射し込む朝日が瞼を刺激し、沈み込んだ意識を引き上げる。
目を開けた瞬間、泥に覆われたかのように体が重いことに気が付き、俺は昨夜の状況を思い出した。
「――――……」
腰も痛いが喉も痛い。
昨日散々に喘がされた代償だろう。ぐっしゃりとしたシーツに安住を求める体の意志に逆らって、俺は近くの丸テーブルに置かれている蓋つきのガラス瓶に手を伸ばす。
「だーめ♪」
「ぁ……」
伸ばした手を掴まれた。そして強制的に引き戻される。
俺の手は探偵さん、否、マチエールさんの一糸纏わぬ腰へと添えられ、代わりに彼女が瓶に向かって手を伸ばす。
そして彼女は水をコップに注いで口に含み。
「ん……」
濡れそぼった唇を俺の唇に重ね合わせ、ゆっくりと口の先を開く。
「んく……!」
口内の熱によって温められ、生温くなった水が喉へと注がれる。
とろりと流れ込むそれは痛んだ喉を優しく通り抜け、体内へと落ちていく。
「ぷはっ……。ふふ、おはよう。良い朝だね」
「……はい」
「あ、二人とも起きたんだ」
「うん。おはようタウニーさん」
扉の向こうからタウニーがやってくる。マチエールさんとは違って一応下着だけはつけているが、下半身だけだ。
上半身は裸のまま。育ちきった自身の肉体を恥じることなく見せつけてくる。
昨晩はずっとこの二人の処理をさせられていた。
一方的にやられるというのはやはり体力を使う。ワイルドゾーンやZAロワイヤルで鍛えられた体力を根こそぎ搾り取られ、最早話す気力はどこにもない。
一方でやる側だった二人は今も楽しそうにしている。疲れといった感情は微塵も見せていない。
日々の仕事で体力が一層増えているのだろう。ここ最近ずっと受付で書類仕事をしていた俺とは正に雲泥の差。
使われる側の気持ちというやつを、俺は思い知らされた。
「反省は出来たかな?」
マチエールさんが俺の頭に手を置き、問いかけてくる。
体は沼に嵌ったように動かない。疲れを越えて体を動かす反骨心も、もう残っていない。
出来ることと言えば、彼女の言葉をゆっくりと肯定することくらいだった。
「ふーん、本当かな?」
タウニーがベッドに腰かけ、覗き込んでくる。
本当だ、と言おうとするが、喉が痛くてうまく言葉が出てこない。
「昔から口だけは達者だったし、信用できないかも」
薄い笑みを浮かべながら横になり、俺の頬に指を当てるタウニー。
柔らかい頬に刺さった指が円を重ねるように動いている。
「この手の人って割と徹底的にやらないと懲りないことも多いし。現にこうしてふざけたことやってたわけだしね」
「……それって自虐? タウニーさんも人のこと言えないんじゃない?」
「私はもう借金なんてしてないし! サビ組とは、ちょっと睨み合うこともあるけど……」
「ワイルドゾーン撤廃が決まる直前に安い物件を買い漁ってたもんね……。カラスバさんって抜け目ない……」
「本当にやってくれたよ……。おかげでミアレの開発を進める度にサビ組をぶつかるんだからもう……!」
タウニーはサビ組のことで愚痴を溢す。
今こうして散々俺を使ったお前等もまあまあヤクザっぽくない? と思わないでもないが、余計なことを言うと反省の色無しとみなされて再び大会が始まりそうなので黙っておくことにする。
「……まあそれは良いや。今はエデルがきっちり反省しているかどうかを確かめないと」
「うーん、どうしようか。わかりやすいのは過去と決別した証拠を持ってきてもらうことだよね」
「それどうやるの?」
「一つ思いついたことはあるよ」
マチエールさんはそう言い、俺に目線を投げる。
「ねえエデルくん。君が作ったぬいぐるみって本当にリアルな造形してるよね。あれって、ただ写真とかを見るだけじゃ無理だと思うんだけど……もしかして君、ぬいぐるみのモデルになった人と親交ってあったりする?」
……流石は名探偵。
その通りだ。リアルを追求するならばそれ相応の資料が必要になる。
ポケモンでも人間でもそれは変わらない。
異なる個体であっても同種であればそこまで変わらないポケモンならば代用も効くが、唯一個人であればそうもいかない。
過去に間近で触れ合った人間しか、リアルなぬいぐるみは作れない。
「ふーん……。カロスチャンピオンのお姉ちゃんに加えて、カントー・ジョウト・ホウエン・シンオウ・イッシュ・アローラ・ガラル・パルデアの有名人目白押し……。意外と豪華な交友関係してるんだね?」
「この人ポケウッドの有名女優さんだよね? 確か、メイだっけ?」
「博士の方まで網羅してるんだ。ソニアさんってガラルの伝説のポケモンの本書いてた人だよね? ジガルデといい、縁が深いねぇ」
確かに俺は伝説のポケモンとはそれなりに縁がある。
当時は路銀を稼ぐために何でもしたからな……。地下に管理されていたゼルネアスとイベルタルに始まり、色んなポケモンを見つけてはその情報を売り捌いたもんだ。
まあお得意様だった人達は悉く壊滅しましたけども。当然俺もやり玉に挙げられた。
騙していたのかとか、裏切り者とか、そう呼ばれたことも少なくない。
まあ最終的にはどの地方でも警察よりもメイとかユウリとかアオイとかから逃げ回ってた記憶の方が強いけどね。
「で? それがなんなの?」
「昔の知り合いに完全に見切りをつけて貰うんだよ。俺はあなた達を使ってこんなにひどいことをしていました、もう俺のことは見捨ててくださいってさ。そうすれば過去ともきっぱり決別出来るんじゃないかな?」
「なるほど、その説ありだね。どうせならとびきり無様にしちゃおう。もう二度と男として、いや同じ人間として見れないくらい徹底的に」
「良いね~。そのくらいじゃないと心から反省なんて出来ないだろうしね」
俺を差し置いて二人は恐ろしい盛り上がりを見せている。
怖いが、感情に反して俺の体は逃走の意志を見せない。
完全に屈服してしまったらしい。
「それじゃ早速始めちゃおう! エデルのとびきり情けない撮影会!」
「ほらほらエデルくん、立って。こういうのは早いうちに片づけちゃわないと」
「座っててもいいよ、その方が無様度は上がるしね」
「それもそうだね。ちょっと待ってて、道具を取ってくるから」
タウニーがスマホロトムを起動する。
カメラの録画モードを作動させ、撮影の準備を終える。
数分後、マチエールさんが戻ってきた。
ぶら下げた袋の中には色々な『玩具』が入っている。
「これでとびきり可愛くしてあげるね!」
抵抗できないまま、始まる俺の着せ替え大会。
しっくりくるものが中々無かったのか、結構な時間がかかった。
「うん、これなら良いんじゃない?」
鏡を見せられる。
それは一言で言うならピカチュウコーデだった。
ほとんど布面積の無い、ヒモ同然の水着を着せられ、耳と尻尾まで生やされている。
ポケモンごっこの子供達とは全く違う、ポケモンへの侮辱とも言える恰好だ。
今のミアレでこの恰好をすれば、色んな意味で大炎上するだろう。
「オッケー、じゃあ始めちゃおうか」
言うや否や、タウニーとマチエールさんが互いの距離を詰める。
俺はその間にガニ股の姿勢で腰を落とした。つけられた尻尾が床に触れる。
二人の太ももが俺の首を挟み込んでいる様子は、さながら断頭台に拘束された死刑囚のようだ。
「それじゃあ打ち合わせ通りにね。よーい、アクション!」
元気の良いタウニーの声が響く。
言われた通り、俺は両手のピースを顔の前の掲げ、無理矢理な笑みを浮かべる。
「は、はーい! みんな見てるー?」
スマホロトムの向こう側にある鏡に俺の様子が映し出されている。
女の脚に挟まれながら股を開いて媚びた笑顔のダブルピース。こんなのエロ漫画でしか見たことが無い。
まさか現実にする人間が、それが自分自身になるとは夢にも思わなかった。
「この度、私エデルはー! お金が稼ぐという非常に身勝手な理由で皆様のことを出汁に致しました!」
近くには人間のぬいぐるみが散らかっている。画面全部に収まるのか心配になるが、口を挟む権利は俺には無かった。
「私のようなどうしようもないクソガキ未満がそのような愚行を冒してしまい大変申し訳ありません! まずはここに謝罪させていただきます!」
大変申し訳ございませんでした。
そう言った直後、俺は額を床に擦りつける。
その上から足が二つ、俺の頭に乗せられた。ジャリジャリと、髪の搔きまわされる感覚があった。
同時に尻尾が生えている箇所に違和感が生まれる。震動が始まったらしい。
「も、もぅ、二度とぉ……んっ!」
「ちょっと、ちゃんと謝んなきゃ」
「んぁ、このようなことの、無いように、ぁ! い、いたっ、いたしますのでぇ……」
「あと少しだよー。ほら、頑張って!」
「お、おゆるしくだしゃぁあぃ…………!」
「はい、駄目。もう一回ね」
タウニーの無慈悲な宣告。
俺は尻尾の震動に耐えながら、何度もリテイクを重ね、OKを二文字を貰ったのは、数時間後。
その間俺はずっと、この地獄のような状況を耐えねばならなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
終わった時には息も絶え絶え。
体は何度も痙攣を起こし、立つどころか指一本動かす気力すら残っていなかった。
「はいはい。よく頑張りました」
マチエールさんの優しい声が聞こえる。
ゆっくりと頭を撫でられ、俺は眠りに落ちていった。
もう何もかもがどうでも良かった。
例えこの先、動画を見せられた面々がホテルに乗り込んできて、俺のことぶん
この時の俺は、もうどうでも良かった。
登場人物紹介
◆エデル:まあまあクズな合法ショタ。出身はカロスで両親はフレア団幹部。本作の十年前には両親とともにフラダリラボにおり、起動された最終兵器の光を浴びたことで老いない体になった。そのため実年齢は十九歳だが外見は九歳のまま。
XY主人公の決戦後はカロスに居づらさを感じ、ポケモン本編の舞台である九つの地方を飛び回った。特技の裁縫によるポケモンぬいの作成で日銭を稼いでいたが、いつしか著名人のラブドールを作成することで大金を得るようになる。そのことでロケット団に知られ、勧誘を受けるもそれを蹴る。
しかしその件でアジトに居たことをレッド経由でカントーリーグに知られてしまう。このようなことを各地方で懲りずに繰り返した結果、追われる身となり全ての地方に居場所を失う(パルデアに至っては完全に出禁になった)。 その後流石に懲りたのか別の働き口を求めてやってきたミアレにおいてはホテルに無料で泊めてくれたAZへの感謝の気持ちもあり、真面目に稼ぐようになる。
のだが結局クズはクズのままだったのが今回に繋がった。
好きなもの:ひのこロースト・チョコクロワッサン 嫌いなもの:緊張感・ホイップクリーム
誰にも言えない秘密:割と経験豊富 それで稼いでいたことも、あるとかないとか
実は関わった人の性欲を掻き立てるフェロモンのようなものが出ているらしい。その理由は定かではない、なお、フラダリラボからはポケモンと人間の交配についての研究資料が発見された。その件について逮捕されたクセロシキやミアレで所長代理をしているモミジは固く口を閉ざしているようだ。