ステラソラ 亡国の姫(嘘)   作:アウロラの魔王

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《魔王》との邂逅

 あれから早いもので、一ヶ月が経ちましたわ。

 

 (自称)命が儚い系金髪美少女お姫様のサテラですわ。晴れて空白旅団の一員になった(わたくし)は、体調面から塔の探索には加えてもらえませんでしたわ。まあ、当然と言えば当然でしょうけど。

 代わりに、三人が探索に出てる間、ミドリちゃんことオアシス号──空白旅団が所有している車ですわ──でおいしいご飯を作って三人の帰りを待つのが(わたくし)の役目ですわ。あ、材料は石じゃありませんわ。ちゃんと、街で買った食材を使ってありますわ。

 ちなみに、(わたくし)が塔から持ってきた石はアヤメに没収されましたわ。小腹が空いた時に舐めようと思ってましたのに……。

 

「ふー、今日のお洗濯完了ですわー」

 

 ちゃんと願い事の『お嫁さん』要素もあったようで、家事全般を卒なくこなせるのは、助かりましたわ。

 アヤメは心配なのか、しきりに『無理しなくていいから』と言っていましたが、流石にジッとしているのは性に合いませんわ。

 

「薪はこれくらいあれば十分ですわね」

 

 今日必要分の薪を拾い集めて、ミドリちゃんを停めてある場所に戻る。

 そういえば、ミドリちゃんといえばあの車は空白旅団のみんなで組み立てたものらしいですわ。孤児院にあった物で作ったそうですが、よく孤児院にパーツが揃っていましたわねと感心してしまいましたわ。

 そんなわけで、あの車はこの世界唯一無二ですわ。(わたくし)から見ても、ミドリちゃんの乗り心地の良さは、ピカイチと言っても過言じゃないですわ。居住性と機能性の両立は素晴らしいことですわ。……代わりに、パーツがツギハギなのでやや安定性に欠けるところがあるのが難点ですわね。と思いましたが、車体から細かなパーツまで完全設計してる現代の技術力がおかしいだけですわ。

 

「──暇になりましたわ」

 

 料理の準備も、薪集めも、洗濯も終わってしまった。

 ミドリちゃんに腰掛けて足をブラつかせる。

 

「塔は見つかったんでしょうか」

 

 ドレスのスカート部分をまさぐり、ポケットを探す。少しの間探して、ようやくポケットを探り当てた(わたくし)はその中からスマホを取り出した。

 

「このドレス、ポケットの位置が分かりづらいですわー」

 

 まあ、最初はポケットに気付かず、中に入れていたスマホごと消滅したと思ってたから、ポケットもスマホも残ってて安心しましたわ。

 

「中のデータは全て消し飛んでいましたけど」

 

 いえ、一つだけ残ってましたわ。入れた覚えのないトークアプリですけども。

 横から覗き込んでいたアヤメによると、この世界で使われてるチャット機能付きのトークアプリでココチャというらしいですわ。(わたくし)は麦茶が好きですわ。

 ただ、こちらの世界ではスマホが無いらしく、アヤメたちが使っていたケータイもガラケーでしたわ。最初、そのことに気付かず、自分の国ではみんな持ってるとか言ってしまったので、アヤメたちに(わたくし)の治めた国は超技術が普通に流行していた、超技術都市疑惑を持たれましたわ。半分くらい合ってるのがなんとも言えないですわ。

 

「皆さん、塔探索の方は、順調ですか……っと」

 

『こっちは全然。アヤメたちは?』

 

 チャットを打つと、必ずと言っていいほどコハクが最初に返事を返してきますわ。なんだったら、コハク本人がチャットの方が話しやすいというぐらいですわ。通りで最初に会った時、妙に口数が少ないと思いましたわ。

 ちなみに(わたくし)はチャットの方が遅くなりますわ。今の指の感覚に慣れてないのもありますが、単に(わたくし)の思考スピードに指が追いつかないのですわ。もし、テレパシーが使えたなら、一日中相手に思考をぶつけてる自信がありますわね。

 

『こっちもハズレね。セイナは?』

 

『全然ダメー。そろそろ、ミドリちゃんのパーツが替え時だから早めに見つけたいんだけどな〜』

 

『それよりも先に神器を売ってお金にしないと、貯金が……!』

 

 祈願箱に願うと、神器という便利アイテムが出てくるらしいですわ。空白旅団はこれらを売って生計を立てているので、当然神器を手に入れなければ、家計が火の車になってしまうのですわ。

 

 そして、(わたくし)たちの残金は3ドーラ。もうパンの耳すら買えませんわ!

 

『一先ず、一度戻って食事にしましょう。長時間探索してますし、休憩を挟んだ方が良いですわ!』

 

『確かに、お腹空いたかも』

 

『そうね、一度戻りましょうか』

 

『今日も腕によりを掛けてますわ!楽しみにしていてくださいですわ!』

 

『わーい!サテラのご飯大好きー!』

 

『すぐ戻る』

 

『怪我をしないように戻ってくるんですのよー』

 

 そんなに遠くには行ってないですし、本当にすぐ戻ってきそうですわ。

 

「っとと」

 

 急に吹いた風で髪が視界を塞ぐ。慌てて髪が乱れないよう、手で押さえて風が吹き止むのを待つ。風は草木を揺らしながら、パニエで膨らんだ(わたくし)のドレスの中を通り抜けて行った。

 やがて、風が止んだあとに風で乱れた髪を手櫛で整え、ドレスの上を軽く手で払う。

 

「平和ですわ〜」

 

 こんなに平和を謳歌していて良いんでしょうか。こういう異世界モノって、大抵苦労するものだと聞いてましたのに。

 

「エッチな風だったね」

 

「まったくですわー」

 

「……」

 

「……」

 

 ふと誰と話してるんだろうと振り返ると、車の上にコハクが居ましたわ。

 

「ってコハク、もう戻って来てたんですの!?」

 

「すぐ戻るって言った」

 

「ホントにすぐでしたわ!」

 

 この分だと、他の二人もすぐ戻ってきそうですわね。

 

「なら、ササッと作ってしまいますわ!」

 

 まあ、既に諸々を済ませて温めるだけですけど。

 火にかけていた鍋の蓋を取ると、辺りにいい匂いが立ち込める。

 

「すんすん、この匂いは……!」

 

「今日は肉じゃがですわー」

 

 もぐもぐ、んー良い感じに味が染みてますわね。お米も、炊けてますわ〜。んー!やっぱり白ご飯ですわよねー。以前寄った街で色々買っておいて良かったですわ。足りないものは、セイナに頼んで祈願箱から出して貰えますし、いい世界ですわね〜。

 そういえば、セイナはよく(わたくし)のフワッとした説明で、祈願箱から取り出せますわね?ミドリちゃんのパーツも、セイナのイメージで出しているみたいですし、才能ですわね。

 

「たっだいま~!いっちばー……んじゃない!」

 

 そうこうしている間に、セイナも走って戻ってきましたわ。

 

「私が一番」

 

「くぅ~っ!帰る途中で見つけたキノコが食べられるかどうか、吟味していた間に先越されたか~!」

 

 キノコ良いですわね~。ソテーにしたらおいしそうですわ~。

 

「食べられるキノコだったの?」

 

「ううん、アヤメが毒あるやつだって」

 

 石食べても大丈夫だから、毒キノコくらい平気ですわ。ところで、そのアヤメはどうしたんですの?

 

「ぜぇ……!ぜぇ……!セイナぁ~……待ってぇ~……」

 

 血を吐いた後の(わたくし)よりも死にそうな顔で、アヤメも戻ってきましたわ。顔が青を通り越して土気色ですわ。

 

「あ!アヤメ遅いよー!」

 

「アヤメはもう少し鍛えたほうが良い」

 

「私は……頭脳……担当……がくっ」

 

「あ、倒れましたわ」

 

 最早、この一ヶ月で見慣れつつある光景に、思わず笑みが浮かんでしまいますわ。

 倒れたアヤメを介抱するでもなく、指で(つつ)いている二人を横目で見つつ、出来上がった料理をお皿に盛りつけますわ。

 

「えいえいっ」

 

「おお」

 

「……二人とも後で覚えておきなさいよ」

 

「三人とも~、ご飯出来ましたわ~」

 

「はーい!」

 

「……っ!」

 

「あ、起きた」

 

 (わたくし)が声をかけると、アヤメは勢いよく立ち上がりこちらに駆けてくる。

 

「いつもより早い」

 

「ほら、アヤメってサテラの料理好きだから」

 

「あ、あなた達だって同じでしょ!?」

 

「それは否定しない」

 

「高級レストランの味とか分からないけど、この料理に勝るものは無い!って感じだよね~」

 

 褒めてくれるのは嬉しいですけど、普通に恥ずかしいですわ。とりあえず、アヤメは泥んこになった顔を拭いて貰いますわ。

 

「アヤメこの布で顔を拭いてくださいですわ」

 

「あ、ありがと……あれ?この布湿ってる?」

 

 水で濡らした布だと、布の湿り気具合で気づいたみたいですわね。というのも、この世界は使える水もそんなに安くはないので、節約しながら使っていたのですわ。水を出す神器は大体が金持ちに大金で買い叩かれて、一般にはあまり無いそうですし。

 そんなわけで巡遊者は、こうして街の外にある自然の水を利用しているというわけですわ。

 

「実は皆さんが探索に出かけている間に、川を発見したのですわ!」

 

「水!?じゃ、じゃあ……!」

 

「はい!ちゃんと煮沸消毒を済ませてから、ミドリちゃんのタンクに沢山積んでありますから、今日はシャワーを使えますわ!!」

 

「や……やった〜っ!」

 

「でかした」

 

「お褒めに預かり恐悦至極ですわー」

 

 身体弱いのに重たい水を運べるのか?ですって?ふふん、弱いのは身体だけですわ。パワーは片手で木をへし折れましたわ!……ちょっと木を揺らして、木の実を落とそうとしただけですのに。

 

「さて、ご飯の準備も完了しましたし、いただきますですわ!」

 

 配膳を済ませて、各々が座ったのを確認してから手を合わせる。

 

「はふはふっん〜っ!お芋が柔らかくて口の中でトロける〜」

 

「お肉も出汁をよく吸ってて美味しいし、噛む度肉汁がすごい!」

 

「サテラの作る料理の中で、肉じゃがが一番美味しい」

 

「そうでしょう、そうでしょう。肉じゃがは(わたくし)唯一の得意料理ですから当然ですわ!」

 

「一日中動いた後にサテラの料理を食べると、疲れが吹き飛んじゃうわ!」

 

美味しそうに食べる三人の顔を見て、私は満足気に頷きますわ。肉じゃがは、こちらの世界に来る前から作っていましたから、これだけは自信を持って得意料理と言えるのですわ。

 

「それにしても、サテラも随分生活に馴染んだよねー」

 

「そうですの?」

 

「うん、以前より逞しくなった」

 

「そう……そうだったっけ?最初からワイルドだった気がするんだけど……。ドレス着たままで急に木に登ったりとか」

 

 だって木の上に珍しい木の実があったんですもの。

 

「川の中に入って魚を手掴みで捕ろうとしてた」

 

 だって魚を食べたい気分だったんですもの。

 

「あはは!あったねー。私はサテラが地面に寝そべってるのを見かけて、何してるの?って声掛けたら『虫の観察ですわ』って返ってきたことあったな〜」

 

 だって暇だったんですもの。

 

「とんでもないお転婆姫だった」

 

「むぅ〜仕方ないじゃありませんかっ。皆さんが塔を探しに行ってる間、暇なのですわっ」

 

「それは本当に申し訳無いんだけど、でもそれはサテラの体が心配で」

 

(わたくし)だっていざとなったらこの姫パンチがありますわ!」

 

「せめて、その腰の剣を抜いてちょうだい……」

 

 忘れてましたわ。そういえば、自分の指を切って以来抜いてすらいませんでしたわ。

 

「アヤメならきっと守ってくれますわ!」

 

「私も自分の身を守るので精一杯だから!」

 

 勢いでアヤメに抱き着こうとするも、デコピンで追い払われる。痛いですわー。

 

「じゃあコハクー」

 

「……」

 

「無言で避けないでほしいですわー!」

 

「結局のところ、サテラって戦えるの?」

 

 いつものようにアヤメ達にじゃれついていると、ふと思い出したかのようにセイナが呟きましたわ。

 

「い、いやいやセイナ。サテラは体が弱いから……」

 

 それに異を唱えたのは心配性なアヤメですわ。まあ普通のことを言ってるのはアヤメですわよね。いくら本人が大丈夫と言ってても、血を吐いている人間を戦わせようと思う人の方が少ないと思いますわ。

 

「そうかな?この一ヶ月見てた限りだと、確かに体は弱いけど、身体能力自体は結構高い気がするんだよねー。コハクはどう思う?」

 

「ん……私も概ね同意。ただ、」

 

「ただ?」

 

 コハクはそこで言葉を切ると、スッと携帯を取り出し高速で何かを打ち込む。コハクが打ち終わると、(わたくし)のスマホが震えたので確認すると、ココチャに更新通知が来ていましたわ。

 

『ただ、身体能力が高いだけじゃなくて、身体の動かし方や足運びが素人じゃないって思ったよ。多分、どこかで訓練だったり指導を受けたことがあるんじゃないかな?少なくとも、身体能力だけじゃなくて技術も持ってると思う』

 

「あーなるほどー」

 

 ほえー、そうなんですの?……そういえば、女の子の歩き方とかドレスの着方とか分かりませんけど、無意識に任せると勝手に身体が動いてくれるので何も考えていませんでしたわ。やっぱりコハクは人のことをよく見ていてすごいですわ。

 ……実際問題、この体で戦えるので?確かに最強の体を望みはしましたが、(わたくし)自身にその実感がないですわ。

 

「二人ともストーップ!!確かに、もう一人戦闘か探索の人手が増えれば嬉しいけど、でもサテラはそもそも記憶喪失なのよ?体だって弱いのに……」

 

 しゅんとしたアヤメを見ると、良心がチクチクと痛みますわ!戦闘できるかどうか確かめてみたい気持ちはありますが、確かめる為に取れる手段が限られていますし、その手段はどれも危険なものになると思いますわ。現状、(わたくし)の体のことを考えると、リスクとリターンが釣り合ってないですわよね。戦闘できずとも、三人の為にできることはありますし、無理に危険を冒す必要もないですわ!

 

「大丈夫ですわ、アヤメ」

 

「サテラ?」

 

「二人だって、本気で(わたくし)を戦わせようとは思ってないですわ。ただ、アヤメたちが探索に出ている間、待っている(わたくし)がみんなの役に立てなくて焦ってるのではないかと思って、考えてくれたんですわよね?」

 

「うっ……」

 

「バレてる」

 

 一ヶ月も一緒に過ごしていますから、空白旅団のみんなが優しいのは百も承知ですわ!なにせ見ず知らずの(わたくし)を助けるくらいですもの。そんな人たちが意味もない発言をするとは思いませんわ。

 

「確かに、三人のことを手伝いたい気持ちはありますわ。でも、そのためにアヤメたちの足を引っ張りたくは無いですわ!それに、戦闘や探索が出来ずとも、みんなのために出来ることは沢山ありますから、そちらは私にお任せですわ!」

 

 出来る限り、精一杯胸を張ってドヤ顔をしますわ。あんまり胸を反らしすぎると、コルセットで内臓が圧迫されて血を吐きますわ(経験済み)。

 

「サ、サテラぁ……!」

 

「えぇっ!?」

 

 何故か目にいっぱいの涙を浮かべるアヤメ。二人に助けを求めようと振り返ると、コハクとセイナも同じように目に涙を浮かべていますわ!というかギャグ漫画みたいな泣き方ですわね!今度(わたくし)もやってみたいですわ!

 

「あのっ、あの……!別にみんなを泣かせたいわけではなく、あくまでも適材適所と言いますか……!」

 

 わたわたと弁明する(わたくし)を、アヤメはギュッと抱き締めますわ。抱き締められましたわっ!?

 

「グスッ……すぐ奇行に走ったり、変な言動で場を掻き乱すだけじゃなくって、サテラもちゃんと考えてたのね」

 

「……あれ?もしかしなくても、(わたくし)バカだと思われてますわ?」

 

「だって、初めて街に行った時文字すら読めなかったじゃない」

 

 納得ですわ。

 

 一応言い訳をさせて欲しいのですけど、アヤメたちとは普通に会話出来ていたから、日本語対応の世界か、自動翻訳機能付きの体だと思っていたのですわ。蓋を開けてみれば、異世界言語で書かれた文字だらけ。何を書いてるのかチンプンカンプンですわ。かろうじて共通だった数字だけは読めたんですけど、単位がサッパリでしたわ。

 そんなわけで、アヤメにノヴァ語辞典を買ってもらい勉強中の身ですわ。とりあえず、辞典を見なくても読みと自分の名前は書けるようになりましたわ。

 

「サ、サテラぁ!」

「サテラ……!」

 

「うおっですわ!」

 

 そんなことを考えていると、セイナとコハクが腰に抱き着いてきましたわ。驚いて変な声が出ましたわ。

 

「ごめんねぇ……!サテラがそこまで考えていたなんて思わなくてぇ」

 

「あの(わたくし)は大丈夫ですからそんなに密着されると胸が当たいえなんでもありませんわ」

 

 私とて健全な男子。可愛い女の子にこんなに抱き着かれたらドギマギしてしまいますわぁ!

 

「ひ、一先ずこれからの事を話しませんか?」

 

 張り付いた三人を、怪我させないように引き剥がしながら、建設的な提案をする。あ、セイナ鼻水付けないでくださいまし。

 

「そ、そうね。とは言っても、そろそろ日が暮れるから今からは無理だけど、明日の方針を固めましょうか」

 

 泣きながら抱きついたのが恥ずかしかったのか、アヤメは顔をやや赤らめながら咳払いをする。

 

「この辺りはもう探しきった気がする」

 

「ということは明日は探索範囲を広げる感じですわね?」

 

 セイナの鼻をちーんっさせながら、アヤメに確認を取りますわ。

 

「そうね。確か、コハクが森の向こうに砂漠地帯あるって言ってたから、そっちに向かってみようかしら」

 

「砂漠か〜せっかく今日体綺麗にするのに、明日また砂まみれになっちゃう」

 

「仕方が無いでしょ!星ノ塔が見つからないんだから!」

 

 鼻水を拭いて復活したセイナが、椅子の背に顎を乗せながらだらけるのを見て、アヤメがセイナの頭を軽く叩く。

 

「まあ、今日結構な量の水を確保出来ましたし、明日はドラム缶風呂を用意しておきますわ。だからみんなも頑張れですわ!」

 

 ミドリちゃんの上に括り付けられたドラム缶を見ながらそう言う。

 

「お!い〜じゃん!」

 

「……お風呂は有難いけど、前みたいに残り湯でご飯を作らないでね」

 

「えーですわ」

 

「えー、じゃない!普通に汚いでしょ!!」

 

 余程ご立腹なのか、(わたくし)の肩を掴んでガクガクと揺さぶりますわ。

 

「でも、美少女水ですわよ?」

 

「美っ……良いからっ!絶対にしないでね!!」

 

 今度は顔を赤くして、さらに揺さぶりますわ。うふふ、美少女って言われたからってそんなに照れなくても良いですのに。

 

「ところでアヤメ」

 

「な、何?」

 

「そろそろ(血を)吐きますわ」

 

「え」

 

「ゴハァッ──!!」

 

「サ、サテラーーーッ!?」

 

 

 

 次の日(ですわー)

 

 次の行動を決めた私たちは、ミドリちゃんを走らせ砂漠と森の境界まで進めて停車させましたわ。

 

「みんな〜!気を付けて行ってらっしゃいですわ〜!!」

 

 探索に出るみんなを見送ったあと、(わたくし)はドラム缶を降ろして中に水を溜め始めますわ。

 

「ちゃぱちゃぱですわ。水を溜めた後は非常食でも探しに出かけましょうか」

 

 あって困るものでもないですわ。干して乾燥させれば日持ちしますしね。

 

「あ、そうですわ」

 

 ホースをドラム缶に引っ掛けて落ちないようにしてから、腰の剣を抜く。鞘に手を添えて自然な動作で抜かれたソレを、掲げるようにして持つ。

 

「うーん、惚れ惚れするほど綺麗な動作ですわ」

 

 昨日、コハクが言った通り誰かから型を習ったみたいですわ。とはいえ、この体は推定邪神から貰ったものなので『そういう設定』な可能性も無きにしも(あら)ず。まあ、もしかしたらベースとなるモデルがいるのかもしれませんけれども。そのほうが一から作るより楽ですものね。

 

 剣は細身の、ショートソードではなくレイピアですわ。レイピアって結構刀身がしなって柔らかいイメージだったのですけど、意外と硬いですわね。

 

「あら?ココチャに通知が来てますわ」

 

 剣を鞘に納めてから、スマホを取り出す。今、すごい無意識に軽く剣を振ってから鞘に戻しましたわ。(わたくし)の知らない動きをしないでほしいですわ。惚れてしまいますわ。

 そんなことを思いながらスマホを操作する。

 

『見つけたよ』

 

 その一文と共に貼られた写真。そこには十字星が刻まれた大きな塔の姿があった。早いですわね。出発してからそう時間が経ってないですわよ。

 

「いつ見ても不思議なカタチしてますわね。っとと、えーと、このまま、塔に、入るのですか?っと」

 

『うん、朗報を期待してて』

 

 そう言って余裕そうなスタンプまで送ってきましたわ。

 

「……?」

 

 なんでしょう、この胸がザワザワする変な感じは。それに、首の後ろがチリチリと灼ける様な覚えのない感覚もありますわ。気になりますけど、無理をして三人に心配は掛けたくないですわ。とはいえ、この感覚がこの身体が感じている虫の知らせというものだったら……。

 

「……いえ、迷うなんて(わたくし)らしくありませんでしたわね。倒れたらその時はその時ですわ」

 

 ホースの水が止まっているのを確認してから、(わたくし)はコハクの向かった方角と、ここを発ってからの時間から大凡(おおよそ)の位置を割り出す。あとは目印の看板を見つけるだけですわね。急いで追いかけましょうか。

 

「さあ、行きますわ!」

 

 

 

 思った通り、星ノ塔はそう遠くない場所にあった。

 

「とはいえ、あの目印の看板が無かったら迷ってたかもですわね」

 

 砂の上に残った真新しい足跡から、コハクたちも来てからそう時間が経っていないことを察する。砂漠を爆走した甲斐がありましたわね。それにしても、ハイヒールで砂の上走れるんですわね。また一つ知見を得ましたわ。

 塔に入ると、足跡は奥のエレベーターに続いていた。

 

「なんでしょう。ファンタジーの世界でエレベーターを見ると、こう背中がムズムズして叫びたくなる感じは」

 

 多分、誰からも理解を得られないんでしょうけど。

 

 エレベーターから降りると、星骸の屍が点々と奥に続いており、奥から銃撃音と金属音が聞こえてきていた。

 

「なんとか追いつけましたわ」

 

 音のする方へ向かい、陰からコッソリと部屋の中を覗く。

 

「おお……ですわ」

 

 そこには、激戦を繰り広げる三人の姿。奥には、強そうなロボットみたいな星骸もいますわ。あれが祈願箱を守ってる星骸ですわ?

 アヤメは氷の魔法で相手の動きを阻害しつつ、二人のフォローができる位置に。コハクとセイナはクロスを組んで、相手をかく乱しつつダメージを与えていきますわ。

 

「やはり無用な心配でしたわね」

 

 あの三人、普通に強いですわね?それとも、この世界ではアレくらいが普通なのですわ?

 野球観戦が如く、陰から応援していると巨大な星骸が動きを止める。

 

「おお?やりましたの?」

 

 そう思ったのも束の間、再び動き出した星骸はその攻撃をより熾烈にさせてアヤメたちを追い詰める。アヤメたちもマズいと思ったのか、撤退を選択したようですわ。

 

「良い判断ですわね。でしたら、(わたくし)もコッソリ来てるのがバレない内に戻って──」

 

『……待って、この祈願箱持って行けそうじゃない?』

 

『え……?』

 

『アヤメ、さすがにそんな余裕ない』

 

『だって!このチャンスを逃したら、こんな大きな祈願箱にはもう巡り会えないかもしれないじゃない!』

 

 いや、何言ってるんですの?普通に『さくせん、いのちをだいじに』で良いではないですの?

 

『アヤメ!これで怪我でもしたら、流石にサテラに申し訳が立たないよ!?』

 

 そうですわセイナ!もっと言ってやれですわ!

 

『大丈夫!!この大きな祈願箱でチャラだから!!』

 

『何が!?』

 

 ダメですわ!お金が絡んだアヤメは(わたくし)よりも聞く耳持ちませんわ!

 

『とりあえず、どっちにするにしても早くしてっ……!これ以上は抑えられないっ……!!』

 

『ほら!セイナそっち持って!!』

 

『え、えぇ~!?』

 

『私たちの幸せな未来の為に逃げるのよー!!』

 

 コハクとセイナの引き具合からして、普通の思考じゃありませんわよね。アヤメ……一番の常識人だと思っておりましたのに……。

 

 とりあえずこっちに走ってきてますし、(わたくし)もここから離れて──

 

「アヤメッ!!避けてッ!!」

 

「──え?」

 

 ここから離れようと、腰を浮かせた(わたくし)の瞳に映ったのは、巨大な星骸がその手をアヤメに向けて何かを発射しようとしていた。おそらくは、守る対象の祈願箱を持ち出そうとしたアヤメに一気にヘイトが向いたのでしょう。

 アヤメは祈願箱を持っていて両手が塞がっている。すぐには回避できない。コハクはもう一つの手に妨害されて、助けに行けない。セイナはアヤメと同じように祈願箱を持っているせいで剣を使えない。箱を降ろせば足の止まった瞬間をそのまま撃たれる。

 

──マズい、詰みですわ。

 

 そう思った瞬間、(わたくし)は腰の剣に手を添えて飛び出す。

 

 景色が流れる。一瞬にして、巨大な星骸の前に躍り出た(わたくし)は、鞘から抜き放った水晶の刀身を持つ剣を、今アヤメに向けて放たれようとしている巨大な手へと全力で突き出す──!!

 

(わたくし)の大切な友達に何をしようとしていますのッ──!!」

 

 (わたくし)の放った突きで弾かれた巨大な手は、ふっ飛んでその勢いのまま壁へと激突し、さらにはチャージしていたビームを本体に向けて撃ちだし、本体の体勢が崩れる。(わたくし)は手をふっ飛ばした反動のまま後ろへ飛び、アヤメたちの近くへふわりと着地する。

 

「サ──サテラっ!?どうしてここに!?」

 

「ゴホッゴホッ!話は後ですわ!それよりも早くここから撤退をっ!(わたくし)殿(しんがり)を務めますわ!!」

 

 マズいですわ。この体の強さは分かりましたけど、体の強さに(わたくし)自身が付いてこれてませんわ。急激な動きを認識できなくて、頭がクラクラしますわ。一般人が手にするには分不相応な力ですわね。

 

「で、でもサテラまた血が!?」

 

「この程度、問題ありませんわ」

 

 口の端から滲む血を腕で拭う。喉の奥から込み上げてくる熱を無視して、早く行くよう促す。

 

「アヤメ、今はサテラの言う通りだよ!あの星骸、まだやる気だから今のうちに逃げないと!」

 

「うぐぅ……」

 

「サテラ……」

 

「コハク、アヤメを守ってください」

 

「ん……」

 

「いい子ですわ」

 

「サ、サテラ!箱を置いたらすぐに助けに……!!」

 

 祈願箱を運び出し、部屋から出たのを見届けてから笑みを零す。

 

「……必要ありませんわ。だって──」

 

 コハクが離れてフリーになったもう片方の腕が、祈願箱を取り返そうとロケットを噴射し飛んでくる。

 視界がまたぐるっと回り、閃光が奔る。

 

「──(わたくし)最強(・・)ですから」

 

 幾十もの筋を刻まれ、墜ちる巨腕。

 

「……っ!ゴホッゴホッ!……はぁ……はぁ……早くこれに慣れないと、毎回血を吐く羽目になりそうですわね」

 

 両腕を失った星骸は、なおもアヤメたちを追おうとする。

 

「……余程、あの箱は持って行かれたくないと見ますわ。でも、(わたくし)を倒さずここを通れると思わないことですわッ!」

 

 剣を構え直すと、突撃してきた星骸に向けて振りかぶる。

 

 

 

「はぁ……はぁ……ここまで来れば追って来ないよね?」

 

「は、早くサテラを助けに行かないと!」

 

「ダメ、あたしたちが行ってもサテラの足を引っ張るだけ。……おそらく、サテラはあたしたちの誰よりも強い」

 

「強いとは思ってたけど、そんなにかぁ」

 

「だからって──「みんなー移動するの早いですわー」──ってサテラ!?」

 

 ようやく三人に追いつくと、アヤメは何故か驚いた顔でこっちを見ますわ。

 

「サ、サテラ生きてる?ちゃんと足ついてる?」

 

「いくら体が弱いとはいえ、死んでると思われるのは心外ですわ」

 

 病気で血を吐いた以外ダメージらしいダメージは無いですわ。しかも、なん病は死ぬ要素ないですし。只々死ぬほどしんどいだけですわ。一体どういう原理なのか、さっぱりわかりませんけど。

 

「あの大きな星骸は?」

 

「とりあえず動けなくなるまでボコボコにしときましたわ。しばらくは追って来れないですわ」

 

 思った以上にしつこかったですわ。ぷんぷん。

 

「サテラ、ごめんね。私が無茶しなかったら……」

 

「アヤメ、無事だから結果オーライですわ。それに(わたくし)、祈願箱にお願いとか一度してみたかったんですわ!」

 

「も、もう……!変なお願いしないでよね!」

 

(わたくし)信用無さすぎですわ……!?」

 

 一頻り体を休めた後、改めて祈願箱に集まる。

 

「これってイメージするだけで中身が出るんですわよね?」

 

「そう、これだけ大きな祈願箱ならどんな願い事でも叶えてくれるはず!」

 

 大きさで叶えられる願いの上限も変わるのですわね。

 

「それで、誰が願う?」

 

「うーん、塔を見つけたコハクの運に賭けてみる?」

 

「じゃあ、大きな星骸を食い止めたサテラに」

 

「たらい回しやめませんか?」

 

「じゃあ、四人で?」

 

 一つの箱につき、一人だけじゃないんですの?

 

「いいわね!四人分の記憶なら、質のいい神器が出るかもしれないわ!」

 

「よーし、じゃあ早速!」

 

「待って!私たちの願いは『高く売れる神器』で合わせるわよね?」

 

「うん、間違いない」

 

「よ、よぉし……行くわよ」

 

「全知全能の恩恵の神よ」

 

「願いを聞き届けたまえ」

 

 恩恵の神というのは、ノヴァ大陸で信仰されてる神らしいですわ。本当に全知全能かはさておき、願いを叶える箱なんてもの作れるくらいだから、すごい神なのですわね。

 

「どうか我らに──」

 

「売ったら億万長者になれる神器を!!」

 

「願い事し放題の神器を!」

 

「どんな敵でも倒せる神器を」

 

「安眠枕が欲しいですわー」

 

 あれ?

 

「え?」

 

「ちょ、ちょっと待って、今なんて?」

 

「え?願い事し放題の神器があれば、いつでもどこでも神器出し放題じゃない?」

 

「くっ……!その手がありましたか!」

 

「無い!サテラもなんで枕なの!?」

 

「だって、売れて尚且つ実用性のあるものがそれしか思い浮かばなかったんですもの」

 

「……」

 

 そんな微妙な顔をしないでくださいまし。照れちゃいますわ。

 

「コハクは」

 

「指名手配犯を捕まえまくれば、お金が入る」

 

「……やっぱり、同時は無理があったわね。仕方ない、ここは私が……」

 

 何かを呟いているアヤメの後ろで祈願箱が光ってますわ。

 

「あ!祈願箱が光ってるよ!もしかして、願いが通じたんじゃない!?」

 

「はぁ、まさかそんなわけ──ってホントに光ってる!?恩恵の神よ、どうか、どうか何卒(なにとぞ)!高く売れる神器を!!」

 

 祝詞(のりと)を随分簡略化しましたわね。察するに、取り出す物のイメージのほうが大事そうですわね。質がどうこうという話も、おそらくは物のイメージがふんわりしているせいで振れ幅が大きくなってそうですわね。

 

「あ、開きましたわ──って、え」

 

「どんな神器!?どんな神器!?」

 

「ちょっと!私も見ーたーい!……え、これって」

 

 開いた箱を覗き込むと、そこには箱いっぱいに敷き詰められた花と──その中で眠るように横たわっている少女だった。

 

「……」

 

「……」

 

 みんなも想定外だったのか、固まってしまっていますわ。かくいう(わたくし)もどうしたらいいのか……ん?その時、(わたくし)の脳裏に一月(ひとつき)前の記憶が呼び起こされる。

 

「アヤメ、まさか本当に人身売買を……?」

 

「ち、違うわよ!?」

 

「まさかの伏線回収」

 

「してない!!セイナ!笑ってるけど、人身売買って言ったのセイナだからね!?」

 

「あっはっはっは!!って、ええ!?私ぃ!?あ、あのときは冗談だって言ったじゃん!」

 

 後ろでじゃれてる二人はさておき、コハクと二人で箱を調べる。

 

「ぷにぷに、お人形?にしては精巧」

 

「神器らしきものも見当たりませんわね。やっぱりこの子が?」

 

 あるいは、この箱が祈願箱じゃなかった可能性もありますけど。

 改めて、箱の中の少女?を見る。……銀髪エルフ耳のロリ体型とか、一部の好事家が喜びそうですわね。

 

「──」

 

「あれ?今何か言いました?」

 

「え?あたしは何も……」

 

「──」

 

「!?」

 

「い、今」

 

「動きましたわね……」

 

 よく見ると、わずかに胸の膨らみが上下している。

 

「まさか、生きてますの?」

 

 口元が動き、何かを発しようとしている。

 

「あ!この子何か言ってますわ!」

 

 口元に耳を寄せてなんとか拾おうと試みる。

 

「──テラ」

 

「……」

 

「……ねえ、サテラ」

 

「……心当たりありませんわ」

 

 何か言いたげにこちらを見るコハクに、先んじて否定する。

 聞き間違いであって欲しかったのですが、コハクもそう聞こえたなら否定しようがないんですけど。

 

「一体どういうことですの……?」

 

 (わたくし)の呟きは、砂と共に風に乗って消えていったのですわ。

 

 




魔王ちゃん出るまで話を進めたら、普通に一万字超えた……。
プロローグで話膨らませすぎ。

書いた後にふと気になって調べてみたんですが、水晶の硬度は鉄より高いらしい。水晶は7で、鉄は5。ちなみにダイヤモンドは10。
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