犯罪のことが大大大大大嫌いな1人の執事   作:鳩胸な鴨

11 / 11
供養


消える犯人 その2

「実被害が一つも報告されてない!?」

 

毛利探偵事務所にて。

小五郎から聞かされた事実に、恋太郎が愕然と声を上げる。

依頼者に向けての体裁だろう、姿勢を正した小五郎が宥めるように答えた。

 

「ちょうど別件で依頼受けて調べた直後なんですが、そんな窃盗犯による被害者なんて一人もいないのですよ。

ツテを使って確認しましたが、その窃盗犯に対して被害届が出された記録もない。

ただの噂です、噂。気にするこたァありません」

「そ、そうなんですか…」

 

そのことに安堵し、息を吐く恋太郎。

しかし、何か引っ掛かることがあったのか、彼は慌てて小五郎に問い直した。

 

「別件云々は俺たちが聞いてもよかった情報なんですか?」

「あのおっかねー執事さんからの依頼ですし、あなた方に隠しても仕方ないでしょうよ」

「志都児さんが…?」

「ええ。自分でいくら調べても出ないから、プロに任せたいって言われまして」

 

恐らくは小五郎の能力ではなく、警察とのコネクション目当てで依頼を出したのだろう。

石橋を爆破して鉄橋を作り直すあの執事のことだ。徹底して犯人を追い詰める腹積りだったのは明らか。

もしそうでなければ、「本気を出さないヘボ探偵」と揶揄される小五郎をわざわざ雇ったりしないだろう。

コナンがそんな推察を広げていると、小五郎が苦笑を浮かべた。

 

「しかし、お嬢さんも災難ですなぁ。

そんな狙い撃ちされてるみたいな噂流されるなんて」

「いえ、ただの噂で良かったです…」

 

言って、安堵に胸を撫で下ろす愛々。

これで一件落着か、と思うも束の間、事務所内でくつろいでいた元太が半目を小五郎に向けた。

 

「おっさんと、その…羊?ってヤツの調べ方が甘いだけなんじゃねーの?」

「んだとォ!?」

「まあまあ、お父さん…」

 

元太に食ってかかる小五郎を蘭が宥める。

それによって多少は頭が冷えたのだろう、小五郎は滲んだ不機嫌をなんとか繕い、恋太郎たちに向き直る。

 

「執事さんに報告したところ、今回の件は『華暮さんへの名誉毀損にあたる』として調査の続行を希望されまして。

こちらもその線で調査しますんで、なにか心当たりがあれば、教えてもらえますかな?」

「え、えっと、そう言われても…」

 

心当たりがない、と告げようとする愛々。

と。それを遮るようにして、美々美が人差し指を立てた。

 

「一つ、心当たりはありますわ。疑問は多少残りますが…」

「それは…?」

雉根田(きじねた) トトロです」

兎留々(とるる)さんです、美々美先輩」

 

小五郎、コナンをはじめとした全員が体勢を崩した。

「こんな場面で名前間違えるか、普通…」と引き攣った笑みを浮かべるコナン。

小五郎も同じことを思っていたのだろう、滲む呆れをなんとか隠し、問いかける。

 

「その、雉根田さんというのは?」

「わ、私たちが通う、お花の蜜大学附属高等学校…、その新聞部の部長さんで…、以前、いざこざ…みたいなものがありまして…」

「いざこざみたいなもの、というのは?」

「愛々さんを記事にしたんですの」

 

それの何が問題なのかわからず、怪訝そうに眉を顰める小五郎。

その疑問を察したのだろう、恋太郎が怒りに震えた声で説明を始める。

 

「愛々ちゃんは極度の恥ずかしがり屋で、写真を撮られるのはもちろん、記事にされるなんて耐え難いことだったんです。

しかも、一度記事にした挙句、愛々ちゃんが一番見られたくない素顔まで写真に収めようとして…。

ですから、なんとか写真を撮られないようにして切り抜けたんです」

「なんとか、というのは?」

「愛々ちゃん、美々美先輩、お願いします」

「は、はい」

「わかりましたわ」

 

二人の返事を確認し、恋太郎はスマホを取り出し、愛々の写真を撮るふりをする。

 

その刹那。一瞬にして美々美がポーズを取り、愛々の姿が消えた。

 

「き、消えた!?」

「マジかよ…!?」

「どこに行ったの、あのお姉さん!?」

 

愕然とする少年探偵団の面々。

皆が事務所の中を見渡し、消えた愛々を探していると。

ふと、歩実の座っていたソファの裏から声が響いた。

 

「こ、ここです…」

「きゃあっ!?」

 

先ほどまで椅子に腰掛けていたはずの愛々は、なぜか遠く離れたソファの裏に回っていた。

その光景に皆が唖然とする中、愛々が辿々しく説明を続ける。

 

「……こ、このように、一瞬だけあみぐるみと美々美先輩の美貌に意識を集中させて、その間に隠れたんです…」

「その名も、『ミスディレクション・ビューティーフロー』ですわ!」

「つまるところ…、バスケ漫画のようなアレ、ということですかな?」

「そういうことです」

 

「漫画の技って本当にできるんだな」と感心する小五郎。

それを前に、コナンは「あんたの柔道と射撃も大概だろーがよ」と自分を棚に上げて苦笑を浮かべた。

 

「なるほど…。ですが、その程度でこんな噂まで流しますかね…?」

「ええ。そこが疑問なんですの」

 

小五郎の疑問に、美々美もまた怪訝そうな表情を作った。

 

「雉根田さんは部内の規定を遵守し、隠し撮りではなく、真正面から愛々さんに取材を申し込んで写真を撮ろうとしていました。

返事を聞く前に写真を撮っていましたので無許可ではありますが…、それでも規定違反になる隠し撮りだけは決してしませんでした。

だからこそ、そんな彼女が腹いせにこんな真似をするかと聞かれたら、疑問が浮かんでしまうのです。

それに、彼女はわざわざ捏造するまでもなく、私たちの弱みを握っていますから」

「ふむ…」

 

確実に複数股のことだろうな。

コナンがそう確信する中、逡巡する小五郎。

自分の中で推理を組み立てていたのだろう。

暫し沈黙を続けた小五郎は、神妙な面持ちを浮かべ、口を開く。

 

「しかし、こうも考えられませんか?

華暮さんが無理矢理にでも素顔を晒さねばならない状況を作り出すため、わざわざあなたが容疑者になってしまう事件を作り出した…。

そして、元々握っているあなた方の弱みを使い、あなたにやってもいない犯行を認めさせようとした…とね」

「なっ、そんなっ…!」

 

小五郎が語った推察に、思わず狼狽えてしまう愛々。

が。その狼狽はすぐさま霧散した。

 

隣に座っていた恋太郎が、明らかに黒いオーラを纏いながら立ち上がったのだ。

 

「新聞部行ってくる」

「まだ『そういう可能性がある』ってだけですわよ!?」

「か、確定ではないですから…!」

「あ、そっか」

 

彼女たちに諌められたモンスター彼氏は、すぐさま落ち着きを取り戻し、椅子に座り直す。

副音声で「殺してやる」と聞こえたのは、気のせいではないだろう。

いつか本当にやらかしそうだな、とコナンが呆れた、その時だった。

小五郎の携帯が鳴り響いたのは。

 

「おっと、失礼。……ん?高木から…?

少し、いいですかな?今、警察から連絡がありまして…」

「は、はい」

 

冷たい針が頚椎に刺さっていくような感覚がコナンを襲う。

何故だろうか。先ほどより強く、嫌な予感がする。

 

「もしもし?………は!?なんだって!?」

 

やっぱりな。そんな呆れがコナンたちの顔に滲む。

消える窃盗犯事件はこれで終わりか、と思ったその時。

小五郎の瞳が、恋太郎たちを捉えた。

 

「すみませんが皆さん、私と同行していただけますかな?」

「えっ…?」

「つい先ほど、ある事件があったんですよ…」

 

小五郎が前置きし、息を吐く。

それだけで何があったのかを悟ったのだろう。3人の顔が青く染まった。

 

────今しがた我々が話していた、『消える犯人』による、殺人事件がね…!!

 

モンスター乱入と大惨事が確定した。

コナンが予想できる展開に口元をひくつかせる横で、灰原が深いため息をつく。

 

「気になるのは犯人の安否の方ね」

「オイオイ…」




毛利 小五郎…恋太郎たちへの対応が丁寧なのは、以前に普段の態度で接したところ、無自覚に地雷を踏んで激怒したモンスター執事に懇々と詰められたから。それ以来、依頼に来る人間には基本的に今のような態度で接している。今回の犯人には同情している。

雉根田(きじねた) 兎留々(とるる)…100カノ原作で出てきた新聞部部長。写真を撮ろうとすると消えてしまう愛々をなんとか記事にしようと修行を重ね、「全集中・記者の呼吸」を会得。愛々の全体像を納め、そのまま記事にした挙句「素顔を暴く」とまで書き、モンスター彼氏の怒りを買った。その後、恋太郎のアイデアと美々美の協力を得た愛々の「ミスディレクション・ビューティーフロー」に敗れ、べそかきながら敗走した。今回の事件に関わっているかはまだ謎。

愛城 恋太郎…犯人を粉微塵にする。

犯人…逃げたところでページ破って殺しにかかるモンスターに目をつけられた。多分、「犯人、お前、消えるのか…?」の「犯」の時点で木っ端微塵にされる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

恋愛モンスターとカエル型宇宙人(作者:ゴランド)(原作:君のことが大大大大大好きな100人の彼女)

その日カエル型宇宙人は地球に降り立ち、彼女大大大好きモンスター彼氏と出会う事となった。かなり恐怖を感じた(by宇宙人)


総合評価:1494/評価:8.9/連載:15話/更新日時:2026年07月31日(金) 18:29 小説情報

【完結】争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい(作者:大気圏突破)(原作:ハイスクールD×D)

 サービス残業・休日出勤・パワハラで疲弊していたサラリーマンはデスクワーク勤務中に心臓の鼓動が止まり亡くなってしまった。憐れんだ神は第2の人生として彼を『リリカルなのは』の世界に送るつもりだったが書類の手違いで『ハイスクールD×D』の世界に送ってしまった▼ 神は送る直前に間違いに気付き彼に与えた力の他に原作主人公の能力を奪って付与させた。赤龍帝になってしまっ…


総合評価:2296/評価:6.49/完結:86話/更新日時:2026年08月08日(土) 15:14 小説情報

F!みなさん!よう実ラジオのお時間です!(作者:やさかみ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

よう実世界に憑依するような形で転生した主人公。▼ 佐原嶺二▼クラスの所属はAでもBでもCDでもない謎のF▼原作にもない謎クラスに困惑しながらも、たった1人のFクラス生として何をするか悩む主人公。▼そんなとき、放送権が500プライベートポイントで売っていることに気づく。▼そんな主人公が原作知識を基に放送したりして高育を乱す物語です。▼一応、原作クラスでやってい…


総合評価:759/評価:7.38/連載:23話/更新日時:2026年08月22日(土) 12:00 小説情報

コナンの世界に転生した少女の物語(作者:エリンギどくだみ)(原作:名探偵コナン)

私立帝丹高校に在校する二学年の女子生徒、雨谷瑠璃はある日突然、前世の記憶を呼び起こして自分が『名探偵コナン』の世界に転生を果たしたと気付いてしまう。▼少々の原作知識、推理物にありがちなパターン、それなりの頭。あらゆる要素を駆使しながら彼女は難事件を解決していく。▼彼女は犯罪の跋扈するハードなコナンワールドを生き抜くことができるのか――▼※2026年5月 更新…


総合評価:3335/評価:8.45/連載:11話/更新日時:2026年08月21日(金) 21:29 小説情報

詐欺占い師と米花町(作者:罠ビー)(原作:名探偵コナン)

 爆処同級生の未来が視える占い師≒詐欺師がコソコソする話。▼ pixivとのマルチ投稿です▼


総合評価:5205/評価:7.87/連載:21話/更新日時:2026年07月04日(土) 01:16 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>