白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


銃撃を受けた四宮雲鷹と早坂奈央は入院する事になる。
二人の間に解決せず残り続けていた問題に、二人は対峙する事になる。


067『早坂愛は知られたくなかった』

 

 

 

───月曜・夜、かぐやの寝室

 

 

夜の休憩時間で、近侍の早坂愛と込み入った話をしていた四宮かぐやを、予想外の人物からの電話が呼び出す。

 

 

 

『はい、もしもし?』

 

『───かぐやか?』

 

『・・・お兄様。』

 

『───どうした?』

 

『いえ、初めてですね。

お兄様からお電話を頂くのは。』

 

『───嫌か?』

 

『いえ、嬉しくて。』

 

 

予想外な返答に四宮雲鷹はむず痒い恥ずかしさを覚える。

こんな感情はいつ以来だろう・・・。

 

 

 

『───・・・変わった奴だな。

まあ、いい。

親父の事を伝えておこうと思ってな。

問題なく病院に居る。

何故か、藤原の爺も居るがな。

それから、早坂も入院した。』

 

『早坂・・・、奈央さんですか!?』

 

『えっ!?』

 

 

四宮雲鷹からの電話を受けた時、いつもの様に近侍の早坂愛はかぐやの寝室で話し相手を務めながら夜の休息を取っていた為、かぐやの言葉に反応してしまった。

 

仕事関係の話など、最近は母親の早坂奈央と愛はよく話をしているが、入院するとは聞いてなかったのだ。

 

反射的に腰を浮かして前のめりに聞こうとするのを、かぐやが小さく手を上げて制して、電話を続ける。

 

 

 

『何処か、悪いところが見つかったんですか?

何か、症状が出てるんですか!?』

 

『───・・・話は終いまで聞け。

定期検診の入院だ。

時間が取れなくて受けてなかったそうだ。』

 

 

雲鷹はかぐやに余計な事を考えさせない為に、銃撃での負傷は伏せて話す。

この時、愛は自分のスマホから奈央に連絡を試みていたが、手術が終わって間がなく病室に移ったばかりの奈央の手元にスマホはなく、愛からの電話・メール等にも返事ができない状態だった。

 

 

 

『───問題はないから、心配はするな。

要件はそれだけだ。

・・・そうだな、少し長引きそうだから、見舞いに来るなら話を通す。』

 

『はい、是非に。

どちらの病院ですか?』

 

『わかった、伝えておく。

病院は田沼の所だ。

別館の警備室から入れ。』

 

『ありがとうございます。』

 

『それだけだ。』

 

 

この時、父親の四宮雁庵の事はかぐやは完全に失念しており、母代わりだった早坂奈央の事で頭は一杯になっていた。

 

 

 

『ママは、どうしたんですか!?』

 

『・・・受けてなかった定期検診を受けて、検査入院したみたいね。

田沼先生の病院だわ。』

 

『・・・そう、・・・ですか。』

 

『愛・・・。

 

・・・明日、お見舞いに行かない?』

 

『解りました、車の手配をします。』

 

『お願いね。

朝から行けば、面会時間に向こうに着くわ。

会長や藤原さん達にも連絡しとかないと。』

 

『・・・えっ?』

 

『どうかしたの?』

 

『いえ、・・・聞き間違いでなければ、朝からとおっしゃいました?』

 

『そうよ、朝からよ。』

 

『・・・いや、でも。』

 

『一日ぐらい休んでもいいじゃない。

奉心祭前だから、授業内容も一日ぐらいは直ぐ取り戻せるし。』

 

『・・・いや、でも。

いいんですか?』

 

『・・・気になるのよ。

確かに、お父様の・・・。

そうか、お父様も入院したんだったわね。

あの奈央さんが検査とはいえ入院したのは、どうにも引っ掛かるのよ。』

 

『まあ、たしかに。

(かぐや様の中で、糞爺よりママの優先順位が上なのは嬉しいけど、いいのかな?)』

 

『それに、気分的に明日は休みたいのよ。

・・・眞妃さん、電話にも出てくれないし。』

 

『・・・かぐや様が良いのでしたら。

 

ありがとうございます。』

 

『えっ?』

 

『母の為に、お見舞いに行ってくださるなんて。』

 

『愛、奈央さんは私にとっても「ママ」なのよ?』

 

『・・・はい。』

 

 

かぐやの素直な表現に、嬉しくなってしまう愛だった。ただ、柏木渚と田沼翼の一件で慌ただしい中で届いていた通達、

 

 

───身辺警護を厳にせよ───

 

 

が、愛には引っ掛かっていた。

念の為、地下駐車場の様な遮蔽物の多い場所から出入り出来ないか調整しておこうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───翌朝

 

 

かぐや達は、いわゆるズル休みをして見舞いに向かった。

田沼医師の病院は午前と午後に面会時間が設けられていて、かぐや達二人は午前の面会時間に病院に入り、ベットに身を預けた奈緒の姿に息を呑む事になる。

 

 

 

『・・・奈央さん。』

 

『・・・何があったの、ママ?』

 

『おはようございます、かぐや様。

お見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません。』

 

 

努めて三人とも冷静を保っているが、かぐやと愛は奈央が負傷した姿は初めてであり、負傷する事が想像できなかった。

安静にと指示が出ている奈央は、処方された薬の影響で少し眠気を覚えていたところに、不意打ちの面会で娘が来て、かぐやまで来るとは思ってもみなかったのだ。

学校を休んでまで見舞いに来るなんてと、嬉しいが愛に説教をしようと考えていたが、かぐやまで居ては言えない。

そもそも論で考えれば、愛がかぐやの護衛を休んで面会に来る筈がなかった。

薬を飲んでいたとはいえ、頭が回らなかった自分を奈央は呪う。

負傷したとはいえ、迂闊すぎる。

奈央は目まぐるしく頭を回す。

 

 

 

『すいません、転んでしまいまして。』

 

『・・・ママ、「警護を厳にせよ」って通達が来てたよ。

これは、そういう事だよね?』

 

『そうなの、愛!?』

 

 

瞬時に二人は事態を理解する。

困惑の瞳が怒気を含んだものになり、雰囲気も冷徹なものに変わる。

そんな二人を見て、奈央は頼もしさと危うさを感じる。

まだまだ経験が足りないなと。

 

 

 

『二人とも落ち着きなさい!

負傷したのは私で、貴女達ではないのよ。』

 

『でも!』

 

『椅子は二つあるから、こちらに座りなさい。

かぐや様も。』

 

 

有無も言わせぬ迫力で、奈央は二人を椅子に座らせる。

 

 

 

『・・・大きな声を出して申し訳ありません。

落ち着くのは私の方ですね。』

 

『・・・そんな、・・・事ないよ。』

 

『・・・ごめんなさい、奈央さん。』

 

 

声を荒らげてしまったが、二人の様子から直ぐにでも飛び出していきそうな危うさがあった為に、奈央は二人を繋ぎ止める為に敢えて大きな声を出した。

二人が幼い頃に、奈央に反発して愛が家を飛び出した時の様に・・・。

 

 

 

『愛、かぐや。

私を心配してくれるのは嬉しいけど、私は貴方達の方が心配だわ。

今回の事は、私のミスです。

貴女達が気にする事ではないわ。』

 

 

あえて小さい頃の様に、奈央はかぐやを名前のみで呼ぶ。

小さい頃は「様」付けで呼ばれる事をかぐやは嫌がった。

家の中で、自分だけが除け者にされてる様に感じて嫌がったのだ。

愛と同じ様に名前で読んで欲しいと頼まれ、東京に移るまでの期間だけだったが奈央は名前だけで呼んでいた。

 

 

 

『・・・奈央さん、何があったんですか?』

 

 

当のかぐやは気が気ではない。

怪我をしたなど聞いた事の無かった奈央が、今はベットに横になり左腕を首から吊っている。

 

 

───自分のせいではないか?

 

 

タイムスリップした自分が、本来の歴史とは違う事をし過ぎたからこんな事態になったのではないか?

 

奈央の負傷は、自分の勝手のシワ寄せを受けた結果ではないか?

 

かぐやはそう感じていた。

 

奈央が話すべきか戸惑っていると、ドアがノックされて開けられる。

渋い顔をした四宮雲鷹が溜息をつきながら入ってくる。

 

 

 

『かぐや・・・。』

 

『お兄様。』

 

『学校を休んでくるとはお前らしくないな。

・・・まあ、都合がいい。

話がある。

見舞いは後にしろ、大事な話だ。』

 

『それならば、先に教えてください。

何故、お兄様も怪我をしてるのですか?』

 

『・・・目の良い奴だな。』

 

 

よく見れば、雲鷹の左肩あたりは右肩に比べて不自然な膨らみがある。

雲鷹を襲った銃弾は、左肩に近い頸肩部を掠める弾道を通った為に傷は浅かったものの、人目に付く箇所に負傷した為に怪我の処置をするとどうしても目立ってしまう。

短い時間だが、雲鷹は熟考する。

誤魔化しても直ぐに露見する。

どの道、今回の事でかぐやには言い渡さなければならない事がある。

 

 

 

『雲鷹、来たのか?』

 

 

出入口に佇んだままの雲鷹に声を掛ける者がいた。

雲鷹が廊下側に振り返ると同時に、出入口を開ける。

現れたのは二人の父親の雁庵だった。

 

 

 

『・・・入るぞ。』

 

 

そう告げると、ゆっくりとだが確かな足取りで奈央が体を預けているベットに近付いて、傍らまで歩みを進める。

既にかぐやと愛はイスを移動させて雁庵の道を開けると、居住まいを正して横に控える。

奈央も同じく、居住まいを正して雁庵に対す。

親子であるかぐやですら慣らされている、四宮家総帥という立場と慣習が皆をそうさせてしまう。

 

 

 

『ご当主様、お見苦しい姿をお見せします。』

 

『見苦しい訳がなかろう。

愚息を守ってくれたのだ、感謝しない。

ありがとう。』

 

『・・・勿体ないお言葉です。』

 

『かぐや、見ての通りだ。

雲鷹が襲われ、早坂が身代わりになった。

二人共、この世を去っていてもおかしくなかった。

暫く、京都には来るな。

道中を狙われる恐れがある。

外出も極力せず、身の安全を図ってくれ。』

 

『・・・解りました。』

 

『お前のが食べれんで残念だが、こらえてくれ。』

 

 

そういうと、雁庵はかぐやの頭を一撫でして奈央の病室を出て行こうとする。

雁庵を見送る四人の内、雲鷹と奈央の心中は複雑である。

雲鷹と奈央は、雁庵の強いた密告により袂を分かつ事になった。

 

雲鷹としては、今更奈央を認めるなら何故密告を止めさせなかったのかと詰問したかった。

当時の奈央の密告(報告)を受けていたのは、当の雁庵なのだ。

 

奈央も、今は雲鷹に許された様な形にはなっているが、密告(報告)していた事実は、彼の一番他人には知られたくない事をその信頼を裏切って密告(報告)し続けた事は、無かった事にはできない。

そして、恐らくは実娘の愛も同じ事を強いられているのだろう。

この仕組みから抜け出すには、娘は主人の元から去る事ぐらいしか道はない。

 

その愛は、信じられないものを見た様に感じている。

夏休みに、かぐやが本宅への緊急招集の為に藤原千花等との約束を反故にして駆け付けた時、『居たのか?』の一言を廊下から掛けただけで去ったあの雁庵が、自分の母親の奈央に労りと感謝の言葉を、かぐやには身の心配をして頭を撫でるなど信じられなかった。

 

これも、かぐやが本宅に押し掛けた効果なのだろう。

 

愛には、母親の奈央も、かぐやの近侍として初めて会った時に「小鼠」と言われて以来密か(密告を知られている様で)に嫌っている雲鷹も、その瞳を見て自分と同じ心中ではないかと思えた。

 

 

 

『それで、終わりか?』

 

 

室内に居る者の声ではなかった。

 

六人目の病衣姿にスリッパ履きの人物が室内に入ると、立ち尽くす雁庵を横目に素早く引き戸を閉め鍵を掛けた。

病衣姿の人物は、無理矢理雁庵と一緒に検査入院したかぐやの友人である藤原千花の曽祖父に当たる藤原元総理だった。

 

 

 

『これで済ませる気か?』

 

『何の真似だ?』

 

『自分の息子が撃たれて、庇った者を労るだけで終わりか?と聞いてるんだ。』

 

『ケジメは付けさせる。

今は探してる最中だ。』

 

『まだ、やらせてるんだろ?

 

・・・密告を。』

 

『・・・地獄耳。』

 

 

室内に緊張が走る。

四宮家や関わりのある者が知っているのは解るが、部外者である筈の藤原が何故「密告」を知っているのか?

 

 

 

『皆、不思議かい?

 

「何故、俺が知っているのか?」。』

 

『・・・喋るな。』

 

『言わせて貰う。

こいつの近侍も密告をやらされていたが、罪悪感に苛まされて罪を告白した後、出征して戦死した。』

 

『・・・黙れ。』

 

『にも関わらず、こいつは自分の子供らに同じ事をした。

あの時流した涙は、演技か?』

 

『・・黙れ。』

 

『それとも何か?

自分と同じ目に遭う者を増やしたい。

例えそれが我が子でも、いや、我が子だからこそ、同じ目に遭わせたかったと?』

 

『・黙れ。』

 

『泣ける話だね。

自分一人だけこんな思いをするのは申し訳ないから、一族郎党を全て巻き込んで卑劣で歪な関係に浸りたかったと?

そんな境遇の者達だけとなら、素晴らしい家族を作れると?』

 

『黙れ!

お前に何が解る!!?

俺が、あいつを本当に憎かったと思っていたと!!!?』

 

『違うというのか!』

 

『違う、違う!

大違いだ!!

俺は、あいつと共に居たかった。だが、あいつは勝手にぶち撒けた後に軍に飛び込んで、戦地に行きやがったんだ!!!

残された、俺の気持ちも考えずにだ!!!!』

 

『だから、未練たらたら自分と同じ人間を増やしたかったと!?』

 

『俺一人ではどうにも出来なかったんだ!

この仕組みを仕切ってたのは長老共だ!!

俺には・・・、どうにもできなかったんだ・・・。』

 

『今は、どうにか出来るのですか?』

 

 

二人の激しい口論は雲鷹ですら入り込める余地がなかったが、強引に割り込んだ者が居た。

 

雁庵の娘のかぐやである。

 

瞬間、愛は自分の主人が何を知っているのか、察してしまった。

 

 

───自分が密告をしていた事を、かぐやは知っている───

 

 

直感だが、愛はそう悟った。

考えてみれば、藤原が言い出した密告の話は雲鷹と奈央には当てはまらない。

二人は、既に別々の道を歩んでいるのだから。

この場に居ない者の話をしても意味はない。

であれば、密告が当てはまるのは、愛とかぐやしかいない。

 

突然の告発に動揺する愛。

雁庵に対して一歩前に出たかぐやの背中を愛は見つめる。

 

 

───逃げ出したい───

 

 

その心理が、知らず知らずに愛の体をかぐやから遠ざかろうとさせていた。

しかし、ベット際にいた愛の右手に優しく触れる者が居た。

触られた感触から自分の右手を、右手に添える様に触れている手から腕を遡り、顔に。

 

愛の母親である奈央が、痛みをこらえて無理に体を曲げて、自由に動かせる右手で愛の右手に触れたのだ。

愛と奈央の視線が交わる。

憂いを纏った眼差しは、しかし、力強く愛を見つめる。

 

 

「大丈夫」

 

 

言葉にはなってないが、愛には奈央の眼差しがそう告げてると感じた。

 

 

 

『・・・何が言いたい?』

 

『・・・もう、終わりにしませんか?』

 

『この仕組みは有用だ。』

 

『何が怖いのですか?

背かれる事ですか?

反発される事ですか?』

 

『家が割れる事だ!』

 

『既に割れているではありませんか!』

 

『・・・。』

 

『・・・お兄様達は互いを疑い牽制し合い化かし合い、お兄様達だけでなく一族の者達は自分達の勝手と勝ち馬の尻に乗る事しか考えていない。

私も、お兄様達に呑み込まれぬ様に狡猾な事ばかり考えて・・・。』

 

『それが四宮の家を強くする。』

 

『していますか!?

四宮の家が結束するのは敵がいる間だけ。

いなくなれば、互いに取って食う事しか考えていません!!

 

・・・それが、家族の有り様なんですか?』

 

『お前には解らんだろう。』

 

『解りたくもありません!

 

・・・お父様は、先程私を撫でてくださいました。

せめて、せめて!!

親兄妹とだけはそういう間柄で居たいんです!!!』

 

『・・・それだけではやっていけぬほど、四宮は代えの効かぬ存在になったのだ。』

 

『・・・ならば、せめて愛さんにはこれ以上辛い思いを、お役目を止めて頂けませんか!?』

 

『・・・。』

 

『何で黙るんだね?

 

この子が、そんなにお前さんは信用ならないのかね?

 

自分の実娘だろう!?』

 

『・・・ご当主様。

 

僭越ながら、私達早坂家はご当主様に忠誠を誓う者です。

 

雁庵様のご命令でありました、何者にも優先いたします。』

 

 

藤原、奈央とかぐやへの援護が続く。

 

 

───俺は親父に楯突いてでも奈央の側に立つべきだったんだな、かぐや───

 

 

その光景を見ながら、雲鷹はそう自分自身に問い掛けていた。

 

 

『・・・俺の指示としてその娘の例の役目は終わりとしよう。

後で早坂に伝えておこう。

雲鷹、かぐや、お前達が証人だ。

いいな?』

 

『・・・ありが・・とう、ございます!』

 

『・・・解った、親父。』

 

 

短い雁庵とかぐやの睨み合いは、雁庵が折れる事で幕を引いた。

 

雁庵はそれだけ言い渡すと鍵を開けて病室を後にし、藤原も次の検査に向かった。

 

病室に残った四人は、今後の事に思考を巡らせる。

 

かぐやは、過去に戻ってから今まで愛の「密告」の役目をどう終わらせたらいいか、考え続けていた。

 

この頃は、密告の仕組みは長男である四宮黄光の管轄になっていた。しかし、後年に当の黄光が吐露した事だが、どこまでいっても雁庵が亡くなるまでは「見習い当主」でしかなく、絶えず背中に雁庵の目が光っていて、何か決めてもそれは雁庵の意に沿ったものでなければ有効にならず、まさに人形の様だったと溢していた。

 

あの時、雲鷹に暴露されるまでかぐやは愛の役目も苦しみも知らなかった。

愛のサポートがあったからこそ、御行と交際するまでに至ったが、無かったらどうなっていたかは分からない。

何より、あの時は友達になれたが、今回はどうなるか解らない。

雲鷹兄様と奈央さんみたいな関係なら、時間が解決してくれるかも知れない。だが、愛には放浪癖がある。

知らぬ間にいなくなって会えなくなる危険性を考えると、早く動く必要があった。

 

一方、唐突に「密告」の役目が終わりを告げた愛は、立ち尽くしていた。

右手に伝わる母親の奈央の温もりが、かろうじてこの場に踏み止まらせているが、逃げ出したい心境である。

 

 

───知られたくなかった───

 

 

かぐやにだけは知られたくなかった。

こんな裏切りをしている自分は、かぐやの前から消えてしまいたいという気持ちと、自分がいなくなればかぐやを守る者がいなくなるという現実の板挟みで苦しんでいた。

本人も気が付かない間に、愛は震えていた。

 

 

 

『奈央さん、ごめんなさい。』

 

『・・・かぐや様、謝る必要はありません。

頭を下げなければいけないのは、私達の方です。』

 

『いえ、必要のない事をさせられて苦しめられたのは、奈央さんや愛さんです。

私に力がないばかりに、遅くなってしまってごめんなさい。』

 

『・・・かぐや、これからどうする?

 

実はな、そろそろなんだが・・・。』

 

 

雲鷹が言い終わる前に引き戸がノックされ、僅かに空いた隙間から外に立っている護衛から、見舞い客が来てる事が伝えられる。

 

 

 

『如何なさいますか?』

 

『いいだろう、通してくれ。』

 

『お兄様、どなた様ですか?』

 

『お前も知ってる相手だ。

一昨日、会う予定だったがこうなって、嗅ぎつけられた。』

 

『失礼だな。』

 

 

またも雲鷹が言い終える前に割り込まれ、ノックも無しに引き戸を開けた人物が雲鷹の言い様に抗議する。

 

現れたのは、四条グループ代表の四条真琴だった。

 

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

 

 

 

 

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