味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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More見たので初投稿です。



期末テスト~合宿編
#26 アティヤンタム・アヒンサー


 

 

「先生」

 ひょこ、と職員室のドアから顔を覗かせた天成に、相澤は「非合理的」と言わんばかりの顔で返した。

「……また変なこと考えてるな、天成」

「新しい個性の使い方を思いつきました。少々確認をお願いしてもいいですか」

「思ったよりまともな事だったな。俺じゃなくてもいいだろ」

「先生じゃないといけません。抹消がないと最悪、命に関わりますので」

 

 ──最悪死ぬ。唐突に降ってきた明確な自傷行為に、相澤は眉間に皺を刻み、天成を睨んだ。

「帰れ。除籍するぞ」

「謹んでお断りします」

「そうか。今日中に荷物を纏めておけ」

「いや待ってください先生。死にたい訳じゃなくて、生きるためにやる事なんですよ」

「自殺がか?」

「自殺じゃないですってほんとに。先生が〝抹消〟してくれないと困ります」

 

 〝抹消〟が必要なほどの事案──要するに、身の危険がある物質を投与するということ。何のために? 彼は「生きるため」と言ったが、やろうとしている事は死に近づく内容であり、責任が取れる事象ではない。

 思ったよりはまともだったが、投与する内容はまともどころか、異常だ。

 

「学校が責任取らなくていいように書類も作ってきたんです。……印鑑、押してくれませんか? やることもそこに書いてあります」

 ひらひらと振られている二枚の書類を受け取って、相澤は目を落とした。個性の使い方、処置の方法、それから「この練習で天成あまりがどのような状態になっても、雄英高校は責任を取らない」という一文。捺印がされた四角の欄は、あと二つある。

 

「……なんでそこまでする必要がある」

「そのうち必要になるからですよ。こういうの、いるでしょう?」

「リカバリーガールも呼んでくる。その為に用意したな」

「バレましたか。身体の状態、モニターしてて欲しいんですよね」

 

 具体的な手順です、と天成は別の紙を渡してきた。成分はこうで、理想はここからここまで。ここを下回ったら回復措置。段階的に下げていき、今日はここまで、二日後はここ、と二日ごとの度合いが書かれている。

 医療に明るくない自分でも分かっている。本当に、自殺行為なのだと。

 

「……何に必要だ」

「生き残るのに」

「校長に報告する。話はそれからだ」

 

 ──生き残るのに。天成は一切の嘘なく、そう返して見せた。むしろ怖かった。「生きるために死ぬ」と言わんばかりの発言と文言が、もし事故を起こした時にどう影響を与えるのか分かっちゃいない。

「今日は無理だ。教室行け」

「分かりました」

 てっきり意地を張るのかと思っていたが。天成はあっさりと受け入れて、じゃあまた後でと出ていく。

 頭も胃も痛い。何でまたこいつは、こう面倒なことばかり……。改めて文書を確認して、天成がしようとしていることに寒気を覚えた。

 

 そして放課後。緊急で開かれた会議で許可が降りたことにより、相澤の胃には大穴が空くことになる。

 

 

 

 

「おはよ──……」

 教室に入った瞬間、沈黙が痛いほどに感じられた。

「う?」

 ああ、そうか。職場体験明けだ。ステインの話から負傷の話まで、皆はいろいろ聞いてるんだろう。そりゃ静かにもなる。 慌てたようななんとも言えない、やや裏返った声で返したのは上鳴だ。

 

「ばーちゃん遅かったな! いつもなら十分前くらいに来てるのに。寝坊したのか?」

「いいや、少々用事があってな。先日、かなりの負傷があったと聞いた。飯田、具合はどうだ」

「心配をかけてすまない、天成君! 日常生活に支障はないから安心してくれ!」

「そうか。何かあれば言うのだぞ」

 

 相変わらずかっちりした動きで応じる飯田に、俺は微笑んだ。できてるはず。この前切島の前でうっかり出してしまったけど、あれは気が緩んでた……というか、しばらく雄英の誰とも接さなかったせいで忘れてしまったんだろう。

「さあ、そろそろ始業だ! 全員席に着きたまえ!」

 あー、そっか。ステインの話とかいろいろあるんだっけ。あんまり覚えてないけど……それでみんなシリアスな状態だったんだ。

 

 次の授業の教科書だけ引き抜いて、席に座る。相澤先生はごく一瞬こっちを見たけど、すぐに視線を外して口を開いた。

 

 

 

 三限。ヒーロー基礎学は職場体験明けってこともあって比較的自由な救出レース。……うわ。機動力が終わってる俺からすればしんどい。泣き言言ってる場合じゃないけど。少しだけ体内でアドレナリンの作用を強めながら走る。現場に着くまでがあまりに遅い。どうやっても、俺の個性は回復や嫌がらせは出来たって一般人の範疇は越えられない。運よく五位に滑り込んだけど、これは同じように移動系の個性を持っていない耳郎ちゃんと切島が入っている状態だったからだ。

 二人に比べて、その個性の性質上致命的だ。いち早くポジションについて、敵味方どちらにも射線を通せるところにいなければならない。バイターが言うところの〝傲慢〟かもしれないが、俺の能力は他の戦闘系個性に比べて〝最速でたどり着く〟必要がある。間に合わない場合が重すぎる。

 

「どっと疲れたぁ~……」

「そうだな。一週間ぶりなのも相まってか、なかなかハードだった」

「俺は機動力課題だなぁ……」

「情報収集で補うしかないな」

 

 めいめいに話しながら着替えていく。情報収集よりも物理的な速度の方が、市街地では基本的に勝ってしまう。正直言って、それに関しては捕縛布とかで補えたらよかったって悔しがることしかできない。いやまあ捕縛布ってだいぶ重いし、今の装備の携行量だとデフォルトで二十キロを余裕で超えてしまうに違いない。

 特殊合金とかあれこれ使った繊維なんでしょ? たしか。絶対重い。あの長さならなおさら重いだろう。

 結論:俺の手に負えない。

 

「峰田君やめたまえ! 覗きは立派な犯罪行為だ!」

「オイラのリトル峰田はもう立派なバンザイ行為なんだよ!!」

 こっちも手に負えない。

 

 やんややんやと飛び交う言葉に吹き出しそうになりながら、スラックスに足を通した。男子高校生ってアホなんだよ、って誰かも言ってたし、そういうものなんだろう。

 ヤオモモちゃんとか葉隠ちゃんとか芦戸ちゃんとか梅雨ちゃんとか。クラスの女性陣の好みの部位について発しながら、一センチちょい空いた穴を峰田が覗き込んで。

 ブスリと音が聞こえそうな勢いでイヤホンジャック──個性の方の──が峰田の片目にめり込んだ。

「ぶはっ」

 思わず吹き出してしまった。絵面が面白いのもそうだが、さっき峰田は耳郎ちゃんについては何も言ってなかったし。彼女みたいな子は好みじゃないんだろうか。だいぶかわいいと思うんだけど。さては胸しか見てな──まずい俺が殺される。

 

「珍しいな、天成がそのような笑い方をするとは」

「──ッ……失礼。思わず、な。男子高校生とはこのようなものだと、聞いていたものだから。特に峰田はその色が強いようだが」

「確かに。雄英ってかどこもヒーロー科ならこんなノリのところ少ないだろ。中学の時はまぁ……」

 

 常闇の言葉に一瞬焦りが滲んだがセーフだ。瀬呂の返答はもっとも。ヒーローになるべく来ている人間がそれじゃ秩序を保つことなんて到底できない。

「なんだ。中学時代に覗いたことがあるのか?」

「してねーよ! 多少興味本位で考えることもあるだろって話!」

 慌てたように返すのを畳みかけてやる。

「風に煽られて捲れるスカート、シャツの下から透ける下着、汗で張り付いた髪。……そんなところか?」

「はぁ!? 何だと思ってるんだよ、俺はそういうのじゃなくて冬の黒ストッキングとかよ──あ」

 しん、と更衣室が静まった。どうやら瀬呂の〝ヘキ〟はストッキングらしい。

 

「……瀬呂、墓穴掘ってるぞ」

「うわあああ!!!」

「何デニールが好みだ!? オイラは80くらいが好みだぜ!」

「お前と一緒にすんな!」

「いやお前そこはうっすら肌の色が見えるくらいだろ?」

「何言ってんのコイツ……!?」

 

 変な掘り方をしたら余計に騒がしくなった。ジャケットを携帯用ブラシでなぞって袖を通していると、かかったのは上鳴の声で。

「ばーちゃんって耳郎好きなんだっけ?」

「…………は?」

 予想外の方向から飛んできた。俺がなんだって? 耳郎ちゃんが好き? なんで突然。

「体育祭明けに話してただろ。「猫っぽい子が好みだ」って。耳郎のこと出したら「そうかもしれない」って言ったの忘れたのかよ」

 

 体育祭明けは、職場体験一日目までずっと眠かった。言ったかもしれないし言ってないかもしれない。

「記憶にない」

 事実だ。

「逃げんのかよばーちゃん! 瀬呂のこと煽っといてそれはずりーぞ」

「瀬呂が勝手に自滅しただけの事だろう。私は問うただけさ」

「え、天成そんなこと言ってたのかよ! 確かに天成って耳郎の事好きそうだもんなー」

 面白い物を見つけた、そして仕返しとばかりに瀬呂の視線がこちらを向いた。くそ。俺はほんとのこと言っただけなのに。勘弁してくれ、ほんとマジで。なので。

「すまないが、先約があるので失礼する」

 逃げる。

「天成お前ぇ!!」

「逃げんなよ──って速!?」

 

 先約があるのは本当。覚えてないのも本当。何も嘘はついていないし、後ろめたいことなんて皆無。耳郎ちゃんはかわいい、それは事実だけど、恋愛的な好意は別のはずだ。

 それと……さっきの授業で言われたのが、引っかかっているのが大きいかもしれない。

「職場体験……なんかあった?」

 授業最初の救助レースが終わった後にかけられた言葉は、俺の心臓を縮み上がらせた。俺は「大なり小なり、皆得た物があったんじゃないか」って感じの当たり障りのない返答をしたけど。

 ミスティやバイターとの出会いだったり、そこで気付いたものだったり。個人的には、大きく前に進めた気がする。でも、それだけじゃなくもっと、深いところについてだと思う。

 

 コスチュームを教室の棚に収納して、ロッカーに入れている弁当箱を取り出す。基本的に食堂派だけど、今日は別だ。毎週水曜日は心操と一緒に昼を取ることを約束してるから。体育祭明け、ようやく連絡先を交換したときにそうした。水曜日は昨日でも、お互い話したいことがあったのだ。どちらともなく、今日は一緒に昼休みを過ごすことを誘った。

 外に繋がる通用口の向こうで、心操はビニール袋を持ってスマホを見ていた。軽く肩を叩いて、口を開く。

「やっぽー心操。お待たせぇい」

「天成。いや、待ってないけど」

「四限終わってから結構経つよな? 授業長引いた?」

「そう。ちょうどさっき来た」

 二人で外のベンチに座って、めいめいの昼食を取り出す。心操は珍しくサラダのパックを開いてドレッシングを突っ込むという丁寧な生活ならぬ雑な生活をしていて、思わず視線が向いてしまう。

 

「……実はさ、」

 そこからの話は、いつか来るだろうと思っていた内容だった。相澤先生に声を掛けられて、転科についての話になって。合理性を重んじる相澤先生らしい、俺が職場体験に行った当日の放課後に呼び出されたとのこと。どうして言ってくれなかったんだとかは聞かない。心操の事だから、職場体験に集中して欲しいと気を使ってくれたんだろう。

 職場体験について聞きたいって言われたから、当日の事からいろいろ話して。ヴィランの捕縛作戦に参加したってのは言ったけど、体調が突然おかしくなったことは口にしない。また心配かけるし、一過性のものだろうから。

 

「そっか。サイン……よかったな」

「変な感じだった。むず痒くて」

「でもお前、これからそういうの増えてくだろ。サインとかちゃんと考えてたんだな」

「えー……いや……その……」

 考えてませんでした。だから筆記体にちょっと自分しか分からない癖付けたものです。そう、白状した俺に心操は「そんなもんだろ」とちょっとだけ笑ってくれた。

 

「むしろそこまで考えてたって言われたら意外だったかもしれない。言い方悪いけど、お前ってヒーローになりたいけどそういう……なんて言うんだろうな。実利に寄ってるっていうのが正しいのかわからねぇけど。そういうイメージある」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ心操くんはぁ。俺そういうのあんまり考えたことないのよ」

 単純にそこまで思い至らなかった。自分のサポートアイテムは事前に細かい調整してもらうくらいだったのに。

 あの時あったセイくんにはちょっとだけ申し訳なかった。ほとんど即興に近いサインだったから。あそこから少し弄って完成形にするつもりだけど、ちょっと変わってしまうのを許してほしい。

 

「それはそうと心操。練習メニュー相澤先生からもらったりしてる? 体育祭でちょっと話したじゃん。トレーニング一緒にやろうって」

「ああ、もらった。……悪い、お前が協力してくれるって言ってくれてたのに」

「じゃあお詫びに腹筋背筋一日千回そこに追加しましょうね~」

「殺す気か?」

 俺はわざと、弁当の鶏肉を口に放り込んで咀嚼した。心操の表情が若干引きつっているのを横目にしながら、ゆっくりと嚥下した後にニンマリ笑ってやる。

 

「それは冗談。で、俺もトレーニングルーム行くからさ。そのメニュー一緒やろうぜ」

「意図的に怖がらせといて言うことがそれかよ……」

「心操は面白いねぇあっごめんってアイアンクローは効く!! ギブギブ!」

 頭蓋骨がミシミシ言ってる。ぎゃーぎゃー騒いでいると心操の手が離れて、また食事を再開した。

「でも、それでいいのか? はっきり言われたから話すけど、俺は多分ヒーロー科の連中と比べたら下一桁に入るくらいの身体能力しかない。体力は多少あるけどそれだけで、負荷足りないんじゃないか。付き合ってくれるのはありがたいけど」

「そうねぇ、確かに足りないかも? でもほら、モチベ上がるし? メニューが被んないところもあるだろうけど、俺としては一緒にできるメニューあるだけでハッピーなのよねぇ」

 

 なるほど、と納得する心操。よし、これから毎日ひーひー言ってるところを見せてもらおう。俺はどうなんだって? ひーひーは言わない程度に抑えるけど、家帰ってやることやったら綺麗に寝られるくらいにはやる。

 過負荷、ダメ。絶対。

「まあ、これから個性の新しい使い方試そうとしてるから、ごめん。許可取れたらそっちもあるし毎日は無理だけど……」

 先生に渡した文書の通りにやっても、その日はその内容だけでグロッキーになってしまうのが容易に想像がつく。

「それで怒る奴がいるかよ。どんな使い方か聞いてもいいか?」

「ウーン、実装までのお楽しみかな。気長に待っててくれると天成くんは助かります」

「なんだその言い方」

 

 事実、内容を口にしたら心操にも怒られるし、止められる自信がある。合理性で編み出したとはいえ、命の危険を侵す内容だから。

 

 





三十分って言う短い時間で好きなキャラが出てきたら幸せになるのは当たり前だよなぁ!?

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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