白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


成り行きから田沼翼とデートの様な事をした早坂愛は、目撃した柏木渚から叩かれる。が、割り込んで愛を庇った四宮かぐやも叩かれてしまった。


064『田沼翼はどうにかしたい』

 

 

 

───放課後・生徒会室

 

 

柏木渚が引き起こした騒動で午後の授業を休まざるを得なかった四宮かぐや達は、土曜日に購入した楽器類が月曜日午前中に配達されていた為に、放課後までの時間は生徒会室上の秘密の部屋で楽器の組立や調整等に時間を使う事にした。

 

ドラムセットの組立などが終わった後、藤原千花が電子ピアノの試し演奏を行ったが、日頃から演奏していて小学生の頃は全国大会で優勝する実力は健在で、リサイタルの様な状態になっていた。

 

 

 

『藤原さん、素晴らしい演奏でした。』

 

『ホント、書記ちゃんはカッコイイ。』

 

 

パイプ椅子に座って演奏を聞いていた中でも、かぐやと近侍の早坂愛は手放しで褒める。

二人の今のミッションは、「藤原千花にゲームをさせてはならない」だった。

 

テーブルゲーム部製ハッピーライフゲーム・・・は、無いだろうが他のゲームを作ったからプレイしようと提案されていたので、得体の知れないゲームで心理的ダメージを受ける事は避けなければならない。

 

それ程、千花の発想はダメージが大きいゲームイベントを考える。

体験者のかぐやと、話を聞いていた愛は全力を上げて千花の気がゲームに向かない様にする。

 

 

 

『凄い・・・、

 

藤原さんって、こんなにピアノが上手かったんですね。

 

私なんか、全然ダメで・・・。

翼は、私のそんなところが・・・。』

 

『渚、絶対それは関係ないから。』

 

『だって・・・。』

 

 

落ち込む渚を幼馴染の四条眞妃が慰めるが、愛とかぐや(特に愛)は今の渚に既視感を強く覚える。

この状態になったら、慰めるよりトコトン落ち込ませたところに意中の相手から声を掛けさせる方が労力が少なくて済む。

為に、早く田沼翼達が来ないかなと思っている。しかしながら、優等生ズの五人は「サボり」というものを経験した事がなく、他の生徒達が授業を受けてる中、自分達だけ演奏を楽しんでる状況に背徳感を感じており、楽しんでいたりする。

 

 

 

『いや、久々で緊張しました。

ブランクあると感覚が鈍ってしまって。』

 

 

頭を掻きながら照れてそんな事を千花は言うが、三曲も休み無しで弾いているのにどの口が言うのだろうかと四人は思っている。

 

 

 

『じゃあ、次はアタシが弾いてみようかな〜。』

 

『じゃあ、代わりますね。』

 

 

千花と愛が交代して、愛の演奏が始まる。

千花ほどではないか淀みなく演奏できるのは、なかなかである。

先の一件で引け目を感じる渚は、愛の演奏で自分と愛の実力差を感じ落ち込みが激しくなる。

そんな渚を眞妃が必死に励ます様子を、千花とかぐやは冷めた目で見ていた。

他人の演奏で勝手に落ち込まないで欲しいと思う。

特にかぐやは、自滅しかかってるのだから放置しておけば自分に可能性が出てくるのに、いくら幼馴染でもほっとけない眞妃に理解と憐れみの視線を向ける。

 

曲は何時しか喫茶店で掛かってそうなジャズ調に変わり、心地よい空間が広がる。

早坂愛はなかなかに芸達者である。

 

 

 

『あの、千花さん?

こんな時にあれですが、相談があるのですが・・・。』

 

『なんですか?』

 

『実は・・・、』

 

 

本当は朝に白銀御行等に相談予定だった「和楽器がバンド演奏に合わせにくい」という問題をかぐやは千花に相談したが、千花が返した案は「和楽器を諦める」だった。

 

 

 

『会長は「バンド演奏」で枠を取ってましたから、「バンド」であれば問題ないはずです。

・・・選んだ歌なら和楽器は合わせやすいそうでしたけど、洋楽器で演奏される前提で作曲されてますからね。

ちなみに、何を合わせる予定だったんですか?』

 

『笛か三味線を。』

 

『ああぁ〜・・・。

音階ですか?』

 

『そう! そうなんです!!

私の持ってる笛や三味線では少しズレてしまうんです。

なかなか難しくて・・・。』

 

『・・・無理に合わせ様としても楽器に無理をさせる事になりますし、演者のかぐやさんも大変ですから、私は止めていいと思いますよ。』

 

『そうですか?

藤原さんに相談してよかったです。

後で、会長に報告します。

ごめんなさい、私が言い出した事なのに・・・。』

 

『そうですね、かぐやさんにしては珍しいですね。

まあ、こんな事もありますよ。』

 

 

一方、涙目になりながら愛の演奏を聞いている渚は眞妃の励ましも効果なく落ち込み続けている。

メンタルに左右され精神性は流石かぐやの友人であり、眞妃の幼馴染といったところだ。

 

 

 

『・・・やっぱり、私なんか・・・。

 

自分でも解ってる・・・、

 

私じゃ翼の力になれないって・・・、

 

足手まといにしかならないって・・・。』

 

『・・・はぁ~、そうね。

 

渚じゃ、翼君の邪魔にしかならないわね。』

 

『そうでしょ、眞妃だってそう思ってたんでしょ・・・。』

 

『渚、私は貴女の考えを肯定しただけよ?

私が本当にそう思ってると?』

 

『ち、ちがうの?・・・。』

 

『貴女、どっちなの?』

 

『自分でも解らない、分かんないよ・・・。』

 

『はぁ~。』

 

 

嘆きたいのはこっちの方だと言いたいが、そこは言葉を飲み込む。

そもそも論で言えば、あれだけベッタリだった翼が別行動で他の子とデートみたいな事をする事が信じられない思いだ。

 

 

 

───まさか、愛が言ったみたいに渚に飽きた?

 

 

 

『・・・人って、解んないものね・・・。』

 

 

一人、眞妃は遠い目をする。

やがて、愛の演奏が終わる。

 

 

『素晴らしいです、早坂さん!』

 

『いやぁ~、恥ずかしいし〜。』

 

 

千花が手放しで褒めて、愛が照れながら賛辞を受け取る。

内心、愛は満更でもなかったりする。

今まで、かぐやの影としてサポートに徹していた為に力の出しどころがなかったが、最近は試験にサッカーと実力を出せる事に充実感を覚えていた。

 

 

『さて、頃合いもいいですから、皆さん下に行きませんか?

ホームルームも終わる頃ですから。』

 

『そうね、色々ハッキリさせないとね。』

 

 

かぐやと眞妃が音頭を取って合意が取れた事で、五人は生徒会室に降りていく。

かぐやが慣例破りの出入口の鍵を解錠したタイミングでドアがノックされた。

 

 

 

『どうぞ、開いてますよ。』

 

『・・・失礼します。』

 

 

かぐやの声に合わせてドアが開かれ、所在無げに件の田沼翼が入室してくる。

 

 

 

『・・・翼。』

 

『・・・渚。』

 

 

テーブルの横で対面した二人は、翼は何か言いたそうな様子で、渚は期待を胸に翼の次の言葉を待つ。

 

このタイミングで白銀御行や石上優、伊井野ミコが入室してくる。

何故か龍珠桃と子安つばめも居たりする。

つばめは三年生、桃は二年C組の為、かぐや達が午後の授業を休んだ事情を知らない。

 

 

 

『四宮、大丈夫か?』

 

『ええ、大丈夫です。』

 

 

心底心配でたまらなかったと全身が訴えてる御行に、桃とつばめのニヤニヤが出始めた瞬間、室内に爆弾が炸裂した。

 

 

 

『・・・渚、俺たち、

 

・・・別れないか?』

 

『ぇ・・・。』

 

 

翼の発言に、場が凍る。

言われた言葉の意味が解らない。

いや、理解したくない渚は硬直してしまう。

 

自分が密かに臨んでいた展開なのに、息を呑んで身体を強張らせる

眞妃。

 

舌打ちしたげに顔を顰める愛。

 

神妙な面持ちで二人を見つめるかぐやと千花。

 

来たばかりで事態が飲み込めない御行達、五人。

 

時間さえ止まった様な静寂が、室内を覆う。

 

 

 

『・・・告白した時、受けて貰えるとは思ってなかった。

渚と付き合える様になって、毎日が楽しかったよ。

 

けど・・・、

 

渚に負担になってないか?

無理をさせてないか?

本当に、俺なんかで良いのか?

 

・・・そう考える様になった。』

 

『・・・そんな、私は・・・。』

 

『成績だって、俺と付き合い出してから下がり続けてるんだろう?』

 

『・・・。』

 

『・・・俺が頑張ればいいんだってやってきたけど、この前の試験も俺は点数が悪かった。

俺なんかと付き合い続けたら、渚までダメになる。

それだけじゃなくて、今日みたいに俺は渚をおかしくしてしまう。』

 

『・・・あれは・・・。』

 

『・・・別れよう、渚。』

 

『・・・いや・・・、絶対嫌!

 

何で一方的に決めるの!!?

 

私がいつ負担になってるなんて言った!!!?

 

翼が、勝手にそう思っただけじゃない!!!!

 

勝手に決め付けて、私に無断で勝手な結論出さないでよ!!!!!』

 

『じゃあ、今日の事はどう説明するだ!』

 

『・・・。』

 

『・・・渚が、俺のせいで早坂さんや四宮さんを叩くなんて、俺は望んでない・・・。

 

叩くなら俺を叩けよ!

 

渚は、いつもそうだ!!

勝手に怒って理由も言わず・・・、

言わなきゃ解る訳無いだろう!!!』

 

『わ、私がどれだけ我慢してるか!

翼は解かろうとしないじゃない!!』

 

『我慢はさせてないだろう!?』

 

『してるわよ!

成績が下がったのだって、翼の勉強見てるからでしょ!!

それだけじゃない!!!

私の身体の事とか考えずに求めてくるじゃない!!!!』

 

『だから、そういう事を言ってくれなきゃ解らないだろ!』

 

『言わせてくれた!?

大事な話をしようとしたら、いなくなるじゃない!!』

 

『俺の話は聞いてくれないじゃないか!?』

 

『もういい!

翼の身勝手にはうんざりだわ!!』

 

『ああ、だったら勝手にしろよ!』

 

『翼の、馬鹿!』

 

 

そう言い切ると、渚は泣きながら生徒会室を飛び出していく。

眞妃には聞きたくない事も飛び出したが、今いる面々の中で渚や翼と関わりが深いのは眞妃だけだ。

暗黙の了解で、眞妃が翼をたしなめる。

 

 

 

『・・・翼君、言い過ぎよ。

渚の気持ちも考えて。』

 

『眞妃ちゃんには、俺の気持ちは解らないよ。

 

こんな事になるなら、君に告白しとけば良かった・・・。』

 

 

瞬間、室内が凍る。

 

この状況で本心であっても言うべきでない発言に、周りは息を呑む。

 

刹那、眞妃の右手が翼の左頬を叩く。

叩かれた衝撃で呆けた顔を翼は眞妃に向ける。

翼を叩いた眞妃は、涙を流していた。

涙は止めどなく溢れ、眞妃の頬を濡らす。

 

 

 

『・・・。』

 

『・・・こんな時に、

 

・・・そんな事言われても、

 

ちっとも嬉しくない!

 

翼君の、馬鹿!!』

 

 

泣きながら眞妃は渚の後を追って生徒会室を走り去っていく。

居た堪れない空気の中、床にへたり込み四つん這いになった翼は、涙を流し嗚咽が漏れる。

 

御行は渚と翼の口論の途中に割って入ろうとしたが、つばめや桃に服を引っ張られたり手を広げられて制止されていた。

何より、かぐやや千花の目力のこもった視線で「動くな!」と機先を制されていた。しかし、男女の別れ話など御行には全くの未知領域の事柄の為に、この状況に動くべきだが何と切り出していいか解らない。

 

今室内にいる中で異性と経験があるのは、当の田沼翼以外は子安つばめと白銀かぐやしかいない。

だが、つばめは翼と面識がなく事情を全く知らない。

 

かぐやは、渚とは友人であり結婚後の渚と翼の事も知ってる為に動いた方がいいのだろうが、よくあるカップルの喧嘩とはいえ別れ話に発展して、それに眞妃まで絡んでしまった。

正直、今の翼にどう接したらいいのか解らない。

 

全員が立ち尽くす中で一人、石上優だけが動いた。

 

 

 

『・・・先輩、とりあえず座りませんか?』

 

 

泣き崩れてる翼に声を掛けると、腕を引いてソファに座らせる。

それから何を言うでもなく、翼が落ち着くまで横に座り続けた。

その間にかぐやは渚と眞妃に電話をしたが、二人とも出ない為に連絡がつかない。

仕方がないので愛と手分けして教室や下足箱まで見に行ったが、二人とも鞄や靴がない為に帰ってしまった様だった。

 

 

 

『かぐや様、お二人共に靴がありませんから帰宅された様です。

校内は部活の生徒以外は帰った様ですので、マスメディア部の二人も捕まりませんでした。

申し訳ありません。』

 

『ありがとう、愛。

壁新聞は、会長が私達の写真の一面は剥がしてくれたわ。

マスメディア部の部長にはさっき会えたから、「私と会長の写真抜きの紙面に差し替えなければ、解ってますよね?」とは言っといたから、新聞の一件はこれで終わりにします。』

 

『・・・いいんですか?』

 

『・・・諦めました。

号外は殆ど回収できないでしょうから。

それに、「外堀から埋めろ」と言いますからね。』

 

『確かに。

いい雰囲気は醸成されてますね。』

 

『ただ、恥ずかしいけど・・・。』

 

 

未来で結婚までしてるので抱擁シーン位はと思いはするが、それとこれとは別物で同級生達に騒がれればむず痒い恥ずかしさがある。

 

生徒会室に戻る道すがらそんな話をしていた二人だが、室内には泣いてる翼が、まだ居た。

 

正直、煩わしい存在だとかぐやと愛は思っていた。

特に愛は安直な別れ話は止める様に忠告していた為に、泣くぐらいなら言わなければいいだろうと思っていた。

他の面々もそう思っていたようで、つばめと桃とミコの姿は既に無かった。

優だけは寄り添う様に横に座り続け、無言でゲームをしてる。

真横でゲームをするのもどうかとは思うが・・・。

 

その二人を避ける(正確には翼一人を)様に御行は生徒会長席に、千花はその横に立ち外を見ていた。

 

 

 

『ああ、かぐやさん、どうでした!?』

 

 

千花は態とらしい発言とにこやかな笑顔で、「待ってました」と言わんばかりにかぐやと愛のカバンを持って出入口に向かってくる。

 

 

 

『ダメでした。

もう帰られたみたいで、会長に報告しますから待ってくださいね。』

 

 

そのまま鞄ごと外に出されそうな

勢いの千花を受け流しながら、足早に会長席に向かうかぐや。

 

 

 

『会長、やはりお二人共帰られたみたいです。』

 

『そうか、仕方ないな。

じゃ、俺達も帰るか。

石上、帰るぞ!』

 

 

御行も態とらしく大きな声で帰宅を促す。

それを受けて、少しは泣き止む気配になってきた翼は、優に付き添われながらヨロヨロと頼りなげに出入口に向かう。

 

 

 

『会長達は行ってください。』

 

『石上?』

 

『僕が先輩を送りますから、会長達は帰宅を。

それぞれ予定があるでしょ。

僕は大丈夫ですから。』

 

『ごめんなさい、お願いするわ。』

 

『・・・すまん。

では、また明日。』

 

『石上君、さようなら。』

 

『・・・。』

 

 

御行達とそんなやり取りの後、優は翼に付き添って帰っていった。

見送る四人は等しく石上優を見直してる。

中でも愛は、少しトキメキめいた感情を抱いた自分に戸惑いを覚えていた。

 

 

 

『・・・あの様子だと、明日から大変だな。』

 

『拗れるでしょうね。』

 

『・・・聞きづらいのだが、結局何が原因で四宮達は柏木に叩かれたんだ?

俺は叩かれたとしか知らないんだ。』

 

『・・・勘違い、ですね。』

 

『・・・勘違い?』

 

『私が、田沼さんと浮気したと柏木さんが激昂したんです。』

 

『なっ!?』

 

『完全に勘違いです。

愛さんが潔白なのは私が保証します。』

 

『・・・そうなのか。

四宮がいうなら確かだな。

しかし、だからといって・・・。』

 

『会長、男女にはよくある話です。

嫉妬心で愛情を測る人もいますから。』

 

『態と嫉妬させるのか・・・。』

 

『そういう人も居ますね。

なんにせよ、かぐやさんも早坂さんもとばっちりです。』

 

 

千花の発言を最後に四人の会話は途切れた。ただ、四人だけでなく

飛び出した渚以外の面々だけが気になっている事があった。

 

翼が眞妃に言った、

 

「こんな事になるなら、君に告白しとけば良かった・・・。」

 

というは発言は、本心だったのか?

 

と、いう一点が・・・。

 

 

 

 

 

───夜、かぐやの寝室

 

 

二十一時を回った頃にかぐやのスマホが鳴った。

 

 

 

『はい、もしもし?』

 

『───四宮か?

遅い時間に済まん。』

 

『いえ、別段。

どうされました?』

 

『───柏木と四条の話なんだがな、柏木の彼氏って「田沼翼」と言うのか?』

 

『・・・えっ?』

 

 

かぐやは思わず素が出てしまった。

正直、「そんな事の確認に電話してきたの?」と言いたくなる。

突然の電話に期待しただけに、かぐやの失望が大きい。

 

 

 

『───あ、いやぁ。

 

・・・以前の体育倉庫の件を覚えているか?』

 

『・・・ああ、あれですか。』

 

 

思いっきり投げやりな返事をしてしまう。

 

 

 

『───お、怒ってる?』

 

『いえ、別に。』

 

 

露骨に不機嫌が声色に出てしまう。

 

 

 

『───あの時なんだが、四条が悩んでいた事というのが、「翼」という相手の事だったんだ。』

 

『えっ?』

 

『───倉庫の中で四条が泣いていたと話したが、意中の相手が他の女の子と恋仲になって目の前でイチャつかれるのを見せつけられて、耐えられなくなったら体育倉庫で泣いていたそうなんだ。』

 

『・・・そう、だったんですか・・・。』

 

 

体育倉庫の件、今の今までかぐやは忘れていた。

かぐや自身、眞妃が翼を見つめて涙目になっているところを度々見かけ、自分同様に時折見かけていた愛や当の眞妃本人から当時の様子を聞いて、とんでもない状況をよく耐え抜けたものだと眞妃を尊敬したものだ。

 

 

 

『───それが、まさか柏木の彼氏だったとはな。』

 

『・・・会長はよく相談を受けてましたから、知ってたんじゃないのですか?』

 

『───柏木は知ってたが、田沼の方は名を聞いてなかった。

名乗られた記憶もない。

 

・・・そんな相手に、あんな事を言われた四条の気持ちを考えると、な。』

 

『正直、あれで済んだのは眞妃さんだからでしょうね。

私なら、あれじゃ済まない自信はあります。』

 

『───それは、と言いたいが、今回は四宮の意見に俺も賛成だ。

あれは、・・・あんまりだと思う。』

 

『・・・会長はどうお考えですか?』

 

『───正直、分からん。

四条を立てるか、柏木を立てるか、どちらでも誰かが不幸にはなる・・・。』

 

『・・・三人とも、なんて無理な話ですしね。』

 

『・・・うん?

 

どうしたんだ、圭ちゃん?

 

ああ、相手は四宮だ。

すまん、四宮。

妹が電話を代わりたがってるだが、いいか?』

 

『はい、いいですよ。』

 

『では、代わるな。』

 

『もしもし、四宮先輩?』

 

 

かぐやは将来、義妹になる圭から「先輩」と呼ばれる事に新鮮味を感じる。

そういえば、直接的な先輩後輩ではなく、そんなに話をする機会もなかった内に御行との交際が始まって、殆ど「先輩」と呼ばれなかったなと思い至る。

 

 

 

『ふふっ・・・。

はい、なんですか?』

 

『先輩、ハーモニカありがとうございます。

あれから毎日練習してます。』

 

『気に入って貰えたなら嬉しいです。

ごめんなさい、お店にあれしか置いてなくて。

圭さんには、もっと可愛いデザインの物を贈ればよかったかと思ってまして・・・。』

 

『そんな!

友達にも、似合ってるって羨ましがられてますから。

先輩、ありがとうございます。』

 

 

女二人の長話に秋の夜は更けていく。

 

 

 

翌日、柏木渚と田沼翼と四条眞妃の三人、そして、四宮かぐやと早坂愛の二人の計五人は学校を休む事になった。

 

だが、前者三人と後者二人は休んだ理由が異なる。

 

早坂愛の母親で、四宮かぐやの乳母を務めた早坂奈央が、銃撃された入院したのだ。

 

 

 

─────つづく

 

 

 

 

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