海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦 作:通常弾頭
グラ・バルカス帝国 レイフォル暫定州到着
「我が日本国政府は、あなた方グラ・バルカス帝国の行った武力攻撃に対し、強い遺憾の意を表明いたします。今回我が国に被害はありませんでしたが、関係各所への謝罪と賠償は要求させていただきます」
グラ・バルカス帝国の外交官ダラスは、歯軋りをしながら交渉に臨んでいた。
彼自身、これほどまでに腑が煮え繰り返る外交は初めてだった。
ダラスの隣には、ゲスタも立ち会っていたが彼の表情も優れない。というかそもそも、東部方面異界担当部長である彼が直接関係各国との交渉に臨まなければならない事自体、かなりの遺憾である。
「くっ……小国風情が偉そうな口を……!」
「ダラス、よせ」
「おや、小国呼ばわりとは聞き捨てならないですね。貴国の巨大戦艦は、我が国の潜水艦のたったの一撃で沈んだと聞きます。小国とは、一体どちらのことを言うのでしょうか?」
「貴様ッ──」
日本側の挑発により、今に食ってかからんと立ち上がったダラスだったが、ゲスタが袖を掴んでそれを阻止した。
ゲスタはダラスが着席するのを見計らい、ミリシアルの大使シワルフ、ムーの大使のヌーカウル、そして日本の大使である朝田を見据えて改めて続ける。
「……して、この世界の強国の皆様が雁首揃えて一体何用ですかな?」
「我々は、あることを確認しに参りました。先進11カ国会議における貴国の大使の発言……"軍門に降れ"との事でしたが、その発言の真意を確認したい」
朝田からの言葉に、ゲスタは臆することなく告げる。
「帝国の考えは、先進11ヵ国会議で発言したとおりだ。変更は無い」
「それはつまり、中央世界を含むすべての国を植民地にすると?」
「その通りだ」
「それは全世界への宣戦布告と捉えても遜色ないか?」
「……そうだ」
ゲスタはその言葉を発するのに少し、勇気を出さなければならなかった。
何故なら宣戦布告した全世界の中に、帝国の戦艦を沈めた日本国という強国が混じっていたからだ。
「そうですか……では、返答として我が国からは最後通牒を突きつけましょう」
朝田はその言葉をしっかり聞くと、ある書類を持って立ち上がり、グラ・バルカス帝国側にこう告げた。
「……読み上げます。我が日本政府は、貴国グラ・バルカス帝国が先進11カ国会議における発言と行動を撤回し、謝罪と賠償を負う責任を全うしないと判断した場合、貴国の海上交通路に対する無制限潜水艦作戦を実行する用意がある」
「な、なんだと……!?」
「嘘だろ……?」
無制限潜水艦作戦。
その言葉により、グラ・バルカス帝国側に明らかな動揺が走った。彼らはその言葉の意味と重大さをはっきりと理解しているからだ。
ただ、朝田の言っていることがわからなかったシワルフは、隣にいたヌーカウルに恥ずかしながら聞くハメになった。
「(……無制限潜水艦作戦とは?)」
「(資料によると、潜水艦と遭遇した敵船は軍民問わず無警告で撃沈する作戦のことのようです)」
その言葉の意味を聞き、シワルフは相手が動揺した理由を悟った。なるほど、シーレーンが脅かされるのを危惧しているわけか、と。
「これに対する回答期限は12月7日までとし、我が国が満足いく回答を得られなかった場合、早期に作戦を実行するものとする」
「無制限潜水艦作戦など、非道なやり口だぞ!人道違反だ!!」
「おいよせダラス──」
「おや、カルトアルパスを奇襲し、市街地まで爆撃したあなた方がそれを言いますか?」
朝田が毅然とした態度で反論するのを受け、ダラスは完全に論破され、黙ってしまった。
「我々は良い返事をお待ちしております。期限までには回答を出すようにしてくださいね?」
「くっ……!」
朝田が畳み掛けるようにそう言う。
ダラスやゲスタ達は終始、その場の日本側のリードに完全に押されてしまっていた。
同日午後 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ
「ではこれより、軍本部緊急会議を行います」
夏が近いというのに、会議室の空気は冷え切っていた。
急遽集められたグラ・バルカス帝国軍の各将校達は、集まった理由をなんとなく察しているため、この様な空気感が漂っていた。
司会進行役の荷は重いが、真実を伝えなければならない。
「概要をご説明致します。本日外務省の方から連絡があり、日本国は我が国に対して先の先進11カ国会議における一連の軍事作戦に対する責任の追及を求め、これが果たされなかった場合、我が国に対して無制限潜水艦作戦を行う旨の最後通牒を出してきました」
その報告を受け、将校達は明らかな動揺を見せた。
何せ日本の原子力潜水艦の能力の高さは、カルトアルパスの一件で明らかになっている。
そんな潜水艦が帝国に対して無制限潜水艦を決行するということは、重大な存続危機に値する。
海運は帝国の物流の八割以上を占めているからだ。
「静粛にしろ!……すまん、続けてくれ」
「はっ……回答の期限は半年後となっており、時間的猶予はありません。この件への対応、如何いたしますか?」
軍本部長のサンド・パスタルが場を収めると、司会進行役はこの件への対応を求めた。
しばらく沈黙が流れる。本来この件を飲むかどうかは軍ではなく政府が決めることであるが、この会議が開かれたのはそれを決めるためではない。彼ら軍人が選べる選択肢は一つだ。
「……要求が飲めない以上、戦う他あるまい」
沈黙が流れる中、カイザルが一番にそう言った。
「責任者を突き出せというのは、すなわち皇帝陛下を差し出せということ。帝王府の誰もこの条件を飲まないだろう」
「しかし、どう戦う?」
「ニホンの原子力潜水艦は相当な性能だ。やろうと思えば我々のシーレーンを荒らし放題だぞ」
「我が海軍の方で出来る限りの潜水艦対策装備を整えてきた。新型の誘導魚雷に対潜巡洋艦……なんでも揃えてきた。とにかく、戦うしかない以上最善を尽くす」
カイザルは原子力潜水艦の存在が明らかになってから、様々な対策を立ててきた。いよいよその真価が試される時が来たというわけである。
皆がそれを聞き、ある程度安心して戦いに臨める空気になったところで、陸軍に程近い席に座る近衛軍長官のジークスが側に座る将校達を見据えて問いかける。
「陸軍の方は何か?」
「そうだな……一応聞いておきたいのだが、日本はレイフォル州への攻撃を仄めかしていたか?」
司会進行役はその質問に対し、資料を交えながらそれを否定する。
「いえ、その様な発言は何も」
「そうか……まあレイフォルは資源も工場も多いからしばらくは大丈夫だろうが……」
「警戒しておくに越したことはない。本土とレイフォル間のシーレーンが破壊されたらあそこは陸の孤島だ」
「分かっているさ。まあ、それもこれも、そもそも海軍と監査軍が最初の作戦を失敗させなければ起こらなかった事態だがな」
「…………」
さりげなく海軍と監査軍の悪口を言われ、その将校達はかなり不機嫌になる。会議室を再び沈黙が支配した。
「(とにかく来い、海の化け物め……俺たちは万全の体制で待ち構えてやるぞ)」
そんな中、カイザルだけは日本に対して闘志を燃やし続けていた。
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