味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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ゴールデンウイーク明けてオーバーウォッチやったらクソ雑魚になっていたので投稿します。


#27 ペンティメント・コノテーション

 

 

 

 ──致命的に、噛み砕き方が歪んでいる。

 校長室から出て、相澤が真っ先に抱いたのはそれだった。

 自分が生きるために命を使え。お前が死んだら誰が撃つ。生きてるうちはまだやれることがある。そう、言葉をかけたのは自分だ。叱責でも脅しでもなく、役割を突きつけただけの言葉が、こんな風に受け取られるとは予想だにしていなかったのだ。

 聞き分けがいいとか、感銘を受けたとか、そんなかわいいものじゃない。受け取って、理解して、ならば自分が撃ち続けられるために何が必要かまでを考えた。人の言葉を糧にして前に進むのも、自分を更新していけるのも人としては美徳であり──今回は、致命的では済まないほどの欠陥を有したアップデートだ。

 それでも、許可が下りなければ天成は裏で()()をやるという確信があった。そうなれば、自分とリカバリーガールがいれば防げたかもしれない事故が発生してしまうことになる。

 

 今回天成が持ってきた動機は、けして焦燥や恐怖ではない。合理だ。生存の確率を上げるために、自らの命をリソースとして再定義する狂気。それを選択肢としてテーブルに乗せてくる時点で天成はヒーローの道を分岐ではなく、レイヤーで違えている。

 覚悟でも犠牲でもなく、ただ〝生きる為〟の手段としてそろえる為の準備。だから迷わず、説得力を感じさせる。

「……胃が痛いな」

 そろそろストレスで白髪が生えるのではないかと思えてくる。天成はこのレベルでの負荷を相澤にかけている自覚はあるのだろうか、いやある。自覚はあってもやめないのが非常に問題なだけで。

 

 相澤消太は合理性を重んじる。自他ともに認めるものだ。その合理性で殴られてしまっては黙り込むべきだろうが、教師としては黙っているわけにはいかない。だから校長とリカバリーガールに話を上げた。書類も会議も挟まず、担任の権限で切り捨てられるにも関わらず、だ。

 自己犠牲精神は恐らく、抜けつつある。抜けた場所に収まったのが合理性の皮を被った自傷だとすれば、それは相澤の最も嫌うものの一つであり。

 同時に、自分がそうしたのだという冷たい声がかかった。

 

 吐き気を催しながらも翌日、相澤は複数枚の書類が折りたたまれた封筒を渡した。

「天成。申請が下りた。予定は後で聞かせろ」

 ホームルームの後。それだけを告げると、天成は笑顔になるでもなくただ礼を告げてきて──その言葉にある合理的狂気に背筋が凍りそうだった。

 

 

 

 

「──ッ、は、は……」

 目の前がくらりと歪んで、思わず地面に手をついた。これヤバい。マジで。生きるためにやるとかいろいろ先生に言ったし、事実それは何も間違ってないけど。生成するものもその分量も、投入のタイミングも何もかも難しすぎる。バイオティック・ブーストがかわいく見えるほどのレベル。

「今日はここまでだ。分かったな」

 先生の言葉に何か返すほどの気力もなく、俺は頷いた。

 

「回復措置は問題ないだろうが、帰るだけにしろ。重ね重ねだが、トレーニングも()()もやるな。分かったな」

「わかって、ます。……ありがとう、ございました」

 かすれた声で絞り出した言葉は、届いていたのだろうか。分からないが、先生はそれだけ告げて保健室から出て行ってしまった。

 リカバリーガールが俺の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫かい。しばらく休んでいくんだよ」

「……はい。ちょっと疲れますけど、それ以上にこれを伸ばしたくて。先生たちじゃないと、止められないんです。これ」

 

 呆れたように、リカバリーガールは溜息を吐いて。

「まったく、始めに書類を見た時は質の悪い冗談だと思ったよ、あんた。まさか、生きながら死ぬことを練習するなんて。人生で初めてだよ、こんな生徒」

「ご迷惑おかけします」

「思ってるんならやめてほしいんだけどね。でもここでやらなかったら隠れてやるんだって言ってたよ、もうちょっと考えて馬鹿やって欲しいもんさ……」

 

 

 

 

「ほら心操キリキリ走れぇい~!! やっぱ走んないで! 自分のペース保って! 無理したら色々壊れるから!」

「く、そ、お前……言わせて、おけば……!! うるせえ……っ」

「睨む余裕あるなら一キロ追加! まあしないけどねぇ人使くん、あと一キロだ頑張ろうぜ!」

 心操はサイクリングが趣味らしく、体力自体は中々あった。膂力はともかく毎日の走り込みは全然問題なさそうで、七キロ走るのにかかる時間はだいたい三十分くらい。何だよ運動できるじゃねぇか! 多少の体力って意味を知れ! いやヒーロー科だとこれ余裕で超えてくるバケモンばっかりだから普通なんだろうか。

 

 残り一キロを完走したあと、ゆっくりと速度を落とした心操を置いて残り三キロ。ぴったり十キロ走った後に俺は心操のところに戻って座り込む。

「……お前、重しつけてんだよな?」

「着けてるよん。手足と胴体に合計十五キロ。コスと銃諸々含めた時と同じくらいかね?」

「いや、俺に疑問形で返されても……。何でそれで余裕なんだよ、お前……」

「必死こいて練習してきたから?」

「言うと思ったよ……。そうだろうな、お前はそういう人間だってこの一か月で思い知った」

 

 四肢に大体二キロ、残りの七キロは服の上から着用することで合計十五キロ。ヒロスと同じくらいの重量を持って走るくらいは出来るようにならないと、そう思って毎日──とは言わないけど、実技がない日には十キロ、ある日には半分の五キロは走っている。それ以上の負荷をかけない理由なんて身体を壊さないようにって一点だけで、行けるなら十五キロ走りたいところだ。器具使ったトレーニングもやるししょうがないけど。

 あー、組手の練習できる奴がいればいいんだけど。そっちに長けてるのが尾白しかいないんだよな、その尾白は予定取り付けられなくて。悔しい。

 

「そりゃそうと五キロじゃなくて七キロから始めてもよかったんじゃないの心操。そんなに自信なかった?」

 見てる感じ、五キロは多少疲労が濃くても余裕……とは言わないけど問題なさそうだった。いや咎める訳じゃないんだけど。

「自信がどうとかじゃなくて、段階踏んでこうと思っただけだよ。俺はお前みたいに合理性の無謀じゃない」

 なんと。心外が過ぎる。

 

「うっふ〜ん♡ 合理性の獣よぉ〜ん♡ 無謀とか言わないでぇ~ん♡」

「それ本当にキモいからやめろ天成鳥肌が立つ」

「わかった。二度とやらない」

「急にまともになるのもやめろ」

 裏声で返すと、心の底から嫌そうに言われた。最近ネットで流行ってる構文なんだけどな。心操はSNSとかやらないんだろうか。

「そういや心操ってSNSとか見ないの? やってるイメージあるけど」

「たまになら。動物見てる」

「へー。何好き? 猛禽類好きそう」

「嫌いじゃない。でも猫」

「猫かぁ、確かに好きそうねぇ」

 

 何となく梟とか好きそうな気がしたんだけどな。気のせいか。薬液だけが入ってる薬莢で遊んでいると、心操から「それ、体育祭の時もしてたけど癖か?」と聞かれた。

「うーん、ルーチンだったんだけどねぇ~そうじゃなくなったみたいなのよ」

「と、言うと」

「体育祭までは、ルーチンだった。けどなんか、最近はしなくてもよくなってる」

 ルーチンが忘れてたのを自覚したのは、体育祭で切島と対戦した時だ。そこから坂を転げ落ちるみたいに精神の状態が悪くなって。職場体験ではしてないし、実技では全くしなくなっていた。

 戦闘のために切り替えるスイッチが、ずっと入ったままなのか切れたままなのか。今はまだ、判別がつかない。

 

「……変わった、ってことなのかな」

 少しだけ、怖かった。職場体験で得た物が影響してるんだろうけど、今まで積み上げてきたものが消えるような気がして。

 これと、自分を定義する言葉。中学に入るよりちょっと前かな。あんまり覚えてないけど、その辺りで始めてるはず。皆がいなくなった後は余計に強かったのも覚えていた。というか、あのあたりの記憶は実のところ曖昧だ。

「いいんじゃないか。それで苦しいなら戻せばいいし、苦しくないならそのままでもいいだろ」

 なんでもないように、心操はそう口にした。無責任な言い方じゃなく、ただ意見として。

 

「──心操」

 進捗どうですか(I〇SYS)。俺のせいで胃に穴が空いてそうな人が来た。

「相澤先生」

「負荷が高すぎたり、どこか痛かったりしないか。それから、天成が変なことをしていないか」

「ちょっと待ってくださいよ先生、それじゃ俺が問題児みたいな扱いじゃないですか」

「お前はあのクラスで誰よりも問題児だ」

「甚だ遺憾であります」

 

 心操がぎょっとした顔で俺と相澤先生を見ている。あ、そうか。心操は俺が先生とも()()なの知らないよな。三人だけで〝俺〟出していいところで会ったことないもんな。

 案じるような表情のあと、「大丈夫です」と心操は答えた。

「ただ……全身に合計十五キロの重しつけて走るのは普通ですか」

「は!? おいちょっと、」

「天成」

 またか、と言わんばかりの視線が降ってくる。またです……。

 

「誰だ?」

「ヘッ!?」

「それを作ったのは誰だ」

 なんの事かと思ったら重しの製作者のことか。

「……さ、サポート科の発目明です……」

 先週かな。発目ちゃんの方から教室にほぼ襲撃みたいな現れ方して連行されたし、多分「用事あるから小分けで」って言わなかったら発目ちゃんそのまま三時間くらいぶっ通しで来てただろ。来ました。

 

 そこでまあサポートアイテムの話がとんでもないボリュームでやれた訳で。原作での熱量も半端じゃなかったけど。体育祭とかデクくんに渡したあれとかもそうだしね。論文かってくらいの量話したんじゃないか。

 流石に時間がヤバそうだったから、そこからは通話とかメッセージで。向こうから返ってくる分量がありえないくらい多くて、サポートアイテム版緑谷出久すぎる。まさか俺と連絡先交換するほど気になってるとは考えてなかったけど、そうだよね。確か寝食忘れるくらいやってるんだっけ? あんまり覚えてない……。

「すいませんでした許してください何でも許してください」

 多分怒られる。怒られることしてる自信あるから、とりあえず謝罪するしかない。緩いプリンみたいになりながら先生に土下座した。

「……勘違いされるような絵面だ。やめろ」

 え、そっち?

 

「確かに連日やってることに加えたら多少負荷があるかもしれんが、怒るようなレベルじゃない。それだけならな」

「よかった……」

「だが、何でもは許さん。俺にはもういい、パワーローダーには許可取ったか」

「さすがに許可取ってますよ……一応。物好きみたいな反応されましたが」

「だろうな。十五キロってことは標準装備か」

「はい。それが何か……」

「……いや、何でもない。それより心操」

 

 話があるらしく追い出された、ってのは冗談で別のところに行くことにした。そりゃ俺ってただの練習相手だから助言とか無理だし。明日から地獄の追加爆撃を食らうと思うとちょっと笑えてきた。頑張ろうな心操、俺は明日先生とリカバリーガール巻き込んで練習やるけど。

 それにしても。

「思ったより習熟が早いな……」

 実装は入寮の後くらいだと踏んでたんだけど。若干予定を早めるのをすっっっっっっごい嫌そうな顔で許可してくれたし、このままだったら合宿よりも前に完成するんじゃないか? まあ完成したとしてもそこらで使うところないんだけど。

 プランクやりながらあれこれ考えてると、足音が近づいてきて。心操かと思って顔を上げたら、相澤先生だった。

 

「どうしました?」

「メニュー見せろ」

「はい?」

「トレーニングの内容を見せろ」

「待ってくださいね、出します」

 バックパックからスマホを引っ張り出して、画面を見せる。今日は土曜日だから、プランクとレッグレイズ、クランチと……あと、サイドベント。で、体幹トレーニング。一週間分まとめて見せたら、スクロールが終わったらしい先生が厳しい顔で一言。

 

「負荷落とせ」

 え、ちゃんと無理ない程度に組んだんだけどな。

「ヒーローとしての身体の作り方じゃない。全身の分割自体はいいが、お前の前提条件が最悪すぎる」

 

・10km走をおよそ15kgのウェイトつき

・週二回、個性使用の練習

・毎日弾丸を作るための個性使用

 

「これに加えてメモ通りのテキストでやってるってんなら、疲労骨折待ったなしだ。削れ」

「えぇ~……」

「前提として、今やってる奴が終わるまでは10km走るのは週に二回までにしろ。で、ただでさえあの練習で死にかけてるんだから翌日は完全回復日。夜の個性使用も含めてだ」

「うーん。ちゃんとしてると思うんですよね」

「それだけで済ませるならな」

 

 与圧がすごい。重い。っていうか、

「先生こんなのみんなにやってるんですか……」

 仕事量おかしくないか。過労死するべ。

「そんなわけないだろ。お前が合理的に潰れようとしてるからだ」

 俺としては理性で組んでるんだけどなぁ。確かに、他の人に相談したことはなかったけど、そこまで言われるようなレベルだったのか。

 

「今日はここまでにしろ。クール挟んで帰れ」

 

 

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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