き、機動力!機動力特化ですのよ! 作:名無しの自動人形
原作:僕のヒーローアカデミア
タグ:R-15 ガールズラブ オリ主 残酷な描写 憑依 性転換 クロスオーバー 境界線上のホライゾン 終わりのクロニクル ネイト・ミトツダイラ ゴリラ系人狼 貧乳回避
ヒロアカ最新話のせいです。──以上
気がついたら貧乳でございました。
「違います?いえいえ貧乳ですわ。どう見ても。そして私は一体誰なのでしょうか。いえ自認としてはしっかりしているのですけれど肉体的なズレと言いますかね?認識の齟齬がございましてよ。言葉遣いとか完全に別人ですもの」
ログハウスでベッドに腰掛けながら私は思いを巡らせます。この身体では齢15歳、気がついたら……いえ、正確には自覚した時にはと表現すべきでしょうか。ある日、目を覚ますと“私“は『私』になっていたのです。つい昨日まで電子の海でレスバを繰り返し相手に正論パンチかましていたというのに。気持ちよくなって朝日に挨拶しようとしたらこの始末です。
「姿見があって助かりましたわ。まぁ私が設置しろと御母様に駄々を捏ねた記憶がございますけれど」
ベッドから起き上がって右側。壁に沿うように屹立する幅広の姿見に映る姿はやや小柄な銀髪美少女。この身に関する記憶はありますわね。それはもう、幼い頃から今までの分がこれでもかと。数日後には入試がどうのとか聞いたような気がしますがそれはそれ。今私の身に起きている現象をハッキリさせなければ。
「毛繕いの加護があって助かりますわねー」
首元まで伸びた髪を揺らしながら大きく伸び。ベッドサイド、照明の下にある首輪にはネイト・ミトツダイラという名前が刻まれています。黒い本革のそれを付ける習慣は身体に動作を染み付かせているようで、寝ぼけ眼でもサッサと身支度を済ませることができました。
「えーと、確か“私“の記憶から参照するに……ヒロアカ、でしたか。いやー王道ジャ○プ物って感じの物語──って言っても知ってるのほんのちょっぴりですし、どうしましょうか」
はてさて“私“の置かれた状況はどのようなものか。『私』の記憶と“私“の知識から導き出されたのは、この世界が“私“の知る超有名漫画の舞台そのものだということ。確かに十数年前に大災害が発生しオールマイトが一躍時の人になったこともあった。直近ではヘドロ事件も発生している。
「私の名前も、ちゃんと分かる」
ネイト・ミトツダイラ。母親は金髪高身長爆乳のプロヒーロー。ミッドナイトよりも危ない現役娘で、今は壮大な親子喧嘩の末ほぼ絶縁状態……確かに1年前に大きく荒れていたことは否定できませんわ。過保護すぎる母親がいるというのも考えものですのよ。
今だって母親が残したマンションの持ち主を私に切り替えたことで収入が確保されてますし。このログハウスはいくつかある持ち家のうちの1つとか、どれだけ金持ちなのか考えたくありませんわ。雄英高校のスポンサー?流石に冗談ですわよね御母様?
「あれ、もしかして私の受験する学校って」
スマホを開いた予定表が何よりの答えでしたわ。ガッデム。自分の母親が理事長やってるかもしれない高校に入学するなんて、どんな羞恥プレイです?
「……受験日は3日後。嘆いていても仕方ありませんわね。『私』が“私“に塗り潰された訳ではないのは救いでしょうか。ならすべき事は明白。残り数日でこの身体に慣れて実戦レベルまで引き上げる──元一般人には厳しくありませんこと?」
たとえ私が何者か分からないとしても、今の私はネイト・ミトツダイラですもの。それ以上でもそれ以下でもありませんわ。この記憶が前世だとして、私の生まれてからの記憶が無くなる訳でもありませんし。
元々目指していたものも、今になってようやくはっきりしました。身体に染み付いた動作を“私“にも使えるように叩き込む、なかなか大変な作業ですけれど……
「やるしかありません、わよね」
ところで生まれ持ったものですしどうしようもないのですけれど、この声ってA組の生徒と似ているような気が。確か私の親族だったような気がしますし、仮に入学してから色々発生するとしたら間違いなく最初の事件は声が似てるとかいうところでしょうか。百は元気にしてますかねぇ。
●
「ブラド、どう思う」
「ん?今年の新入生か?悪くないとは思うぞ」
「まさかゼロポイントを吹っ飛ばす生徒が出るとは思わなかったぜ?なかなかパワフルな個性だけど身体が壊れちまうのはナンセンス!」
「ああいうのでも入学できてしまうのが良くないところだな。1位も性格的には向いちゃいない。その点
「おや、イレイザーが褒めるだなんて珍しい」
雄英高校ヒーロー科、入学試験。倍率300倍を超えるという狭き門は筆記、実技の両試験を乗り越えてのみ開かれる。頭だけ良ければいい、というものでもない。頭脳を使った後には実技における実戦想定の戦闘形式、ポイント制による厳しい順位付けが待ち構えている。
雄英高校が用意したロボットを破壊することで、ロボットの点数が持ち点に加算されていくという単純明快なシステム……とは別にもうひとつ。ヒーローの本質は人助けだという方針から定められた、他人を助けることで加算されるポイントも存在する。
「撃破42、救助33……あの場においては理想的なヒーローとしての動きを見せていたと言ってもいい。戦い慣れているようにも見えた。確かミトツダイラだったな?」
総計、75ポイント。トップに迫るポイント数だが、本人はそれでもまだ大きく余力を残していたというのだから驚きだ。モニターの映像では甲斐甲斐しく負傷者を手当する姿も見受けられる。近寄ってきたロボをノールック裏拳で粉砕した時には流石の教師陣も動揺した。イレイザー、相澤消太だけは頷いていた。流石は合理性の権化……とオールマイトが小さく呟く。実際間違ってないからタチが悪い。
「はい。ネイト・ミトツダイラ。現在16歳。中学を卒業した後、1年間の『療養生活』……その間は一人暮らし、親とは半ば離縁状態。生活費は母親の残した不動産収入で賄っているようです。どうして雄英高校を受験できたのでしょうか」
「ヒーローヲ志望セズトモ、道ハ多イダロウニ」
卒業した中学はエスカレーター式に大学まで進学できるタイプの名門校。だというのに彼女は中学を卒業した後に1年間の空白を開けて雄英高校の門を叩いている。調査によれば、中学生の頃は個性によるものか素行不良が目立つ生徒だったらしい。試験中にそんな気配は微塵も見せなかったが。
「個性は?」
「【人狼】──異形型です」
教師の何人かが視線を上げた。異形型とは言うが、パッと見た時に分かるような特徴は無い。強いて言うなら絶壁がそびえ立っているくらいだろう。人狼であることの代償なのだろうか?絶対に違うから安心したまえと根津のツッコミが響いた。
「このパワーなら納得だな」
「では次の生徒に移るとしようか」
講評は続く。興味ありげにネイトを見つめる相澤を置いて。
「相澤くん、相澤くん」
「ン、なんですかオールマイト」
「次の子に移ってるよ」
「どーも」
「イレイザーの趣味はケモノっ娘、と」
「香山先輩、消しますよ」
「物理!?」
●
数日後。
「やっぱり課題はスピードですか」
雄英高校の入学試験を終えた私は、合否に関わらずいつも通りの日常を送っていました。鍛錬自体は習慣として続けていましたし、身体を鈍らせないためにも大切ですから。真っ二つにした岩を片付けているところで──おや?
「ちわー、郵便です」
「あらご丁寧にどうも。……ン、
「ありがとうございますー」
……人狼って鼻が利きますのよね。しかし身だしなみに気をつけるべき、というのは私も同じこと。トレーニングウェアで配達員と会うなんて、御母様に知れたらどんなことになるのか想像もしたくありませんわ。間違いなく面倒なことになります。
『ネイト!そこはもうガバッと!良さげな人が居たら即座に捕まえてイッキに奥までガバッと!私と御父様はそんな感じでゴールインしましたから!』
「──現代倫理をインストールできたことには激しい感謝をしたい気分ですわ。あんな親と一緒に過ごしていたらこちらの貞操観念が粉々に砕け散りますのよ」
1日1回感謝の合体とか何言ってんのか訳分かりませんもの。しかも最低1回。イカれてますわよ控えめに言って。私はアマゾネスじゃありませんのよ。
「そのへんの貞操観念はしっかりしてて助かりますわ……っと。雄英高校からということはこれ、合否通知ってことでしょうか。まぁここで見ても誰も気にしませんか」
幸いなことにログハウス周辺は私の土地ですし、誰かが入った段階ですぐ分かるようになっています。適当な切り株に腰を下ろすと、ペーパーナイフ代わりに爪を使って封筒をオープン。
「えーっと、まずは投影機を確認してから……?こちらですか。どこにもスイッチなんてありませんけれど、えいえい。……動きませんが不良品ですのこれ」
『私が投影されたッ!』
「あら、オールマイト自ら合否通知を?雄英高校に赴任するという噂は聞いておりましたけれど、まさか本当だったなんて」
見た目に反して重たい封筒──大半は投影機の重さだったのですけれど──の中に入っていたのは小さな投影機。振ったり叩いたり、起動方法が分からなかったので適当に弄っていると現れたのは筋骨隆々の金髪偉丈夫。日本の犯罪発生率を大きく下げた平和の象徴オールマイトですわね。アニメや漫画なら分かりますけれど、現実でも画風が違うってどういうことですの?
対するは朝の鍛錬を終えたトレーニングウェア姿の私、とても人に見せられるようなものではありません。汗を拭いながら立体映像を流し見しているのですが──これが録画で助かりましたわ。そうでなければ社会的に死んでいましたもの。オールマイトが。
『──総合点75点!入試2位で合格だッ!おめでとうミトツダイラ少女。今日からここが、君のヒーローアカデミアだ!』
「あら、ご丁寧にどうも。それにしても……私が2位ですのね。1位はどんな子なのか気になりますけれど──救助Pでしたか?説明にない項目をしれっと追加するなんて性格悪くありませんこと?」
『さて、今後の予定は──』
「録画にツッコミ入れたところで何も返ってこないのは当然ですわね。……こちらに要項がありますとのことでしたが、これは?」
『では、また雄英高校で会おう!』
救助Pなんて事前の説明にはありませんでしたわ。雄英高校のヒーロー科が高いレベルを維持しているのはこういう基準があってのことなのでしょうか。被服控除……私のヒーロースーツですかぁ……
「シャワー浴びたところで名案が浮かぶはずもなく」
「カルビでございます」
「どうも」
そうこうしているうちに日は落ちて夕飯時。自分へのご褒美も兼ねて今日は外食にしようか。ふと目に入った焼肉屋で肉を焼きながら外を眺めます。行き交う人々の中に混じる、異形型個性持ち。肉体全体が人間を逸脱している人も居れば、私のように──
「特筆すべき点なし、という方もおりますのね」
●
ネイトは考える。自分のような個性は異形型と呼べるのだろうか、と。人狼と言えば聞こえはいいが、母のように獣変調──人狼としての本性を前面に押し出した所謂本気モード──が可能な訳でもない。少し鼻が利いて力が強いだけの女性なのだ。これで異形型と言ってしまえばああいう人々に失礼なのではないか?
「ラム肉とサービスのタン塩ジュースでございます」
「どうも──不純物が混じりましたわね」
「学生はいっぱい食ってなんぼだからな!」
思考にも混じったが、サーブされたドリンクにも混ざっている。せっかくですので、と勧められたが一口飲んで静かに返した。誰が飲むんだこんなもの。無言の圧力に屈した店員は同じく無言で厨房を指さした。
店主だろうか、眼鏡をかけた初老の男性がイイ笑顔と共にこちらにサムズアップ。飲み物の趣味は最悪だが、価格設定に反してなかなか良い肉を使っているらしい。野菜代わりにラム肉を頬張りながら男性に会釈すると、男性の目の前から火柱が上がって服に延焼した。すかさず店員が氷水をサーブして別の店員が頭上より叩き込む。
「失礼致しました」
「いつもの事ですの?」
「日常茶飯事でございます」
なるほど、これは評価が低くつけられてしまうのも納得だ。黒焦げになった店主を引きずるバイトリーダーらしき女性がこちらに深く一礼し、バックヤードへ消えていった。よく見たら店員の顔は全員そっくりさんである。そういう個性なのだろうか?
「個性、ですか」
「お嫌いなのですか」
がらりとした店内。テレビの音が途切れた瞬間の独り言が満ちて、それに反応した暇らしい店員の1人が対面に座ってきた。ふてぶてしくも大胆に肉を奪い取りながら彼女は問う。己の個性は嫌いか、と。
「私の個性は分身でした。半径10メートル程度しか効果が及びませんので、こうして飲食店を経営する程度にしか生かせません。昨今話題のヒーローには程遠い、地味な個性です」
彼女は言う。
「貴女はそうでないように見えます」
「幸せばかりではありませんわ」
「それでも不幸ではないのでしょう」
「買い被りすぎですのよ」
じゅうじゅう、と肉が焼けて火柱が立つ。別の店員が放り投げた氷をノールックでキャッチした彼女は、すかさず網へとシュート。消火され立ち上る白煙の向こう側。
「それでも、こんな個性にも幸はあるのです」
「──拾われた身ですか」
ええ、と頷いた彼女の顔をネイトが窺い知ることはないだろう。ただ噛み締めるような一言だけが返ってくる。ややぎこちない右腕と、ほとんど動かない表情筋、よく見ると傷だらけの両手や耳。推測するには十分すぎる手がかりだ。
「店主様は今でこそ
「店名どうにかなりませんでしたの」
「虚弱体質でも最も美味しく肉を食える良い店──略して《きもい》でございます。本人曰く最高のネーミングセンスだと」
「人が寄り付かない理由が詰まってますわよ」
「はて」
それはさておき。
「人生など、いくらでも変えられるということはお伝えしておきたいと思った次第でございます。これからの道行きに幸があるかどうか、それは貴女の行動一つで変わりますので」
「行動……私がどうするか、ですか」
「見たところ悩んでいらっしゃる様子でしたので、つい」
「──貴女は」
「は」
ふと、口が動いた。ネイトの意志ではない。しかし発する言葉はネイトの意思だった。己が己に“成った“のはつい数日前のこと。この世界でネイト・ミトツダイラという少女が目指していたものを知ったからこそ、己は悩んでいる。ネイト・ミトツダイラではなかった誰かだからこそ気づくことが出来る、ヒーローに憧れるという行為の異常性。
「貴女は、ヒーローになりたいと。そう思ったことは一度でもありましたの?その……誰かを助けられるような、ヒーローに」
「
ですが、あの時の彼は間違いなく私にとってのヒーローでした。短い髪を揺らして店員は薄く微笑んだ。あの時差し伸べられた手を取ったからこそ、今の私があるのだと。そして言う。
「私が思うに──この世界におけるヒーローとは、己が
「他者の行く道を阻む障害を
荒れていた時期。人狼特有のパワーを振るって暴れ散らかしていた頃のこと。文字通り群れからはぐれた一匹狼だったネイトを、それでもと見捨てずに居てくれた友人達のことを思い出した。彼らは元気にやっているのだろうか。
その中でもリーダー格だった少年。一人では何も出来ない個性でありながらも、類稀なるカリスマと謎のコミュニケーション能力で生徒会長にまでのし上がった彼のことは、特によく覚えている。
『なら、俺の騎士になるか?』
「あの人の事を思い出すなんて、随分と弱気でしたのね……ネイト・ミトツダイラ。あれはもう過ぎた日々だというのに」
「おや、何か決まったようですね」
短い髪は過去との離別。弱かった自分との訣別を心に決めたハズではないか。誰か一人を守るのではなく、一人の周りを。全員を守れるような強き自分になると決めた事を、改めて胸に刻み込む。
ヒーローではなく、騎士に。誰かを助けるのではなく、誰かを守れるように。彼女の歩む道は、今確かに定められた。
「ええ。──良いデザインの制服ですわね」
「有難うございます。店主様のご意向でして」
ぺこり、と一礼した店員が立ち上がり背中を向ける。黒いエプロンに隠れた制服の背面には、12の翼が描かれていた。そういえば従業員も12人だっただろうか。最後の肉を口に放り込み立ち上がる。ふらっと寄った店だが、なかなか悪くなかったと思う。
「お会計を」
「現金のみです。──ハッ」
「舐めてんじゃありませんわよ」
食われた分と少しの肉の支払いはしなくて済んだ。良い雰囲気だったがここは焼肉屋である。感動的な場面が台無しなのは分かっていても、突っ込まないのがお約束というものだろう。
「明日から、頑張るとしましょうか」
見下ろす月を見上げて、息を吐く。銀に輝く月の光に照らされて、私はゆっくりと歩いていく。その足取りは心做しか、軽く感じました。
これは私が、最高の騎士になるまでの物語です。
ネイト・ミトツダイラ(inヒロアカ世界)
銀髪ショートのパワー系女子高校生。
人狼の個性を持っているが見た目では分からない。
現段階においては肉が好きなのと鼻が利く、力が強いという程度。これからの成長に期待。胸は成長しない。母親に全て持っていかれている。
別世界の記憶を持っているが、それが誰のものなのか、そもそも誰だったのかは分からない。今ここに居るのは、ネイト・ミトツダイラという一人の少女に過ぎないのだ。