ビキニを着た観光客が夕涼みをする砂浜には、似つかわしくない漆黒の戦闘服を着た男が居た。
洗練された動きと自動ライフルから見るに、軍の特殊部隊のようだ。
『……こちらブラボー、ワイキキ・ビーチで白人女性を保護した。』
男は、真っ白な砂浜に座る金髪に目をやり、タオルを羽織らせながら無線を始めた。
『彼女は美の女神ヴィーナスのように綺麗だよ。うちのカミさんと交換したいくらいだ。』
通信相手の声は聞こえないが、なんとなく会話が予想できる。
『ああ、意識はあるようだ。だが、記憶が混濁している。』
男はなおも続ける。
『先ほど身元も確認したが、意味をなさない。』
『……ああ。これは俺がいつも無線で言っているジョークじゃないんだ。』
『彼女は自分のことを”Battle Ship Iowa”、と名乗っている。』
少し間があってから、"What?"と無線機から声がする。
燃えるような太陽が、彼女の肌を朱に照らしていた。
* * *
Fleet Girls Collection
U.S. Navy Side
私がIowa級戦艦、Iowaよ。
Youがこの艦隊のAdmiralなの? いいじゃない!
* * *
俺たちアメリカ海軍は、この奇怪な状況に悩まされていた。
アメリカの誇る世界最強の艦隊は、正体不明の敵により悉く壊滅したからだ。
日本軍が調べたところによると、深海棲艦という化け物が世界中の海に蔓延り、シーレーンを破壊しているらしい。
らしい、というのは実際にどの海域に展開しどの国を攻撃しているか、俺たちは知る手段すらないってことだ。
調べに行ける軍艦もないからな。
ああ、いいことだってあるさ。人間同士で戦争ごっこなんてしている余裕なんてないってことさ。
中国?ソ連?コミュニストどもがどうなったか?
俺が知るかよ。お前の優しいママにでも聞いてくれ。
そんなクソどうでもいい話はいい。
俺は、アメリカ海軍第7艦隊のAdmiral(司令官)のデイヴィッドだ。ハハ、イカす肩書だろう?
だがな、今一番バッドなニュースはこれだ。
手元に艦艇が1隻もいないんだ!
ここにいた第7艦隊は、敵にビビってアメリカ東海岸の造船所に引っ込んじまった!
元帥の命令だから仕方がない?
何が原子力空母だ、原潜だ、普段の威勢はどうしたんだ七面鳥ども!
上層部のクソ袋どもは何を考えてやがる!
俺たちが守ってやらなかったら、日本はどうなるんだよ!
「Admiral、失礼するよ。」
静かな怒りを鎮めていると、俺の部下が部屋に入ってくる。
「ああ、アトランタじゃないか。どうした?」
淡いピンクの、ボリュームのあるツインヘア。すっとぼけた表情をしているが、俺の部下たちが腹を減らした犬のようによだれを垂らすくらいの美人だ。こいつは最近部下になった。
「例の件、調べてきたよ。」
「ブラボー隊がワイキキで拾ったあの子も、やっぱりそうみたい。」
「What?どんどんお前のお仲間が増えていくじゃないか。」
「Admiral, 何度も言っているけど。あたしたちは”Fleet girls”なの。」
ああ、こいつはクレイジーな女なのだった。
身体とツラはブロードウェイに出てくるような一級品だが、頭に酸素魚雷でも詰まっているのか、
自分があの”戦争”の記憶を持った”Fleet”だと言い張る。
最初はドラッグに前頭葉を焼かれたジャンキーかと思った。だが、目に宿った理性の光が俺の判断を狂わせた。
この女は軍にすぐになじんだ。まるで、元からいた人間のように。俺はそれすらも気に食わなかった。
「ああ、わかったよ、くそったれ。で、そいつはなんて言ってる?」
「"Iowa"。」
「……今度はBattle Shipかよ!また日本に勝てちまうな!」
「Admiral。これで、6隻揃ったね。」
「Flag ship, "Iowa"。"Saratoga", "Atlanta", "Flecher", "Heywood"」
名前を聞くだけで、俺は頭が痛くなってくる。栄光の名を冠した女どもが、この美しいビーチで次々発見される。
その結果、世界最強の俺の艦隊がこの脳みそ魚雷女に入れ替わっちまった。
「Admiral。混乱させてごめんね。これは現実なの。」
「あたしたちはあなたたちを、世界を救うために現れたんだ。」
「今、アメリカは世界から孤立している。」
「あたしたちはあいつら、深海棲艦と戦う唯一の力を持っている。」
「でも、その力を発揮するためには、Admiral、あなたの助けが必要。」
「そんなコーヒーカップしか持てない細腕で何ができるんだよ……。」
「俺たちの、鍛え抜かれた俺たちの軍隊は無力だっていうのかよ!」
* * *
俺はだれもいない司令官室でけたたましく鳴る無線機を手に取る。
『Hai! Admiral! This is Iowa!』
最近軍に入った魚雷女の声がする。こいつは戦艦だから発射できないが。
『それじゃあ私たち、行ってくるわね!』
『アメリカの未来のために。日本のみんなと、今度は手を取り合うために。』
「ああ。」
「たった6人の船もどきで、アメリカから日本への海上航路を打開する。」
「俺は海軍史上最も愚かな司令官として名を遺すことになるだろう。」
「だが、お前たちのミュータントのような力を目にした以上、それに縋るしかない。」
「お前たちがあばずれ女じゃないって、俺に証明してくれ。」
「Operation Goddess of the Sea(海の女神作戦)、開始だ!」
『Sir, Yes, Sir!』
威勢のいい返答を聞き届けた後、俺は静かに無線機を置いて呟いた。
「一人も死んでくれるなよ……、俺の愛する部下なんだからな。」
* * *
Fleet Girls Collection, U.S. Navy Side
End
脱線ばかりで本編が進んでなくて誠に申し訳ないです!!!
でも、一回やってみたかったネタだったのでゆるして……。
書いてて面白かったから、
浅野君の話が落ち着いたら第2部でやるかもしれません(笑)。