キミが大量の魔人を集め一網打尽にしてくれたお陰で街や住人への被害が抑えられたと聞いている。本当にありがとう」
「いえ、自分に出来ることをしたまでです」
右手を軽く握って胸に当てる。同時に左手を腰に回して軽く頭を下げながらそう返答していると、ナイツやマジシャンズの大半のメンバーからギョッとした顔を向けられた。
なんだよ、俺にだってこれくらい出来るよ。
誰が俺に礼儀作法を教えたと思ってんだ? ばあちゃんだぞ!
「そうか、ありがとう。ところでシンくんに断られたからと言うわけではないのだが、一度娘と会ってみるつもりは無いだろうか?」
「「「えっ?」」」
周囲から驚いたような声が聞こえてくる。
ふむ、ここはオーグに命令された通り「はい」と答えてみてもいいのだが、他国のお姫様に会うくらいならその時間で腕立てしている方がいいのでやはりここは断る一択だろう。
オーグ、ごめん。俺、お前の命令無視するわ。
「恐れながら……私には既に心に決めた女性がおります故どうかご容赦頂きたく」
「そうか、残念だ。では私はキミとキミが想う女性が上手くいくことを願わせてもらおう」
「お心遣い痛み入ります」
ここで深く頭を下げることで国王様との会話を打ち切る。
ふぅ、ボロが出なくて良かったぜ。
「まぁ、アールスハイド王の宣言でそれは出来ないんだけどね」
……そういえばそうだった!
その後シンやオーグと政治的、商売的な話をしていたが、隣に並んでいたミランダからチラチラ見られていたのが気になりあまり集中して聞く事は出来なかった。
でもとりあえず世界連合への参加は前向きに検討してくれるらしいよ。